ダンタリオンと勇者

小栗とま

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魔界の章

8 出来損ないの悪魔 (ダンタリオンの視点)

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 マモン様は、呆れ果てたと言わんばかりに脱力していた。

「勇者一人のために、そこまでするなんて。やっぱり出来損ないの悪魔だわ!!」
「……」

 「出来損ないの悪魔」…そう呼ばれるのは初めてではない。
 マモン様、そして魔王サタン様にもそう言われたことがある。

 クロムをサタン様に奪われたときも、俺が出来損ないの悪魔だから、クロムは預かると、そんな大義名分を聞かされた。
 俺はサタン様の言うことがよくわからないまま、悪魔としての記憶が始まったときから何故か共にいたクロムを手放すことになった。

「ダンタリオンの旦那は出来損ないじゃないやい!」

 クロムがそう怒ってくれているが、俺には自分が魔界には向いてないらしいという自覚があった。
 人間から魂を奪える自信もないし、悪魔らしくない人情があるとマモン様に叱られたこともある。

 それでも、この魔界で生きていくしかないのだから、俺なりに悪魔らしくなろうとしている。だけど、そう簡単に変われるものでもない。

(俺だって…なりたくて悪魔になったわけじゃない)

 こうやって言い訳を心の中で唱えるのも、もう何度目かわからない。
 そんな俺のセンチメンタルタイムをぶち壊すかの如く、巨体が迫って来る地響きが、ゴゴゴゴゴゴゴと鳴り響いた。

「な、なんだあ!?」

 と、クロムが飛び跳ねて、俺の背中に隠れる。
 俺はというと、この地響きには慣れっこで、「地下通路から這い出てくるアイツか」と思っていた。

 地響きはやがて止まって、案の定、「ばあん!」という壮大な破壊音を立てて床を突き壊して現れたのは、マモン様のペットである巨大蜘蛛だ。

「ど、どうしたの!あんた!」

 マモン様が唖然とするのも無理はない。
 厳つい8本の足をもつ巨大蜘蛛は、その足の2本を折られている。それに、ぎょろりとした沢山の目の一つは、何かに刺された様子だった。

 しかし、ぷしゅーと煙を上げながら、傷は自動的に治癒されていっている。悪魔は自己治癒能力が人間の数千倍も高く、たいていの怪我は直ぐに治るのだ。

「赤い髪の勇者に返り討ちにされやしたァ…」

 巨大蜘蛛はそのでかい図体に似合わない、もごもごとしたしゃがれ声をあげた。

「はあああああ!?アンタまで何やってんのよ!!」

 激怒したマモン様は、巨大蜘蛛に向けてハリモグラを投げつけた。
 ハリモグラの背中の針がぶつかってそれなりに痛そうだが、突然投げられたハリモグラの方がびっくりしていてかわいそうではある。

(巨大蜘蛛をやっつけるとはな……)

 赤い髪の勇者…それはきっと、パブロのことである。
 普段、マモン様やそのペットたちの威張った態度にうんざりしている俺は、心の中でパブロに拍手喝采をしてしまった。

「行こう、クロム」
「お、…おう!」

 勇者を治癒しすぎたことに更なる咎めを受けそうな空気を察し、俺とクロムはそそくさと屋敷を去った。
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