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第1章 「私が初めて殺されるまでの話」

18(401歳)「炊き出し会場はハロワ」

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「明日朝6時、城壁外北側のスラム街で炊き出しやりま~す!」

「「「「「「「「「やりま~す!」」」」」」」」」

 城塞都市を練り歩く、私とアリス親衛隊もとい、私が孤児院に放り込んだ元浮浪児たち十数名。
 私を守るようにすぐ横を歩くのは、河原で私に啖呵を切った十代半ばの元浮浪児リーダー君だ。なんかすっかり懐かれたらしく、『俺が守るんだ』オーラがすごい。
 大丈夫だよ。君に守られなくたって、私ゃ竜種だって手刀でぶっ殺せるくらい強いし、ベヒーモスの突進を食らってもノーダメなくらい頑丈なんだから。

「お腹が空いてる人はぜひ、来てくださ~い!」

「「「「「「「「「来てくださ~い!」」」」」」」」」


    ◇  ◆  ◇  ◆


 同じ行進を、城塞都市城壁外沿いに綿々と続く色町やらギャンブル街やらスラム街やらで行った。


    ◇  ◆  ◇  ◆


「いやぁ集まったね!」

 翌日、朝6時。

 スラム郊外の炊き出し会場には、ざっと【探査】しただけでも数百人近くの人たちが集まっていた。浮浪者っぽくない身綺麗な人も結構いるけど、『お腹空いてる人』って条件ならセーフかな?
 ま、肉とジャガイモなら腐るほどあるんだ(【アイテムボックス】だから腐らないけどね!)。じゃんじゃん振る舞おってあげようじゃないの!

「よーし、では浮浪児改め孤児諸君。キリキリ働きたまえ! 行動開始!!」

「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」

 たっぷりの食事と安全で暖かなベッドですっかり血色が良くなった孤児たち十数名が、事前に教育しておいた通り、行列の整理や配膳や追加の料理作りやらで一斉に動き出す。
 みんな、私が恩人だとよく理解してるらしく、キビキビ働いてくれるよ。
 終わったらボーナスに蜂蜜キャンディーでもあげようかしら。

「【メガ・ヒール】! 汚れ、ノミ、シラミ、病原菌を【アイテムボックス】! からのぉ【ホットウォーターシャワー】! からのぉ【ドライ】! はぁい、次の方――」

 炊き出しの方はアリス親衛隊に任せ、私は参列者の治療兼衛生改善に励む。【アイテムボックス】内がゴミや雑菌だらけになってるのが目下の悩みだ。まぁ別に、【アイテムボックス】内の作物とかに感染するわけでもなし、永遠に死蔵しててもいいんだけど……なんか気持ち悪いよね?

「お替り自由ですからね~」

 列の最後尾まで治療し終えた頃には、食べ終わった人たちがちらほら。
 私の言葉に、嬉しそうに列に並び直す人たち。

 そして、みんなの腹が満たされ、ぼちぼち帰ろうかなって人が出始めた頃合いに、

「ご注目くださ~い!!」

 人を集めた本来の目的、『集団面接作戦』の開始だ!

【浮遊】でみんなから見える高さまで浮き上がった私の声に、人々の視線が一斉に集まる。
 ――ひぅっ、やっぱり大勢からの視線には慣れない。がんばれ私!

「……げ、現在定職に就いていない方々に対し、短期雇用ですが割の良いお仕事をご紹介できます! ですので、職に就いておられない方はお残りください」

 半数近くが去っていく。
 困窮してないのにタダメシ食らいに来てた人、結構いたな!
 あと、明らかにボロボロの服を着てるのに、帰っちゃった人も数十人ばかり……まぁ、はなから働く気のない人は仕方ない。

 残った浮浪者は約百名。
 男性7割、女性3割。年齢はまちまち。

 そして女性陣の中には身綺麗な人がちらほら。
 あー……みんな若いし、色町の人かな。

「なんだなんだ?」

「仕事だって!? ちゃんと金がもらえる仕事があるのか!?」

「アタイみたいな女でもやらせてもらえるのかい!?」

「メシだけでなく仕事まで!? ありがたやありがたや……」

「静粛に!」

 私の声に、ぴたりとお喋りをやめるみなさん。
 みんな目がキラキラしてる。やる気は十分そうだね!

「数日後から、城塞都市の教会にて孤児院増設の工事が始まります。期間は数ヵ月。仕事の内容は荷運びや小間使い。お願いすればちょっとした仕事のやり方を教えてもらうこともできます。
 給金は1日2,000ゼニス」

 人々がざわめく。
 1日1,000ゼニスあれば一家4人が1日食っていけるこの世界。未経験かつ浮浪者という身の上では破格の金額だ。
 できるだけ好待遇にしつつ、この仕事にありつけなかった職ありの人から不満が出ないギリギリを狙った金額。

 みんな、女神様だ天使様だと騒がしい。

「体力的にキツい仕事ですし、強面こわもてなあんちゃんたちにアゴで使われることもあるでしょう。ただ、期間中にやる気と実力を見せれば、建築ギルドの正ギルド員になれるチャンスがあります……あ、正ギルド員の話は男性限定です」

「そんな! アタイだってがんばるからさ、ギルドで雇っちゃくれないのかい!?」

「そうだよぉ!」

 いかん、女性陣が騒ぎ始めた!

「こればっかりはギルドの規則ですので……女性の方々には別の職場をご用意しております」

 そう、ホフマンさんとこの製紙・製本工房勤務だ。孤児院の工事が終わる頃には、工房の改装も終わっているだろう。

 女性陣から歓声が上がる。

「ただし!」

 私はここで、強く釘をさす。

「男性にせよ女性にせよ、職に就けるのは工事の仕事に最後の最後まで食らいつけた人だけです! 心してくださいね!?」

「「「「「「うぉおおおおおお!!」」」」」」

 みなさん、大盛り上がり。

 いやぁ安心した。
 もっと悲壮な感じなのかなと心配してたんだけど、案外大丈夫そうだな。
 まぁ、メシ食って怪我が治って体が洗浄されて、心身ともにリフレッシュしたってのもあるかもだけど。

 とはいえ……実際問題、70人近くいる男性陣全員が最後まで根性見せ続けたとして、その全員をギルドで雇い入れるのは不可能だろう。この場ではわざわざ言ったりしないけど。
 その代わり、ちゃんと働いたけどギルド員になれなかった男性陣には、農具&種籾・種セットか武具セットのどちらか望んだ方と、安アパートの1室を1年分の家賃つきでプレゼントするつもりだ。

 そこらの畑を耕すか、冒険者になって食いつないでね、ってこと。
 畑は最初は私が【土魔法】で耕して【グロウ】を使ってもよいし、冒険者の方は戦い方の指導をしてあげてもいい。スタートダッシュのお手伝いくらいはできる。
 ……まぁ、何の権力も持たない(数百)4歳の身の上ではこれが限度。許してほしい。

「じゃあまず着替えましょっか。【アースウォール】でテーブル作って、【アイテムボックス】!」

 テーブルの上に、とある中古衣類店で買い占めた服を並べる。サイズは【アイテムボックス】内を【探査】して把握済み。

「こちら男性用の大柄・普通・小柄、こちら女性用の大柄・普通・小柄。で、着替えは――【アースウォール】!!」

 ずもももももももも……

 地面から豆腐ハウスが生えてくる。
【建築】スキルを併用すれば、ドアつきの簡単な部屋は一瞬で作れるようになった。蝶番だって完璧だ。魔の森を魔改造したあの地点に着くまで、豆腐ハウスは死ぬほど作ったからなぁ……。

「うぉぉおおお!?」

「ひ、ひぇえええ……」

「きゃぁああああ!」

 そしてビビる浮浪者さんたちと孤児たち。うん、ごめん。

「じゃ、着替えててください。親衛隊諸君は私と一緒に孤児院へ帰るよ! 炊き出しの残りも持って帰ろう」

「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」

「あ、片付けなくていいよ! そのまま移動しよう!」

「「「「「「「「「……はい?」」」」」」」」」

「あれ、言ってなかったっけ? 私、【瞬間移動】魔法が使えるの」

「「「「「「「「「えぇぇええええええっ!?」」」」」」」」」


    ◇  ◆  ◇  ◆


「ギルドマスター、ごめんなさい! 100人以上になっちゃいました!」

 孤児たちを教会の庭へ【瞬間移動】で連れて行ったあと、二度目の訪問となる建築ギルドのギルマス部屋にて。

 あ、ちなみに調理道具はそのまま寄付してきたよ。あと特別ボーナスの飴ちゃんもあげてきた。

「ひゃくぅ!?」

「ごめんなさい! あと、うち30名ほどが女性です」

「女が30人ってお前なぁ……」

「なんならご飯作ってもらうとか? まかないつきならギルド員さんたちも喜ぶでしょう?」

「誰がその金出すんだよ」

「現物なら出せますよ! 【アイテムボックス】! これ私が作ったマジックバッグで時間停止機能つきなんですけど」

「時間停止機能つきっておまっ、国宝級じゃねえか! それを作っただって!?」

「あー……そういうのはとりあえず置いといてですね、とりま解体済みオーク肉1トンとジャガイモ1トン、野菜盛り合わせ1トン、塩10キロを【アイテムボックス】からマジックバッグへ移動! パンがないのはご勘弁ください。はい、これ差し上げますので!
 じゃあ私、浮浪者さんたちを連れて来ますね!」

「ちょちょちょ! 待て待て待て! ここに100人も連れてんのか? スラムからぞろぞろと?」

「【瞬間移動】魔法を使えば一瞬ですよ!」

「超希少な【瞬間移動】魔法ぉ!?」

「あと病気も怪我も治癒し、身綺麗にしてもらってますからご心配なく。
 それでは失れ――」

「待て待て待て! 俺を置いてけぼりにするな! ちったぁ落ち着いて驚かせてくれってんだ」

 落ち着いて驚くって、なんか面白いこと言い出したぞギルマスさん。

「はぁ~……よし、落ち着いた。その100人は、この建物の裏庭に集めてもらえるか?」

「はい!」


    ◇  ◆  ◇  ◆


 そんなわけで、浮浪者以上就労者未満約100名を建築ギルマスに押し付け、じたくへと戻ってきた。

 むふー、成し遂げたぜ!

『お金を手にしたらやりたかったこと』、おおむね達成。
 おかげで財布はほぼスッカラカン! ま、お金が必要になったら、また魔物を100体納入しよう。

 慈善事業……とも言えなくはないが、要は従士長の娘が街の治安維持・改善のために働いたってわけだ。

 弊害といえば、色町から若い女性が減ることくらいか。
 独身男性諸君、強く生きろ!

 パパンに一連のことを報告したら、大爆笑されてから頭をなでられた。





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追記回数:4,649回  通算年数:401年  レベル:600

次回、フィッシュボーン!
アリス「だからボーンチャイナですよ女神様」
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