大聖女エルサーシアの遺言~とんでもヒロインの異世界漫遊記

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第四章 諸行無常

84話 私のカルアン

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バルドー帝国とオバルト王国の連合軍がキーレント領を急襲し、
陥落させた報せが世界中を激震させながら駆け巡った。

あのダモンを敵に回した!

つまり大聖女エルサーシアにケンカを売ったと言う事だ。
始めは耳を疑い、次に両国の正気を疑い、そして魔女の出現に世界の未来を疑った。

どちらに付くべきか?
各国の首脳達はこの数日と言うもの寝る暇も無く会議を開き話し合っている。
現時点で明確な態度を示しているのは、バルドー側に付いたデカシーランドと
ダモンを支持するハイラムの二国だけだ。
他の国々は決めかねている。

***

「これより逆賊ダモンを討伐する!全軍に告ぐ!進軍せよ!」

司令官ロンミル第二王子の号令と共にダモン討伐軍が国境を超える。
平野部の民家はすでにもぬけの殻である。
みんな山岳部に移動済だ。

文字通りの無人の野を押し通り、田畑を踏み荒らし、家々を焼き払い、
高笑いに軍靴を響かせて行軍した。
やがて険しい坂道と視界をさえぎる入り組んだ地形の続く
山岳地帯の手前に到達する。

「さぁ!お前たちの力を見せ付けてやるのだ!存分に働くが良いぞ!
丸ごと焼き払え!」

二十五人の魔女達が凄まじい火力で木々をなぎ倒し、山肌を炭と灰に変えて行く。
待ち伏せもゲリラ戦も無意味だ。

と、その時!ズドドドドドドド!不意に高空から弾幕が降って来た!ドカンッ!ドカンッ!ボカ~~~ン!ボカ~~~ン!
更に高出力のエネルギー放射!ジュドォ~~~~~~ン!
波動砲だ!バリバリバリ~!

砲撃、放射、光子ビームの連射!
そして・・・

「おすわりっ!」
大音量の精神波~~~

ふにゃもごふにゃ?やったかしら?
サラアーミアだ!

「五人ってところね」
「他は防御されたわ」
「さすがにしぶといわね」
「おしっこれそう・・・」

若草四姉妹も居る。

「精神支配は効かないわね、すでに洗脳されているみたい」

アルサラーラの得意技が使えないようだ。
魔女にも兵士にもテロポンが使用されている。
火力の勝負だ。

「いやぁ~ホンマに師匠そっくりやなぁ~やりにくいわぁ~」

シモーヌとサナ、そしてリョーマン親子だ。
シモーヌは高所恐怖症を克服していた!
長男を産んだ後、不思議と怖く無くなったのだ。

「そんなん言うてる場合ちゃうで!お母ちゃん!」
「分かっとるがな~」
「母上!手加減無用です!」
「母上やてぇ~、ちょっと聞いたぁ?余所行よそいきモードなっとるわこの子~
なんや背中かゆいわぁ~」

「緊張感が無いわねぇ。結構ヤバイ状況よ?」
「分かってまんがな~」
もごもげらけにょ!反撃が来るわよ!

ダモンの拠点である領都アセムは、駆けつけたシオン率いるコイント連合軍と
ハイラムの義勇軍が守りを固めている。
五か国の意思確認に時間を取られたが、コイントはオバルトとの同盟を破棄して
ダモンに味方してくれた。
そのおかげで心置きなく前線で戦える!
一進一退の激しい攻防戦となった。

***

「だいぶ苦戦しているようだね。私も行って手伝ってくるよ」

寝台に横になっているエルサーシアの手を優しくさすりながらカルアンが言った。
最近は体調がすぐれない。
持病の腎機能が悪化しているのだ。

「私も----」
「駄目だよサーシア。今は体をいたわりなさい。それに私も父親の威厳と言うものを
娘達に見せて置かないと立つ瀬が無いからね」
「貴方も、もう歳よ?カルアン」
「なぁに、もうひと働きくらい出来るさ」


カルアン・レイサン59歳
すでに現役を引退して数年が経つ。
さすがに老いが目立つようになった。

「じゃぁ行ってくるよ」
「えぇ・・・カルアン」
「なんだい?」
「早く帰って来てちょうだいね」
「あぁ、分かっているよ」

少しだけ弱気なエルサーシアであった。

「お父様、私も行きますわ」

ずっと付き添いで看病しているリコアリーゼ。
妹たちが心配でならない。

「いや、其方そなたは此処に残ってサーシアを護っておくれ。側にいてあげなさい」
「はい・・・お父様。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「あぁ、行ってくるよ」

久し振りに袖を通す仮面の忍者衣裳。
ビシッと気が引き締まる。
お腹も締まる。

「ちょっと太ったかな・・・」

***

ダモンを落とせば様子見をしている国々も此方こちらに傾くに違いない。
いくら大聖女が強くても世界中を敵にして勝てる道理は無いだろう。
此処が勝敗の分岐点だ!

その読みは、おそらく間違ってはいない。
これまで見て来たエルサーシアの力が全てなのだとしたら。
しかし彼らは知らない。

彼女は一度たりとも本気を出した事が無い。
強いて言えばカルアンが背中を刺されて大怪我をした時に随分と怒ったものだが、
それでも冷静さが残っていた。
我を忘れるほどに怒り狂った彼女を誰も、また本人でさえも知らない。

***

「総力を挙げて一気に攻め落とす!待機中の戦乙女を全投入せよ!」

これまでの戦いで十二人を失った。
ダモンの聖女と聖人に欠員は出ていない。
さすがにエルサーシアの直系だ。

強い!

だが相当に疲弊している筈だ。
ここで無傷の戦乙女二十五人を投じれば局面は変わらざるを得ない。

「新手が来たわ!」
「勝負所と言うわけね!」
げろびごもらっぱ!やってやろうじゃないの!

だが、もう限界に近い・・・

「アーミア!サラーラ!」
「お父様!」
うちゃら!来てくれたの!
「私が突撃して攪乱《かくらん》するから、各個撃破しなさい!」
「はい!お父様!」

カルアンは接近戦のエキスパートだ。
魔女の群れに飛び込んで刃を振るう。
白兵戦では大技の魔法は使えない。
味方を巻き込んでしまうからだ。

ミサの高周波プラズマブレードも接近戦と相性が良い。

「サナ!あんたもイテコマシたらんかいっ!」
「よっしゃ!トモエ!薙刀なぎなた出してんか!」
「はいなぁ!」

サナもトモエも本来は武闘派だ!

「北辰一刀流の切れ味見せたろやないかい!」
どっせぇ~い!おりゃぁ~!ブンッ!ブンッ!ブンッ!清盛はどこじゃぁ~~~!グルグルグルビュン!出てこぉ~~~い!ブンッ!ブンッ!ブンッ!ブンッ

トモエはバーサーカーモードを発動した。

急に戦闘の様相が変わった事に混乱し魔女達は対応に戸惑ってしまった。
注意散漫になった所を遠距離砲撃で撃墜される。

「何をしておるのだ!さっさと叩き落とせ!撃て!撃ち落とせ!」

ロンミルが激を飛ばす!
魔女達にとって司令官の命令は絶対である。
一人の魔女がカルアンに突進して抱き着いた!

「しまった!」

直ぐ様に切り捨てようとしたが、その顔を間近で見てしまった。
愛しい妻と同じ顔を。
若き日の懐かしい顔を。
この世で何よりも大切だと思う存在と同じ顔を。

「き!・・・斬れぬ・・・」
同士討ちになるのもお構いなしに高出力の魔法が浴びせられる。

「お父様!」
「カルアン様!」
うにゃら~~~!いやぁ~~~!

焼けただれ、右腕と両足を失い墜落して行く。
それでも小さな体をかばい、背中から地面に激突した。

(あぁ・・・我ながら間抜けだな・・・)

上空では怒り狂った娘達が最上位の特級攻撃魔法を連射している。
本来ならば意識が飛んでしまうレベルだ。

ブチ切れている・・・

(はは、無茶をする・・・帰ったら少しお説教だな・・・いや・・・無理か・・・)

あまりにも激しい娘達の攻撃に耐えきれずバルドー軍は退却を始めた。
追撃してとどめを刺すのが定石だが、娘達も限界である。

三日間に渡る不眠不休の戦闘は一先ず終息した。

***

カルアンの亡骸がカイエント城内に運び込まれた。
服装は整えられはしたが、無残な姿を隠せるものでは無い。

エルサーシアは声も出さずに泣いた。
静かに・・・
静かに・・・

翌朝、部屋から出て来たエルサーシアはいつもの大法衣姿では無かった。
首からはカルアンが肌身離さず身に付けていたお守りが掛けられている。
不思議と奇麗なまま残っていた。
中にはエルサーシアのパンツの布切れが小さく折りたたまれて入っている。

「今日より私を聖女と呼ぶ事は許しません。カルアン・レイサンの妻エルサーシア。
それ以外の肩書はいらないわ」


その姿は往年の戦闘服。
カルアンと共に暴れまわった頃の衣装。
ズボンの騎士であった。

***

「くそっ!なんて奴らだ!」

まさか退却する羽目になるとは思わなかった。
圧倒的な戦力でダモンの城を攻め落とす筈であった。

あの男だ!

カルアンの接近戦で戦況が変わり、その撃墜から戦局が傾いてしまった。
エルサーシアの娘たちが狂った様に大魔法を連発した。
防ぎ切れずに戦乙女の大半が消滅した。
巻き添えを食った兵士数万が灰になった。
凄まじい破壊力だった。

「あれが本物の聖女の力なのか・・・」

やはり作り物では歯が立たないのか?
このままでは戦線を維持する事が出来ない。
援軍を要請しても到着までに数週間は掛かる。

「間に合うか?どうする?どうすれば良い!」
「ここで死ねば宜しいのですわ」
「誰だ!今なんと申した!無礼者!」
「ご機嫌うるわしくは無いようですわね殿下」

「おっ!お前は~!」

大聖女なのか?
でもその恰好は?
そのでかいリボンは何だ?

ロンミルの頭は疑問に支配された。

「はぁ~もう面倒くさいですわ」
「な!に?」
「『色即是空しきそくぜくう』」

呪文を唱え終わると同時に霧と成ってロンミルは消滅した。
存在を消去されたのだ。

幕舎ばくしゃの外ではルルナが殺戮の限りを尽くしている。
降り注ぐのは雨では無い。
雷撃の嵐。
無数の破裂音は重なり、混ざり合い、その空間を満たす振動は、
最早、音であると認識する事が困難である。

そして訪れる静寂。

「終わったかしら?ルルナ」
「えぇ、終わりましたよ、サーシア」
「ではバルドーへ参りましょう」
「オバルトは後回しで良いのですか?」
「えぇ、最後で良いわ」

ゲートを開きバルドー帝国の帝都上空に移動する。

「『諸行無常しょぎょうむじょう 是生滅法ぜしょうめっぽう 生滅滅已しょうめつめっち 寂滅為楽じゃくめつついらく』」

何の警告も無く、いきなり大魔法の発動。
目に映る範囲の全ての物質が結合を維持する事が出来ずに細かいちりと化した。
生物も非生物も等しく風に舞った。


「初めて見ましたよ」
「何を?」
「サーシアが本気で怒っている所」
「あら?私は怒っているのかしら?」
「えぇ、そうと自覚の出来ないくらいに」
「そう・・・」
「次はキーレントですね」

かの地には王太子ウイリアムが居る。

「いいえ、キーレントはフリーデル閣下にお任せしますわ」
「あぁ、なるほど。ではオバルトですか?」
「今日はもう疲れたわ。明日にしましょう」
「どうせなら近い方が良いでしょう。王都のレイサン邸へ行きましょうか?」
「そうね・・・そうするわルルナ」

レイサン邸に到着したエルサーシアはそのまま寝込んでしまった。
無理をし過ぎたのだ。

***

ダモン討伐軍の全滅。
バルドー帝国の帝都壊滅と王朝の消失。
それが大聖女たった一人によって為された。

世界は恐怖した。
各国は一斉にダモンを支持し、オバルト王国に絶縁を通知して来た。
王国元老院はナコルキンの王座を剥奪し、王位は当面の間、空位とした。
離宮の一つに蟄居ちっきょとし、最終的な処分はエルサーシアに
お伺いを立ててからと相成った。
ウイリアムもまた王太子を廃されて、別の離宮に軟禁されている。

元老院の代表がエルサーシアと面会する事が出来たのは夏の終わり。
降節も間近になってからであった。

「如何で御座いましょうか?」

元老院としては、ナコルキンはこのまま離宮で生涯を終え、
孫カイザルの成長を待って王位に付ける案を提案した。

「彼らには死んで頂きますわ。私が致しますから、どうぞお構いなく」
「そ!それは!何卒なにとぞ!思い止まっては頂けますまいか?」
「あら?どうしてかしら?カルアンが死んだのよ?」

そう、この私から愛しい人を奪ったのだ。
生かして置ける筈が無いではないか。

「お母様、お話が有ります」
リコアリーゼが看病の為に来ている。

「なぁに?アリーゼ」
「もう許してあげて下さいませ」
「あら?どうして?」

「ビリジアンヌ様に命乞いをされました。あまりにもお泣きになられるので、
つい、引き受けてしまいましたの」

相変わらずリコアリーゼはお人好し・・・

でも今回ばかりは駄目だよアリーゼ。
いくら娘に甘々のサーシアでも、必殺の”娘のお願い”も効かないよ~

「そう、仕方が無いわね。宜しいでしょう。もう終わりに致しましょう」

効くんかぁ~~~い!

後にダモン事変と称される一大事は、こうして終結した。

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