獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
249 / 372
本編

家族

しおりを挟む
 ヴィーナ村の民家の玄関前にロダがいます。

 「それじゃあ今日からお願い」

 ロダは目の前で緊張して立っている子供の肩に手を添えて前に出して言いました。
 前に出された子供は寒さにか、それとも緊張でかわからないガチガチの動きで前に進みます。そして一度ロダに振り返りました。
 不安そうなその顔にロダはニコリと笑みを向け頷きます。リファラの子供達は大体顔見知りです。目の前の子も親を亡くし、リリに悲しみをぶつけた一人です。だからこそその子の為人からこの家なら大丈夫と笑顔で送り出しているのです。

 「あの……お邪魔します……」

 俯いた子供はオズオズと視線だけを上に上げて言いました。
 家の主はその様子に微笑みを浮かべるとゆっくりと近寄り、そして抱き締めました。

 「今日からはウチの子だよ。だからおかえりだね、ディオ」
 「さあ寒かったろう。中に入ってあったまろうねディオ」

 紹介をされた子供の名前はディオといいました。
 そして迎え入れた人は夫婦です。働き盛りの夫婦の横には女性がいます。

 「初めまして。私は今日からディオのお姉ちゃんになるミナミよ」

 そうです。今年で成人を迎えたミナミです。
 立派な大人なレディに成長したミナミは腰を落として目線を合わせています。
 ディオはその強くて優しい眼差しと美人に成長した女性らしい姿にドキドキします。ほっぺをポッと赤くして小さな声で

 「よろしくお願いします」

 と言いました。
 その姿にロダやミナミの両親は小さな恋を見ました。
 しかし当事者のミナミは全く気付いた様子がありません。ニコリとしてディオの頭を撫でました。

 「ディオの部屋はあるけど、当面は家族皆で寝ようね」
 「え」

 ミナミの姉としての優しさに、しかしディオはピシリと固まってしまいます。
 ミナミもそれに気付きました。

 (あら。そうよね。小さくたって男の子だもん。やっぱりお姉ちゃんとは寝てくれないかな?)

 しかし理解は斜めに進んでいます。自身も年上のロイドに恋をしているのに全く男心に気付いていません。笑顔を崩さず小首を傾げています。

 「まあ……。うん。おいおい。おいおい、な」

 鈍感なミナミと自分の気持ちに気付かず傷付くディオに、お父さんは同情してディオの肩を叩いて中に促し、

 「そうね。今は新しい家族の絆を作る所からよね」

 お母さんは苦笑してミナミの手を引き、

 「うん。なんか、そんな感じでディオのこと大事にしてあげてね」

 ロダは空笑いで後の事を託しました。

 「さて次へ行こうか」

 そして他の子供達やジン達家族を促して、うっすら氷の張る道の楽しみ方を伝授しながら他の家へと向かいます。

 「雪国って楽しいな」
 「薄い氷割って歩くの面白いね」

 子供達は最初の緊張感は何処へやら、すっかり薄い氷割りに夢中です。キャイキャイはしゃぎながら行く姿に、ロダもジンとシャナも安心です。
 だって都会から田舎に引っ越して、不便さに気付いて嫌気がさしたら悲しいですもんね。
 ジン夫婦は唯一のリファラの大人として子供達の未来を見守っていきたいのです。
 一応オーウェンギルド長もいますが、彼はリファラの民ではなくギルドの民なので保護者としてはいません。安全を護りはしますが教育にはノータッチです。
 だからこそジンとシャナは責任感を感じているのです。

 「この分なら直ぐに馴染めそうね」
 『そうだな。ここでなら安心してリンを育てられそうだ』

 奥歯を噛み締めて言うジンに、シャナはそっと寄り添います。
 列の最後尾でされる夫婦の会話はバッチシロダにも聞こえています。リファラで色々学んできたのでその言葉に重みを感じます。

 (リファラは色んな人が出入りしてるもんね。きっと色々悩んでここに来たんだろうな)

 ロダは眉根を寄せてそう思いました。ロダだって結果的には故郷にずっといる事になりましたが、リリがリファラに残ると言えば故郷を出るつもりだったのです。そこに至るまでに葛藤が無かったかと言えば嘘になるでしょう。

 「三巳の山だもの。何処よりも安全よ」
 『ああ。それに何よりリリがいる。この子もきっとリリを好きになる。出来ればリリの子供と友達になれたらと思ったが……どうやらそれはまだの様だな』

 列の最後尾で言う若い家族の言葉にロダは内心で動揺をします。

 (そ、そんなっ。リリとの子だなんてっ。ああ、でも絶対リリの子は可愛い!僕と、リリの……わああっ!そ、そんなまだ早いって!でも絶対可愛い!男の子でも女の子でも可愛い!)

 大人の仲間入りをしたロダは平静を装い子供達に冬の遊びを伝授して進んでいます。でもよぉく見ると実は右手と右足が一緒に出ています。あまりに自然にやっているので遊びに夢中の子供達は気付きません。

 「ふみ。あー」

 後ろではジンに抱っこされてるリンが楽しそうな子供達を見て手を伸ばしています。きっと混ざりたいんだと思うと微笑ましくて自然と笑みが漏れてきます。
 この山がこの家族にとって幸いであると良いと、ロダはそう願うのでした。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

『まて』をやめました【完結】

かみい
恋愛
私、クラウディアという名前らしい。 朧気にある記憶は、ニホンジンという意識だけ。でも名前もな~んにも憶えていない。でもここはニホンじゃないよね。記憶がない私に周りは優しく、なくなった記憶なら新しく作ればいい。なんてポジティブな家族。そ~ねそ~よねと過ごしているうちに見たクラウディアが以前に付けていた日記。 時代錯誤な傲慢な婚約者に我慢ばかりを強いられていた生活。え~っ、そんな最低男のどこがよかったの?顔?顔なの? 超絶美形婚約者からの『まて』はもう嫌! 恋心も忘れてしまった私は、新しい人生を歩みます。 貴方以上の美人と出会って、私の今、充実、幸せです。 だから、もう縋って来ないでね。 本編、番外編含め完結しました。ありがとうございます ※小説になろうさんにも、別名で載せています

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

【完結】悪役令嬢はご病弱!溺愛されても断罪後は引き篭もりますわよ?

鏑木 うりこ
恋愛
アリシアは6歳でどハマりした乙女ゲームの悪役令嬢になったことに気がついた。 楽しみながらゆるっと断罪、ゆるっと領地で引き篭もりを目標に邁進するも一家揃って病弱設定だった。  皆、寝込んでるから入学式も来れなかったんだー納得!  ゲームの裏設定に一々納得しながら進んで行くも攻略対象者が仲間になりたそうにこちらを見ている……。  聖女はあちらでしてよ!皆様!

処理中です...