獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

三巳と梅雨とミンミのお使い

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 「あーめあーめふーるふーるつーゆだーからー♪」

 シトシト。シトシト。連日の雨模様に土も草木もシットリしている梅雨時です。
 三巳は縁側で足と尻尾をパタンパタンと泳がせて暇模様です。調子っ外れの歌を奏でる位にお暇様です。

 「にゅーん。外で遊ぶか。中で遊ぶか」

 今年は他所の国へ行く用事も無いので久し振りの山生活です。すると久し振り過ぎたのか普段何していたのかスッパリ忘れていました。

 「うーみゅ」

 見上げる空は灰色雲に覆われています。暫く太陽は見せそうにありません。

 「うーぬぅ」

 後ろを向いて見える尻尾はふわんふわんに揺れています。外で遊ぶなら濡れて遊ぶか魔法で弾くかを考えます。
 三巳のふわんふわん尻尾は濡れればペションとなって細くなります。その殆どが毛で出来ているからです。
 一応女性の端くれとしてみっともないのはどうだろう。という考えはここ最近芽生えた感情です。だって可愛いお洋服が増えたんだもの。オシャレだって好きなんです。

 「でも雨に濡れるの気持ち良ーんだよ」

 とはいえワンコ属性を持つ三巳は、やっぱり泥んこになりながら庭駆けずり回るのも大好きです。
 そこにメイド服を着たミンミが通り掛かりました。

 「三巳おねえさまこんにちは」

 ペコリと会釈をするミンミに、三巳の目が開きます。

 「お、おねえさま!?」

 初めて呼ばれた呼び方にたじろいでしまいます。
 あたふたしながらも立ち上がって居住まいを正すとペコリと会釈を返しました。

 「こんにちはミンミ」

 さんを付けようか様のが良いのか迷った挙句、結局付けませんでした。お嬢様にはなれない三巳なのです。
 ミンミはニコリと笑みを浮かべて(本人的には優雅に微笑んでいるつもりです)通り過ぎて行きます。
 三巳はその方向を見てギョッとします。
 何故なら郊外にある三巳の家の更に奥へと向かっているのです。その奥といえばもう村ではありません。

 「ミンミ!1人か!?大人は!?」

 雨だけど気にせず外に飛び出して来た三巳に、ミンミはキョトンとしました。そして濡れている三巳を見て傘を半分差し出してくれます。

 「ミンミ……じゃなかった。わたくしはいまおつかいをしています」

 ドヤ顔で胸を張るミンミに、ちょびっと傘に入れさせて貰った三巳は流石に心配になりました。

 「お使いって、この先は山だぞ。雨も降ってるのに何しに行くんだ?」
 「わたくしのい、い、言いつかった!おつかいはやくそうをとってくることです」

 ミンミは途中で言葉が思い出せなくてつっかえましたが何とか言えました。言い切れた事に自信が付いてムフーと自画自賛です。

 「薬草は村にもあるだろう?」
 「お山でとれたのがや、やぁー……やこう?やっこー?がたかいってリリねえ……さま!がいっていました」

 どうやら独断でここまで来た様です。
 ハンナのお使いなら村の中で済む筈です。けれども以前に教わった事を覚えていたミンミが、山に取りに行くのだと勘違いをしてしまったのです。
 三巳は理解すると頭を抱えて小さく唸ります。

 「ミンミ。山へは子供だけで入らないってお約束だろ」
 「ミンミメイドだもん!こどもじゃないもん!」

 子供特有の謎理論です。
 三巳はどう説得しようか頭を悩ませます。しかしどう説明しても三巳には説得力はないでしょう。
 だって見た目子供の三巳は1人でほいほい山へ行ってしまいますからね。

 「ミンミちゃん。真のメイドさんは1人で山には入らないんだよ」

 そこへ助け舟がやって来ました。雨なので家にいたクロです。三巳用の大きめ傘を持って来てくれたのです。
 三巳は頼りになる父親に、ホッと胸を撫で下ろして嬉しそうに尻尾を振りました。

 「んう?ハンナせんせーも1人ではいってない?」
 「そうだよ。思い出してごらん?ハンナも誰か大人と一緒だっただろう?」

 言われてウンウン言いながらハンナの行動を思い出してみます。

 「あ!ほんとうだ!ミンミしっぱい!」

 ミンミは目を大きく開けて顔を青くしました。
 オロオロしだす姿に、三巳はクロと顔を合わせて苦笑いします。

 「三巳が一緒行っても良ーけど、今日は雨で山は危険だからこの辺で済まそーな」

 三巳がミンミの頭を撫でてあげると、ミンミはガッカリ顔で頷きます。そして三巳の服をキュッと握りました。

 「このへんにやくそうある?」

 子供の泣きそうな上目遣いに、三巳は心臓がキュッと締め付けられます。

 「薬草は三巳も育てて無いなー。父ちゃんは?」
 「私もハーブなら幾つか育てているけれど、何て薬草か言えるかい?」
 「んとね、しよーか?っていうの」
 「しよーか?紫陽花か?この前風邪流行ったもんな」

 三巳はロキ医師から教わった紫陽花の生薬を思い出します。それと同時に中毒を起こす物もある事も思い出しました。

 「父ちゃん。どう思う?」

 ハンナにしては難しいお使いです。三巳はクロに小声で問い掛けました。
 クロは「ふむ」と髭を撫でてミンミを見ます。

 「正解を採れれば御の字。不正解でも飾れば綺麗だからね」

 同じく小声で返してくれたクロに三巳は得心がいった様に頷きました。

 「成る程なんだよ。なら裏手に自生してるのがあるから一緒に行こうか」

 三巳が手を差し伸べると、ミンミはとても嬉しそうに顔を輝かせます。

 「ほんと!?三巳おねえちゃん!」
 「ホント、ホント」

 ニパリと犬歯を剥き出しにして笑えば、ミンミはニコニコ笑顔で両手で抱き着こうとします。そして手を前に突き出した事で傘が三巳の鼻を直撃してしまいました。

 「あ!ごめんなさいぃ……」

 折角笑顔になったのにミンミは半泣きしてしまいます。
 しかし三巳は傘が当たった位じゃちっとも痛くありません。

 「三巳は大丈夫なんだよ。でも立派なメイドになるならちゃんと気を付けような」

 三巳はミンミの涙を指で拭います。そして笑顔で頭を撫でてあげました。
 そうすればミンミも泣きべそ笑顔で頷きます。

 「うん。ありがとう三巳おねえちゃん」
 「にゃははっ。じゃあニコニコ笑顔で紫陽花採りに行こー♪」
 「うん!」

 今度こそお手々を繋いで裏手へ向かいます。
 シトシト。シトシト。降る雨の中、傘を差してピチピチチャプチャプ進みます。
 ミンミがとても楽しそうに水溜りを歩くので、隣にいる三巳も楽しそうに尻尾を振っています。
 そうして着いた裏手は温室の更に奥へと行った木々がまばらに生えた場所でした。
 木々の合間合間には見事な紫陽花が自生しています。

 「わあ!キレイ!」
 「にゅふふー♪そーだろー♪雨の日に来ると景色が瑞々しくてまた別格なんだよ」
 「あー!かたつむりー!」

 早速紫陽花を見て回っていたミンミは葉っぱの上にカタツムリを見つけました。楽しそうに殻を手で持って眺めます。しかしカタツムリは殻の中に体を隠してしまいました。

 「かくれちゃった」
 「ビックリしちゃったんだなー」

 その様子を見た三巳はふと歌を思い出しました。そして無意識に口遊みます。

 「でーんでんむーしむしかーたつーむりー♪」

 調子っ外れの歌が紫陽花と、シトシト雨の景色に溶けて混ざって流れて行きます。

 「でんでんむしー♪」

 それを聞いたミンミも楽しそうに歌い出し、クロもその景色を愛おしく見守ります。

 (梅雨も中々に侮れないんだよ)

 シトシト雨が降り続く梅雨の空。三巳は静かな景色と音に身を委ねまったり過ごすのでした。
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