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本編
大切な物は大事に仕舞う(習性)
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前世の祖母を思い出し、寂しさから一頻り泣いた三巳です。
ボロボロに泣いて赤くなったとはいえ、目が腫れることはなく、泣き止めば何時ものニコパとした快活な笑みをスッキリとさせて浮かべました。
「ばっちゃはずっと三巳のばっちゃで嬉しいんだよ。本当は生きて会いたかったけど、匂いだけでも残してくれて、三巳それがわかる獣で生まれて本当に良かった」
ギュッと握りしめたお手玉を一度胸に抱き、そして大切に大切に元の引き出しに仕舞いました。一度キチンと閉めた引き出しでしたが、しかし何かを思いつきまた開けます。
「ばっちゃ。三巳もお手玉作れるようになったよ」
そう言って尻尾収納から取り出したのは三巳お手製のお手玉です。数は2個と少ないですがそれも引き出しに大切に仕舞いました。気分はご報告会です。
「三巳の匂い。届くかなぁ」
俵型の簡単な作りのお手玉です。けれども一生懸命作ったお手玉は沢山三巳の手で遊ばれました。お気に入りのお手玉です。だから大切な場所に仕舞う事にしたのです。
『天に届いたとしても、義母殿はもう幾度と転生を繰り返しておる。流石に覚えてはおらぬであろう』
「ぶうっ。わかってるよ。こういうのは気持ちなんだよ」
スンッとした顔でしんみりした空気を切った母獣に、三巳は頬袋をめいっぱい膨らませて抗議しました。
本当の事を言えば母獣は祖母の、自身の義母となった者の生末を知っていたりします。最愛の大事な家族を不遇に合わせる訳にはいかないという使命感です。その流れで転生を繰り返す内に記憶も想いも薄れて消えて行った事も把握していました。そしてそれをクロにも三巳にも教えるつもりはありません。それこそ無粋だろうと思っているのです。
『わかっておるなら良い』
過去を忍んで足踏みをするのは良い。けれど後退するのはいけないと、母獣はクツリと笑います。
「母ちゃんはばっちゃと会ってるんだよなー。どんな人?どんな人だった?」
『気の良い、とても居心地の良い空気を纏う御仁であったの』
「んふー♪ばっちゃは生まれ変わってもばっちゃだった!三巳それが知れただけでも良いや!」
満足そうに尻尾をひと振りした三巳は、その後家中を駆け回り祖母の匂いを探して回りました。そこかしこに残っていた確かに居た痕跡を見つけては満足いくまで匂いを嗅ぎ、耳を擦り付け、前世との類似を見つける度に顔を輝かせて報告をしました。
「そいじゃ風車小屋行こー!」
成神してても成りは子供の三巳は元気いっぱいです。少し休憩したいなと思うクロに気付かず手を引っ張って外へと出て行きます。
しかし進もうとした足は空を切りました。
『行くのは小腹を満たしてからじゃ』
若干大きめになった母獣に首根っこを咥えられぶら下げられたからです。
三巳を咥えたまま器用に話す母獣は、しかしクロを見ていました。
三巳はつられてクロを見ます。そうすれば少しお疲れ気味のクロに気付けました。自身が疲れないからクロは疲れるという事を失念していたのです。
「うぬ。休憩大事絶対。真夏に水分補給怠ると熱中症になっちゃうんだよ」
大人しくなった三巳は真顔で頷きます。首根っこ咥えられているので上手く頷けませんでしたが母獣には伝わっています。
母獣は三巳を降ろすとまた少し小さくなって家の中に戻って行くのでした。勿論クロの裾を咥えて中へ連れて行きながらです。
という訳で土間で簡単な食事としっかりとした水分補給を済ませてからいざお出掛けです。
「うぬぅ。やっぱし麦しか見えない。他のお野菜作ってないのか?」
風車小屋に向かうのにまたしても麦畑を歩いています。右見ても左見ても前見ても麦、麦、麦です。些か飽きてきました。
「どうだろう。私がいた頃はスイカやメロン、苺にトマトは良く見たけれど」
はてと同じく周囲を見ながらクロは言います。勿論麦しか見えません。
(成程。確かに農林水産省の分類的には全部野菜だ。トマト以外は感覚的には果物だけど)
とはいえ今はそのどれも見えません。祖母の家にも家庭菜園をしていた痕跡はありましたが雑草しか生えていませんでした。
三巳はふむと考えその場で大ジャンプしてみました。
「あっ」
ゆっくり横回転しながらみえた里は殆どが麦でしたが、家の建つ近くには様々な野菜や果物が見えました。
「成る程。自給自足形式」
足りない物は分け合う精神なのでしょう。田舎ならではの光景に、三巳は然もありなんと納得するのでした。
「ところで第一里人発見ないな」
そして今更ながらにお迎えしてくれた猫獣人以外はまだ会っていないことに気付くのでした。
ボロボロに泣いて赤くなったとはいえ、目が腫れることはなく、泣き止めば何時ものニコパとした快活な笑みをスッキリとさせて浮かべました。
「ばっちゃはずっと三巳のばっちゃで嬉しいんだよ。本当は生きて会いたかったけど、匂いだけでも残してくれて、三巳それがわかる獣で生まれて本当に良かった」
ギュッと握りしめたお手玉を一度胸に抱き、そして大切に大切に元の引き出しに仕舞いました。一度キチンと閉めた引き出しでしたが、しかし何かを思いつきまた開けます。
「ばっちゃ。三巳もお手玉作れるようになったよ」
そう言って尻尾収納から取り出したのは三巳お手製のお手玉です。数は2個と少ないですがそれも引き出しに大切に仕舞いました。気分はご報告会です。
「三巳の匂い。届くかなぁ」
俵型の簡単な作りのお手玉です。けれども一生懸命作ったお手玉は沢山三巳の手で遊ばれました。お気に入りのお手玉です。だから大切な場所に仕舞う事にしたのです。
『天に届いたとしても、義母殿はもう幾度と転生を繰り返しておる。流石に覚えてはおらぬであろう』
「ぶうっ。わかってるよ。こういうのは気持ちなんだよ」
スンッとした顔でしんみりした空気を切った母獣に、三巳は頬袋をめいっぱい膨らませて抗議しました。
本当の事を言えば母獣は祖母の、自身の義母となった者の生末を知っていたりします。最愛の大事な家族を不遇に合わせる訳にはいかないという使命感です。その流れで転生を繰り返す内に記憶も想いも薄れて消えて行った事も把握していました。そしてそれをクロにも三巳にも教えるつもりはありません。それこそ無粋だろうと思っているのです。
『わかっておるなら良い』
過去を忍んで足踏みをするのは良い。けれど後退するのはいけないと、母獣はクツリと笑います。
「母ちゃんはばっちゃと会ってるんだよなー。どんな人?どんな人だった?」
『気の良い、とても居心地の良い空気を纏う御仁であったの』
「んふー♪ばっちゃは生まれ変わってもばっちゃだった!三巳それが知れただけでも良いや!」
満足そうに尻尾をひと振りした三巳は、その後家中を駆け回り祖母の匂いを探して回りました。そこかしこに残っていた確かに居た痕跡を見つけては満足いくまで匂いを嗅ぎ、耳を擦り付け、前世との類似を見つける度に顔を輝かせて報告をしました。
「そいじゃ風車小屋行こー!」
成神してても成りは子供の三巳は元気いっぱいです。少し休憩したいなと思うクロに気付かず手を引っ張って外へと出て行きます。
しかし進もうとした足は空を切りました。
『行くのは小腹を満たしてからじゃ』
若干大きめになった母獣に首根っこを咥えられぶら下げられたからです。
三巳を咥えたまま器用に話す母獣は、しかしクロを見ていました。
三巳はつられてクロを見ます。そうすれば少しお疲れ気味のクロに気付けました。自身が疲れないからクロは疲れるという事を失念していたのです。
「うぬ。休憩大事絶対。真夏に水分補給怠ると熱中症になっちゃうんだよ」
大人しくなった三巳は真顔で頷きます。首根っこ咥えられているので上手く頷けませんでしたが母獣には伝わっています。
母獣は三巳を降ろすとまた少し小さくなって家の中に戻って行くのでした。勿論クロの裾を咥えて中へ連れて行きながらです。
という訳で土間で簡単な食事としっかりとした水分補給を済ませてからいざお出掛けです。
「うぬぅ。やっぱし麦しか見えない。他のお野菜作ってないのか?」
風車小屋に向かうのにまたしても麦畑を歩いています。右見ても左見ても前見ても麦、麦、麦です。些か飽きてきました。
「どうだろう。私がいた頃はスイカやメロン、苺にトマトは良く見たけれど」
はてと同じく周囲を見ながらクロは言います。勿論麦しか見えません。
(成程。確かに農林水産省の分類的には全部野菜だ。トマト以外は感覚的には果物だけど)
とはいえ今はそのどれも見えません。祖母の家にも家庭菜園をしていた痕跡はありましたが雑草しか生えていませんでした。
三巳はふむと考えその場で大ジャンプしてみました。
「あっ」
ゆっくり横回転しながらみえた里は殆どが麦でしたが、家の建つ近くには様々な野菜や果物が見えました。
「成る程。自給自足形式」
足りない物は分け合う精神なのでしょう。田舎ならではの光景に、三巳は然もありなんと納得するのでした。
「ところで第一里人発見ないな」
そして今更ながらにお迎えしてくれた猫獣人以外はまだ会っていないことに気付くのでした。
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