満月綺想曲(ルナ・リェーナ・カプリチオ)

小桜けい

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番外編

狼さんは心配性

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 狼さんは心配性。(ルーディ&ラヴィ)
*ルーディ狼バージョンでの獣姦表現がありますので、苦手な方はご注意ください。

 ルーディは、ラヴィが最高に可愛い事を知っている。
 小柄で愛くるしい見た目は、好みのド真ん中。
 健気で優しい性格。
 何より、ルーディが人狼と知っても受け入れ、「つがい」になってくれた。

 俺のラヴィは、世界一可愛い。
 毎日ニヤニヤが止まらない。
 ただ問題は、それに他の男も気付き始めたという事だ。

 前髪が短くなり、ラヴィの印象は大きく変わった。
 可愛い顔がはっきり見えるようになり、頬の傷も化粧でほとんど目立たない。
 しかし、ラヴィ自身が明るくなったのが、何より大きい。
 二人で出かけたりすると、ラヴィを振り返って眺める男がよくいる。市場のおじさんが、やたらとオマケしてくれる。
 けれど、どうやらラヴィはモテている自覚がないらしい。
 お店の人は、単に親切なのだと思っているし、振り返られている事にも気付かない。
 一度、それを言ったら、気のせいだと笑われてしまった。

「だって私、小さい頃から男の子には意地悪されてばかりだったのよ。よく追いかけられたし」

(それは……好きだから構いたかったんじゃ……)

 そう思ったが、ルーディは口をつぐむ。
 他の男からの視線に気づいて、余所見なんかされたくない。

(ラヴィは俺だけの!)

 独占欲が、満たされる。


 その日、ルーディは昼下がりの市場でラヴィを見つけた。
 人の多い場所は、情報を集めるのにうってつけだ。
 ルーディはよく市場を歩き回っているし、ラヴィは夕食用の買い物だろう。
 だから、二人が市場にいたのは自然だった。
 だが、王都の賑やかな市場の中で見つければ嬉しくもなる。
 声をかけて、そのまま一緒に帰ろうと、ルーディは近寄った。

「ラ……」

 声を途中で引っ込め、反射的に近くの露店へ身を隠す。
 ラヴィは、二人組みの男に話しかけられていた。
 そのまま声をかければ良かったのに……諜報員の悲しい性だ。
 完全にタイミングを失った。

(俺は、何をやってんだか)

 内心でため息をつきながら、買い物客に混ざって果物を眺めるフリをする。
 もちろん全神経は、ラヴィと二人組の会話を拾うのに費やしながら。

――いや。本当に、なにやってんだか。

「……私もここに来て日が浅いので、あまり詳しくないの」

 申し訳なさそうに、ラヴィが答えている。
 二人の男は、まだそこそこの若さで、服装からして地方の下級騎士だろう。
 休暇をとって地方から出てきたのかもしれない。

「残念だなぁ」

 男Aが、大げさにため息をつく。

「王都に来たのは久しぶりだから、お勧めの酒場を知りたかったんだけど」

「ああ。ぼったくられるのも嫌だし。どうせならアンタみたいな可愛い子に案内してもらえりゃ、ありがたい」

 男Bもそう言いながら、ラヴィを無遠慮にじろじろ品定めする。

(そんなの、観光案内所で聞け!)と、声に出さずにルーディは毒づく。

 そもそも王都は規律が厳しいから、よほど裏のヤバい店に行かない限り、そんな心配は不要だ。
 声をかける口実。ナンパの常套句だ。それもテキストの一ページ目に載ってるような。

「ごめんなさい。もし良かったら、観光案内所の場所を教えるから……」

「それじゃ、宿の酒場で一緒に飲まない?」

「え?」

「案内所にわざわざ行くくらいなら、宿で飲んだほうが早いし、もう他の子を誘う時間もなくなっちゃったしなー」

「悪いと思ってるなら、ちょっと付き合ってよ」

 一体どういう理屈だと、怒りを通り越して呆れる。

「でも私、帰らなくちゃ」

「少しくらい良いだろ。おごるから」

「せっかくだけど……」

 それ以上聞いたら、狼化して馬鹿二人に襲い掛かってしまいそうだった。

「ラヴィ、お待たせ」

 急いで近寄り、肩を抱き寄せる。

「ルーディ!?」

「ラヴィ、今日の夕飯は何作ってくれんの?」

 華奢な身体をいっそう引き寄せながら、耳元にそっと囁いた。

「でも、一番先にラヴィを食べたい」

 真っ赤になったラヴィとニヤついてるルーディを、男たちが面白くなさそうに睨む。

「おい、北国の狗がうろついてるぜ」

 ルーディの付けている青い紋章を指し、男が嘲る。
『北国の狗』は、愛国心の強いフロッケンベルクの錬金術師や傭兵を侮辱する呼び名だ。

「とっとと帰って、お前の国王さまの尻でも舐めてろよ」

 あまりの言葉にラヴィが顔をしかめたが、ルーディは大して気にもしない。
 よくある事だし、彼らは己の低俗さを大声で言いふらしてるようなものだ。

「帰ろうか」

 無視してラヴィを促す。

「一人で帰れよ、狗」

 ルーディが言い返さないので、調子づいたらしい。
 男Aがラヴィに手を伸ばす。

「錬金術師なんかより、俺たち騎士と仲良くなったほうが、よっぽど得だぜ?」
「なぁ、アンタもメス狗から人間に戻りたいだろ?」

――次の瞬間。
 ラヴィの肩を掴もうとしていた男は、地面に転がってていた。

「っぐ!?……え!?」

 ルーディが男の片腕をひねりあげて足払いをかけ、地面とこんにちはさせるまで、0.3秒。
 おそらく、自分の身に何が起きたのかも理解不能だったろう。
 痛みに息を詰まらせながら、キョトンと呆けている顔は滑稽だった。
 もう一人も、呆然としてルーディと相棒を見比べている。

「ワンっ!」

 ルーディがニヤリと笑って指先でつつくと、やっと我に返ったらしい。
 悲鳴をあげ、地面の相棒をほったらかして逃げて行く。

「ハハハッ、薄情な友達だな」

 ルーディはまだ倒れていた男を立たせ、軍服の埃をポンポンとはたいてやる。

「ま、休暇を楽しんでくれ」

 軽く肩を叩くと、そいつも競走馬のようにすっ飛んで逃げていく。
 周囲の何人かが注目しており、騒ぎを通報までしてくれたおせっかいもいたようだ。
 うるさい守備兵が来る前に、ラヴィの手を引いて、大急ぎでその場を離れた。

(何やってんだか……)

 この数分で三回目のツッコミを入れる。
 目立った行動はしないのが、諜報員の鉄則。
 けど……ラヴィが侮辱されるのは許せなかった。

「ラヴィ。ああいうヤツは相手にしないで、すぐ逃げないと」
「本当に案内して欲しかっただけかと思って……」
「そんなわけないだろ。ラヴィは可愛いんだから。狙ってるヤツはいっぱいいる」

 のんきな返答に、知らず知らずに顔が強張る。
 ついラヴィの手を握る力も強くなっていたらしい。

「ルーディ、痛い」

 小さく悲鳴をあげられ、あわてて離した。

「わっ!ごめん!」

「それに、まだお買い物がこれからなの」

 言われてよく見れば、ラヴィの買い物かごは空っぽだ。

「……そっか」

 タチの悪い狼は、ニヤリと笑う。

「それじゃ、たまには外でメシ食おうか」


 市場からしばらく歩くと、旅人で賑わう宿場通りに着く。
 宿屋はたいてい、食堂も兼ねているし、料理の良し悪しで宿の評判は大きく左右される。
 よって、ヘタな酒場よりも食事の旨い宿屋がざらにあるのだ。
 
 まだ夕食には早い時間だったが、目当ての宿は人気なだけあって、もう客が入り始めていた。
 ルーディが顔見知りの店員と話している間、ラヴィは落ちつかなげにキョロキョロ辺りを見渡していた。
 静かな席が良いと頼み、かべ際の席へ案内してもらった。
 ここは本来なら、四人がけ用らしい。
 真四角のテーブルは、壁際に据え付けられた長いベンチ二人分の大きさで、向かいにも椅子が二つ置いてある。
 ラヴィをベンチの方に座らせ、ルーディも椅子ではなく横へ腰掛ける。
 各テーブルの間には、簡素なすだれがかけられており、まったく見えないほどではないが、隣客の姿や会話が露になりにくい。
 多国籍な料理の他に、こういう工夫でも、この店は人気を集めていた。

 適当に注文をし、運ばれてきた料理を食べ始める。

「考えてみたら、ラヴィと外で食事をするのは初めてだ」

 何しろラヴィは料理が好きだし、作るものはどれここれも美味しいから。

「ええ、そうね」

 ラヴィは答えながら、壁にかけられた異国のタペストリーや水槽で泳ぐ東の魚などを、もの珍しそうに眺める。
 そしてルーディに視線をうつし、ちょっと顔を赤くした。

「……デートしてるみたい」

 小さな声でそう言ったのが、ちゃんと聞えた。

 ――この場で押し倒したい。



 淡水魚のからあげ、温野菜のサラダ、干しぶどうと鶏肉のピラフ……
 テーブルに並んだ異国の料理は、ラヴィが初めて見るものばかりで、どれも美味しかった。

「これ、家でも作れるかしら?」

「作ってくれると嬉しいな。俺もこれ、好きなんだ」

 ルーディは何でも美味しそうに食べてくれるから、ラヴィも作り甲斐がある。
 新しい料理のエパートリーを増やせるよう、熱心に味わった。
 それでもルーディに話しかけられるたび、ドキドキする。
 何しろ、出会った日から一緒に暮らし始めてしまったから、恋人同士のありがちな段階を、色々とすっ飛ばしてしまった。
 特に不満はないけれど、やっぱりこういうのは嬉しい。

 入った時はまばらだった客数も、少したつと急に混み始めてきた。
 両隣の席にも人が座り、すだれ越しに人影と賑やかな笑い声が届く。

「っ!?」

 不意に、スルリと太ももを撫でられ、食べかけのパンを落としそうになった。

(ルーディ!?)

 小声で抗議するが、横からイタズラずる手は止らない。
 それどころか、テーブルクロスに隠れているのをいい事に、スカートをたくし上げ、じかに肌をまさぐりだす。

(ラヴィ、なんで俺が向かいじゃなくて隣りに座ったと思ってた?)

 意地悪い笑みとともに、そっと耳元で囁かれ、心臓が跳ね上がる。

(ラヴィは可愛いんだから、男の誘いに簡単に乗ると、こういう事になるの)

(そん……な……っ)

「食べないの?」

 ルーディが、わざとらしく尋ねる。

「だって……」

「何?」

 顔が真っ赤になるのがわかる。
 すだれでがあるから、両隣に顔ははっきり見えないし、大きな声をあげなければ何を話しているかも知られないだろう。
 けれど、正面には他のテーブルがいくつもあるし、給仕も歩き回っている。
 皆、自分達の食事や仕事に集中していると言っても、何かの拍子に気付かれるかもしれない。

(ルーディ……おねがいだから……)
(もっと触って欲しい?)
「違……っ!」

 叫びそうになって、あわてて口を閉じる。
 テーブルクロスの下で、ルーディの指が足の付け根にまで移動した。
 両足に力をいれ、精一杯固く閉じるが、下着を柔らかく撫でられると、腰が砕けそうになる。

(あ……やぁ……)

 さっきまで気にならなかったのに、急に周囲の人々がこっちを気にしているような錯覚に陥る。

(だめ……や……)

 必死になんでもない素振りで食事をしようとしても、手が震えていう事を聞かない。
 ジュースのグラスを取り落としそうになったら、ルーディが空いてるほうの手で受け止めてくれた。

「はい」

 手を添えられ、なんとか一口だけ飲んだ。

「ん……んくっ……」
(ラヴィ、こういうので興奮する?)

 力の入らなくなってきたふとももの間に指を滑り込ませ、ルーディが囁く。

(そんなわけ……)

(でも、濡れてきてる)

(や……っ)

 下着の横から差し込まれた指が、証明するようにぬめりをなで広げる。

「っん!」

 堪えきれず、小さい悲鳴が上がった。
 指はさらに大胆になり、つぷんと一本差しこまれる。

(っあぅ、あ……)

 腰掛けたままだから浅くしか入らないけれど、こんな場所で……
 自然に振る舞わねばと思うほど、かえって動悸が増し、自分の吐きだす熱い息にも煽られる。
 頭がクラクラして、イタズラを仕掛けてる張本人に、もたれかかってしまう。

(あー、やっぱりダメだ)

 なんとなく悔しそうに、ルーディが呟いた。

「っく!」

 指が引き抜かれ、いわゆるお姫さま抱っこで抱え上げられた。
 ぼうっとしたまま、二階の宿泊部屋に運ばれる。
 部屋なんか、いつの間に取ったのかと思ったら「店に入ってすぐ」しれっと返された。

 押し倒されたベッドの上で、涙目になりながら精いっぱい非難する。

「いつも、こんな事してるの?」

「そう思う?」

「だって、慣れてる感じだし……」

「誓っても良いけど、実際にやったのはこれが初めてだ」

 おしろいに隠れている頬の傷痕へ、軽く口づけられる。
 すっかり敏感になっている身体が、ビクリと震えた。

「でも、反省してる。もう絶対しない」

「……本当?」

「本当。ものすごく後悔した。やるんじゃなかった」

 真剣な面持ちで告げられる。

「だって、我慢してるラヴィの顔、すごくエロくて可愛い。あんなイイ顔、誰にも見せたくない」

 呆れて、ものも言えない。
 黙りこくったラヴィを見て、ルーディが小首をかしげる。

「あれ?怒った?」

 きっと、怒ってもいいと思う。
 犬を飼う場合も、イタズラをした時、甘やかしてはダメなんだそうだ。

 でも……

「――今度は、ちゃんと普通の食事に誘って」

 それを聞くと、ラヴィよりずっと年上のはずなのに、ルーディは少年みたいな満面の笑顔を浮べる。
 ラヴィはこれに弱い。
 きっとたいていの事なら、これでほだされて許してしまうだろう。

「約束する」

 小指を絡めて、優しく誓われた。


「あっ、あふ、あ、あああ!!」
 重い体の下に組み敷かれ、溺れそうな息継ぎを繰り返す。
 強く腰を突き入れられるたびに、小柄なラヴィはバラバラになってしまいそうだった。
 真っ赤に充血しくった乳首がシーツに擦れ、そこからもピリピリ痺れる快楽が送り込まれる。
 ラヴィを背後から貫いているのは、ふさふさした暗灰色の毛皮を持つ、四足の獣。

 人狼は本来、狼の姿で交わるらしい。人容で交わる事も可能だし、ルーディもなるべく人の姿でいるよう努力しているが、たまに変身欲求を抑えられなくなる。
 体中にキスされ、甘噛みが激しくなってきたと思ったら、愛しい青年は今夜も狼の姿になっていた。
 初めて抱かれている最中に変身された時は、狼の姿を何度も見た後でも驚いた。
 けれど、金色がかった琥珀の瞳は、やっぱりルーディのもので、ラヴィへ向けられる愛情もそのままだったから、人でも狼でもかまわないと思った。
 ……ただ、やはり性交の仕組みは人間と狼では少々異なる。

「あ、は、ぁぁぁ……っ!!」

 熱い精液が子宮に激しく流し込まれる。人間ならわずかな時間で終わる射精が、狼の姿でははるかに長い。
 前足に押さえつけられたまま、腰が砕けそうになる。
 低い獣の唸り声にあわせ、脈打つ性器が射精を続け、ラヴィは何度も達する。
 それでもまだ終りではなかった。
 挿入された性器の根元が膨らみ、内側が限界まで押し広げられる。

「ひあっ!ああああ!!」

 苦しさと、それを上回る性感に、ラヴィの喉から悲鳴交じりの喘ぎがもれた。生理的な涙がぽろぽろ溢れて頬を伝っていく。
 すでに十分すぎるほど注ぎ込まれている腹の奥へ、さらに濃くなった液体が噴出されはじめた。

「あっ!あっ!や、あっ!はぁぁっ!!」

 苦しさにシーツを握り締めながら、膣奥をびくびく痙攣させる。絶頂と絶頂の間隔が短すぎて、快楽に上り詰めた状態から降りられない。
 それがまだ、これから数十分も続くと思うと、気が遠くなりそうだ。
 受け入れきれなくなった分が、結合部のわずかな隙間から愛液と混ざって滲み落ちていく。

「ぐる……」

 柔らかい大きな舌に、頬をペロリと舐め上げられた。

「はぁんっ」

 白く飛びそうになっていた意識が、甘く呼び戻された。
 犬の交尾なら見た事があるし、最後は雄が後ろ向きになる独自の体勢になる事も知っている。
 けれどルーディは、いつだって最後までラヴィを抱き込むような形のままだ。
 これは彼が人狼だからなのか、それともルーディだけなのか、知らない。
 
 けれど、ラヴィを抱く相手は、今もこれからもルーディただ一人なのだから、真相がどうであろうと、やっぱりそんな事もかまわないのだ。
 
 
 ――数日後。

「あれ?」

 買い物かごを持って玄関に行くラヴィに、ルーディは尋ねた。

「おしろい、もう無くなった?」

 おしろいを塗っていないラヴィの頬には、狼につけられた古い傷痕がくっきり浮かび上がっている。

「ううん。まだあるけど……」

 ラヴィは目を伏せて、何か言うのをためらっていたが、やがて決心したらしい。
 顔を赤くして、早口に告げる。

「これなら、変な人に声かけられる事もないと思って……可愛いって言われるのは、ルーディからだけで十分だもの。だから、もう心配しなくても大丈夫……っ!?」

 のんきに馬鹿な事を言う可愛い『つがい』を、思い切り抱きしめた。

「よけい心配になった!!!」


 俺のラヴィは、世界一可愛い。
 可愛いにもほどがある。
 顔より何より、ラヴィ自身が。
―――ああもう!可愛すぎて困るくらいだ。


いっそ格闘技の一つでも教えようかと、ルーディは今日も真剣に悩む。


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