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第1章 「私が初めて殺されるまでの話」

6(4歳)「初戦闘! そして私の両親、強すぎィ!!」

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 時刻はもう昼下がり。
 不作続きのこの土地に、昼食を摂るような贅沢な習慣は存在しない。

「それでお父様、オークはお父様が倒してくださるんですよね? 私、お父様が魔物と戦ってるところ、見てみたいです!」

「――お、おおおっ? そ、そうかそうか、見てみたいか!」

 娘にヨイショされてデレデレになるパパン。しかし一転、眉毛がハの字になり、

「だがなぁ……本格的に山狩りをするなら、ちゃんと人数をそろえてから山に入らなきゃならん。そりゃオークなんぞに遅れを取る父さんじゃないが、山ってのは広いんだぞ?」

 確かに、柵を補修する時に見上げた山は高く大きく、木々が鬱蒼と生い茂っていた。
 
「お父様、ちょっと待っててくださいね」

 言って私はふわりと浮き上がり、山に向かって【飛翔】する。
 山には入らず、上空から観察する。いくら【ふっかつのじゅもん】があるとはいえ、初戦闘もしたことがない身の上でオークが跋扈する森になど入りたくはない。なにせ相手はあの姫騎士の天敵、オークなのだから……。

 たとえ上空からでも、視認したことがある場所へは【瞬間移動】ができる。
 地図では無理だったけど……多分、グー○ルのスト○ートビュー、いやグー○ルアースがあれば、十分イメージがつくと思う。

「それでは――【探査】! 対象は2足歩行の動物!」

 空間魔法の【探査】を発動。レーダーみたいなものだね。脳裏には、私を中心とした2Dのマップと、2足歩行の動物の位置を示す赤い点が表示されている。
 ほんとはマップは3Dにして、点の色も敵性・中立・友好と表示分けしたいのだけれど、要鍛錬である。

「お? お、おおぅこれは……集落だろうなぁ……」

 多数の2足歩行の存在を捕捉。集中して探ってみると、粗末な建物っぽい構造物や、他よりも一回り大きな生体反応。
 オークリーダーとかオークジェネラルってやつか?

 よし、場所は分かったからパパンとママンの元へ帰ろう。
 【瞬間移動】!

「アリス、いったいどこへ行って……ううっ、心配だ……」

「お父様」

 パパンのそばに【瞬間移動】して声をかけるも、パパンは空を見上げたままこちらに気づかない。

「お父様ぁ~」

「……えっ、アリスちゃん? あなたいったいどこから――…アナタ、アナタ!」

「なんだマリア――って、うおっ!」

 先に気づいたママンに揺さぶられ、パパンも私の姿に気づく。

「え? え? お前いったいどこから――」

 そういえば、人前で【瞬間移動】を使って見せたのはこれが初めてだ。
 とはいえ私は魔王討伐のためにレベリングに励まねばならない身。
【無制限瞬間移動】も【無制限アイテムボックス】も、その他さまざまな魔法スキルも、隠し通せるわけがないし、隠すことで行動範囲を狭めるつもりもない。
 あ、【ふっかつのじゅもん】は隠すけどね……。

「えへへ、実は最近、【瞬間移動】が使えるようになりました」

「――はぁっ!? 【アイテムボックス】のみならず、しゅ、しゅ、【瞬間移動】まで!?」

 か、顔が近いよパパン……。

「……く、【空間魔法】は一番得意なので……。そ、それでお父様、オークの集落がある場所が分かったので、【瞬間移動】で一緒に行きませんか?」

「何っ!? 集落ができているのか! それは早く潰さないと――じゃなくてだな! アリス、お前今、『場所が分かった』って言ったな? まさか――」

「えへへ……実は最近、【探査】も使えるようになりました」

 以下繰り返し。
 無限ループって怖くね?


    ◇  ◆  ◇  ◆


 村長宅の厩に行き、馬に吊るした荷袋から小盾を取り出し、着けるパパン。片手剣は最初から帯剣している。
 そして驚いたのは、ママンが何食わぬ顔で弓矢を引っ張り出してきたことだ。

「――お、お母様も一緒に来るんですか!?」

「4歳の娘がオークの集落へ向かおうというのに、私が同行しておかしい理由がありますかっ!」

 いや、妙齢だからこそ、逆に危険だと思うのですが。

「フフフッ、冒険者時代を思い出しますわね、アナタ……」

 しみじみと、ママン。
 パパンといいママンといい、何者だこの両親。


    ◇  ◆  ◇  ◆


 森の中、オークらしき反応から少し離れた場所へ【瞬間移動】する。
 チ○オズと村人有志諸君はパパンが置いてきた。この闘いにはついていけない……とは言わないまでも、かえって邪魔になるから。

『そんなっ! 奥様が向かわれるのに!』という言葉に対しては、パパンがそこらの木の枝をぼきりと折り、ぽーんと放り投げるや否やママンが放った矢が空中で枝のど真ん中を貫き、誰も何も言えなくなった。
 マジで何者だよママン……。

 めっちゃ【鑑定】したいが、それはマナー違反。
 ママンに、

『もしかして称号に【聖弓】とか【神弓】あったりします……?』

 って聞いたら、

『うふふっ』

 ってニッコリ微笑まれ、優しく頭を撫でられた。

 ……ともかく入山だ。

「お父様、お母様、私の【探査】ではまだ、『2足歩行の動物』としか見分けることができません。なので攻撃する前に、人間ではないことを確認してください」

「分かった」

「分かったわ」

「――あっちの方向50メートル先に2足歩行の反応が3つ」

 パパンとママンへ、声を潜めて告げる。

「――アリスは母さんのそばを離れるな」

 パパンが小走りで先行する。
 何やら急にパパンのことが視認しにくくなって――あ、【隠密】スキルか!
 走っているはずなのに足音も聞こえない。

 そしてママンは私の手を引き、オークたちの背後を取る位置へ移動。
 
 遠目から姿を視認した。初めて見るけど――ありゃ絶対に人間じゃないな。あんな巨体で全身緑色してて豚鼻でこん棒担いでる生命体が人間なわけがない。
 オーク3体は1列になって歩いている。

 ママンが誰もいないはずの空間に向かってうなずいたりハンドサインをしている。

 もしかして:パパン?

 どうしてママンには【隠密】中のパパンが見えるんだ?
 ママンがうなずき、素早く矢をつがえる。
 次の瞬間、最後尾のオークの首が音もなく跳ね飛んだ! と同時、

 ――ストンッ!!

 ママンの矢が先頭のオークの眉間に吸い込まれる!
 
「ォオオッ!!」

 あえて自分を標的にさせるためであろう――パパンが【隠密】を解いて姿を現し、短い雄叫びを上げる。振り向いた残りの1体へ強烈なシールドバッシュ!

「ブヒィィイッ!?」

 2メートル強はありそうなオークの体が軽々と宙を舞い、

 ――ストンッ!!

 そのこめかみど真ん中に矢が生える。

 どさっ!

 吹っ飛んだ1体が地面に転がり、

 ……どさどさっ!

 それからようやく、残り2体が倒れ伏した。

「な、ななな……」

 合計5秒。
 パパンとママンの、信じられないような芸術的コンビネーションだった。

 うわっ…私の両親、強すぎ…?

 パパンが音もなくやってくる。

「怪我はないな? アリス、アイテムボックスの空きはまだあるか?」

 スタンディングオベーションものの華麗なダンスを誇るでもなく、極めて実務的に聞いてくるパパン。
 ――そ、そうだ、ここは戦場なんだ。気持ちを引き締めねば!

「――は、は、はい! 大丈夫です!」

「そうか。じゃあこのオークどもを収納してくれ。村の貴重な食糧になるだろう」


    ◇  ◆  ◇  ◆


 次は私にもやらせてほしい、レベルアップがしたい、と言ったら猛反対された。

「な、ななな……いくらなんでもお前にはまだ早い!!」

「そうよ!! 魔物にだって知恵があるの。不意を突かれて怪我でもしたらどうするの!!」

「遠距離から【アイテムボックス】を使えば――」

「【アイテムボックス】でどう戦うんだ!」

「ええとですね……」

 私は大ぶりの石を拾い、

「【アイテムボックス】!」

 石が半分だけ収納された。その綺麗な断面をパパンとママンに見せる。

「「なっ、なっ、なっ…………」」

 パパンとママンが口をぱくぱくさせている。
 あー……やっぱり、こういう使い方ができるの、勇者特典のやつだけっぽい。


    ◇  ◆  ◇  ◆


 数分かけてパパンとママンが平静さを取り戻した。

「これで、魔物の首だけを収納すればよいと思うのです」

「――あっ! そうか、その手が……いやいやいや、生き物は精神力を持っている。弾かれて失敗するかもしれんだろう!」

 さすがは戦闘のプロ・パパン。私の言葉だけで意味を理解し、同時に弱点を指摘してきた。確かに、魔法防御力を司るステータス【精神力】がゼロの石なんかと違い、魔物には精神力があるので、レジストされる恐れがある。

 ぐぬぬ……じゃあこれでどうだ!

「見ててください!」

 右手人差し指を銃身のように突き出し、そばにある木の幹に向ける。

 イメージは拳銃。

 本来は1メートルほどの岩の槍を生成・射出する土魔法【アースニードル】を、銃弾サイズほどにまで硬く硬く圧縮してドリルのような切込みを入れたものを指先に生成し、風魔法で猛回転させる。
 来たる冒険者時代編のために、素材の質を落とさずに魔物を殺す方法を研究しておいたのだ。
 回転が最高潮に達したところで、射出!

「ロナ○ド・レ~~~~~~~ガンッ!!」

 レ○ガンと牙突ゼ○・スタイルは小学生男子の嗜み!
 クラスではよく、『ちょっと男子ィ~、ちゃんと掃除しなさいよォ!』『うっせーブスッ!』みたいな会話が繰り広げられていたものだ。コミュ力ゼロだった私は、それを遠目に見ているだけだったが。

 ……そういえば、今世の私は前世ほどコミュ障じゃないな。女神様からもらった称号【能天気】と【不屈】が仕事してるのかな? 主な話し相手が親ってのもでかいか。

 ちなみに特製【アースニードル】は、幹に穴をあけ、遠く彼方に消えてしまった。
 ――あ、いやもちろん、その先に2足歩行の存在がないことはちゃんと【探査】しておいたよ!? 村人が迷い込んでるかもしれないんだから。

「……もう、驚くのに疲れた……」

 幹を綺麗に貫通しているその威力に驚きながら、パパンがつぶやいた。


    ◇  ◆  ◇  ◆


【探査】で1体だけのオークを見つけ出し、そこから少し離れた場所へ【瞬間移動】する。

「――あっちの方向に1体います」

「見てくる」

 パパンの姿がすぅっと消え、十数秒後、

「間違いない、オークだ。こっちの方向へゆっくり向かってきている」

【探査】で捉えてはいるが、木々が邪魔で姿は見えない。

「もう少し引きつけてから、撃ちます」

「父さんは【隠密】でオークのそばに潜んでおく。どこを狙うつもりだ?」

「頭部を」

「分かった」

 ふたたび、パパンの姿が消える。

 私は木の陰に隠れ、オークの姿が見えるのを待つ――見えた!
 うぅ……でも木々が邪魔で上手く狙いがつけられない。でもこれ以上近づかれたら気づかれるかもしれない。 
 思わず身を乗り出してしまい、

 ――がさっ

「ブヒッ!?」

 やばいっ、気づかれた!
 慌てて射出するも、アースニードルはオークの額をこすっただけだった。

「ブヒィイイイッ!!」

 オークの咆哮。

「――ひッ!?」

 空気がびりびり震えたような――錯覚? オークの姿が何倍にも大きく、恐ろしく見えて……怖い、怖い怖い怖い! 怖くて体が動かない!

 その時、オークの片腕が吹き飛んだ。姿の見えないパパンが援護してくれたのだろう。

 その様子を見て、少し落ち着いた。
 そうだ、いざとなったらパパンが守ってくれる。
 落ち着け、落ち着け……これはあれだ、【威圧】スキルってやつだ。大声で相手を怯ませる、戦いの常套手段だ。

「も、もう1発! 頭を狙います!」

【隠密】中のパパンへ向けて告げ、次発装填……ってー!!

「ブヒッ――」

 オークは額に穴を開けて倒れた。

 ……ふ、ふ、ふぅ~~~、怖かった……。
【威圧】された時ってこんなになるんだ……何とかして【威圧耐性】スキルをゲットしないとな。


    ◇  ◆  ◇  ◆


「初陣にしちゃ上出来だが……父さんたちがいなければ、死んでいたかもしれない。自分から戦いたいと言ったんだ――気を引き締めろ」

「――は、はい!」

「それで、レベルは上がったのか?」

「――あっ、はい、やった! 上がりました! 一気に5になりましたよ!」

 やったぜ、念願の初レベルアップ!


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【名前】 アリス・フォン・ロンダキルア
【年齢】 4歳
【職業】 無職 アフレガルド王国ロンダキルア辺境伯領・従士長の長女
【称号】 勇者 能天気 不屈 脱糞交渉人 期間限定時空神 亜神
【賞罰】 全知全能神ゼニスの使徒

【LV】 5 ←UP!
【HP】 121/121 ←UP!
【MP】 116,383,685/116,413,727 ←UP!

【力】   51 ←UP!
【魔法力】 12,523,721 ←UP!
【体力】  48 ←UP!
【精神力】 46 ←UP!
【素早さ】 65 ←UP!

【勇者固有スキル】
  無制限瞬間移動LV2 無制限アイテムボックスLV3
  極大落雷LV1 おもいだすLV1
  ふっかつのじゅもん・セーブLV1 ふっかつのじゅもん・ロードLV1

【戦闘系スキル】
  闘気LV1

【魔法系スキル】
  魔力感知LV8 魔力操作LV6
  土魔法LV6 水魔法LV6 火魔法LV6 風魔法LV6
  光魔法LV6 闇魔法LV6 時空魔法LV10
  鑑定LV8

【耐性系スキル】
  苦痛耐性LV10 睡眠耐性LV10

【生活系スキル】
  アフレガルド王国語LV5 算術LV5
  礼儀作法LV2 交渉LV1 整腸LV1
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 ずいぶん上がったな! HPなんて最初5だったのに。
 LVと各ステータスは、職業や得手・不得手にもよるがざっくりこんな感じ、と女神様から教えて頂いた。


           LV   HP・MP  力~素早さ
------------------------------------------------------------
非戦闘員        10    500     100
冒険者・兵士      30   2,000     300
ベテラン冒険者・兵士  50   4,500     500
英雄とか達人     100  10,000     1,000

※魔法を極めた魔族やハイエルフのMPは100,000
※先代勇者はLV500のバケモノ


 LVは、魔物を倒すか、その職で経験値が溜まる行為をすれば上がる。商人なら商売、農民なら農作業で上がる。ただし、職には10歳の『洗礼』を受けるまでは就けない。だから10歳になるまでは魔物を倒す以外に方法がない。

 HPとMPはLVを上げるか、もしくは使えば使うほど上がる。
 MPは赤ちゃん期養殖で実体験した通り。
 HPは、ダメージを受けてHPが減って、それが回復する時に上限が微増するらしい。……ずいぶん痛々しい方法なんだね。

 ――って、うおっ、MPが3万ほど減ってる!?
 村での天地創造以外で2万消費してるな。【瞬間移動】とか【探査】って燃費悪いんだね……これは【魔力操作】スキルを鍛えて燃費を改善せねば。

 まぁ今は、素直に己の成長を喜ぼう。

「ステータスも思いっきり伸びましたよ!!」

「そりゃレベル1のやつがいきなりオーク仕留めりゃなぁ……」

 パパンは苦笑していた。





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追記回数:4,649回  通算年数:4年  レベル:5

アリス、苦節4年目にしてようやくのレベル5!
次回、オークの集落殲滅大作戦!
アリス「もりもりレベリングしますよ!!」
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