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第63話 触れるたび、恋に落ちる ※
田中と莉乃が帰った後。
「こだま」の休憩室に移された朔は、酔いの熱をまとったままソファにもたれている。
頬は赤く、とろんとした目は、真っ直ぐに雫を捉えていた。
「……飲みすぎだよ、もう」
雫が笑いながら肩を撫でると、朔はその手をぎゅっと掴む。
「……帰るな」
「うん、今日は帰らないよ」
そう答えるや否や、朔が身を起こし、雫の腰を引き寄せた。
そのまま、熱を帯びた唇が落ちて──
熱く、湿った感触が唇に重なる。
「んっ……朔さん……」
吐息の間から名を呼ぶと、朔は離れず角度を変えてまた口づけた。
舌先がぬるりと触れて、歯列をなぞり、やわらかく絡まる。
「……っ、ふ、あっ…………」
朔の呼吸は荒く、時折喉の奥で小さく唸るような音が混じる。
それが雫の耳元で震えて、ぞくりと背筋が反応する。
「……雫……もっと……」
頬から耳、首筋へ──小さな啄みのようなキスが落ちるたび、そこに熱が残る。
「やだ、ちょっと酔ってるでしょ……」
「あぁ。でも……雫が可愛すぎるから……我慢できない」
朔の指先が頬から喉元へ滑り、鎖骨のくぼみをなぞる。雫の肌は驚くほど敏感になっていて――触れられるたびに心臓が跳ね、奥まで甘く痺れた。
「好きだ……本当に……雫が、好きで堪らねぇ……」
「……朔さ……ん……」
呼吸が、どんどん深く甘くなっていく。
抱き締められた腕の中で、雫はただ目を閉じて、熱に包まれていった。
「……雫、触れてもいいか……?」
酔っているはずの朔の目は、驚くほど真っ直ぐで――熱っぽいのに、優しかった。
「……ん、ちょっとだけ……だからね」
雫が微笑むと、朔は息をゆるめ、そっと手を伸ばす。
ドレスのジッパーを下され、朔の指先がふわりと触れて、撫でていく。
指の腹が肌を辿るたび、息が少しずつ震えていった。
「……あったかい……雫の肌、すべすべだな……」
頬を寄せ、胸のすぐ上あたりにそっと唇を押し当てた。
やわらかく、啄ばむような口づけ。
それがゆっくり、下へと這っていく。
「ふ、ぁ……ん……」
キスの合間に、掠れた吐息がこぼれる。
それは次第に、指の愛撫と重なって、肌の奥にまで響いていった。
「……雫、ここ……気持ちいいか?」
朔の舌が、柔らかな谷間から、おなかのラインを辿る。
肌の上に描かれる熱の軌跡。
指が触れたあとに、舌がぬるく追いかけてきて、雫の身体がビクリと揺れる。
「……やっ……そんなとこ、舐め、ないで……」
「だめだ。全部、触れたい。……好きすぎて、止まんねえ」
朔は指先を雫の太腿の内側に滑らせてから、熱の中心にそっと触れて――
「……っ、やぁ……っ……朔、さん……」
じゅ、と、濡れた音がひとつ。
それは、舌が触れたときとは違う、粘り気を帯びた音だった。
触れただけでとろりと零れて、指先を濡らしていく。
「……雫、もう……こっち、すごい」
恥ずかしくて目を背けたいのに、朔の声があまりにも嬉しそうで、雫はぎゅっと目を閉じて、ただ感じることしかできなかった。
(……好き。本当に、好き……)
「もっと気持ちよくなるようにするから……ちゃんと、声、聞かせろよ……?」
囁きと共に、指がゆっくり沈んでいく。
その動きに、雫の身体は自然と反応して――
「っ、ん……ぅ、あ……っ、あぁ……!」
濡れた音と甘い吐息が、静かな休憩室に響く。
愛される喜びと、とろけていく快感のなかで、雫はただすべてを委ねていた。
「……雫、まだまだいけるよな」
甘くて低い声が耳もとで囁かれる。
朔の舌がじゅる、と耳たぶ吸い上げたあと、名残惜しげにゆっくりと引いていく。
「やっ……ま、また……そんなにしたら……っ」
脚が震えて、腰が引ける。
けれど、逃げようとした先で朔のもう片方の手が腰を支えて、指はゆっくり、深く――
「あっ……ああっ……んっ……んぅ……!」
再び、雫の中に熱が立ち昇る。
一度溶けた身体は敏感になっていて、少しの動きでも、びくりと反応してしまう。
「……可愛い。指、こんなに締めつけてる」
「っ、だ……っ、そんなの……いわないで……」
ちゅっ、ぬちゃっ、と、快楽の名残を舐め取るように、もう一度そこに触れた瞬間――
「んぁっ……だ、めっ……またっ、きちゃうっ……!」
ぐらりと視界が揺れて、雫の身体は一度、大きく震えた。
腰が勝手に浮いて、指先が朔のシャツを強く握りしめる。
「雫、イッた……?」
「……っ、ん……ぅん……」
小さく頷くのがやっとだった。
呼吸もまだ整わないまま、雫はぐったりと沈みこむ。
けれど――その余韻に浸る間もなく、ふいに舌先がまた柔らかく触れてきた。
「ひぁっ……ま、まだ……そんな……っ」
「大丈夫。雫が、もういらないって言うまで……全部、してやる」
まるで子どもをあやすような声。
けれどその舌は容赦なく、雫の敏感になった奥を撫でて、擦って、何度も味わってくる。
「っ……ふぁ、あっ、あぁ……も、だめっ、ぃっ……!」
甘くて熱い波が、また押し寄せてくる。
愛撫が幾重にも重なって、雫の中に甘い震えを残していく。
溶けて、潤んで、ただ彼の名前を呼ぶことしかできなくなっていた
「朔さんっ……ん、あっ……す、き……好き……だよ……」
「……俺も。雫が、好きすぎて……本当に、幸せ」
何度も口づけて、甘く揺らして、
雫がとろけてしまうまで、時間をかけて丁寧に愛された頃。
とろけきった雫をそっと抱き寄せて、額を合わせる。
ゆっくりと吐いた息が触れ合い、見つめあう目の奥が、熱に溶けて揺れていた。
「……雫」
名前を呼ぶその声に、雫はほんのりと頬を染めながら、まっすぐ見つめ返す。
身体の奥に残る余韻と、肌の温度と、視線の熱――。
そのすべてが、彼を求めていると告げていた。
「……来て」
かすれる声で紡がれた言葉に、朔の喉が小さく鳴った。
「……いいのか?」
「……もう、ずっと、欲しかった……」
頷く雫の瞳が潤んで、細く笑う。
その瞬間、朔は堪えきれず、雫の脚を抱えて引き寄せた。
肌が、熱が、想いが、すべてを通して重なっていく。
「……あ……っ」
じわ、と深く、ひとつになる感覚。
結ばれるそのたびに、雫の身体はぴくりと震え、甘い息が唇から漏れていく。
「……っ、やば……雫……っ」
朔の声もまた、甘く濡れていた。
触れるたび、重なるたびに、互いの奥で熱が絡み合っていく。
ゆっくりと、丁寧に、時をかけるように動いて――
「んっ、ん……っ、ぅ……」
雫はもう、返事もままならない。
それでも、朔が動くたびに、瞳を細めて口元を震わせる。
「好きだ……雫、本当に……」
「……うん……わたしも……、朔さん、だいすき……っ」
唇を重ねながら、指先が髪を梳いて、背中をなぞる。
何度も確かめるみたいに、甘く、甘く。
雫がとろけてしまうまで、
その夜は、終わらなかった。
*
深く満たされた夜が明け、穏やかな朝日が差し込む中、朔はゆっくりと目を覚ました。
腕の中には、すやすや眠る雫。
指先でそっと髪を撫でると、くすぐったそうに身じろぎして、うっすらと瞼を開いた。
「……朔さん?」
寝ぼけた声でこちらを見上げ、ふわりと笑う。
それだけで、朔の心は一気にとろける。
「おはよう、雫」
「……おはよう。いい朝だね」
雫は朔の胸に顔をうずめ、さらに深く身を寄せた。
その小さな仕草が可愛くて、思わず鼻先で髪をくすぐる。
「もう少し、このままでいさせて」
「……ああ」
穏やかな空気の中、朔は数日前の出来事を思い出していた。
──『天音、結婚したら仕事辞めてここの女将になるのか』
笠原の何気ない一言と、雫の戸惑った顔。
(……ちゃんと、話さないとな)
朔はそっと腕を回し、雫の背中に優しく手を添えた。
「雫」
「ん……?」
「この前、同期に言われたこと……気にしてるか?」
雫の肩がぴくりと動く。
少しの沈黙の後、不安げに見上げてきた。
「……なんで、今それを?」
「最近、雫が“ちゃんとしなきゃ”って頑張りすぎてる気がして。俺のために頑張ってくれるのは嬉しいけど──本当に仕事を辞めてまで俺のそばにいるのが、お前の望むことなのか、それが気になって」
言葉を選びながら伝えると、雫は視線を落とした。
「……そこまで深く考えてたわけじゃないと思う。
今の仕事も好きだし、やりがいもある。……でも、朔さんと一緒にいたい気持ちも同じくらい大事で」
その揺れる声に、朔は彼女の顎に指を添え、視線を絡めた。
「俺は、仕事をしてる雫も好きだ。無理に女将になってほしいなんて思ってない。……ただ」
頬を優しく撫でながら、低く言葉を落とす。
「雫と、ずっと一緒にいたい。それだけは変わらない」
雫の目に涙がにじむ。
朔の首に腕を回してぎゅっと抱きついた。
「私も……朔さんと、ずっと一緒にいたい。
でも、どうすればいいかは……まだわからないの」
朔は雫の髪に口づけ、静かに息を落とす。
「焦らなくていい。答えはこれから一緒に探せばいい。……時間はたっぷりある」
「……うん」
雫は胸に顔をうずめ、深く頷いた。
不安は消えきらない。それでも、この腕の中で少しずつ溶けていくのを感じた。
「……とりあえず、朝ごはん作るか。俺の特製メニューでいいか?」
朔が笑うと、雫はパッと顔を上げて無邪気に笑った。
「食べる! 朔さんのご飯、世界一美味しいもん!」
その言葉が嬉しくて、軽く額をコツンと合わせる。
「じゃあ今日は三つ星級に仕上げるか」
「……え、普段は二つ星だったの?」
「んなわけあるか」
ふたりで小さく笑い合う。
未来の輪郭はまだぼんやりとしている。けれど、こうして想いを重ねて話していけるなら──きっと大丈夫。
朝の光が、その確信を優しく照らしていた。
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