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玉生ホーム探検隊
玉生ホーム探検隊 19
しおりを挟むこのリビングにあるソファーは柔らかいオレンジで、その前面に向けて敷かれたラグはベージュなので、フローリングの床や全体的に木目調の家具とで色調に統一感があって落ち着く空間になっている。
そのリビングのソファーにはセットになるテーブルが無く“コ”の形の凹みを座席部分に押し込む形になるサイドテーブルが直角部分に一つずつ、そして両端にキャスター付きのサイドワゴンが置かれていたのでコーヒーを置く場所に困らないのは幸いだった。
そのテーブルやワゴンをそれぞれの手元に移動させ、ビスケットとチョコレートを取り分けられた小皿とコーヒーをその上に配り、菓子鉢はチョコレートの大袋と共にサイドワゴンに乗せられた。
ラグの上に座ってソファーに背をあずければ、ちょうど座面が肘置きになる位のローソファーで、テーブルをずらして空いている左角に腰を下ろした寿尚はモニターに顔を向けてソファーの背で頬杖を突いている。
台所に近い右側には翠星が、こちらは片足を膝に乗せ、ソファーのその背で肘を枕に頭を乗せてリラックス状態だ。
モニター正面には詠がソファーに深く腰掛け、その少しずれた床には赤いクッションに埋もれた玉生が足を前に抱えている。
モニターのスタンドは「みんな画面はちゃんと見えてるな?」と確認した駆の手で高くセットされ、彼と玉生のコーヒーセットを置かれたベッドテーブルをよけクッションを抱えてラグに転がった彼は、「じゃあ、スタート」とリモートコントローラーのボタンを押した
流れる画面は、物語の中で知る古の西洋に似た架空の世界の様で、登場人物たちは物語の中の魔法を当たり前に使っていた。
しかも紀行という形でその世界を旅して紹介するというシリーズらしく、今回の”辺境の村"という舞台を選んでそれらしく演出をするのも大変だっただろうと、駆などは「これどうやって作ったんだ?」と内容よりなによりそちらに感心している。
「あんな背景の小物まで、作り物に見えないリアルさなんだけど」
感心というより呆れた風な寿尚に、何か気になるらしく時々「うん?」と首を傾げている詠。
翠星は背景として流れる植生の方に注目している様だ。
そんな中、玉生は魔法を使っている場面になると、自分の内側から何かが引きずり出される様な感覚に困惑していた。
強いて言うなら、高い所で地上を見下ろした時に足の裏から何かが這い上がってくるような、表現しにくいものだ。
さり気ない部分にまでリアルな映像にみんなも驚いている様で、自分が圧倒されているのも『多分、これが感情を揺さぶられるという事なのだろう』と玉生は納得した。
浮遊する光の中の生物などどれ一つをとっても違和感なく、多くの場面に映り込む様に作るのは技術的な事が分からないので単純にすごいという言葉しか出てこないのだが、玉生の目に映る姿は本当に生きているとしか思えないのだった。
その後も、港の町・山間の村・大木の家と一定のクオリティーを保ち続けるシリーズをつい夢中で見入ってしまったが、テープを入れ替えるタイミングでちいたまのところに向かう寿尚が、「そろそろ、たまが限界みたいだ。今日はこの辺にしときなよ」と目をショボショボさせる玉生に気付いたため、続きはまた後日という事になった。
このシリーズは、タイトルだけの真っ白なパッケージがかえって目を引き今日の観賞用に選ばれていて、現在は”石の要塞・地下都市・砂の中のオアシス・海上都市"などが未見で控えているが、探せばまだあるのかもしれない。
どうにか歯だけ磨いた後は記憶があやふやな玉生は、赤いクッションに乗り上げて抱き着いた様な気はするが、そのまま柔らかいラグの上でぐっすりと眠ってしまったらしい。
そして、映画の世界を彷彿させるファンタジックな夢を見たが、その内容はテープの中の世界を旅する続きだった。
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