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第4章 「私が魔王になって右往左往する話」

137(3,032歳)「こ、婚約者が増えた……」

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「ってことで私が魔王になっちゃったんですが……」

 いったん魔王城を辞して――といっても私が魔王になったから魔王城も私の城になるわけだけど――ロンダキルア辺境伯領城塞都市の教会でお祈りして、いつもの不思議空間で女神様にご報告。

「これ、何をどうしたらゲームクリアになるんですか? まさか私が死ねば『魔王討伐完了!』とかじゃないですよね?」

「あはは……さすがにそれはありませんよ」

 苦笑する女神様。可愛い。

「そうですね、アフレガルド王国と魔王国双方が平和なまま、あなたが天寿を全うすればゲームクリアです。【ふっかつのじゅもん】で自動ロードされることはなくなります」

「あの……これ聞いて良いことか分からないんですが、って言いつつ聞いちゃうんですけど、魔力イコール生命力ですか?」

「まぁそうですね」

「おぉ……ってことは魔力が多ければ多いほど、寿命って長かったりします?」

「はい。魔族やエルフがおしなべて長寿なのはそれが理由ですし」

「……………………魔力カンストの私って、どのくらい生きるんでしょう?」

「……………………さぁ?」

「さぁって!? さぁって何ですか!?」

「いやぁ前例がありませんし、テストする機会もありませんでしたし。つまりアリスちゃんがテスターですよテスター!」

「テストスクリプトに従って延々とキャプチャを貼るのは前々世だけで十分ですよォ!」


    ◇  ◆  ◇  ◆


「……では、称号【魔王】の継承式と、新魔王就任式は1週間後ということでお願い致します」

 私がちょっと席を外していた間に、レヴィアタン氏――いや、もう私の部下になったんだし、今後はリヴァイアさんと呼ぼう。あっ、『リヴァイアさん』って『リヴァイアサン』っぽい! ぽくない?――がテキパキと事を進めてくれていた。

 魔王城の執務室でフカフカの椅子に座る私の膝の上にはルキくんが。

「前魔王様とのご結婚式、披露宴はその後に」

「…………………………………………はい?」

「どうされました?」

 今、リヴァイアさんなんつった?

「結婚!?」

「はい」

「いやいやいやいや何でそうなるんですか!?」

「必然的にそうなるでしょう」

「何で!?」

「魔王様――アリソン様――は新魔王となられる。しかし魔王様は人族であり、魔王国は代々魔族が治めてきた国です。
 今までは魔法神の秘術によって次代の魔王を『製造』していましたが、前魔王様が魔王様の従魔となり、魔王国が魔法神との関りを絶つことになった今、その方法は取れなくなります。
 となれば当然、魔王様のお子や子孫が代々治めていくことになるのが道理です」

「Oh……」

 確かに道理だった。
 この世界の人々は『国イコール同じ民族の集団』という意識が強い。というか地球でも、一部の多民族国家なんかを除けば、そういう意識を少なからず持っている。どころか国内で民族同士で紛争してるくらいだ。

「いや、議会制民主主義に舵を切れれば!」

「議会……? 民主主義……?」

 わけ分からんって顔のリヴァイアさん。

「ええとですね――」


    ◇  ◆  ◇  ◆


 小一時間後、

「…………無理があるでしょう、それは」

『王制廃止して国民が大統領と議員を選べばみんなハッピー!』という私の案を、バッサリと切り捨てるリヴァイアさん。

「ただでさえ開戦・終戦・魔王交代と慌ただしくなる中で、何百年も続いた政治体系を180度反対に変更するなど無謀過ぎます。それに、先ほど施政方針をお伺いした際、魔王様は『魔力至上主義』の廃止を挙げられました。それだけでも内政は大混乱必至です。
『民主主義』とやらに舵を切るのであれば、『魔力至上主義』は維持し、魔力が一定以上高い者の中から議員を選出する方法を取らねば、収拾がつかないでしょう。長年、高い魔力にあぐらをかいてきた上流階級の者たちが、いきなり自分より魔力の低い者が決めた法律に大人しく従うとは、とても思えません。
 逆に『魔力至上主義』を廃止するならば、魔王様と前魔王様のずば抜けて高い魔力と、【従魔テイム】の効果によるカリスマ性は必須でしょう」

 めっちゃ長文で噛むことなく淡々と説明してくるリヴァイアさん。
 その通り過ぎて言葉も出ない。

「というわけで、魔王様と前魔王様のご結婚は決定事項でございます」

「うー……」

「前魔王様も、魔王様とご結婚なさりたいですよね?」

「ルキだよ」

 私の膝の上で携帯式インベー○ーゲームに興じていたルキくんが、リヴァイアさんに向かって言う。

「はい?」

「僕はママからルキって名前をもらったから、ルキって呼んで」

「ははっ! ルキ様」

「ねぇリヴァイア、『けっこん』って何?」

「男女が夫婦になることでございます」

「『ふうふ』って何?」

「家族でございます」

「家族!」

 ルキくんの目が輝く。
 や、ヤバい! 1週間のルキくん攻略大作戦でさんざん『家族って温かいんだよ』的なことを吹き込んだのが、こんなところであだになるとは!!

「僕、ママと結婚したい!!」

「ちょちょちょ! 『ママと結婚』とかいう背徳的パワーワードはやめなさい!」

 うひー……これマジでどうしよう!?





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追記回数:551,551回  通算年数:3,032年  レベル:5,100

次回、アリス「あわわわ、フェッテン様にどう説明すれば……」
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