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プロローグ〜出会い〜

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ある日。
激しい雷雨が鳴り響く真夜中。
幼い少女は布団に潜り込んでいた。

「お嬢様?どうなさいましたか?」

闇の中からまた、黒い影が近づいてくる。
フルフルと震えていた少女から、

「もうこないでっ!」

細い声が発せられた。

「お嬢様……。この……雷が怖いのですか?」

違う。怖くなんかない。
ただ…少し寂しくなるだけ。

言葉は泣き声にかき消され、少女は首を横に振ることしかできなかった。

ふう……困ったように首をすくめる気配がする。

それに気付き、少女は身体を一層こわばらせた。
ああ、また。また私はお荷物みたい。
パパ、ママ……さみしい。帰ってきて。

より激しく泣きじゃくる少女にすっと黒い影が伸びてきて
突然首筋に冷たい手がそっと触れた。

きゃっ

微かな悲鳴をあげ、少女が飛び上がる。

「…お嬢様。私には何故貴方が泣いているのかわかりません。
しかし、これだけは言わせて下さい。
貴方を悲しませるものは、私が許しません。
絶対私が貴方を全てから守ります。」

彼の手は何やら私の首元に一瞬触れ、そっと離れた。

えっ……これは?

思わず顔を上げると、そこにはとても綺麗なモノがニッコリ笑っていた。

「私の命のように大切なものです。」

「じゃあ…なんで私に?」

「お嬢様だからです。一番大切な貴方に持っていて欲しいのです。
私の貴方への誓いの印です。」

少女はしばらくじっとそれを眺めていた。
そしておもむろに口を開く。

「…ねえ、守るっていつまで?」

「ずっとずっとです。貴方のためなら何でも致しますよ。」

にこりと口元に綺麗な笑みを浮かべる彼。
すると、またしばらく彼女は何かを考え込むように黙り込んでしまった。

何もない沈黙が続く。

「じゃあ、お願いしてもいい?」

突如沈黙が破られた。

「…何なりと、お嬢様。」

彼はその場にひざまずき、頭を下げ、自らへの最初の命令を待っていた。

少女は布団から出て、立ち上がる。
暗闇の中で、窓から雷光が眩いほどきらめく。
少女の立ち姿は幼いながら、気品に溢れていた。


「絶対に私を一人にしないで。
……あと、っ私のこと、お嬢様っていうのは…やめて?」

再びにこり、と微笑み一つ頷く。

…もちろんでございます、…………様…

彼は少女の手を優しくすくい上げ、甲にそっと口付けた。

彼の一連の動きは、この世のものとは思えないほど綺麗だった。
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