85 / 87
第四章 諸行無常
84話 私のカルアン
しおりを挟む
バルドー帝国とオバルト王国の連合軍がキーレント領を急襲し、
陥落させた報せが世界中を激震させながら駆け巡った。
あのダモンを敵に回した!
つまり大聖女エルサーシアにケンカを売ったと言う事だ。
始めは耳を疑い、次に両国の正気を疑い、そして魔女の出現に世界の未来を疑った。
どちらに付くべきか?
各国の首脳達はこの数日と言うもの寝る暇も無く会議を開き話し合っている。
現時点で明確な態度を示しているのは、バルドー側に付いたデカシーランドと
ダモンを支持するハイラムの二国だけだ。
他の国々は決めかねている。
***
「これより逆賊ダモンを討伐する!全軍に告ぐ!進軍せよ!」
司令官ロンミル第二王子の号令と共にダモン討伐軍が国境を超える。
平野部の民家はすでにもぬけの殻である。
みんな山岳部に移動済だ。
文字通りの無人の野を押し通り、田畑を踏み荒らし、家々を焼き払い、
高笑いに軍靴を響かせて行軍した。
やがて険しい坂道と視界を遮る入り組んだ地形の続く
山岳地帯の手前に到達する。
「さぁ!お前たちの力を見せ付けてやるのだ!存分に働くが良いぞ!
丸ごと焼き払え!」
二十五人の魔女達が凄まじい火力で木々をなぎ倒し、山肌を炭と灰に変えて行く。
待ち伏せもゲリラ戦も無意味だ。
と、その時!不意に高空から弾幕が降って来た!
更に高出力のエネルギー放射!
波動砲だ!
砲撃、放射、光子ビームの連射!
そして・・・
「おすわりっ!」
大音量の精神波~~~
「ふにゃもごふにゃ?」
サラアーミアだ!
「五人ってところね」
「他は防御されたわ」
「さすがにしぶといわね」
「おしっこ漏れそう・・・」
若草四姉妹も居る。
「精神支配は効かないわね、すでに洗脳されているみたい」
アルサラーラの得意技が使えないようだ。
魔女にも兵士にもテロポンが使用されている。
火力の勝負だ。
「いやぁ~ホンマに師匠そっくりやなぁ~やりにくいわぁ~」
シモーヌとサナ、そしてリョーマン親子だ。
シモーヌは高所恐怖症を克服していた!
長男を産んだ後、不思議と怖く無くなったのだ。
「そんなん言うてる場合ちゃうで!お母ちゃん!」
「分かっとるがな~」
「母上!手加減無用です!」
「母上やてぇ~、ちょっと聞いたぁ?余所行きモードなっとるわこの子~
なんや背中かゆいわぁ~」
「緊張感が無いわねぇ。結構ヤバイ状況よ?」
「分かってまんがな~」
「もごもげらけにょ!」
ダモンの拠点である領都アセムは、駆けつけたシオン率いるコイント連合軍と
ハイラムの義勇軍が守りを固めている。
五か国の意思確認に時間を取られたが、コイントはオバルトとの同盟を破棄して
ダモンに味方してくれた。
そのおかげで心置きなく前線で戦える!
一進一退の激しい攻防戦となった。
***
「だいぶ苦戦しているようだね。私も行って手伝ってくるよ」
寝台に横になっているエルサーシアの手を優しくさすりながらカルアンが言った。
最近は体調が優れない。
持病の腎機能が悪化しているのだ。
「私も----」
「駄目だよサーシア。今は体を労わりなさい。それに私も父親の威厳と言うものを
娘達に見せて置かないと立つ瀬が無いからね」
「貴方も、もう歳よ?カルアン」
「なぁに、もうひと働きくらい出来るさ」
カルアン・レイサン59歳
すでに現役を引退して数年が経つ。
さすがに老いが目立つようになった。
「じゃぁ行ってくるよ」
「えぇ・・・カルアン」
「なんだい?」
「早く帰って来てちょうだいね」
「あぁ、分かっているよ」
少しだけ弱気なエルサーシアであった。
「お父様、私も行きますわ」
ずっと付き添いで看病しているリコアリーゼ。
妹たちが心配でならない。
「いや、其方は此処に残ってサーシアを護っておくれ。側にいてあげなさい」
「はい・・・お父様。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「あぁ、行ってくるよ」
久し振りに袖を通す仮面の忍者衣裳。
ビシッと気が引き締まる。
お腹も締まる。
「ちょっと太ったかな・・・」
***
ダモンを落とせば様子見をしている国々も此方に傾くに違いない。
いくら大聖女が強くても世界中を敵にして勝てる道理は無いだろう。
此処が勝敗の分岐点だ!
その読みは、おそらく間違ってはいない。
これまで見て来たエルサーシアの力が全てなのだとしたら。
しかし彼らは知らない。
彼女は一度たりとも本気を出した事が無い。
強いて言えばカルアンが背中を刺されて大怪我をした時に随分と怒ったものだが、
それでも冷静さが残っていた。
我を忘れるほどに怒り狂った彼女を誰も、また本人でさえも知らない。
***
「総力を挙げて一気に攻め落とす!待機中の戦乙女を全投入せよ!」
これまでの戦いで十二人を失った。
ダモンの聖女と聖人に欠員は出ていない。
さすがにエルサーシアの直系だ。
強い!
だが相当に疲弊している筈だ。
ここで無傷の戦乙女二十五人を投じれば局面は変わらざるを得ない。
「新手が来たわ!」
「勝負所と言うわけね!」
「げろびごもらっぱ!」
だが、もう限界に近い・・・
「アーミア!サラーラ!」
「お父様!」
「うちゃら!」
「私が突撃して攪乱《かくらん》するから、各個撃破しなさい!」
「はい!お父様!」
カルアンは接近戦のエキスパートだ。
魔女の群れに飛び込んで刃を振るう。
白兵戦では大技の魔法は使えない。
味方を巻き込んでしまうからだ。
ミサの高周波プラズマブレードも接近戦と相性が良い。
「サナ!あんたもイテコマシたらんかいっ!」
「よっしゃ!トモエ!薙刀出してんか!」
「はいなぁ!」
サナもトモエも本来は武闘派だ!
「北辰一刀流の切れ味見せたろやないかい!」
「どっせぇ~い!おりゃぁ~!清盛はどこじゃぁ~~~!出てこぉ~~~い!」
トモエはバーサーカーモードを発動した。
急に戦闘の様相が変わった事に混乱し魔女達は対応に戸惑ってしまった。
注意散漫になった所を遠距離砲撃で撃墜される。
「何をしておるのだ!さっさと叩き落とせ!撃て!撃ち落とせ!」
ロンミルが激を飛ばす!
魔女達にとって司令官の命令は絶対である。
一人の魔女がカルアンに突進して抱き着いた!
「しまった!」
直ぐ様に切り捨てようとしたが、その顔を間近で見てしまった。
愛しい妻と同じ顔を。
若き日の懐かしい顔を。
この世で何よりも大切だと思う存在と同じ顔を。
「き!・・・斬れぬ・・・」
同士討ちになるのもお構いなしに高出力の魔法が浴びせられる。
「お父様!」
「カルアン様!」
「うにゃら~~~!」
焼け爛れ、右腕と両足を失い墜落して行く。
それでも小さな体を庇い、背中から地面に激突した。
(あぁ・・・我ながら間抜けだな・・・)
上空では怒り狂った娘達が最上位の特級攻撃魔法を連射している。
本来ならば意識が飛んでしまうレベルだ。
ブチ切れている・・・
(はは、無茶をする・・・帰ったら少しお説教だな・・・いや・・・無理か・・・)
あまりにも激しい娘達の攻撃に耐えきれずバルドー軍は退却を始めた。
追撃して止めを刺すのが定石だが、娘達も限界である。
三日間に渡る不眠不休の戦闘は一先ず終息した。
***
カルアンの亡骸がカイエント城内に運び込まれた。
服装は整えられはしたが、無残な姿を隠せるものでは無い。
エルサーシアは声も出さずに泣いた。
静かに・・・
静かに・・・
翌朝、部屋から出て来たエルサーシアはいつもの大法衣姿では無かった。
首からはカルアンが肌身離さず身に付けていたお守りが掛けられている。
不思議と奇麗なまま残っていた。
中にはエルサーシアのパンツの布切れが小さく折り畳まれて入っている。
「今日より私を聖女と呼ぶ事は許しません。カルアン・レイサンの妻エルサーシア。
それ以外の肩書はいらないわ」
その姿は往年の戦闘服。
カルアンと共に暴れまわった頃の衣装。
ズボンの騎士であった。
***
「くそっ!なんて奴らだ!」
まさか退却する羽目になるとは思わなかった。
圧倒的な戦力でダモンの城を攻め落とす筈であった。
あの男だ!
カルアンの接近戦で戦況が変わり、その撃墜から戦局が傾いてしまった。
エルサーシアの娘たちが狂った様に大魔法を連発した。
防ぎ切れずに戦乙女の大半が消滅した。
巻き添えを食った兵士数万が灰になった。
凄まじい破壊力だった。
「あれが本物の聖女の力なのか・・・」
やはり作り物では歯が立たないのか?
このままでは戦線を維持する事が出来ない。
援軍を要請しても到着までに数週間は掛かる。
「間に合うか?どうする?どうすれば良い!」
「ここで死ねば宜しいのですわ」
「誰だ!今なんと申した!無礼者!」
「ご機嫌麗しくは無いようですわね殿下」
「おっ!お前は~!」
大聖女なのか?
でもその恰好は?
そのでかいリボンは何だ?
ロンミルの頭は疑問に支配された。
「はぁ~もう面倒くさいですわ」
「な!に?」
「『色即是空』」
呪文を唱え終わると同時に霧と成ってロンミルは消滅した。
存在を消去されたのだ。
幕舎の外ではルルナが殺戮の限りを尽くしている。
降り注ぐのは雨では無い。
雷撃の嵐。
無数の破裂音は重なり、混ざり合い、その空間を満たす振動は、
最早、音であると認識する事が困難である。
そして訪れる静寂。
「終わったかしら?ルルナ」
「えぇ、終わりましたよ、サーシア」
「ではバルドーへ参りましょう」
「オバルトは後回しで良いのですか?」
「えぇ、最後で良いわ」
ゲートを開きバルドー帝国の帝都上空に移動する。
「『諸行無常 是生滅法 生滅滅已 寂滅為楽』」
何の警告も無く、いきなり大魔法の発動。
目に映る範囲の全ての物質が結合を維持する事が出来ずに細かい塵と化した。
生物も非生物も等しく風に舞った。
「初めて見ましたよ」
「何を?」
「サーシアが本気で怒っている所」
「あら?私は怒っているのかしら?」
「えぇ、そうと自覚の出来ないくらいに」
「そう・・・」
「次はキーレントですね」
かの地には王太子ウイリアムが居る。
「いいえ、キーレントはフリーデル閣下にお任せしますわ」
「あぁ、なるほど。ではオバルトですか?」
「今日はもう疲れたわ。明日にしましょう」
「どうせなら近い方が良いでしょう。王都のレイサン邸へ行きましょうか?」
「そうね・・・そうするわルルナ」
レイサン邸に到着したエルサーシアはそのまま寝込んでしまった。
無理をし過ぎたのだ。
***
ダモン討伐軍の全滅。
バルドー帝国の帝都壊滅と王朝の消失。
それが大聖女たった一人によって為された。
世界は恐怖した。
各国は一斉にダモンを支持し、オバルト王国に絶縁を通知して来た。
王国元老院はナコルキンの王座を剥奪し、王位は当面の間、空位とした。
離宮の一つに蟄居とし、最終的な処分はエルサーシアに
お伺いを立ててからと相成った。
ウイリアムもまた王太子を廃されて、別の離宮に軟禁されている。
元老院の代表がエルサーシアと面会する事が出来たのは夏の終わり。
降節も間近になってからであった。
「如何で御座いましょうか?」
元老院としては、ナコルキンはこのまま離宮で生涯を終え、
孫カイザルの成長を待って王位に付ける案を提案した。
「彼らには死んで頂きますわ。私が致しますから、どうぞお構いなく」
「そ!それは!何卒!思い止まっては頂けますまいか?」
「あら?どうしてかしら?カルアンが死んだのよ?」
そう、この私から愛しい人を奪ったのだ。
生かして置ける筈が無いではないか。
「お母様、お話が有ります」
リコアリーゼが看病の為に来ている。
「なぁに?アリーゼ」
「もう許してあげて下さいませ」
「あら?どうして?」
「ビリジアンヌ様に命乞いをされました。あまりにもお泣きになられるので、
つい、引き受けてしまいましたの」
相変わらずリコアリーゼはお人好し・・・
でも今回ばかりは駄目だよアリーゼ。
いくら娘に甘々のサーシアでも、必殺の”娘のお願い”も効かないよ~
「そう、仕方が無いわね。宜しいでしょう。もう終わりに致しましょう」
効くんかぁ~~~い!
後にダモン事変と称される一大事は、こうして終結した。
陥落させた報せが世界中を激震させながら駆け巡った。
あのダモンを敵に回した!
つまり大聖女エルサーシアにケンカを売ったと言う事だ。
始めは耳を疑い、次に両国の正気を疑い、そして魔女の出現に世界の未来を疑った。
どちらに付くべきか?
各国の首脳達はこの数日と言うもの寝る暇も無く会議を開き話し合っている。
現時点で明確な態度を示しているのは、バルドー側に付いたデカシーランドと
ダモンを支持するハイラムの二国だけだ。
他の国々は決めかねている。
***
「これより逆賊ダモンを討伐する!全軍に告ぐ!進軍せよ!」
司令官ロンミル第二王子の号令と共にダモン討伐軍が国境を超える。
平野部の民家はすでにもぬけの殻である。
みんな山岳部に移動済だ。
文字通りの無人の野を押し通り、田畑を踏み荒らし、家々を焼き払い、
高笑いに軍靴を響かせて行軍した。
やがて険しい坂道と視界を遮る入り組んだ地形の続く
山岳地帯の手前に到達する。
「さぁ!お前たちの力を見せ付けてやるのだ!存分に働くが良いぞ!
丸ごと焼き払え!」
二十五人の魔女達が凄まじい火力で木々をなぎ倒し、山肌を炭と灰に変えて行く。
待ち伏せもゲリラ戦も無意味だ。
と、その時!不意に高空から弾幕が降って来た!
更に高出力のエネルギー放射!
波動砲だ!
砲撃、放射、光子ビームの連射!
そして・・・
「おすわりっ!」
大音量の精神波~~~
「ふにゃもごふにゃ?」
サラアーミアだ!
「五人ってところね」
「他は防御されたわ」
「さすがにしぶといわね」
「おしっこ漏れそう・・・」
若草四姉妹も居る。
「精神支配は効かないわね、すでに洗脳されているみたい」
アルサラーラの得意技が使えないようだ。
魔女にも兵士にもテロポンが使用されている。
火力の勝負だ。
「いやぁ~ホンマに師匠そっくりやなぁ~やりにくいわぁ~」
シモーヌとサナ、そしてリョーマン親子だ。
シモーヌは高所恐怖症を克服していた!
長男を産んだ後、不思議と怖く無くなったのだ。
「そんなん言うてる場合ちゃうで!お母ちゃん!」
「分かっとるがな~」
「母上!手加減無用です!」
「母上やてぇ~、ちょっと聞いたぁ?余所行きモードなっとるわこの子~
なんや背中かゆいわぁ~」
「緊張感が無いわねぇ。結構ヤバイ状況よ?」
「分かってまんがな~」
「もごもげらけにょ!」
ダモンの拠点である領都アセムは、駆けつけたシオン率いるコイント連合軍と
ハイラムの義勇軍が守りを固めている。
五か国の意思確認に時間を取られたが、コイントはオバルトとの同盟を破棄して
ダモンに味方してくれた。
そのおかげで心置きなく前線で戦える!
一進一退の激しい攻防戦となった。
***
「だいぶ苦戦しているようだね。私も行って手伝ってくるよ」
寝台に横になっているエルサーシアの手を優しくさすりながらカルアンが言った。
最近は体調が優れない。
持病の腎機能が悪化しているのだ。
「私も----」
「駄目だよサーシア。今は体を労わりなさい。それに私も父親の威厳と言うものを
娘達に見せて置かないと立つ瀬が無いからね」
「貴方も、もう歳よ?カルアン」
「なぁに、もうひと働きくらい出来るさ」
カルアン・レイサン59歳
すでに現役を引退して数年が経つ。
さすがに老いが目立つようになった。
「じゃぁ行ってくるよ」
「えぇ・・・カルアン」
「なんだい?」
「早く帰って来てちょうだいね」
「あぁ、分かっているよ」
少しだけ弱気なエルサーシアであった。
「お父様、私も行きますわ」
ずっと付き添いで看病しているリコアリーゼ。
妹たちが心配でならない。
「いや、其方は此処に残ってサーシアを護っておくれ。側にいてあげなさい」
「はい・・・お父様。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「あぁ、行ってくるよ」
久し振りに袖を通す仮面の忍者衣裳。
ビシッと気が引き締まる。
お腹も締まる。
「ちょっと太ったかな・・・」
***
ダモンを落とせば様子見をしている国々も此方に傾くに違いない。
いくら大聖女が強くても世界中を敵にして勝てる道理は無いだろう。
此処が勝敗の分岐点だ!
その読みは、おそらく間違ってはいない。
これまで見て来たエルサーシアの力が全てなのだとしたら。
しかし彼らは知らない。
彼女は一度たりとも本気を出した事が無い。
強いて言えばカルアンが背中を刺されて大怪我をした時に随分と怒ったものだが、
それでも冷静さが残っていた。
我を忘れるほどに怒り狂った彼女を誰も、また本人でさえも知らない。
***
「総力を挙げて一気に攻め落とす!待機中の戦乙女を全投入せよ!」
これまでの戦いで十二人を失った。
ダモンの聖女と聖人に欠員は出ていない。
さすがにエルサーシアの直系だ。
強い!
だが相当に疲弊している筈だ。
ここで無傷の戦乙女二十五人を投じれば局面は変わらざるを得ない。
「新手が来たわ!」
「勝負所と言うわけね!」
「げろびごもらっぱ!」
だが、もう限界に近い・・・
「アーミア!サラーラ!」
「お父様!」
「うちゃら!」
「私が突撃して攪乱《かくらん》するから、各個撃破しなさい!」
「はい!お父様!」
カルアンは接近戦のエキスパートだ。
魔女の群れに飛び込んで刃を振るう。
白兵戦では大技の魔法は使えない。
味方を巻き込んでしまうからだ。
ミサの高周波プラズマブレードも接近戦と相性が良い。
「サナ!あんたもイテコマシたらんかいっ!」
「よっしゃ!トモエ!薙刀出してんか!」
「はいなぁ!」
サナもトモエも本来は武闘派だ!
「北辰一刀流の切れ味見せたろやないかい!」
「どっせぇ~い!おりゃぁ~!清盛はどこじゃぁ~~~!出てこぉ~~~い!」
トモエはバーサーカーモードを発動した。
急に戦闘の様相が変わった事に混乱し魔女達は対応に戸惑ってしまった。
注意散漫になった所を遠距離砲撃で撃墜される。
「何をしておるのだ!さっさと叩き落とせ!撃て!撃ち落とせ!」
ロンミルが激を飛ばす!
魔女達にとって司令官の命令は絶対である。
一人の魔女がカルアンに突進して抱き着いた!
「しまった!」
直ぐ様に切り捨てようとしたが、その顔を間近で見てしまった。
愛しい妻と同じ顔を。
若き日の懐かしい顔を。
この世で何よりも大切だと思う存在と同じ顔を。
「き!・・・斬れぬ・・・」
同士討ちになるのもお構いなしに高出力の魔法が浴びせられる。
「お父様!」
「カルアン様!」
「うにゃら~~~!」
焼け爛れ、右腕と両足を失い墜落して行く。
それでも小さな体を庇い、背中から地面に激突した。
(あぁ・・・我ながら間抜けだな・・・)
上空では怒り狂った娘達が最上位の特級攻撃魔法を連射している。
本来ならば意識が飛んでしまうレベルだ。
ブチ切れている・・・
(はは、無茶をする・・・帰ったら少しお説教だな・・・いや・・・無理か・・・)
あまりにも激しい娘達の攻撃に耐えきれずバルドー軍は退却を始めた。
追撃して止めを刺すのが定石だが、娘達も限界である。
三日間に渡る不眠不休の戦闘は一先ず終息した。
***
カルアンの亡骸がカイエント城内に運び込まれた。
服装は整えられはしたが、無残な姿を隠せるものでは無い。
エルサーシアは声も出さずに泣いた。
静かに・・・
静かに・・・
翌朝、部屋から出て来たエルサーシアはいつもの大法衣姿では無かった。
首からはカルアンが肌身離さず身に付けていたお守りが掛けられている。
不思議と奇麗なまま残っていた。
中にはエルサーシアのパンツの布切れが小さく折り畳まれて入っている。
「今日より私を聖女と呼ぶ事は許しません。カルアン・レイサンの妻エルサーシア。
それ以外の肩書はいらないわ」
その姿は往年の戦闘服。
カルアンと共に暴れまわった頃の衣装。
ズボンの騎士であった。
***
「くそっ!なんて奴らだ!」
まさか退却する羽目になるとは思わなかった。
圧倒的な戦力でダモンの城を攻め落とす筈であった。
あの男だ!
カルアンの接近戦で戦況が変わり、その撃墜から戦局が傾いてしまった。
エルサーシアの娘たちが狂った様に大魔法を連発した。
防ぎ切れずに戦乙女の大半が消滅した。
巻き添えを食った兵士数万が灰になった。
凄まじい破壊力だった。
「あれが本物の聖女の力なのか・・・」
やはり作り物では歯が立たないのか?
このままでは戦線を維持する事が出来ない。
援軍を要請しても到着までに数週間は掛かる。
「間に合うか?どうする?どうすれば良い!」
「ここで死ねば宜しいのですわ」
「誰だ!今なんと申した!無礼者!」
「ご機嫌麗しくは無いようですわね殿下」
「おっ!お前は~!」
大聖女なのか?
でもその恰好は?
そのでかいリボンは何だ?
ロンミルの頭は疑問に支配された。
「はぁ~もう面倒くさいですわ」
「な!に?」
「『色即是空』」
呪文を唱え終わると同時に霧と成ってロンミルは消滅した。
存在を消去されたのだ。
幕舎の外ではルルナが殺戮の限りを尽くしている。
降り注ぐのは雨では無い。
雷撃の嵐。
無数の破裂音は重なり、混ざり合い、その空間を満たす振動は、
最早、音であると認識する事が困難である。
そして訪れる静寂。
「終わったかしら?ルルナ」
「えぇ、終わりましたよ、サーシア」
「ではバルドーへ参りましょう」
「オバルトは後回しで良いのですか?」
「えぇ、最後で良いわ」
ゲートを開きバルドー帝国の帝都上空に移動する。
「『諸行無常 是生滅法 生滅滅已 寂滅為楽』」
何の警告も無く、いきなり大魔法の発動。
目に映る範囲の全ての物質が結合を維持する事が出来ずに細かい塵と化した。
生物も非生物も等しく風に舞った。
「初めて見ましたよ」
「何を?」
「サーシアが本気で怒っている所」
「あら?私は怒っているのかしら?」
「えぇ、そうと自覚の出来ないくらいに」
「そう・・・」
「次はキーレントですね」
かの地には王太子ウイリアムが居る。
「いいえ、キーレントはフリーデル閣下にお任せしますわ」
「あぁ、なるほど。ではオバルトですか?」
「今日はもう疲れたわ。明日にしましょう」
「どうせなら近い方が良いでしょう。王都のレイサン邸へ行きましょうか?」
「そうね・・・そうするわルルナ」
レイサン邸に到着したエルサーシアはそのまま寝込んでしまった。
無理をし過ぎたのだ。
***
ダモン討伐軍の全滅。
バルドー帝国の帝都壊滅と王朝の消失。
それが大聖女たった一人によって為された。
世界は恐怖した。
各国は一斉にダモンを支持し、オバルト王国に絶縁を通知して来た。
王国元老院はナコルキンの王座を剥奪し、王位は当面の間、空位とした。
離宮の一つに蟄居とし、最終的な処分はエルサーシアに
お伺いを立ててからと相成った。
ウイリアムもまた王太子を廃されて、別の離宮に軟禁されている。
元老院の代表がエルサーシアと面会する事が出来たのは夏の終わり。
降節も間近になってからであった。
「如何で御座いましょうか?」
元老院としては、ナコルキンはこのまま離宮で生涯を終え、
孫カイザルの成長を待って王位に付ける案を提案した。
「彼らには死んで頂きますわ。私が致しますから、どうぞお構いなく」
「そ!それは!何卒!思い止まっては頂けますまいか?」
「あら?どうしてかしら?カルアンが死んだのよ?」
そう、この私から愛しい人を奪ったのだ。
生かして置ける筈が無いではないか。
「お母様、お話が有ります」
リコアリーゼが看病の為に来ている。
「なぁに?アリーゼ」
「もう許してあげて下さいませ」
「あら?どうして?」
「ビリジアンヌ様に命乞いをされました。あまりにもお泣きになられるので、
つい、引き受けてしまいましたの」
相変わらずリコアリーゼはお人好し・・・
でも今回ばかりは駄目だよアリーゼ。
いくら娘に甘々のサーシアでも、必殺の”娘のお願い”も効かないよ~
「そう、仕方が無いわね。宜しいでしょう。もう終わりに致しましょう」
効くんかぁ~~~い!
後にダモン事変と称される一大事は、こうして終結した。
0
あなたにおすすめの小説
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件
フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。
だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!?
体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ?
――――それ、オレなんだわ……。
昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。
そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。
妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。
転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー
芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。
42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。
下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。
約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。
それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。
一話当たりは短いです。
通勤通学の合間などにどうぞ。
あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる


