ダンタリオンと勇者

小栗とま

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魔界の章

27 浮びあがる闇(パブロの視点)

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 俺の中でダンタリオンの株がじわじわと上がる中、アスモデウスは親切にも(?)、魔物について詳しく話し始める。

「あの魔物は、魔界における太古の怪物の一つだ。危険すぎるから、魔界の奥底に隠されていた。だけど、どこぞの悪魔が勝手に持ち出したみたいだね」

 危険すぎる怪物について話しながら、アスモデウスはとても楽しそうだ。

「どこぞの悪魔って……。
 それが本当なら、そいつは魔王封印に加担したことになるぞ」

 俺が釘を指せば、アスモデウスは「それが何?」という顔をした。

「当然。この魔界では、サタンを引きずり落として自分が魔王になろうとする悪魔ばっかりなんだよ」

 と飄々と告げた。
 なるほど、魔界は常に乱世らしい。

「そんなに悪魔同士で戦いたいなら、わざわざ人間を利用しなくてもいいだろ」

 と、俺がツッコミを入れば、アスモデウスは「いい質問だ」と嬉しそうに微笑んだ。

「7つの大罪はかつて争いをしすぎて、収集がつかなくなった。だから、互いにもう争わない誓いをたてたんだ。けど、人間の意思でやったことならいいってわけさ」

 アスモデウスの話に、俺はどうしても頷けない。 

「……!!だとしても、魔物を勇者の剣に紛れ込ませるなんて。
 そんな簡単にできることじゃないはずだ」

 オズワルド王国の王宮は3つの魔法騎士団に守られているし、すぐ隣には精霊が宿る精霊の丘がある。
 そんな神聖さマックスの王宮に、魔物なんかが入り込む隙間があるとでも言うのだろうか。

「うん。だから、君に剣を渡したその王宮の中に、悪魔の共謀者――つまり、魂の契約を結んだ人間がいるとみて間違いないだろうね」

「はあ!?」

 ありえない。
 悪魔と契約を結ぶことは、魔法の力を授けてくれる精霊を裏切る行為だ。 
 だからオズワルド王国では魂の契約を禁じている。

 しかしもし、アスモデウスの言う通りなら、王宮の中にグレゴリー以外の闇使いが隠れて居るということになる。

「王宮の中に……闇使いが…」

 得体の知らない存在が浮上し、俺は驚愕する。

「そう。君はその契約者に、この魔界でひとり寂しく死んでいくように仕組まれたってことだ」

 アスモデウスは、俺が辿りついた……というより誘導された応えに対して、指で宙に円を描いた。
 まるで正解に〇をつける先生みたいだ。
 
(くそ…っ。頭こんがらがる!)

 サタンと契約した闇使いを倒すために、俺たちは魔界まできた。
 しかしそれ自体、別の闇使いに利用されていたのかもしれない。

 アスモデウスは更なる解説を補足する。

「そして。君を嵌めたそいつは、君の身近にいる人物、誰もが疑いの対象になるんだ」

「――っ、それは違う!闇使いは、悪魔の力を借りた時点で、精霊魔法は使えなくなるはずだ。それで見分けがつくだろう」

 つまり、闇使いは魔法が使えないミュルクの中にいる。
 そう予測を立てた俺を馬鹿にするように、アスモデウスは鼻で笑った。

「悪魔からもらった魔力を使って、精霊魔法を使えるように見せかけることくらい容易いんだよ?」
「……!」

(……そうなの?!)

 そんなことができるなら、俺はもう、闇使いを見分ける方法が思いつかない。

「ふふ。だから人間界には、精霊魔法を使えるかのように偽装した闇の契約者が大勢いる」
「嘘つけ!そんなにたくさん闇使いがいてたまるか!」

 俺はもうムキになって、アスモデウスの話を否定しにかかった。
 だけど彼は余裕を崩さない。

「現に僕だって、現在進行形で複数の人間と契約しているんだ。
 最近1人、色欲に溺れまくった契約者がお亡くなりになってね。
 僕は今、その最高の魂を少しずつドリンクにして頂いているところさ」

 そう言ってアスモデウスは、例のピンク色のドリンクをストローで吸い上げる。
 そして全て飲み干せば、ペロリと舌なめずりをした。

「……!」

 俺は見てしまったらしい。
 悪魔が人間の魂を喰らう瞬間とやらを。

 その光景は、彼らの日常に溶け込んでいて、まるで自然なことのように写る。
 しかしそれは、悪魔が人間を組み敷く瞬間だった。

 突如、「捕食者」に早変わりしたアスモデウスに、俺は喉を震わせた。

「そう怯えないでよ。
 それに君、見ただろう?大勢の契約者たちの死後の肉体、
 パンデモニウムの骸骨の戦士たちのことをさ」

「……!!」

 パンデモニウムで戦った大量の戦士たち。
 あれが全て、魂の契約をした人間たちの死後の姿だというのなら。

 確かに「魂の契約」は人間界で横行していると言ってもいいだろう。

「っ……闇はどこまでも、深いってことか」

 俺は勇者として、闇使いグレゴリーを倒すことに集中してきた。
 しかし、それは闇の深淵の始まりに過ぎない。

 本当はその姿を隠した闇使いたちがまだ、大勢どこかに隠れているのだ。

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