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第八話
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そんなことを考えつつ目の前にいる少女のことを見つめ直す。彼女が何を考えているのかはわからないものの少なくとも今の状況を楽しんでいるようにしか見えないため問題ないだろうと判断した。そしてようやく落ち着いたところで改めて彼女に話しかけてみることにしてみた。
「ねぇあなたの名前はあるのかな?それと歳はいくつなの?」
「うん!わたしには名前はないよ。だから好きに呼んでもらってもいいんだからね!」
(名前がないってどういうことなんだろ?誰かに名付けられたことがないって意味なの?)
とりあえずもう少しだけ詳しく聞いてみることにする。するとどうやら彼女は生まれてすぐに親元を離れてずっと一人で生きてきたらしい。それで現在は旅をしている最中だということがわかったのだった。
(この子は私よりも年下なのに凄いなぁ)
感心しつつ彼女のことを見ているとあることに気づくことがあった。それは服の端々がボロボロになっているということだ。おそらく長い間着替えたりしていないために汚れが目立ってきているのではないかと予想できたのでひとまず綺麗なものに交換しようと提案してみる事にした。
「よし決めた!私はこれからあなたの事をルルと呼ぶことにしたからよろしくね!」
私が名付けると同時に眩しいくらいに輝く笑顔を見せてきたことで嬉しさを感じるとともにこんなにも喜んでくれるのであればもっと早く名前を考えてあげれば良かったと考えてしまった。
それからしばらくの間は他愛のない話をした後で再び別れることになったのだが、また会えるかと聞かれたので当然のように肯定しておく。その際にまた会いたいと言ってきた理由を聞くとその時にはまだ教えていなかったあるものについて興味を持っていたようでそれがどんなものか知りたかっただけのようだ。ちなみにそれは簡単に説明するのが難しい上に実際に見せなければ納得してくれなかったらしく、仕方なく魔法を使う事で何とか理解してもらうことに成功したのだった。
「それじゃあまたいつかね!!」
手を振りながら駆けていく彼女の姿を見えなくなるまで見送り続けた後に再び家路につくのだったが、ふと気になることができたために振り返ってみるとそこにはもう誰もいなかったので恐らく転移を使ったのだという事がわかった。しかしそれよりも驚いたのは周囲に全く人の気配がなかったということである。つまりそれだけ離れた場所にいたということになるわけだがいったいどこから来たんだろうかと思ってしまう事になった。
「まさかとは思うけど……」
嫌な予感を覚えた直後、突如として上空に現れた巨大な物体を見て思わず溜息をつくことになった。あれこそが彼女が現れた原因なのではないかという考えに至ったからだ。よく見ると翼のようなものが見えることからも間違いないと思った。しかもその大きさはかなりのものなので間違いなく竜種だろうと予測できるものだった。
「まあいいか……別に悪さをする訳でもないみたいだし放っておいても良いかもね」
ただでさえ疲れているということもあってこれ以上面倒なことに関わりたくない気持ちが強かったので気にしないことに決めたのだが問題はこの後に起こった出来事だった。家に着いて中に入った途端にいきなり背後から何者かによって抱き締められてしまい身動きが取れなくなってしまったのだ。
「おかえりなさいませお嬢様。今日もご無事で何よりです」
「ちょっ!?離してください!!苦しいですよ……」
「おっとこれは失礼しました。あまりにも可愛かったものでつい抱きしめたくなってしまったんですよ」
「うぅ……全然反省しているように思えないんですけれど」
「大丈夫ですよ。それにしても今日の服装も素敵ですね」
「あ、ありがとうございます」
急に褒められて戸惑ってしまうのだが同時に嬉しいと感じている自分もいることに気づいてしまい少し恥ずかしくなって俯きがちになってしまう。というのも彼はいつもこうしてさりげなく可愛いとか似合っているだとかを言ってくれるのだ。そのため内心ではとても喜んでいるのだがそれを表に出すことができないのが残念である。そんなことを考えていた時だった、不意にある疑問が頭に浮かんできたのは。
「そういえばどうしてここに居るって分かったのですか?」
「あぁそれは簡単だよ。君のことなら何でも知っているからね。それこそ下着の色だって知ってるんだよ?でも安心して欲しいな僕はいつでも君を受け入れる準備が出来てるよ。もちろんそういう意味でね♪」
そう言い終わると同時に唇を奪われてしまう。抵抗しようとしたものの何故か力が入らず振り払うことが出来ないままされるがままに受け入れてしまう形になってしまった。しばらくしてようやく解放された時には全身の力が完全に抜け切ってしまい立つことすら出来ないほどになっていたがなんとか声を出す事は出来た。
「だ、ダメじゃないですかぁ……こんなところでぇ///」
「そんな蕩けた顔をしながら言われても説得力無いんだけどねぇ?」
「そ、それはあなたのせいでしょう?あんなことをされたら誰だってそうなるはずですからね!」
そう反論したものの実際はキスをされたことに対して嫌悪感を抱いていない自分がいることに気づいた。むしろ心地良いと思っている節があるような気がしており何故なのか不思議でしょうがないといった状態だったりする。だからこそ余計に疑問を感じてしまっている部分があった。
(なんだろうこの感じ……まるで恋人同士みたいなやり取りをしているせいかな?)
もしそうだとしたら自分のことを好いている人がいるということであり非常に有り難いことであると言えるはずだ。だが今はどうしてもその相手が彼だと考えると違和感を覚えずにはいられなかった。そもそも彼が自分に好意を寄せてくれているのは確かだと思う。しかしその想いに応えることは絶対にできないという確信めいたものが存在しているからである。
(私の本当の年齢はもう100歳を超えている。そしてそれ以上生きることは出来ないという事実だけははっきりわかっている。だから私には誰かを愛する資格なんてありはしないんだ)
いつの間にか頬を流れ落ちようとしていた涙に気付いた瞬間、私は慌てて顔を背けようとしたのだがそれよりも先に彼の指先が優しく拭ってくれたおかげでバレることはなかった。ただそれでも泣いてしまった事実は変わらないため誤魔化すために話題を変える事にした。
「えっとあの子とはどうなったのでしょうか?やっぱり何かあったんじゃ……」
「あーうん、実は結構しつこくて困っていたところなんだよね。僕としては早く諦めて欲しいと思っていたくらいで特に問題はないと思うけど」
「なるほど。それでしたらもう会うこともないかもしれませんね」
「まあそうかもしれないね。でも会えたとしても多分また同じ事を繰り返すだけじゃないかな~?」
「どういう意味ですか?」
首を傾げると彼は笑いながら答えてくれた。なんでも以前も同じ事をして同じように振られたらしいのだが全く懲りていないどころか寧ろ前よりも執着するようになったらしく、そのせいもあってなかなか離れようとしてくれなかったようだ。結局その日は疲れ果てるまで彼とずっと一緒にいたのだがその間中ずっと彼に抱かれ続けていたのでかなり体力を消費してしまったようで帰宅するとそのままベッドへ直行することになった。
翌日になって目を覚ますとその隣では未だに眠っている彼の姿があり思わず苦笑してしまう。昨日のことが夢ではなかったということを実感しつつゆっくりと起き上がると彼を起こさないようにして部屋を出て朝食の準備に取り掛かることにした。と言ってもそこまで凝ったものを作るつもりは無い。パンに野菜やベーコンを挟んだだけの簡単なものなのだがこれが意外にも美味しいと評判だったりするのだ。
それから程なくして完成したものをテーブルへと運び2人で食事を摂った後はすぐに出掛ける支度を始める事になった。というのも今日は彼の実家へ行くことになっていたからだ。これまで一度も行ったことがなかったのだが今回は挨拶も兼ねて行くことになっているためである。一応事前に連絡を入れておいた際には既に話は通っているようだったので後は直接行くだけだと言われていた。ちなみに場所は王都から少し離れた場所にある村だという話で道順などは全て教えてもらったので初めて訪れる場所でも迷うことなく辿り着くことが出来るはずである。
「よしっ!それじゃあ行こうか!!」
「はい!!行きましょう」
2人は手を繋ぎ合い転移魔法を発動させて目的の場所まで移動を開始する。一瞬にして景色が変わったことに驚いていたがそれもすぐに慣れてしまい辺りを見渡していた。そこは森に囲まれた静かな場所にある小さな家だった。
「ここがあなたの生まれ育った故郷なのですね」
「あぁそうさ。といってもここはもう僕の帰るべき居場所ではないんだけどね……」
どこか寂しげに呟く彼を見て胸の奥がチクリとする感覚を覚えた。おそらくではあるが彼にとってこの場所は自分の存在を否定するものでしかないのではないかと思ってしまったからである。しかしいつまでもここに居続けるわけにはいかないと思ったのか気を取り直してから家の扉を開ける。そこには1人の女性の姿があった。彼女はこちらを見ると驚いた様子を見せた後に笑顔を浮かべると共に駆け寄ってきた。「おかえりなさいアルクさん。それにリリアナちゃんもよく来ましたね。それとそちらの方は初めてお会いしますが……ひょっとして彼女さんの方かしら?」
「母上違うからな!?こっちはその……友達だよ!」
「あらそうなんですか?ごめんなさいね。あまりにも仲良しなものだからつい勘違いしてしまいましてね……本当に申し訳ないわ」
頭を下げようとする彼女を慌てて止めようとしたが時すでに遅しといった状態で謝罪の言葉を口にしながら何度も繰り返していた。その様子を見ていた私は慌てるばかりでありどうしていいかわからず困惑するばかりだった。とりあえず落ち着いてもらうまでは時間が掛かりそうだと判断した私たちはまずは彼女の紹介を受けることになった。
彼の名前はセフィロスといいこの村の村長を務めている女性であるとのことだ。見た目は30代前半くらいにしか見えないとても若々しい容姿をしている上に物腰柔らかな雰囲気を持つ人物でもある。そのことから多くの人から慕われているであろう事が窺い知れた。
「改めて初めまして、私がこの村の長を務めていますセルタン・モッチです。よろしくお願い致しますね、お二人とも」
「はい、こちらこそ宜しく御願いします!」
深々と頭を下げる彼女に釣られるように私もまた同じように頭を深く下げて挨拶をした。その後、早速だが本題に入る前に昼食をどうかという話になり3人揃って食卓を囲むこととなったのであった。
食事を終えるといよいよ彼の両親の元へ向かう事となった。とは言ってもその家は別段特別な造りになっているわけではなくごく普通の一般的な家屋に見えるのだがそれでも緊張せずにはいられなかった。
(そういえば私の両親には何一つ報告していないな……。今更だけど何も言わずに出てきてしまったことを怒っていないだろうか?)
そんな不安を抱いているとそれを察してくれたかのように彼がそっと手を握ってくれたことで不思議と気持ちが落ち着つくことが出来たような気がした。そして意を決して玄関前までやってきたところで彼は大きく息を整えてからドアノブに手を掛けようとしたその時―――ガチャッという音を立てて勝手に開かれたのだ。しかも目の前にいたはずの彼ではなく何故か私の背後にいる女性が開け放ったものだという事実を知って驚愕してしまう。一体いつの間に背後に立ったのだという疑問を抱くと同時に彼女が口を開く。
「久々ねぇ~元気にしてたかしら?」
振り返るとそこに立っていた女性はやはり見覚えのある人だった。かつて彼の許嫁候補だった内の一人で名前は確かティファイアという名前の女性だ。ただ何故ここに居るのかという驚きもあったがそれ以上に問題なのは彼女との距離感が非常に近いことだった。まるで恋人のように抱き締められており戸惑っているうちにそのまま家の中へと連れ込まれてしまったのだ。そこでようやく解放されると今度は別の女性の姿が目に入った。
「あー!!ずるいっすよ姉貴!独り占めなんて酷いじゃないですか!!」
「ふふん♪早い者勝ちですよ。それよりも皆さんが困っていますから離してあげてくださいね」
その言葉を聞いて初めて気が付いたのだがどうやら先程からずっと抱きしめられていたらしく2人にされるままになっていたようだ。慌てて離れてくれたおかげで助かったのだが恥ずかしくてまともに顔を合わせることが出来なかった。それからしばらくして落ち着いた頃に再び席に着く。するとここで改めて自己紹介する流れとなった。
「では改めまして……俺はセルタンの息子でセフィロスと言います」
「妹のヴィアっす!気軽にヴィと呼んでくれていいんスからね!!」
「えぇ、わかったわ」
「うん!これからもよろしくね!!」それぞれ握手を交わしたところで最初の話題へと移ることとなった。それは当然のことながら今回の帰省の目的についてのことである。両親は既に話が通っているようで特に驚くことも無かったが問題はここから先のことだ。私は彼に促されて前に出るとその隣に並ぶようにして立ったのだった。
「あの……実は紹介したい人がいまして」
「あらそうなの?どんな方なのか是非会わせて欲しいわね」
2人の反応を見て少しだけホッとしたのだがまだ油断はできないと思いきゅっと繋いだ手に力を込めたところ優しく握り返された事で勇気づけられた。きっと大丈夫だと自分に言い聞かせるように心の中で呟いた後、ゆっくりと繋いでいない方の手をかざすと魔法陣を展開させた。そこから現れた人物を見た瞬間に彼らは目を丸くさせ固まってしまっていた。それも仕方のない事だろうなと思う。なにせ自分の息子が突然見知らぬ女の子を連れてきただけでなくそれが異世界の住人なのだから驚かない方がおかしいというものである。
「初めましてお父様、それにお母さま……私はリリアナと申します」
「まぁ……あなたが例の子なのね?」
「はい……黙っていてすみませんでした」
頭を下げて謝罪をする彼だったがそれに対して父親は首を横に振った。
「謝る必要など無いさ。こうして無事に戻って来れただけで十分だ。それと……」
彼はちらりとこちらを見つめてきた。おそらくは私のことについて何かを言いたいことがあるに違いない。覚悟を決めて次の言葉を待っていると予想外の一言を投げかけられてしまい呆気に取られてしまうことになった。
「娘になるんだろう?なら俺にとってはもう家族同然だ。だから遠慮することは無いぞ!」
「はい……ありがとうございます。お父さん!」
その日は村を挙げてのお祝いムードとなり大宴会が開かれた。普段は質素倹約に努めている彼らであったがこの日は例外であり思う存分に飲み食いをして大いに盛り上がった。勿論その中には私も含まれているわけだがこれまで体験したことの無いくらいの盛り上がりようを見せており正直かなり疲れ果てていた。だがその一方でこの幸せな時間を噛みしめながらも彼との新しい生活が始まるのだと思うと自然と笑みを浮かべずにはいられなかった。
ちなみに余談ではあるが翌朝には皆揃って二日酔いに悩まされることになったことは言うまでもないであろう……。………………
それからというもの毎日忙しい日々が続いていた。というのも今日もまた新たな移住者が現れるかもしれないという情報を得たため急いで迎えに行くことになったからだ。何でも隣国である王国からやって来たらしい。
(しかしまさかこんなにも早く到着するなんて思わなかったな)
本来であればあと1週間ほどかかるはずだったのだが予想以上の速さだった。なんでも竜に乗って来たとのことなので恐らくそれが原因だろうとのことだった。実際に出迎えてみると確かにそこには立派なドラゴンの姿があったのだ。しかも複数体おりどれもこれもかなりの強者のオーラを放っているように見えた。そしてその先頭にいる人物がこちらに向かって歩いてくる。
(あれ……どこかで見たことあるような?)
じっと見つめているうちに既視感を覚えつつも相手が近づいて来るのを待つことにした。やがて互いの距離が縮まるにつれて記憶の中の誰かと一致した気がした。だがはっきりと思い出せないためにとりあえず挨拶をすることにしたのだ。
「はじめまして私は―――」
「久しぶりじゃのう小童よ。元気にしておったか?」………………
暫くの間思考停止していたもののすぐに正気に戻ると声を上げて驚いてしまう。何故ならば目の前に現れた人物はかつて自分が暮らしていた世界において魔王を務めていた存在だったからである。
「え!?どうして貴方がここに居るんですか!!」…………
話は少し前に遡ることになるのだが元々この世界にやってくるきっかけになったのは彼女の仕業であったのだ。元の世界にて私が命を落とした後に彼女は私の遺体を回収した後、その魂だけを呼び寄せるという暴挙に出た。その際に彼女の力を媒介として肉体を生成したため今の身体が出来上がったということだ。つまりはこの世界で死んだとしても元の世界でも死ぬことはないということになるのだがその代償として二度と転生が出来ないというものだった。そのため当初は彼女に文句の一つも言ってやろうと意気込んでいたのだが当人は一切悪びれることも無くあっけらかんとしていたのが逆に拍子抜けしてしまったほどである。
そんな彼女が今になって何のために姿を現したというのか疑問に思い尋ねようとしたところで向こうから話しかけてきたことで中断させられた。
「そういえばそろそろあやつらが戻ってくる頃合いかも知れんと思って様子を見に来たんじゃがお前さんがここの責任者になったみたいじゃな」
「えぇ、そういうことになりますね」
「ふむ、ではまず最初に確認しておくがあの時の約束を忘れてはいないじゃろうね?」
「もちろんですよ。でもそれはあくまで僕個人の意見ですけどね」
念押しするように問いかけてくる彼女に対して僕ははっきりと答えた。すると満足げに微笑んでくれたようでひと安心することができたのだがそこで一つだけ気になることが出てきた。それは先程の言葉から察するところ他にも何人か居ることになるということである。果たしてどのような人達なのかと考えているとその答えはすぐに判明した。なぜなら新たに到着した集団の中に見覚えのある顔を発見したためである。それも二人分だ。
「あ!やっと見つけた!!って……誰ですかその子?」
「ねぇあなたの名前はあるのかな?それと歳はいくつなの?」
「うん!わたしには名前はないよ。だから好きに呼んでもらってもいいんだからね!」
(名前がないってどういうことなんだろ?誰かに名付けられたことがないって意味なの?)
とりあえずもう少しだけ詳しく聞いてみることにする。するとどうやら彼女は生まれてすぐに親元を離れてずっと一人で生きてきたらしい。それで現在は旅をしている最中だということがわかったのだった。
(この子は私よりも年下なのに凄いなぁ)
感心しつつ彼女のことを見ているとあることに気づくことがあった。それは服の端々がボロボロになっているということだ。おそらく長い間着替えたりしていないために汚れが目立ってきているのではないかと予想できたのでひとまず綺麗なものに交換しようと提案してみる事にした。
「よし決めた!私はこれからあなたの事をルルと呼ぶことにしたからよろしくね!」
私が名付けると同時に眩しいくらいに輝く笑顔を見せてきたことで嬉しさを感じるとともにこんなにも喜んでくれるのであればもっと早く名前を考えてあげれば良かったと考えてしまった。
それからしばらくの間は他愛のない話をした後で再び別れることになったのだが、また会えるかと聞かれたので当然のように肯定しておく。その際にまた会いたいと言ってきた理由を聞くとその時にはまだ教えていなかったあるものについて興味を持っていたようでそれがどんなものか知りたかっただけのようだ。ちなみにそれは簡単に説明するのが難しい上に実際に見せなければ納得してくれなかったらしく、仕方なく魔法を使う事で何とか理解してもらうことに成功したのだった。
「それじゃあまたいつかね!!」
手を振りながら駆けていく彼女の姿を見えなくなるまで見送り続けた後に再び家路につくのだったが、ふと気になることができたために振り返ってみるとそこにはもう誰もいなかったので恐らく転移を使ったのだという事がわかった。しかしそれよりも驚いたのは周囲に全く人の気配がなかったということである。つまりそれだけ離れた場所にいたということになるわけだがいったいどこから来たんだろうかと思ってしまう事になった。
「まさかとは思うけど……」
嫌な予感を覚えた直後、突如として上空に現れた巨大な物体を見て思わず溜息をつくことになった。あれこそが彼女が現れた原因なのではないかという考えに至ったからだ。よく見ると翼のようなものが見えることからも間違いないと思った。しかもその大きさはかなりのものなので間違いなく竜種だろうと予測できるものだった。
「まあいいか……別に悪さをする訳でもないみたいだし放っておいても良いかもね」
ただでさえ疲れているということもあってこれ以上面倒なことに関わりたくない気持ちが強かったので気にしないことに決めたのだが問題はこの後に起こった出来事だった。家に着いて中に入った途端にいきなり背後から何者かによって抱き締められてしまい身動きが取れなくなってしまったのだ。
「おかえりなさいませお嬢様。今日もご無事で何よりです」
「ちょっ!?離してください!!苦しいですよ……」
「おっとこれは失礼しました。あまりにも可愛かったものでつい抱きしめたくなってしまったんですよ」
「うぅ……全然反省しているように思えないんですけれど」
「大丈夫ですよ。それにしても今日の服装も素敵ですね」
「あ、ありがとうございます」
急に褒められて戸惑ってしまうのだが同時に嬉しいと感じている自分もいることに気づいてしまい少し恥ずかしくなって俯きがちになってしまう。というのも彼はいつもこうしてさりげなく可愛いとか似合っているだとかを言ってくれるのだ。そのため内心ではとても喜んでいるのだがそれを表に出すことができないのが残念である。そんなことを考えていた時だった、不意にある疑問が頭に浮かんできたのは。
「そういえばどうしてここに居るって分かったのですか?」
「あぁそれは簡単だよ。君のことなら何でも知っているからね。それこそ下着の色だって知ってるんだよ?でも安心して欲しいな僕はいつでも君を受け入れる準備が出来てるよ。もちろんそういう意味でね♪」
そう言い終わると同時に唇を奪われてしまう。抵抗しようとしたものの何故か力が入らず振り払うことが出来ないままされるがままに受け入れてしまう形になってしまった。しばらくしてようやく解放された時には全身の力が完全に抜け切ってしまい立つことすら出来ないほどになっていたがなんとか声を出す事は出来た。
「だ、ダメじゃないですかぁ……こんなところでぇ///」
「そんな蕩けた顔をしながら言われても説得力無いんだけどねぇ?」
「そ、それはあなたのせいでしょう?あんなことをされたら誰だってそうなるはずですからね!」
そう反論したものの実際はキスをされたことに対して嫌悪感を抱いていない自分がいることに気づいた。むしろ心地良いと思っている節があるような気がしており何故なのか不思議でしょうがないといった状態だったりする。だからこそ余計に疑問を感じてしまっている部分があった。
(なんだろうこの感じ……まるで恋人同士みたいなやり取りをしているせいかな?)
もしそうだとしたら自分のことを好いている人がいるということであり非常に有り難いことであると言えるはずだ。だが今はどうしてもその相手が彼だと考えると違和感を覚えずにはいられなかった。そもそも彼が自分に好意を寄せてくれているのは確かだと思う。しかしその想いに応えることは絶対にできないという確信めいたものが存在しているからである。
(私の本当の年齢はもう100歳を超えている。そしてそれ以上生きることは出来ないという事実だけははっきりわかっている。だから私には誰かを愛する資格なんてありはしないんだ)
いつの間にか頬を流れ落ちようとしていた涙に気付いた瞬間、私は慌てて顔を背けようとしたのだがそれよりも先に彼の指先が優しく拭ってくれたおかげでバレることはなかった。ただそれでも泣いてしまった事実は変わらないため誤魔化すために話題を変える事にした。
「えっとあの子とはどうなったのでしょうか?やっぱり何かあったんじゃ……」
「あーうん、実は結構しつこくて困っていたところなんだよね。僕としては早く諦めて欲しいと思っていたくらいで特に問題はないと思うけど」
「なるほど。それでしたらもう会うこともないかもしれませんね」
「まあそうかもしれないね。でも会えたとしても多分また同じ事を繰り返すだけじゃないかな~?」
「どういう意味ですか?」
首を傾げると彼は笑いながら答えてくれた。なんでも以前も同じ事をして同じように振られたらしいのだが全く懲りていないどころか寧ろ前よりも執着するようになったらしく、そのせいもあってなかなか離れようとしてくれなかったようだ。結局その日は疲れ果てるまで彼とずっと一緒にいたのだがその間中ずっと彼に抱かれ続けていたのでかなり体力を消費してしまったようで帰宅するとそのままベッドへ直行することになった。
翌日になって目を覚ますとその隣では未だに眠っている彼の姿があり思わず苦笑してしまう。昨日のことが夢ではなかったということを実感しつつゆっくりと起き上がると彼を起こさないようにして部屋を出て朝食の準備に取り掛かることにした。と言ってもそこまで凝ったものを作るつもりは無い。パンに野菜やベーコンを挟んだだけの簡単なものなのだがこれが意外にも美味しいと評判だったりするのだ。
それから程なくして完成したものをテーブルへと運び2人で食事を摂った後はすぐに出掛ける支度を始める事になった。というのも今日は彼の実家へ行くことになっていたからだ。これまで一度も行ったことがなかったのだが今回は挨拶も兼ねて行くことになっているためである。一応事前に連絡を入れておいた際には既に話は通っているようだったので後は直接行くだけだと言われていた。ちなみに場所は王都から少し離れた場所にある村だという話で道順などは全て教えてもらったので初めて訪れる場所でも迷うことなく辿り着くことが出来るはずである。
「よしっ!それじゃあ行こうか!!」
「はい!!行きましょう」
2人は手を繋ぎ合い転移魔法を発動させて目的の場所まで移動を開始する。一瞬にして景色が変わったことに驚いていたがそれもすぐに慣れてしまい辺りを見渡していた。そこは森に囲まれた静かな場所にある小さな家だった。
「ここがあなたの生まれ育った故郷なのですね」
「あぁそうさ。といってもここはもう僕の帰るべき居場所ではないんだけどね……」
どこか寂しげに呟く彼を見て胸の奥がチクリとする感覚を覚えた。おそらくではあるが彼にとってこの場所は自分の存在を否定するものでしかないのではないかと思ってしまったからである。しかしいつまでもここに居続けるわけにはいかないと思ったのか気を取り直してから家の扉を開ける。そこには1人の女性の姿があった。彼女はこちらを見ると驚いた様子を見せた後に笑顔を浮かべると共に駆け寄ってきた。「おかえりなさいアルクさん。それにリリアナちゃんもよく来ましたね。それとそちらの方は初めてお会いしますが……ひょっとして彼女さんの方かしら?」
「母上違うからな!?こっちはその……友達だよ!」
「あらそうなんですか?ごめんなさいね。あまりにも仲良しなものだからつい勘違いしてしまいましてね……本当に申し訳ないわ」
頭を下げようとする彼女を慌てて止めようとしたが時すでに遅しといった状態で謝罪の言葉を口にしながら何度も繰り返していた。その様子を見ていた私は慌てるばかりでありどうしていいかわからず困惑するばかりだった。とりあえず落ち着いてもらうまでは時間が掛かりそうだと判断した私たちはまずは彼女の紹介を受けることになった。
彼の名前はセフィロスといいこの村の村長を務めている女性であるとのことだ。見た目は30代前半くらいにしか見えないとても若々しい容姿をしている上に物腰柔らかな雰囲気を持つ人物でもある。そのことから多くの人から慕われているであろう事が窺い知れた。
「改めて初めまして、私がこの村の長を務めていますセルタン・モッチです。よろしくお願い致しますね、お二人とも」
「はい、こちらこそ宜しく御願いします!」
深々と頭を下げる彼女に釣られるように私もまた同じように頭を深く下げて挨拶をした。その後、早速だが本題に入る前に昼食をどうかという話になり3人揃って食卓を囲むこととなったのであった。
食事を終えるといよいよ彼の両親の元へ向かう事となった。とは言ってもその家は別段特別な造りになっているわけではなくごく普通の一般的な家屋に見えるのだがそれでも緊張せずにはいられなかった。
(そういえば私の両親には何一つ報告していないな……。今更だけど何も言わずに出てきてしまったことを怒っていないだろうか?)
そんな不安を抱いているとそれを察してくれたかのように彼がそっと手を握ってくれたことで不思議と気持ちが落ち着つくことが出来たような気がした。そして意を決して玄関前までやってきたところで彼は大きく息を整えてからドアノブに手を掛けようとしたその時―――ガチャッという音を立てて勝手に開かれたのだ。しかも目の前にいたはずの彼ではなく何故か私の背後にいる女性が開け放ったものだという事実を知って驚愕してしまう。一体いつの間に背後に立ったのだという疑問を抱くと同時に彼女が口を開く。
「久々ねぇ~元気にしてたかしら?」
振り返るとそこに立っていた女性はやはり見覚えのある人だった。かつて彼の許嫁候補だった内の一人で名前は確かティファイアという名前の女性だ。ただ何故ここに居るのかという驚きもあったがそれ以上に問題なのは彼女との距離感が非常に近いことだった。まるで恋人のように抱き締められており戸惑っているうちにそのまま家の中へと連れ込まれてしまったのだ。そこでようやく解放されると今度は別の女性の姿が目に入った。
「あー!!ずるいっすよ姉貴!独り占めなんて酷いじゃないですか!!」
「ふふん♪早い者勝ちですよ。それよりも皆さんが困っていますから離してあげてくださいね」
その言葉を聞いて初めて気が付いたのだがどうやら先程からずっと抱きしめられていたらしく2人にされるままになっていたようだ。慌てて離れてくれたおかげで助かったのだが恥ずかしくてまともに顔を合わせることが出来なかった。それからしばらくして落ち着いた頃に再び席に着く。するとここで改めて自己紹介する流れとなった。
「では改めまして……俺はセルタンの息子でセフィロスと言います」
「妹のヴィアっす!気軽にヴィと呼んでくれていいんスからね!!」
「えぇ、わかったわ」
「うん!これからもよろしくね!!」それぞれ握手を交わしたところで最初の話題へと移ることとなった。それは当然のことながら今回の帰省の目的についてのことである。両親は既に話が通っているようで特に驚くことも無かったが問題はここから先のことだ。私は彼に促されて前に出るとその隣に並ぶようにして立ったのだった。
「あの……実は紹介したい人がいまして」
「あらそうなの?どんな方なのか是非会わせて欲しいわね」
2人の反応を見て少しだけホッとしたのだがまだ油断はできないと思いきゅっと繋いだ手に力を込めたところ優しく握り返された事で勇気づけられた。きっと大丈夫だと自分に言い聞かせるように心の中で呟いた後、ゆっくりと繋いでいない方の手をかざすと魔法陣を展開させた。そこから現れた人物を見た瞬間に彼らは目を丸くさせ固まってしまっていた。それも仕方のない事だろうなと思う。なにせ自分の息子が突然見知らぬ女の子を連れてきただけでなくそれが異世界の住人なのだから驚かない方がおかしいというものである。
「初めましてお父様、それにお母さま……私はリリアナと申します」
「まぁ……あなたが例の子なのね?」
「はい……黙っていてすみませんでした」
頭を下げて謝罪をする彼だったがそれに対して父親は首を横に振った。
「謝る必要など無いさ。こうして無事に戻って来れただけで十分だ。それと……」
彼はちらりとこちらを見つめてきた。おそらくは私のことについて何かを言いたいことがあるに違いない。覚悟を決めて次の言葉を待っていると予想外の一言を投げかけられてしまい呆気に取られてしまうことになった。
「娘になるんだろう?なら俺にとってはもう家族同然だ。だから遠慮することは無いぞ!」
「はい……ありがとうございます。お父さん!」
その日は村を挙げてのお祝いムードとなり大宴会が開かれた。普段は質素倹約に努めている彼らであったがこの日は例外であり思う存分に飲み食いをして大いに盛り上がった。勿論その中には私も含まれているわけだがこれまで体験したことの無いくらいの盛り上がりようを見せており正直かなり疲れ果てていた。だがその一方でこの幸せな時間を噛みしめながらも彼との新しい生活が始まるのだと思うと自然と笑みを浮かべずにはいられなかった。
ちなみに余談ではあるが翌朝には皆揃って二日酔いに悩まされることになったことは言うまでもないであろう……。………………
それからというもの毎日忙しい日々が続いていた。というのも今日もまた新たな移住者が現れるかもしれないという情報を得たため急いで迎えに行くことになったからだ。何でも隣国である王国からやって来たらしい。
(しかしまさかこんなにも早く到着するなんて思わなかったな)
本来であればあと1週間ほどかかるはずだったのだが予想以上の速さだった。なんでも竜に乗って来たとのことなので恐らくそれが原因だろうとのことだった。実際に出迎えてみると確かにそこには立派なドラゴンの姿があったのだ。しかも複数体おりどれもこれもかなりの強者のオーラを放っているように見えた。そしてその先頭にいる人物がこちらに向かって歩いてくる。
(あれ……どこかで見たことあるような?)
じっと見つめているうちに既視感を覚えつつも相手が近づいて来るのを待つことにした。やがて互いの距離が縮まるにつれて記憶の中の誰かと一致した気がした。だがはっきりと思い出せないためにとりあえず挨拶をすることにしたのだ。
「はじめまして私は―――」
「久しぶりじゃのう小童よ。元気にしておったか?」………………
暫くの間思考停止していたもののすぐに正気に戻ると声を上げて驚いてしまう。何故ならば目の前に現れた人物はかつて自分が暮らしていた世界において魔王を務めていた存在だったからである。
「え!?どうして貴方がここに居るんですか!!」…………
話は少し前に遡ることになるのだが元々この世界にやってくるきっかけになったのは彼女の仕業であったのだ。元の世界にて私が命を落とした後に彼女は私の遺体を回収した後、その魂だけを呼び寄せるという暴挙に出た。その際に彼女の力を媒介として肉体を生成したため今の身体が出来上がったということだ。つまりはこの世界で死んだとしても元の世界でも死ぬことはないということになるのだがその代償として二度と転生が出来ないというものだった。そのため当初は彼女に文句の一つも言ってやろうと意気込んでいたのだが当人は一切悪びれることも無くあっけらかんとしていたのが逆に拍子抜けしてしまったほどである。
そんな彼女が今になって何のために姿を現したというのか疑問に思い尋ねようとしたところで向こうから話しかけてきたことで中断させられた。
「そういえばそろそろあやつらが戻ってくる頃合いかも知れんと思って様子を見に来たんじゃがお前さんがここの責任者になったみたいじゃな」
「えぇ、そういうことになりますね」
「ふむ、ではまず最初に確認しておくがあの時の約束を忘れてはいないじゃろうね?」
「もちろんですよ。でもそれはあくまで僕個人の意見ですけどね」
念押しするように問いかけてくる彼女に対して僕ははっきりと答えた。すると満足げに微笑んでくれたようでひと安心することができたのだがそこで一つだけ気になることが出てきた。それは先程の言葉から察するところ他にも何人か居ることになるということである。果たしてどのような人達なのかと考えているとその答えはすぐに判明した。なぜなら新たに到着した集団の中に見覚えのある顔を発見したためである。それも二人分だ。
「あ!やっと見つけた!!って……誰ですかその子?」
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