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第二十四話 王都デート①
しおりを挟むお仕事以外にお出かけするのは何気に初めてです。
『一度目』の時は聖女として忙しくしていて気づいたら処刑されていましたし。
本当にあの時のわたしは何を考えていたんでしょうね。
何も考えていなかったんだと思いますけども。
「というわけで推しとお出かけに行ってきます。羨ましいですか?」
「むしろ尊すぎて私には無理だよ……ってその恰好で行くつもり!?」
リネット様に報告に来たわたしは部屋の中でくるりと回りました。
はい、見ての通り軍服ですね。女性らしいスカートです。えへん。
「何かおかしいですか?」
「むしろおかしくないところがないけど!?」
え、デートだよね!? と血相を変えるリネット様。
デートというと語弊があるかもしれません。
推しはそんなつもりはなさそうですし。
ギル様ですからね。きっと仕事関係に違いありませんよ。
「ギル様も軍服だと思いますし、いいんじゃないですか?」
「そりゃあギルティア様はそうかもしれないけど! 女の子はダメだよぉ!」
「ダメですか」
「いい、ローズさん」
リネット様の前に正座して傾聴するわたしです。
彼女は得意げに立てた指をわたしの鼻先に突きつけてきます。
「推し活の心得その三、推しの好意は全力で受け取るべし! だよ!」
「ほほう」
「全力っていうことは、女の子は全力でおしゃれしないといけないの。分かる?」
「分かるような、分からないような?」
良く分かりませんがリネット様は鬼気とした迫力でわたしに着替えを要求しました。ですが、あいにくとわたしの持ち服は聖女の服と軍服しかありません。あとは一度も使わなかった大聖女の夜会用のドレスですが……まぁこれでいいでしょう。
「そろそろ時間です。行ってまいります」
「う、うん、頑張ってね……その、色々と!」
「Si。頑張ります」
咄嗟に返事をしたものの、何を頑張るのか分かりません。
そういえばどこに行くのかも聞いていませんでした。
まぁいいです。ギル様に聞けばすぐに分かるでしょう。
というわけで、推しが待つリビングへ突撃をかけます。
「ギル様、お待たせしました」
「あぁ……では行くか」
ギル様は読みかけの本をぱたりと閉じて立ち上がります。
そしてわたしのほうを見て、なぜか口をぽかんと開けました。
「……どうかされましたか?」
推しから返事が無くなりました。
リネット様の腕は全面的に信用していますが、そんなに変だったでしょうか?
そこまでおかしくはないと思うんですけどね。
ひらひらとドレスを動かして調子を確かめます。
夜色のドレスに綺麗な星々の刺繍があしらわれ、袖口にはフリルがついています。
自分で言うのもなんですが、わたしの雪色の髪と合ってますね。可動領域も問題なし。神聖力順転可能。咄嗟の事態にも対応できそうです。
「ところで、今日はどちらに行くのですか?」
「……」
「ギル様?」
顔を覗き込むと、ハッとギル様は我に返ります。
そしてなぜだか耳を真っ赤にして顔をそむけました。
「王都だ」
「なるほど?」
「君は、その……」
「はい、なんでしょう」
「…………よく似合っている。綺麗だな」
「…………………………はえ」
体温がぐんぐんと上がっていくのが分かります。
自分でも分かるくらい顔が熱くて、わたしは慌てて目を逸らしました。
「そ、そうですか?」
「うむ」
ちらりと視線を動かすと、推しのご尊顔が見えます。
形の良いお耳が赤くなったまま、彼はこちらを向きました。
「誰よりも綺麗だ。自信を持っていいと思うぞ」
「はひ」
な、なんですか、今日のギル様めっちゃ褒めてくれるんですけど!
それに身体も変です。お酒を飲んだみたいに頭がくらくらしてきましたよ!
これが幸せ酔いというやつでしょうか?
「では、手を」
わたしは推しの顔と手を見比べました。
「……馬車で行くのでは?」
「馬鹿者。そんな手間をかけるなどもったいないだろう」
何がもったいないのでしょう。
「転移だ。すぐに着く」
「は、はい」
そうですよね。これは転移術のために手を握る行為であって。
推しがわたしをエスコートするために手を差し出しているわけではないですよね。いえ、分かってるんですよ? ただ確認というかですね。
「行くぞ」
「ひゃう!」
躊躇っていたら推しが強引に手を握ってきました!
いきなりすごい手汗が噴き出してくるわたしに構わず、推しは指を鳴らします。
「出発」
「こ、心の準備くらいさせてください!!」
わたしの叫びは虚空の狭間に消えていきました。
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