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いらっしゃいませジャングルへ
いらっしゃいませジャングルへ 4
しおりを挟む弱弱しいなりに元気になったらしいちいたまが寿尚の手首に抱き着いて、なんだか不器用ながらよじよじとした動きをしているので、寿尚はキャリーリュックのポケットから取り出した保温も兼ねたガーゼ生地のリード付きベストを着せてから、小さな身体を左の手のひらで軽く握るようにして軽くなったリュックを片腕に担いだ。
それを見てこちらへ戻って来た駆が「リードなんて付けても、まだこのチビ自力で歩けなさそうだけど?」と不思議そうに言うのに、「転落防止。転ばぬ先の杖、ってやつだよ」とさらに空いている右手は被せるようにしてちいたまを囲う。
「そういえば起きてもあんま鳴かないんすね」
そう言う翠星の左手の上の大ぶりな蜜柑が四個の上にもう一個という図は、片手にどれだけ乗るかにでも挑戦したのだろうか。
見た者はほぼ確実に、その繊細な美貌に似合わない力強さに驚く大きな手だ。
「もうすぐ昼で、外がこれだけ整えられているなら家も即、使用可能な状態の可能性が高いと思われるが。中へ入ってキッチンスペースでも探してみるか?」
本が絡まなければ、それなりにキチンと日常をこなせる下地はある詠が、腕時計を確認してお昼時だと指摘した。
言われればたしかにそんな時間で、気付いた途端に駆の好奇心で鈍っていたらしい腹の虫が空腹を訴えてくる。
「おお、そうだな。これだけ広い家ならキッチンにパントリーがあって、非常食もあるかもな」
実際は、テイクアウトの食料を木陰の芝生なりベンチなりで食べて小腹を満たすか、街の方に出て食事処にでも入る事になるかと予想していた詠は、軽口に乗っかる能天気な男の発言に「本気か?」と素で返してしまった。
「なんで言い出しっぺが信じられないって顔してるかなー」
理不尽と言いた気な駆に、「え、とね。朝、サンド屋さんで冷凍サンド買ったから、もう解凍できてると思うんだけど」と玉生が声をかけて、肩に斜めに掛けた大き目なショルダーバッグから[ランチサンドセット]と文字の入った無地の箱を一つ取って差し出した。
「三見塚、後輩にたかる様な真似は感心しない」
こちらは少しでも多く食事を取らせようとしているのに、と黒縁眼鏡で半ば隠れた目をすがめて、詠が駆を見た。
「いやいや、そんなつもりじゃなくてだな」
そう慌てる駆に、玉生は「みんなの分もあるから、遠慮しないでね」と少し笑ってグイッと押し付けるようにして渡す。
「今日は僕の都合に付き合ってもらってるわけだから、これ位は貰ってほしいんだ」
残りの分の箱も鞄から取り出すと、「ここで好意を無にしたら、少食の玉生には辛いノルマになるからな。ありがたくいただく」と詠が手に取り、翠星も「ごちそうになる」と器用に蜜柑を箱の上に載せながら受け取った。
「尚君の分は、座るとこまで運んでから渡すね。どこで食べようか?」
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