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玉生のリ・ハウス
玉生のリ・ハウス 1
しおりを挟む「ちいたまだけ連れていくとチャトが暴れそうだから、心配だけど仕方ないね」
「どのみち明日には、日尾野が学校でその間は留守番だし」
ちいたまにミルクを飲ませて、チャトにも玉生に断って譲ってもらった冷凍庫のささみを水と鰹節で煮て子猫用の猫缶にボリュームを持たせて食べさせながら「俺が戻るまで、ちいたまから目を離さないでね」と頼む寿尚に詠が冷静に突っ込んだ。
玉生たちは引っ越しに先立ち、この週末を利用して敷地内を一通り見て回り、屋敷のどこにも修復や整備の必要は無さそうだという結論に達した。
その確認ついでに玉生が家屋と一緒に譲渡された録画機器で、そこにあったテープの中から気になった映画を鑑賞して、一晩過ごしてみたのだ。
結果、いっそそのまま暮らしはじめてみるという意見の一致で、即入居するという事になった。
実はそう決まる前に、家のライフラインが生きていると聞いていた玉生は、余程の問題がなければすぐにでもここでの生活に入るつもりでいた。
孤児院の荷物はもうまとめて、院長にはすでに話も通している。
それでみんなが入居する前に、できるだけ家の手入れを済ましておこうと考えていたのだった。
予定では、今晩中に荷物の手配を終えて早朝に発送の手配を済ませてから、この家へと直接帰宅。
そして時間を指定しておいた荷物を受け取り、引っ越しを完了させるつもりでいた。
それが玉生の認識だ。
しかしどうやら彼らには、玉生の考えはある程度お見通しだったらしい。
それで彼らとしては、入居するに当たっての手配やらを平日に済ませて、実際の引っ越しは次の週末辺りになるだろうと検討を付けていたのだ。
ところが、なんの問題も無くすぐに生活をはじめられるという事で、つまりは玉生を週末まで待たせる理由が無くなったのだ。
孤児院の方を退院する手続きを済ませていた場合、一週間位は理由を付けて友人たちの家で宿泊を――という話はしていたのだが……
それで予定より早いが、どうせすぐに行き来できる程度の距離なので、最低限必要な荷物を持って一緒に引っ越しを済ませてしまうつもりだと、玉生が寝落ちした後にそれぞれが言い出したのだ。
ただ全員まだ学生の身であり、明日すぐ必要な制服や教科書などの荷物もあるので、やはりこれから一度現在の住居に戻る必要がある。
それについても玉生の様子を見て、それぞれの判断で行動をするという事で就寝となった。
それも結局は、傍野が引っ越しの足になるという提案からなし崩しに、全員が一斉に引っ越す事になった。
後見人の傍野に、孤児院の方から玉生の退院について確認の連絡があり、それで退院と引っ越しは同日だろうと大体のタイミングをみて電話機で連絡を入れてきたらしい。
彼の方でも引っ越しを手伝うつもりで予定を空けたので、荷物の移動に車を出してくれるという。
しかも今回は、依頼主やその関係者の送迎用に所有しているミニバンで来るので、どうせみんな近場だろうと玉生のついでに引っ越しを手伝っても構わないというありがたい申し出であった。
「せっかくだから荷物だけ載せてもらって原付二輪こっちに持ってこようかと思うんだけど、ここって駐車についてはどうなってんだろうな?」
以前に傍野と来た時には柵の外に駐車していたと玉生から聞いて、それならとそこで待っている事にした。
ジャージから元の服に着替え、玄関アプローチを全員でぞろぞろ歩いていると、腕を組んだ駆がふとその言葉を口にする。
「ミミ先輩、三輪に乗って買い物行ったんじゃなかったすか? ここ突っ切ったんすよね?」
翠星に言われ「う~ん」と首の後ろに手を掛けた駆は、「でも柵の向こうのスペースは明らかに駐車用って感じだから、自転二輪はともかく自動二輪は……ん?」と丁度その柵を通る時、何気なく見た駐車スペースの先が行き止まりではないのに気が付いた。
緑が隠れた道を遮る角度が絶妙で、今も偶然覗き込む形でなければ柵の外側にぐるりと回り込む道に視線が届かなかったかもしれない。
「駐車用に舗装したスペースじゃなくて、舗装された道だったって事、か?」
「オレはたった今、舗装された道になった疑惑を……いや、いくらなんでも」
寿尚が顎に手を当てて道の先に向けて目を細めると、また「う~ん」と唸っている駆を詠が横目で胡散臭そうに見た。
「ミミ先輩が気になるなら、自分ちょっとどんな感じか見て来るっすけど」
「ん? いや原付二輪で戻って来るつもりだから、後でオレが行くわ。うん」
「まあ、自分も裏庭の辺りとか温室とか、どっちかってーとそっちの方が気になるんすけどね」
害意には過敏なほど勘の働く面子が一晩過ごしても危険性を感じなかったので、単純に引っ越し先の新居としてどうかという話になる。
明らかに普通の家ではないが、むしろこちらに対して好意的だという印象をみんなが持っている様だ。
人を好感度で選ぶ家といえば、それなりに知られている迷い家的な、民間伝承が頭に浮かぶ。
実際に玉生などは、昼食の片付けをしながら仮称ブラウニーに供えたパンケーキの皿がキレイに空になっていたのを確認してから、もうすっかりその存在に慣れる方に意識は固定されて、不思議が不可思議ではなくなっているのだった。
「気になる事は多少なりと事情を知っていそうな奴に聞いてみればいい」
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