獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

恋バナというより嫁に出したくない飼い主の話だった

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 すっかり元通りの猫耳崖に戻っている場所で、レジャーシートを広げて寛ぐ三巳がいます。
 お弁当を食べ終えて、おやつ片手にクロから母獣との出逢いを聞いていたのです。

 「島神のじっちゃもやんちゃだった」

 地面をモミモミトントンとマッサージをしてみれば、島からゴロゴロと喉を鳴らす声が聞こえて来ます。
 ちょっと前まで成神出来ずにいた三巳は、何となく腑に落ちません。

 (何で島神のじっちゃはその時既に成神出来てて、三巳は出来てなかったん?)

 三巳の場合は社会神になる事を拒んでいたからですが、島神は猫至上主義だっただけで、社会神ではあったのです。
 その違いに気付かない三巳は若干もやもやしていましたが、母獣から圧の有る視線を感じてその思考を遠くに投げ捨てました。
 三巳はマッサージの手を止めずにクロを見ます。

 「父ちゃんと母ちゃんは一目惚れ同士って事?」

 話を恋バナに戻そうと出したパスは、ちゃんと母獣が受け取ってくれました。
 母獣は胡乱な目を愛しいものに変えてクロを見ます。そして鼻先をクロの頬に摺り合わせます。

 『正確には見る前に惚れ合った同士じゃの』

 クロは頬をずらして母獣の鼻先と自分の鼻先をチョンと合わせてペロリと舐めます。

 「そうだねぇ。キチンとお付き合い出来たのは神災から島に帰って、そこに愛しいひとも住み始めて、アッシュ達とも良く話し合った上で島神様の許可を貰ってからだけれどね」

 その許可が中々下りなかった事は母獣を見れば容易にわかります。

 「どうやって許可されたん?」
 『眷属化する事でずっと同じ時を生きられると説得したり。色々じゃな』
 「そうそう。自分達を覚えている仲間がいると嬉しいと、応援してくれたのは嬉しかったな」
 『クロとの間に子が出来ればそれは孫みたいなものだと、何処ぞの眩しい神族が言うて一気にグラついていたの』
 「じゃあ島神のじっちゃはやっぱし三巳のじっちゃで合ってるんだな!」

 三巳がパァッと顔を輝かせて言えば、島神もパァッと島を輝かせて光る花のエフェクトを降らせました。触れないけれど手の平に落ちては消えていく花を、三巳はキャッキャと捕まえて遊び始めます。

 『尤もそこまで行くのに随分年月が掛かったがのう』

 爺馬鹿を繰り広げる島神との足元の攻防を繰り広げながら母獣が呟いています。
 その横でクロも懐かしさに浸りながらクスクス笑っています。

 「中々に骨が折れたねぇ。最後はアッシュ達がこっそり島から出そうとまでしてくれて」
 『クックック。そうであったの』

 いっその事アッシュ達も島を出てみようかなどと話しまで跳んで、慌てふためく島神を思い出した母獣がさぞ愉快そうにお腹を揺らして笑います。

 「ふうん?それって他にも島を出た猫獣人がいたりするん?」

 遊びながらもちゃんと話が聞こえていた三巳が戻って来て素朴な疑問を言いました。
 三巳の疑問は、島神がどよ~んと昏く沈んで重力が重くなった気がした事で答えがわかります。
 クロもその空気に苦笑を漏らしながらも、仲間の子孫達の明るい未来に嬉しそうです。

 「集会で聞いた話だと最近は冒険者を目指す若者が増えているらしいよ」
 「じゃあいつか三巳の山にも来るかもしれないんだよ!楽しみなんだよ!」

 喜ぶ三巳に島神も文句を言えません。孫には良い爺ちゃんでいたいらしいです。代わりに三巳の前にポンと花を一つ咲かせました。
 大きな花弁の黒と白の花で、それは輝きと共に種子へと姿を変えます。大きさは殻付きの胡桃程です。

 「ぬ?くれるのか?」

 三巳が手を差し出すと種子はポロリと落ちて三巳の手に収まります。
 それをクンクンと匂いを嗅いで確かめると、仄かに島神の神気を感じました。

 『それを山に植えて花が咲けば離れていても会話が出来る。ほんに相変わらずの気持ち悪さじゃ』

 要はトランシーバーみたいなものかと三巳は納得しました。
 バシバシと島を叩く母獣には目もくれず種子を見ています。何処に植えようかと考えているのです。

 『世界樹のなりかけがあったであろう。そこに植えれば良い』
 「あの子かー。そうだな、そうしよ。そしたらあの子もきっと寂しくない」

 出来るだけ遠く、さりとてわざとらしい遠さではない所を示した母獣に三巳は気付いていません。むしろ納得顔です。トランシーバー位なら影響力も少なそうだと思っています。
 勿論世界樹の場所などわからない島神は、植えて貰えそうで安心しています。

 「島神のじっちゃ、山に帰ってもお話ししよーな」

 にゃーん♪

 こうして母獣の思惑を他所に、島神との交流も終え、両親の恋バナも聞けた三巳は大満足で島での観光を終えて帰宅の途へと付くのでした。

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