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オズワルド王国の章
57 その正体(ダンタリオンの視点)
しおりを挟むパブロとクロムたちを見送って、俺は負傷者の治療に乗り出した。
医者たちに説明して配った俺の薬が効いて、幸いにも死亡者は一人も出さずに治療を終えた。
結局記憶の手がかりは見付けられなかったが、俺の薬が人の役に立ったのは素直に嬉しい。
薬の改善点も見つかったので、俺は集中できる場所――ネロという宰相の屋敷の跡地に移動し、崩れかけの壁と天井の下で瓦礫に腰掛けてメモを取っていた。
「すごいな、アンタ」
声をかけてきたのは、パブロと親し気にしていた医者の青年ケインだ。
立て続けに治療をしていた彼はさすがに疲れている様子で、俺の隣に腰掛けて休息をとり始めた。
「君の技術にも驚いた」
俺が素直な感想を述べれば、ケインは目を丸くして、それから得意げに笑った。
「医者だからな」
その言葉から、ケインが医術に真摯に向き合ってきたという自負を感じた。
しかし次に、目を伏せた彼からは哀愁が漂う。
「この国じゃ医術は奴隷のやることで、汚れ仕事の区分なんだよ。
だけどどう思われようと、医術を極めることが俺の使命だと思ってる」
ケインの言葉を、俺は真剣に聞いていた。
何故だか彼と自分が重なるような気がしたからだ。
「君はどうして……そこまでする?」
俺は単純に気になったことを尋ねた。
するとケインは、宝箱を開けるような顔で微笑んだ。
「子供の頃、俺を助けてくれた医者がいたんだ」
ケインは手持ちのカバンをあさり、そこから古い本を5冊取り出した。
相当読み込んだらしくクタクタになっているが、布に包まれていて大切に保管されていることが感じられた。
「これ、その人が俺に託してくれた医術書だ。
治療で培った技術とか、研究して分かったことが丁寧にまとめてある」
その本の背表紙には全て、「マルコム・ナイ」という人物の著名があった。
ケインに手渡されたその本を、俺はゆっくりと開く。
「マルコム先生は、俺に教えてくれたんだ」
ケインは、崩れかけの天井の隙間から空を見上げ、深呼吸をした。
「医者として真っ当な仕事をすれば、医術もミュルクも、いつか認められるその時に向かって進歩する。それを信じる勇気を持ち続けて欲しい……って」
「……」
「目の前のことに向き合うって簡単そうに見えて、実は一番、難しいだろ。
マルコム先生はそれを実行する、カッケー人だったんだ」
誇らしげに語るケインは、少し照れくさくなったのか、頭を掻いて立ち上がった。
「その本、読みたかったら読んでくれ。アンタの役に立つかもしれない」
「……ありがとう」
ケインはまだやることがあると言い残し、その場を去った。
それから、俺は夢中で医術書を読んだ。
初めて読むはずなのに、なぜか俺は、次のページに何が書いてあるのかわかっていた。
(――これは、俺の記憶なのか?)
終に見付けた記憶の手がかりを逃さないように、俺は「マルコム・ナイ」の言葉を脳に刻むようにして読み込んでいく。
「――!」
そして最後のページに辿りついたとき、俺の中で鮮明な記憶がよみがえり始める。
そのタイトルは『悪魔契約の解除方法』――完結していない書きかけのページの末尾には、古い血飛沫の跡が残っている。
(――そうか、俺は――!)
頭に流れ込む、クリアな記憶が物語る。
他でもない、「マルコム・ナイ」――彼は、俺自身なのだ。
「ああ……なんてことだ……」
俺が人間界に残した「執着」、それはこの書きかけの医術書からも痛いほど伝わる。
『悪魔契約の解除方法』――その研究半ばで、殺害されたことだ。
忘れたままのほうが良かった悲劇の瞬間まで思い出し、俺は頭を抱えた。
まるで自分が生まれ変わったような感覚と共に、ゆっくりとマルコム・ナイとしての俺を取り戻していく。
そして次の瞬間――
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