獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

グラン2日目は海で遊ぼう♪

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 夜の宿屋で美味しい夕食に舌鼓を打ち、ハンモックに揺られながら星空を見た次の日です。
 三巳は波の音を聞きながら微睡んでいました。

 「起きたか」

 随分と近くに聞こえた大好きなひとの声に、耳をピピクピクと動かし目を擦ります。

 「にゅ……」

 近くに温もりを感じて手を伸ばせば、そこにあるのは確かな人の温もりです。大好きな匂いの温もりに顔を埋めてもう一度眠りの淵に入ります。

 「朝とはいえ暑くねえのかよ」
 「うにゅ……」

 ゆるりと垂れていく耳に直接届いた声に、流石におや何かがおかしいと気付きました。
 そしてゆっくりと瞼を開けると、そこには男の人の胸板がありました。

 「うにゅぅ?」

 それが何かわからなくて三巳は思わず両手でペタペタ触ってしまいます。

 「くすぐってえよ」

 くふりと漏れ出る笑い声に、三巳は視線を上げました。
 そしてそこにあったレオの目と交差します。
 三巳はあまりの事にピタリと動きを止めてしまいました。

 「で。暑くねぇのか?」

 ようやっと意識の覚醒を見たレオが片眉を上げて悪戯っぽい笑みを見せます。
 三巳はようやっと全身に覚醒が行き渡り、ビャッ!と後方に飛び出しベッドから離脱しました。

 「な……何で三巳と一緒に寝て……」

 そこまで言ってハタと気付きます。
 自分のベッドはその隣だったと。

 「あ、あぅ。ご、ごめんなさい」

 どうやら寝ぼけてレオのベッドに入り込んでいたらしいと気付き、真っ赤になって土下座しました。
 あまりの殊勝な態度にレオもクックと笑いました。

 「いーけどよ。ここは南国だぜ?暑く無かったか」
 「うにゅ。暑さを忘れる心地良さだったんだよ」

 三巳の素直な感想にレオは許をつかれます。

 「そーかよ」

 そして照れ隠しにソッポを向いてしまいました。

 (うーにゅ。レオと離れてるのそんなに寂しかったんだなー。無意識に一緒にいるなんて。……三巳ってば思ってたより犬よりだったんだよ)

 恥ずかしさでポポポと赤いほっぺを両手で押さえ、三巳はしみじみと自分の動物じみた行動を思います。気分は旅行から帰って来た大好きなご主人と離れたくないペットちゃんです。
 そしてそんな三巳の様子を美女母は面白そうに笑みを浮かべ見守り、クロは据わった目でレオを見るのでした。



 さてはて宿で朝食を取った後は満腹のお腹を摩りつつ外へと出てきました。

 「さて、今日は海で遊ぶのだったね」

 愛娘との海遊びにワクワクしているクロが髭をピンと真横に伸ばし、細くて長い尻尾も弧を描いて上に伸びています。

 「うにゅ!父ちゃんと玻璃貝探すんだよ♪」

 楽しそうにクルリと回ってクロの手を取った三巳は、そのまま海へと向かいます。折角海の真ん前の部屋に泊まっているのです。勿論お部屋で水着に着替えてそのまま砂浜へGOです。
 その少し後ろをレオが歩いてついて来てくれるので、どうにも楽しくなって調子っ外れの歌も溢れ出てきました。

 「うーみーはー♪ひろいーよー♪おっきーよー♪」

 サクサクザクリ。砂浜を踏みしめ素足で感触を味わい歌います。歌に合わせて耳も尻尾も踊るように動くので、近くを通った人達も微笑ましく見ています。

 「なーみーも♪ざぶーんでー♪たのしーよー♪」

 そのあまりの楽しそうな歌声は朝の街に優しく溶け込み、ちらり、ほらりとグランの人達が集まって来ました。

 「とーちゃーく!」

 そして浅瀬へと両足を踏み入れて歌を終わらせると、皆から「「「わー!」」」と歓声やら拍手やらが沸き起こりました。
 勿論いっぱい人が増えていた事に気付いていた三巳です。しかしあまりの盛り上がりにビックリして両目を見開き、耳と尻尾をピーンと真上に上げました。

 「ぬ。にゅぉ。んにゅー?うにゅ。楽しいから良し!」

 ビックリはしましたが雰囲気が海水浴場っぽくなっていて、これぞ夏の海!という感じなのが楽しくなります。もっとも今はまだ春なのですが。
 夏の海といったら敷物にパラソルとあと何か色々です。という訳で三巳は尻尾収納から海っぽい物を出して広げていきました。

 「ソレハ便利ネ」

 それを見た顔見知りのグランの民が三巳に話し掛けます。。

 「うにゅ?敷物とパラソルなんだよ。グランでは使わない?」
 「敷物ハアルヨ」

 ニコリと笑うグランの民です。その目線がパラソルにいくので「ああ」と得心がいきました。グランでは傘を使わないのでしょう。

 「んにゅ。もー一個あるからあげるんだよ」

 見本があれば誰かしら作れるだろうと、三巳は尻尾収納から予備を取り出し渡してあげました。

 「イイノカ?アリガトナ」

 有り難く受け取ったグランの民は、仲間達の元へと行きました。そして広げて立てた後はじっくり観察しています。
 その様子を見届けて満足した三巳は、うむと頷きクロの手を取りました。

 「父ちゃん競争なんだよ!先に見っけた方が勝ちな!」
 「おや、ふふふ。それは大変。張り切って見つけないとねぇ」

 浅瀬に足を入れた所で美女母に頭をワシリと掴まれ止まりました。

 「これ、粗忽者。準備運動くらいせぬか」
 「母ちゃん。うにゅ。楽しみ過ぎてうっかりなんだよ」

 という訳で体を解してから改めて海へとザブザブ入って行きます。
 三巳の腰ぐらいの深さまで行って、そこで海に顔を付けて底をキョロキョロ見渡します。近くを良く探しますが玻璃貝どころか普通の貝ですら見つかりません。

 「うーにゅ。ここはいないのかな?」

 ザバリと海から顔を上げて首を捻った三巳は、直ぐ真横のクロに振り返り目をパチクリさせました。

 「あえ?父ちゃんもしかして海の中で目開けらんない?」
 「そういう訳じゃないけれど、塩水は目に染みてねぇ」

 眉尻を下げて言うクロに、三巳はそれならばと尻尾収納に手を入れました。
 海水から尻尾を出して手を突っ込む三巳に、クロは疑問に思いつつも仕草が可愛いと頭を撫でたい衝動に駆られます。けれども三巳が一生懸命なので我慢です。
 じっと待っていると三巳がお目当ての物を見つけました。
 顔をパァッと輝かせると、

 「てってれー♪」

 と言いながら取り出します。
 そしてクロに手振りで体を下げるように要求しました。

 「はい、父ちゃん。これで目も痛くないんだよ」
 「これは……」

 目線を三巳と合わせたクロに、三巳が着けたのは、

 「水中メガネなんだよ。橙の試作品なんだよ」

 シュノーケル用の水中メガネだったのです。
 キチンと呼吸出来る筒も付いています。
 驚くクロでしたが、三巳の説明通りに使うと直ぐに破顔しました。

 「これは便利だねぇ」
 「うにゅ!最終的には酸素ボンベのやつにしたいんだよ」

 前世ではダイビングなんてしたことの無い三巳です。
 それでも今は自由に水中を泳げるので、是非とも皆で泳ぎたくて橙に相談していたのです。
 クロは三巳の話に感心して聞いていますが、パラソルの下で声を聞いていた美女母は思いました。

 (魔法でどうとでもすれば良かろうに)

 と。
 未だに魔法という便利な力を便利に使う事を思いつかない三巳は、きっと誰かが言わない限り気付かないのでしょう。
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