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玉生ホーム探検隊
玉生ホーム探検隊 1
しおりを挟むそろそろ昼休憩も充分だろうと、彼らは再び生け垣を通って玄関ホールに戻る事にした。
「いよいよ本殿に突入かー、ワクワクするよな」
玉生がスニーカーを履いている間に、スキップでもしそうな足取りで駆が先を行く。
寿尚はちいたまを乗せた茶トラに「わかってると思うけど、ちいたま落とさないでね」と念を押しながら抱き上げていて、緑を愛する翠星は生け垣に気を取られているらしく足取りがやや重い。
詠はマイペースに辺りを観察しているが、玉生のすぐ後ろに続いている気配があり、時々「この材質? 謎……」という呟きが聞こえてくる。
温室側の扉を抜けた玉生が玄関まで戻ると、駆はそこから先へ一人では進まずにキョロキョロと辺りを見回していた。
彼らが来たのに気付くと、「居間までの土足部分を広く取ってるが、一応ここに近道っぽいのがあるぞ」と彼の目の前の壁を指差す。
玉生が改めて見てみると、辺りが全て白一色で指摘されるまで気付かなかったが壁の一部に扉の形に窪んだ箇所があり、覗き込んでみると壁一枚に隠れた上り階段になっていた。
ただしそこからは土足厳禁らしくその堺が上がり框になっていて、膝から肩の高さのスイングドアが付いている。
その内側にスリッパが何足か置かれていたので、それを見た玉生は内心で安堵した。
入り口に靴箱も上がり込む様な段差も無いので自然と土足で入り込んでいたのだが、途中で靴を脱ぐべきだったのかと思い至ってずっと気になっていたのだ。
そこでホッとして余裕ができたからかほかの部分にも目がいき、それで気になったのが天井と壁との間に開きがある事で、玉生の目線を追った駆が「一階のこの辺は吹き抜けで、反対側はロフトかなんかになってるんじゃないかな」と玉生にその推測を披露した。
そんな玄関付近の壁にはあちらこちらに点々と、玉生の頭より高い位置から膝の位置まで大小様々なデザインでいくつかフックが取り付けられていて、鞄やコート類を掛けるのに重宝しそうだ。
「温室も部屋の中も思ったより温かいし、コートはここに掛けておいてもいいな」
駆はそう言ってピーコートを脱ぐと、さっさと目の前のフックに引っ掛けた。
言われてみれば、昼下がりに家の中でコートを着ているのは少し暑いかもと玉生も思った。
翠星も「たしかに家の中では、コートいらんすね」とモッズコートをフックに掛けているので、玉生も地味なグレーのダッフルコートを脱ぐ事にした。
このコートは院で悪目立ちしないようにあえて地味な色を選んだのだが、日尾野の家で扱っている型落ちの上に地味な色だからと予算内で売ってもらえた一品で、着心地も良くて温かい玉生のお気に入りなのだ。
そのコートの下は動きやすい様にと長袖のTシャツに薄手のセーターしか着ていなかったが、家の中は断熱もしっかりしているのかコートを脱いでも特に寒くはない。
それを見て詠も「結構これが重い」と言って脱いだインバネスコートを、自分の頭の高さにあった二股のフックに掛けるとマフラーも畳んで鞄に仕舞う。
寿尚はダウンがお猫様のクッションになっているのでそのままでいるが、みんながシャツやセーターに防寒度を下げた中でも、自律神経が頑健なので涼しい顔をしているのだった。
そんな暑さにも寒さにも強い彼は、飼っている猫の方に部屋の温度を合わせるのも当たり前にやっている。
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