「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
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第2章 「私が領主になって無双する話」
88(2,929歳)「四天王最弱に、フェ、フェッテン様が殺された」
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魔物の集団暴走との戦いは2週間続いた。
あらかじめ王国中で魔物狩りを推奨していた成果もあり、1週間ほどで王国内の成体魔物は狩り尽くしたんだけど、北の山脈から飛行系魔物がじゃんじゃか補充されてきて、同時に魔の森からもわらわら出てくるから飛行系魔物の討ち漏らしが発生し、辺境伯領や北の弱小準男爵・騎士爵領あたりはなかなか静まらなかったんだよね。
まぁ1週間経過の時点で、王都以西はもうのほほんとした感じだったみたいだけど。
私も、たまにノティアさんにバトンタッチしつつ、フェッテン様を吸って精神安定を得られるほどに安定した戦いだった。
……のだけれど。
『ピロピロピロッ!』
ある朝、ブルーバードちゃんから衝撃の情報が。
「マジか……」
今日も今日とて砦の広場で『アフレガルド王国対魔物警戒網』の指揮――王国全土をカバーするブルーバードから魔物の集団暴走の連絡を受け付け、適切な軍人部隊を派遣する仕事――をしていた私の視界に移るのは、魔の森を監視しているブルーバード越しに見える、角の生えた人間数人の姿!!
まるで忍者のように木から木へ飛び移り、物凄い速さで魔の森を進んでいる。
周囲は魔物の集団暴走だらけなのに、なぜか魔物から襲われる気配はない――いや、別に『なぜか』ではないな。
【従魔】が神級に至った者は、Aランク程度までの魔物までなら、いちいち【従魔】魔法を使わなくても襲われないようにすることができる。
そして相手は、『範囲距離無制限の【従魔】能力とそれを実現させるだけの膨大な魔力』を持つ魔王と、恐らくはその精鋭だ。
『常駐ブルーバード隊、警急呼集!』
『『『『『『『ピロピロピロッ!』』』』』』』
陛下、フェッテン様、宰相様、パパンとママンとディータとバルトルトさんと3バカトリオにパーティーメンバーとアラクネさんを呼び出す。
ちなみに、このメンバーは【ふっかつのじゅもん】のことを知っている方々。
アラクネさんは私の従魔ということもあってなのか、特段驚いた風もなく、フツーに受け入れてくれた。
なんていうか……アラクネさん自身、どっかの世界のどっかの時代からの転生者っぽい雰囲気を感じるんだよねぇ。
【アテナイの敵】なんていう称号持ってたし。ディータ曰く、少なくとも【鑑定】では『アテナイ』という国、組織、集団なんかは存在しなかったらしいし。
まぁ詮索はすまい。
で、そして私は数秒待ってから、【1日が100年になる部屋】の作戦指令室へ【瞬間移動】。
◇ ◆ ◇ ◆
「陛下、ついに魔の森で魔族を目視しました」
「ついに、か……」
作戦指令室のお誕生日席に座る陛下が暗い顔になる。
「はい……」
「数は?」
「視認できたのは8人までです。いずれも上位の魔物に襲われることのない、神級【従魔】持ちです」
「ふむ……ではアリスは引き続き『アフレガルド王国対魔物警戒網』を指揮しつつ、ブルーバードで視認継続。ここにいる他のメンバーで魔族の返り討ちを試みるとしよう」
「ちょちょちょ陛下も!?」
「なんじゃ? 儂とてレベル600じゃぞ」
「あ、あはは……ずいぶんと養殖なさいましたねぇ。分かりました。ではいったんここに【セーブ】ポイントを置いて、皆さんの身に危険が及びそうであれば【ロード】させて頂きます」
「どうせ【ロード】できるのじゃから、何人かくらい死んでも良いぞ? それで魔族の手の内を暴けるのなら」
「うっ、うぅぅぅ……わ、私の精神が持ちませんので、それはご勘弁を」
「相変わらず肝の小さい勇者様じゃのぅ」
「うぅぅ……」
「アリス!」
うめいていると、フェッテン様が寄ってきた。座ってる状態の私を、たくましい胸板で抱きしめてくれる。
「がんばろう」
「――はい!」
というわけで、参加者全員に1体ずつブルーバードちゃんを付けて、魔族を目視したポイント上空へ一斉に【瞬間移動】で吶喊。
私はここ数百年で身に着けた、自分の目ではなく脳裏に浮かべる形式の『視界共有』によって、14体のブルーバードと視界を共有しつつ、砦の広場で『アフレガルド王国対魔物警戒網』を継続。
◇ ◆ ◇ ◆
……数千回繰り返したけど、上手くいかなかった。
なんたって向こうは魔物に襲われないくせに、こっちはじゃんじゃん襲われるんだよ?
フェッテン様とリスちゃんが何度か魔族殺害には成功したものの、周囲の魔族からめった刺しにされて、見ている私が悲鳴を上げながら【ロード】した。
相手の人数が100人以上いるってのは分かったけど、それだけじゃどうにもならない。
一度、ノティアさんに『アフレガルド王国対魔物警戒網』の指揮を任せて私が前線に出てみたものの、なんと奴ら、【首狩りアイテムボックス】をレジストしてきやがった……。
で、【瞬間移動】で逃げられたりかく乱されたりしているうちに1分が経ち、ノティアさんの限界が訪れて警戒網崩壊。
どうせ王都以西は平和なのだからということで、東側だけに警戒網を絞ったところで、制限時間が2分に伸びるだけのこと。魔族を屠ることも撤退させることもできなかった。
とにかく【時空魔法】特化の連中っぽい。【物理防護結界】と【魔法防護結界】が硬すぎる。
……某四天王を思い出す……。
一度、陛下のお口から『7年前に取り逃がした四天王の女を泳がせ続け、私の能力を秘匿し続けてみてはどうか』というアイデアが出たけど、それって元辺境伯を見殺しにすること前提なんだよね……。
私はパパンの手前、どうしてもその案を口にできなかったけど陛下は違う。国を預かる者としての冷酷な優先順位づけができる方なのだろう。
とはいえ『四天王に私の存在を知られた上で取り逃したのがこの事態の原因』というのもまた仮定の話。そもそも間諜があいつだけとは限らないわけで。
ということで、状況は継続することとなった。
◇ ◆ ◇ ◆
そして、今。
目の前――魔の森入り口に、数万もの魔王国の軍勢が並んでいる。
飛行系魔物は相変わらずやって来るものの、魔の森からあれだけあふれてきていた魔物たちがピタリと止んだ。
いや、より正確に言うと、軍勢が陣を敷いてるところを迂回するように、左右からのみ出てくるようになった。なんと統率された魔物の集団暴走ですこと。
先ほどまで陛下以下14名が『いのちだいじに』しつつ魔族百数十人を牽制してたんだけど、魔の森を突破し、陛下たちが妨害し切れなかった魔族数十人が手早く円陣を組んで何か唱えたかと思えば、いきなりこの軍勢が現れたんだよね。
……なるほどね。このための【時空魔法】特化ってか。
で、同時に城壁上を抜けて弱小準男爵・騎士爵家領で暴れ回っていた飛行系魔物が一斉にこの砦に向かい出したのをブルーバードちゃん越しにキャッチした。
ふふん、戦力集中は戦の基本ってか? 弱小準男爵・騎士爵家領の人々を見捨てることができない甘ちゃんの私に限っては、そりゃ私を『アフレガルド王国対魔物警戒網』から解放させる悪手だよ。
ってことで1万1,000人のレベル500超精鋭たちのうち半数を王国全土へ広く薄く配置し、残りを城壁に張りつかせるようにウチの従士に指示しつつ、私は先んじて様子を見に来たってわけだ。
私は今、砦上空で浮いている。私の周囲には小さな【1日が1000年になる部屋】を展開しているから、じっくりと魔王国軍を観察することができる。
そして、物凄く物凄~く陰鬱な気持ちになった。
理由は2つ。
1つ目は、ほとんど着の身着のままの人たちが数百人ほど最前列に並べられていること……まぁ、奴隷兵だろうな。で、ショックだったのは、奴隷兵が使われていることじゃない。奴隷兵が全員魔族――頭に角が生えている人間――だったってこと。
つまり魔王国領に、人族の奴隷はひとりもいない……み、皆殺しに……されてる、んだろうね。
2つ目は、飛空艇っぽい乗り物が2隻、空に浮いていること。あと地上にも装甲車部隊やバイク部隊がいっぱいいること。
ひぇえええ……文明格差、ありすぎィ……。動力はなんだ? 魔力か蒸気か電力か。戦車がいないのは幸いか――いやもはや誤差か。
まぁでもそんなことは関係ない。こっちは何千年とかけて鍛えてきた勇者パワーで圧倒するだけだ!
「全軍戦いはそのままに聞けぇ!!」
【1日が1000年になる部屋】を解除し、【拡声】魔法の限りを尽くして、城壁上の兵士たちを鼓舞する。
「ついに魔族の軍勢が現れた!! だが恐れることはない!! 私は諸君らがどれほど強いか知っている!! そして諸君らもまた、私がどれほど強いか知っている!! 上空の警戒を厳にしつつ、魔物への対処を継続せよ!!」
「「「「「うぉぉぉぉおおおおお!! アリス様万歳!!」」」」」
万雷のごとき鬨の声に地面が震える。いやまぁ空中にいるから、そんな気がするだけだけど。たまには格好いいナレーション入れてみたいじゃん?
ともかく、これで軍人さんたちは大丈夫。彼らには未だ魔の森から押し寄せる魔物たちと、空から襲いかかってくる飛行系魔物の対処に専念してもらおう。
そしていつの間にか、私の周りには253名の精鋭従士たちと、陛下以下超精鋭14名。
この253名たちにも【契約】で縛った上で【ふっかつのじゅもん】のことを明かしてある。打ち明けるのはひとりずつ慎重に行ったよ。反応は様々だったけど、おおむね肯定的に受け取ってもらえてうれしかった。
「ちょちょちょ陛下とフェッテン様と宰相様はさすがに退いてくださいよ」
「バカを言うでない――来るぞ」
バカはどっちですか――って、先頭の奴隷兵が、背後の督戦隊らしき部隊につつかれ、こちらへ一斉に突撃し始めた!
太鼓や銃声といった合図もなしに。たぶん空間魔法の【念話】だろう。
向こうが制空権を握っている以上、この突撃には毛ほどの威力もないはずだが、落とし穴探しとこちらの士気低下が目的というなら意味はある。もっとも落とし穴と馬防柵の方は、魔の森からの魔物の集団暴走であらかた壊滅させられているが。
それにしても、口上交換もなしに、とはね。もとよりこの戦争は外交手段の一環ではなく、魔法神から命じられた人族殲滅作戦。講和なんて甘っちょろいものはなく、人族が亡ぶまで終わることのない戦いってわけだ。
いいだろう、受けて立つぞ!!
「初手【アイテムボックス】、収納漏れに【極大落雷】をお見舞いします! その後は全員で吶喊!」
「「「「「はっ!」」」」」
「【物理防護結界】!」
敵の軍勢全て、上空の飛空艇2隻もまとめて、包み込む極大結界を展開する。
そして、集中する。
丹田から出せるだけの魔力を両手に集中させ、
「敵勢力全てを――【フルエリア・アンリミテッド・アイテムボックス】!!」
瞬間、奴隷兵を始めとする地上部隊のほぼ全軍と飛空艇2隻の収納に成功した! だがまばらに人の姿が見える。数百人ほどか。さっき私の【首狩りアイテムボックス】に耐えた奴らも含まれているだろう。
「【魔法防護結界】! 【フルエリア・フルスピード・エイジング】!!」
魔法の方も結界で囲み、容赦なく加齢魔法!! 収納漏れした魔族たちが衰え、膝をついていく。
私は今、この手で、人を殺そうとしている……。
いやいやいやいや躊躇している場合か!
「魔力の限りぃ――【極大落雷】魔法!!」
目の前に広がる結界の中で、真っ青な雷が踊り狂う。かつて人だったものが、真っ黒な炭になり、ボロボロと崩れていく。
初めて、人を、殺した。
スパイの四天王倒すときに辺境伯とその使用人を屋敷ごと【極大落雷】したじゃんって? ……ま、まぁあれは【ロード】前提のことだったし、彼ら彼女らは自分が死んだことも知らないほど一瞬で消滅し、苦しみはなかったから……。
……だるい。さすがに魔力を消耗し過ぎた。維持しきれず、ダブル【防護結界】が解ける。
一応、ここで【セーブ】を入れて、赤ちゃん期に戻ってMP回復してから――
「――アリスッ!!」
フェッテン様に、突き飛ばされた。な、何!? 急激なMP消費に頭がくらくらするけど、【思考加速】100倍からの【探査】!
そうしてようやく、把握した。
私のすぐそばに、筋骨隆々の巨人がいた。魔力はほとんど感知できない――ってことはごくわずかな【闘気】か自力だけでここまで跳躍してきた!?
巨人は剣を振り上げていた。その剣が、振り下ろされる――100倍に引き延ばされた世界なのに、目で追うのもつらいほどの速さで!!
そして、私を突き飛ばしつつ巨人の剣の下に潜り込み、エクスカリバーで受け流そうとするフェッテン様。
エクスカリバーと巨人の剣がかち合い、エクスカリバーが折れ、身をよじったフェッテン様が、袈裟切り状に真っ二つになる。
まだ間に合う、【パーフェクト・ヒ――
巨人の剣がもう一閃。
フェッテン様の脳みそが、
輪切り、に、なった。
「いやぁぁぁぁぁあぁああぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
その声が、誰の声か分からなかった。フェッテン様の、脳髄がぐちゃぐちゃにまみれた頭部の欠片を必死にかき集め、抱きしめながら、ひどく近くから聞こえるその慟哭を聞く。
……あぁ、なんだ。
これ、私の声じゃん。
***********************************************
追記回数:25,252回 通算年数:2,930年 レベル:5,100
次回、すっかり傷心のアリスが【ロード】して、フェッテン様とイチャつきます。
ついにアリスの初○○!?
あらかじめ王国中で魔物狩りを推奨していた成果もあり、1週間ほどで王国内の成体魔物は狩り尽くしたんだけど、北の山脈から飛行系魔物がじゃんじゃか補充されてきて、同時に魔の森からもわらわら出てくるから飛行系魔物の討ち漏らしが発生し、辺境伯領や北の弱小準男爵・騎士爵領あたりはなかなか静まらなかったんだよね。
まぁ1週間経過の時点で、王都以西はもうのほほんとした感じだったみたいだけど。
私も、たまにノティアさんにバトンタッチしつつ、フェッテン様を吸って精神安定を得られるほどに安定した戦いだった。
……のだけれど。
『ピロピロピロッ!』
ある朝、ブルーバードちゃんから衝撃の情報が。
「マジか……」
今日も今日とて砦の広場で『アフレガルド王国対魔物警戒網』の指揮――王国全土をカバーするブルーバードから魔物の集団暴走の連絡を受け付け、適切な軍人部隊を派遣する仕事――をしていた私の視界に移るのは、魔の森を監視しているブルーバード越しに見える、角の生えた人間数人の姿!!
まるで忍者のように木から木へ飛び移り、物凄い速さで魔の森を進んでいる。
周囲は魔物の集団暴走だらけなのに、なぜか魔物から襲われる気配はない――いや、別に『なぜか』ではないな。
【従魔】が神級に至った者は、Aランク程度までの魔物までなら、いちいち【従魔】魔法を使わなくても襲われないようにすることができる。
そして相手は、『範囲距離無制限の【従魔】能力とそれを実現させるだけの膨大な魔力』を持つ魔王と、恐らくはその精鋭だ。
『常駐ブルーバード隊、警急呼集!』
『『『『『『『ピロピロピロッ!』』』』』』』
陛下、フェッテン様、宰相様、パパンとママンとディータとバルトルトさんと3バカトリオにパーティーメンバーとアラクネさんを呼び出す。
ちなみに、このメンバーは【ふっかつのじゅもん】のことを知っている方々。
アラクネさんは私の従魔ということもあってなのか、特段驚いた風もなく、フツーに受け入れてくれた。
なんていうか……アラクネさん自身、どっかの世界のどっかの時代からの転生者っぽい雰囲気を感じるんだよねぇ。
【アテナイの敵】なんていう称号持ってたし。ディータ曰く、少なくとも【鑑定】では『アテナイ』という国、組織、集団なんかは存在しなかったらしいし。
まぁ詮索はすまい。
で、そして私は数秒待ってから、【1日が100年になる部屋】の作戦指令室へ【瞬間移動】。
◇ ◆ ◇ ◆
「陛下、ついに魔の森で魔族を目視しました」
「ついに、か……」
作戦指令室のお誕生日席に座る陛下が暗い顔になる。
「はい……」
「数は?」
「視認できたのは8人までです。いずれも上位の魔物に襲われることのない、神級【従魔】持ちです」
「ふむ……ではアリスは引き続き『アフレガルド王国対魔物警戒網』を指揮しつつ、ブルーバードで視認継続。ここにいる他のメンバーで魔族の返り討ちを試みるとしよう」
「ちょちょちょ陛下も!?」
「なんじゃ? 儂とてレベル600じゃぞ」
「あ、あはは……ずいぶんと養殖なさいましたねぇ。分かりました。ではいったんここに【セーブ】ポイントを置いて、皆さんの身に危険が及びそうであれば【ロード】させて頂きます」
「どうせ【ロード】できるのじゃから、何人かくらい死んでも良いぞ? それで魔族の手の内を暴けるのなら」
「うっ、うぅぅぅ……わ、私の精神が持ちませんので、それはご勘弁を」
「相変わらず肝の小さい勇者様じゃのぅ」
「うぅぅ……」
「アリス!」
うめいていると、フェッテン様が寄ってきた。座ってる状態の私を、たくましい胸板で抱きしめてくれる。
「がんばろう」
「――はい!」
というわけで、参加者全員に1体ずつブルーバードちゃんを付けて、魔族を目視したポイント上空へ一斉に【瞬間移動】で吶喊。
私はここ数百年で身に着けた、自分の目ではなく脳裏に浮かべる形式の『視界共有』によって、14体のブルーバードと視界を共有しつつ、砦の広場で『アフレガルド王国対魔物警戒網』を継続。
◇ ◆ ◇ ◆
……数千回繰り返したけど、上手くいかなかった。
なんたって向こうは魔物に襲われないくせに、こっちはじゃんじゃん襲われるんだよ?
フェッテン様とリスちゃんが何度か魔族殺害には成功したものの、周囲の魔族からめった刺しにされて、見ている私が悲鳴を上げながら【ロード】した。
相手の人数が100人以上いるってのは分かったけど、それだけじゃどうにもならない。
一度、ノティアさんに『アフレガルド王国対魔物警戒網』の指揮を任せて私が前線に出てみたものの、なんと奴ら、【首狩りアイテムボックス】をレジストしてきやがった……。
で、【瞬間移動】で逃げられたりかく乱されたりしているうちに1分が経ち、ノティアさんの限界が訪れて警戒網崩壊。
どうせ王都以西は平和なのだからということで、東側だけに警戒網を絞ったところで、制限時間が2分に伸びるだけのこと。魔族を屠ることも撤退させることもできなかった。
とにかく【時空魔法】特化の連中っぽい。【物理防護結界】と【魔法防護結界】が硬すぎる。
……某四天王を思い出す……。
一度、陛下のお口から『7年前に取り逃がした四天王の女を泳がせ続け、私の能力を秘匿し続けてみてはどうか』というアイデアが出たけど、それって元辺境伯を見殺しにすること前提なんだよね……。
私はパパンの手前、どうしてもその案を口にできなかったけど陛下は違う。国を預かる者としての冷酷な優先順位づけができる方なのだろう。
とはいえ『四天王に私の存在を知られた上で取り逃したのがこの事態の原因』というのもまた仮定の話。そもそも間諜があいつだけとは限らないわけで。
ということで、状況は継続することとなった。
◇ ◆ ◇ ◆
そして、今。
目の前――魔の森入り口に、数万もの魔王国の軍勢が並んでいる。
飛行系魔物は相変わらずやって来るものの、魔の森からあれだけあふれてきていた魔物たちがピタリと止んだ。
いや、より正確に言うと、軍勢が陣を敷いてるところを迂回するように、左右からのみ出てくるようになった。なんと統率された魔物の集団暴走ですこと。
先ほどまで陛下以下14名が『いのちだいじに』しつつ魔族百数十人を牽制してたんだけど、魔の森を突破し、陛下たちが妨害し切れなかった魔族数十人が手早く円陣を組んで何か唱えたかと思えば、いきなりこの軍勢が現れたんだよね。
……なるほどね。このための【時空魔法】特化ってか。
で、同時に城壁上を抜けて弱小準男爵・騎士爵家領で暴れ回っていた飛行系魔物が一斉にこの砦に向かい出したのをブルーバードちゃん越しにキャッチした。
ふふん、戦力集中は戦の基本ってか? 弱小準男爵・騎士爵家領の人々を見捨てることができない甘ちゃんの私に限っては、そりゃ私を『アフレガルド王国対魔物警戒網』から解放させる悪手だよ。
ってことで1万1,000人のレベル500超精鋭たちのうち半数を王国全土へ広く薄く配置し、残りを城壁に張りつかせるようにウチの従士に指示しつつ、私は先んじて様子を見に来たってわけだ。
私は今、砦上空で浮いている。私の周囲には小さな【1日が1000年になる部屋】を展開しているから、じっくりと魔王国軍を観察することができる。
そして、物凄く物凄~く陰鬱な気持ちになった。
理由は2つ。
1つ目は、ほとんど着の身着のままの人たちが数百人ほど最前列に並べられていること……まぁ、奴隷兵だろうな。で、ショックだったのは、奴隷兵が使われていることじゃない。奴隷兵が全員魔族――頭に角が生えている人間――だったってこと。
つまり魔王国領に、人族の奴隷はひとりもいない……み、皆殺しに……されてる、んだろうね。
2つ目は、飛空艇っぽい乗り物が2隻、空に浮いていること。あと地上にも装甲車部隊やバイク部隊がいっぱいいること。
ひぇえええ……文明格差、ありすぎィ……。動力はなんだ? 魔力か蒸気か電力か。戦車がいないのは幸いか――いやもはや誤差か。
まぁでもそんなことは関係ない。こっちは何千年とかけて鍛えてきた勇者パワーで圧倒するだけだ!
「全軍戦いはそのままに聞けぇ!!」
【1日が1000年になる部屋】を解除し、【拡声】魔法の限りを尽くして、城壁上の兵士たちを鼓舞する。
「ついに魔族の軍勢が現れた!! だが恐れることはない!! 私は諸君らがどれほど強いか知っている!! そして諸君らもまた、私がどれほど強いか知っている!! 上空の警戒を厳にしつつ、魔物への対処を継続せよ!!」
「「「「「うぉぉぉぉおおおおお!! アリス様万歳!!」」」」」
万雷のごとき鬨の声に地面が震える。いやまぁ空中にいるから、そんな気がするだけだけど。たまには格好いいナレーション入れてみたいじゃん?
ともかく、これで軍人さんたちは大丈夫。彼らには未だ魔の森から押し寄せる魔物たちと、空から襲いかかってくる飛行系魔物の対処に専念してもらおう。
そしていつの間にか、私の周りには253名の精鋭従士たちと、陛下以下超精鋭14名。
この253名たちにも【契約】で縛った上で【ふっかつのじゅもん】のことを明かしてある。打ち明けるのはひとりずつ慎重に行ったよ。反応は様々だったけど、おおむね肯定的に受け取ってもらえてうれしかった。
「ちょちょちょ陛下とフェッテン様と宰相様はさすがに退いてくださいよ」
「バカを言うでない――来るぞ」
バカはどっちですか――って、先頭の奴隷兵が、背後の督戦隊らしき部隊につつかれ、こちらへ一斉に突撃し始めた!
太鼓や銃声といった合図もなしに。たぶん空間魔法の【念話】だろう。
向こうが制空権を握っている以上、この突撃には毛ほどの威力もないはずだが、落とし穴探しとこちらの士気低下が目的というなら意味はある。もっとも落とし穴と馬防柵の方は、魔の森からの魔物の集団暴走であらかた壊滅させられているが。
それにしても、口上交換もなしに、とはね。もとよりこの戦争は外交手段の一環ではなく、魔法神から命じられた人族殲滅作戦。講和なんて甘っちょろいものはなく、人族が亡ぶまで終わることのない戦いってわけだ。
いいだろう、受けて立つぞ!!
「初手【アイテムボックス】、収納漏れに【極大落雷】をお見舞いします! その後は全員で吶喊!」
「「「「「はっ!」」」」」
「【物理防護結界】!」
敵の軍勢全て、上空の飛空艇2隻もまとめて、包み込む極大結界を展開する。
そして、集中する。
丹田から出せるだけの魔力を両手に集中させ、
「敵勢力全てを――【フルエリア・アンリミテッド・アイテムボックス】!!」
瞬間、奴隷兵を始めとする地上部隊のほぼ全軍と飛空艇2隻の収納に成功した! だがまばらに人の姿が見える。数百人ほどか。さっき私の【首狩りアイテムボックス】に耐えた奴らも含まれているだろう。
「【魔法防護結界】! 【フルエリア・フルスピード・エイジング】!!」
魔法の方も結界で囲み、容赦なく加齢魔法!! 収納漏れした魔族たちが衰え、膝をついていく。
私は今、この手で、人を殺そうとしている……。
いやいやいやいや躊躇している場合か!
「魔力の限りぃ――【極大落雷】魔法!!」
目の前に広がる結界の中で、真っ青な雷が踊り狂う。かつて人だったものが、真っ黒な炭になり、ボロボロと崩れていく。
初めて、人を、殺した。
スパイの四天王倒すときに辺境伯とその使用人を屋敷ごと【極大落雷】したじゃんって? ……ま、まぁあれは【ロード】前提のことだったし、彼ら彼女らは自分が死んだことも知らないほど一瞬で消滅し、苦しみはなかったから……。
……だるい。さすがに魔力を消耗し過ぎた。維持しきれず、ダブル【防護結界】が解ける。
一応、ここで【セーブ】を入れて、赤ちゃん期に戻ってMP回復してから――
「――アリスッ!!」
フェッテン様に、突き飛ばされた。な、何!? 急激なMP消費に頭がくらくらするけど、【思考加速】100倍からの【探査】!
そうしてようやく、把握した。
私のすぐそばに、筋骨隆々の巨人がいた。魔力はほとんど感知できない――ってことはごくわずかな【闘気】か自力だけでここまで跳躍してきた!?
巨人は剣を振り上げていた。その剣が、振り下ろされる――100倍に引き延ばされた世界なのに、目で追うのもつらいほどの速さで!!
そして、私を突き飛ばしつつ巨人の剣の下に潜り込み、エクスカリバーで受け流そうとするフェッテン様。
エクスカリバーと巨人の剣がかち合い、エクスカリバーが折れ、身をよじったフェッテン様が、袈裟切り状に真っ二つになる。
まだ間に合う、【パーフェクト・ヒ――
巨人の剣がもう一閃。
フェッテン様の脳みそが、
輪切り、に、なった。
「いやぁぁぁぁぁあぁああぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
その声が、誰の声か分からなかった。フェッテン様の、脳髄がぐちゃぐちゃにまみれた頭部の欠片を必死にかき集め、抱きしめながら、ひどく近くから聞こえるその慟哭を聞く。
……あぁ、なんだ。
これ、私の声じゃん。
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追記回数:25,252回 通算年数:2,930年 レベル:5,100
次回、すっかり傷心のアリスが【ロード】して、フェッテン様とイチャつきます。
ついにアリスの初○○!?
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