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玉生のリ・ハウス

玉生のリ・ハウス 4

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 ひとまず明日にでも必要な分の荷物をまとめるため、彼らを順番に家の前で降ろして回る。
孤児院で玉生たまおの退院の手続きを済ませて、正式に退院してからまた逆に回り、まとめた荷物を持った彼らを拾って一緒に蔵地くらちに戻るのだ。

 孤児院に着き傍野はたのが後見人として必要な書類に署名をしている間に、玉生はまとめておいた荷物を取りにこれまで暮らしていた部屋へと向かう。
そこで同室の院生たちと別れの挨拶をしていると、ほかの部屋からも玉生が思ったよりも多くの者が顔を覗かせてくれた。
最後に今までのお礼として配ろうと、空になったロッカーにこっそりとお菓子を隠しておいたのだが、取り出したそれが足りるか少し焦ってしまった位だ。
つい先日、ハロウィンという外国のイベントに合わせたセールがあって、色々なお菓子を日尾野ひびのの店の割引で購入できたので、寿尚すなおの部屋を借りて小分けにばらして小袋に詰めた物だ。
最後に顔を合わせた人に挨拶のついでとして渡すつもりだったので、当初はそんなに数を用意する必要はないかと思っていたが、寿尚に「きっとね、必要になるよ」と言われて『余ったら恥かしいな』と躊躇しながら用意したのだが、予想外だった。
院では学校の学期を基準に、その間の長期休みを利用して班や部屋割りを入れ替えるという方針のため、現在の同室者はそう長い付き合いにはならなかったが一応は彼らの分は少し多めに、それと個人的に付き合いがあった何人かには「蔵地郵便局留めで僕宛の郵便、受け取れるから何かあったら手紙を送って」と伝えておく。

 そうしているうちに、院長に先導された傍野が引っ越しの荷物運びを手伝おうと、部屋の方まで玉生を迎えに来た。
それを早いと感じたという事は、意外とこの場所を名残惜しく思っているのだと気付き少し驚く。
 そして譲れるものは欲しいという者に譲っても、残った持ち物で大き目な箱が三つ埋まり、傍野が荷物を運ぶのを手伝いに来てくれたおかげでそれが一度に済むのはありがたかった。
特に書籍類の箱は玉生の手に余る重さで、玄関まで休み休みにでも運んで運送会社の受け取りサービスに頼もうかと思っていたのだが、傍野はもう一つ別の箱を載せても余裕で持ち上げると悠々と運んだのだった。
残る雑貨類を詰めた箱を抱えて改めて最後の挨拶をする頃には、院生たちは食事や風呂の時間に追われて、実に慌ただしい別れとなった。

 最後に車に乗り込む前に、外出から戻ったここでは一番に付き合いの長いバイト仲間に会えたので、「もうお菓子みんな配っちゃったよ」と言いながら、メモしておいた電話番号を「お守り代わり」と言って渡しておく。
まだ自覚はなくても生活に余裕のできた身なので、現在の小学校の高等科を卒業するまでは続ける事も可能だったミルクホールのアルバイトも、次の定員枠待ちの院生に譲り渡してしまったのだ。
件の友人たちとの交流で外出の多かった玉生と、常に忙しくして落ち着かなかった彼では顔を合わせる時間が圧倒的に足りなかったが、機会があれば改めて交流を持てたらいいと思う相手なのである。


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