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第十六話
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「ほう、なかなか鋭いねぇ~それによく見ているようでもある。だがあいにくと答えはノーだよ。あたしゃあんたよりも遥かに長く生きてるババアだよ。これで満足かい?」
「……はいぃいいい!?」
思わず大声で叫びそうになるのを必死に抑えつつ何とか平静を取り繕いながらも頭の中は既にパニック状態になっていた。というのもあまりにも衝撃的すぎて理解するのに時間がかかってしまったからである。
(嘘でしょ?だってどう見ても10代の見た目なのに実際には倍以上の年齢ってありえないでしょう!一体全体何が起きたらこんなことになるのよ!)
あまりのショックの大きさに思考が完全に停止してしまいただ呆然と見つめるだけの人形のような状態でいると彼女が苦笑しながら話しかけてきた。
「なんだいその顔は何かおかしなことでもあったのかい?」
「いえ……なんでもありません……大丈夫ですから気にしないでください……はい」
それだけ返すのがやっとであったがなんとか自分を奮い立たせると今度は逆にこっちからも問いかけることにした。
「それで結局交換したいものというのはいったいなんですか?」
(よし、ちょっと落ち着いてきたみたいだしそろそろいいかげん本題に入ろうかな)
ようやく落ち着きを取り戻したことで冷静に物事を考えることができるようになってきたためいつまでも脱線している場合ではなかったと考えを改め直すと早速話題を切り出すことにした。
「それじゃあ話を戻すけどまずはこれを見てもらえるかしら」
そう言って懐に手を入れるとそこから取り出した物をテーブルの上に置くとそれを見た瞬間目を大きく開き驚愕したのだった。
「これは……どうしてあなたがこれを持っているんですか!」
それはかつて自分が使用していた愛用の木剣だったのだがなぜそれがここにあるのかと困惑しながらもじっと見つめているとその理由を聞かされたのだった。
「なぁるほどそういうことだったんだね、道理でおかしいと思ったんだよ」
彼女は納得したかのように何度も首を縦に振ると一人うんうんと感慨深く呟いていた。そんな様子を目の当たりにしてますます混乱してしまうことになった。
(あれぇ?ひょっとしてこの人勘違いしたまま話し続けてないかしら)
このまま放置しておくとまた話が逸れそうな気がしたため慌てて訂正することにした。
「ちょっ、ちょっと待って下さい!!確かに私は以前これを使っていましたが今はもう持っていないんですよ!!」
「ん?どういう意味だい?」
「そのままの意味ですよ。そもそも私が使っていたものは木でできたものですし柄の部分も木製だったはずなのですが……」
そこまで説明したところでハッと気づいた。
「まさかこれが魔導具だということに気づいていなかったというオチじゃないですよね?」
恐る恐るという感じで聞いてみるとあっさり肯定されてしまった。
「ああその通りさね。こいつは前に会った時に持っていたのと同じ物だろうと思ってたんでね。だから同じものが欲しいんだけど譲ってくれないだろうかねえ~」
「うーんどうしよう……」
正直迷っていた。別に売ること自体は構わないと思っている。しかし問題は値段設定だ。仮に金貨1枚だとするとかなり高額になるし安くても銀貨5~6枚といったところだろうか。いくら何でも安すぎるような気もするがだからといって高くすれば間違いなく買えないと思う。かと言ってここでケチれば今後の付き合いに影響が出かねないためここはやはり慎重にならざるをえなかったのだ。
「とりあえず実物を見せてもらえます?」
「わかったよ。ほらここにあるから見てみなよ。気に入ったものがあったらいいなずけておくれ。あとお金はこの袋に入っているから好きに使うといいわ」
言われるままに手渡された品を確認するために手に取ってみる。見た目は特に変わった点は見受けられなかった。そして軽く振ったところでふとあることに気がついた。
(なんか少し軽くなっている?)
不思議に思いつつも鑑定をかけてみた。その結果出てきた情報は次の通りであった。
==========
名称:魔法の短杖(改)
詳細
:魔力を流し込む事により使用者の意思によって様々な魔法を放つ事ができるようになる魔道具。ただし使用出来る回数には制限があり使い過ぎると壊れてしまう為注意が必要となる。製作者は不明。
===
「へ~すごい性能ですね、これはいったいどこで手に入れたんですか?」
素直に関心して尋ねてみると意外な答えが返ってきたのである。
「実はねぇ~昔ある人物に譲ってもらったのよねぇ~」
「えっ、そんな大切なものを私みたいな素性もよくわからない人間に渡しちゃっても良かったんですか?」
「まぁあんたが悪用するような奴でないことはわかっているからねえ~それにもし万一変なことしようとした時はあたしゃ容赦なく殺すつもりだよ。だけど今の所そういった気配はないようだしさっき言ったように悪いようには扱わないだろうと思えたんで渡しても問題無いと判断したわけよ」「なるほど……でもそうまで信用してくれたのであればこちらもきちんと応えないといけませんよね」
「いやいやまぁ無理する必要は無いよ。あくまでこれはあたしん個人の気持ちの問題であって強制するつもりは一切ないんだからね」
「いいえ、お言葉ではありますが自分の中で既に決めました。是非ともあなたの期待に応えてみせましょう!」
「おお!やる気満々のようじゃないか。いいよ、ならば見せてもらうとしますか」
「はい、任せておいて下さい!必ず満足させてあげますよ」
こうしてお互いに意気込みを見せるといよいよ交渉へと移ることになったのだった。
(よし!まずはこれを試すチャンスが来たぞ!)
心の中で密かにガッツポーズを決めると早速行動を開始した。
「ではいきます!『ファイアクラッシュ』」
詠唱と同時に手のひらの前に小さな火球が出現するとその勢いのまま発射されたのだった。
「ほう中々やるじゃないかい!」
彼女が感嘆の声を上げるとパチパチ拍手しながら喜んでいた。その顔からはまるで子供のようでとても先程までの威厳のある姿とはかけ離れていた。
「ありがとうございます。ですがまだこれからです」
(次はあの技だな)
次に頭の中にイメージを浮かべると今度は別の呪文を唱えた。
「続いて行きますよ、『ウインド』『サンダーブレー』『ストーンバレ!』……」
次々と発動させていくとテーブルの上に並べられた商品が次々と切り刻まれていったり燃え上がったりと破壊されていきやがて全てが終わると同時に煙が立ち込めるとそこにはボロ雑巾のように変わり果ててしまった元商品があった。
「これでどうでしょうか?」
恐る恐るという感じで聞いてみると何故か呆れた表情をしていた。
「あ、あれぇ?何か間違えてしまいましたかね?」
不安になって尋ねると溜息を吐きながら残念なものを見るかのような目を向けられた。
「違うわよ。確かにこの店のものは全て売り物なんだけれどどれもこれも結構良いものばかりだから壊される前に処分できてむしろ感謝しているくらいさ。ただねぇ~こんな狭い部屋でそんな威力の高い魔法ぶっ放したらこうなっちまうってことを想像できなかったのかしらね?全くこれだから素人は困るんだよ」
「あっ……」そこでようやく自分が何をしてしまったかということに気づいたのであった。
「ごめんなさい!!まさかここまで酷いことになるなんて思ってもいなかったのでつい……」
慌てて謝ったが時すでに遅しという感じであり弁償するにしても一体どれ程の金額になってしまうだろうかと考えるだけで頭が痛くなってきた。だがしかしそれは予想に反して意外な言葉が掛けられることになった。
「別に気にしなくて大丈夫よ。そもそもあんたがこれを売った相手もそういうつもりでいただろうし代金だってちゃんとしたはずさ。それよりも今一番気になることがあるんだけど教えてもらってもいいかしら?」
「はい何でしょう?」
「なんだいこれは?」
彼女は目の前に置かれた皿を指差すとそのまま質問してきたのである。
「ああ、これは私の作った料理ですよ」
「これがかい!?冗談はよしておくれ。どう見ても炭にしか見えないじゃないの。それとなんだい、焦げ臭い上に鼻につく嫌な匂いまで漂ってくる始末だしねぇ」
そう言いつつ顔をしかめる彼女だったがそれでも食べるつもりなのかフォークを手に取るとそれを突き刺そうとしたその時だった。
バチンッ!!!突然大きな音が響き渡ると彼女の手からフォークが弾かれ床へと落ちていたのだ。さらによく見るとナイフの方も同様に弾き飛ばされてしまっていた。
「ん、いったいなんだいこれは?」
不思議そうな目で自分の手元を見ながら首を傾げると拾い上げようと手を伸ばしたのだがまたしても同じようにして再び弾き飛ばれてしまう事態に陥った。その様子を見て私は思わず苦笑いを浮かべずにはいられなかった。何故ならそれが私が仕掛けたものなのだからだ。
(上手くいってくれたか……)
実は彼女に渡した品々にはこっそりと対となる魔道具が仕込んであったのである。そしてそれこそが先程使用した魔法の短杖と同じ製作者不明とされていたものであった。鑑定によれば使用回数に制限があると書かれていたことから恐らく使い捨てであると考えた結果、こういう使い方を思い付いたのである。ちなみに短杖に込められている魔力は最初に魔力を流し込んだ時に吸い取られており、既に空っぽの状態となっていたため今の所使用回数は0回となっているはずだ。
「すみません。ちょっと手が滑ってしまったみたいですね」
そう言って誤摩化しつつ落ちた物を拾おうとすると今度は横から伸びてきた手に掴まれてしまった。
「待ちな」
「えっと……どうかしましたか?」
「どうやらこれはあたしゃの勘違いじゃなかったようだね」
(あ~やっぱり気がつかれたか)
内心冷や汗ダラダラ状態で平静を取り繕いながら返事をした。
「なんのことですか?」
「惚けるんじゃないよ!こんなことできるのはあんたしかいないじゃないかい」
「はぁ~でも私本当に何も知りませ」
「嘘つくのはもう止めときなって!いくらなんでもしつこいと怒るわよ」
「うっ……わかりました。降参です」
(これ以上粘っても無駄っぽいな)
観念すると両手を上げ抵抗の意思がないことを示した。それから詳しい説明をするべくゆっくりと口を開いたのだった。
「それでどうしてわかったんですか?」
正直ここまで早く見破られるとは思っていなかったので驚きを隠せなかった。
「まず第一としてこの店にある商品達全てが綺麗すぎるということだよ。これだけの量があってしかもそれなりに高価な代物だとしたら普通もっと傷だらけになっていてもおかしくはないはずなのにそういった形跡が全く見当たらない。つまり誰かによって事前に手入れされていた可能性が高いわけだ」
「なるほど……」(流石商人だけあって観察力が鋭いな)
「それにもう一つある。それはあんたが最初に使った魔法だ」
「あれってそんなに大したことありませんでしたよね?」
確かに初級クラスの攻撃呪文ではあるがそこまで驚くような内容ではないと思っていた。しかし彼女は真剣な眼差しで話を続けた。
「あの時放った火球、本来あんな程度の大きさではこの部屋全体を焼き尽くすことは到底不可能に近いんだ。仮にできたとしてもせいぜい半分ってところだろうさ」
「そんな馬鹿な!」
(確かに言われてみるとその通りかもしれないけどあれは間違いなく全力で発動させたものだったぞ?)
「いいかい?そもそも魔法っていうのは発動させる対象に対してどれだけ正確なイメージができるかどうかが全てなんだよ。だから例え同じ魔法を使ったところで人それぞれで威力が異なるってのは当然の理屈さね。ただし例外もあるけれどそれはまた別の機会にしておこうかね。さて話を戻すが、もしあの時あんたが本気で燃やすつもりだったのならば今頃ここは火の海になっていたはずなんだ。だけど実際はそうはならなかった。それは何故かと言うとあんたが途中で力を抑えたこと以外に考えられないのさ」
「いやいやそんなはずありませんよ。現に手加減なんて一切しなかったはずですよ?」
「そりゃあんたが本気を出したつもりでいただけだよ。だってあんたがさっき言った言葉覚えているだろう?」
「あっ!!」
(しまった!つい勢い余ったせいで全部話しちゃっていたのか……)
そこでようやく自分がしくじってしまったことに気付かされたのであった。しかし彼女は呆れた表情を見せるどころかむしろ嬉しそうな笑みを浮かべていたのである。
「やっと気づいたかい。まぁ今更遅いんだけどねぇ。それより聞きたいことがあるんだが答えてくれるかい?」
「はい、何でしょうか?」
「あんた一体どこから来たんだい?」
「……」
私は無言のままじっと彼女の顔を見つめ続けた。だがそれでも諦めずずっと視線を逸らすことなくこちらの様子を窺っているようだった。そのためこちらも負けじと見続けていると不意に彼女から溜息が漏れ聞こえてきた。
「仕方ないね、どうせ本当のことを話すまで引き下がるつもりもないんでしょ?」
「ああ、勿論さね。そのためにわざわざあんたに料理を振る舞わせてやったんじゃないかい」
「料理に関しては単に私が食べたかっただけだと思っていましたよ。でもそうですね……それじゃあ一つお願いを聞いてもらえますか?」
「なんだい言ってみな」
「私の料理を食べてくれませんか?」
「へぇ……どういう風の吹き回しだい?」
「いえ、ただの興味本位です」
(それに今後のことを考えればこれくらいのリスクは背負わないと駄目そうだしな)
「ふぅん、そいつは面白そうな提案だね。良いだろう、乗らせて貰おうじゃないの。その代わりしっかり食べさせて頂くとするから覚悟しておくことだね」
そう言うとニヤリと笑ってみせると席に座り直して食事を再開し始めた。そして私もまた先程の続きを始めることにしたのだ。
食事を終えた後、彼女が手洗いに向かったタイミングを利用して私は再び鑑定スキルを発動させるとその結果を見て思わず苦笑いを浮かべずにはいられなかった。何故ならそこには『状態:健康』という文字が表示されたからである。
(まさか病気すら治せるとは思わなかったな。いやそれだけじゃなく怪我や体力回復の効果もあったみたいだし)
実はこっそりと彼女に飲ませたスープの中にとある薬を混ぜ込んでいたのだがどうやら効果てきめんのようだ。もっとも今回はあくまで予防のためであり完全に完治させるためではなかったりする。というのもこれから話す内容を少しでも信憑性を高めるためにどうしても必要なことだったからだ。
それからしばらくして戻ってきた彼女と入れ替わる形で今度は私の方が用足しに行く振りをしてそのまま家を出る。その際に玄関先に例の手紙を残しておくことも忘れなかった。
(よしこれで準備完了っと)
こうして全ての仕込みを終えるとその日はそのまま宿に戻り休むことにする。次の日の朝になるといつものようにギルドに向かい依頼書を確認してから適当なものを選ぶとそれを受けて早速出発する。今回選んだのは西の森に生息する魔獣の討伐だった。
目的地に着くとまずは気配探知を使って周囲に敵がいないかを確かめていく。すると程なくして数体の反応を見つけることができたためすぐにその場所へと向かう。そこではゴブリン達が群れをなしながら辺りを彷徨いていた。
「う~んこれはちょっと面倒かもな」
そう呟きながらもとりあえず倒さないわけにはいかないので仕方なく戦闘を開始することにしたのである。
「刀の風!」
詠唱と共に魔法を放つと無数の小さな竜巻が現れてそれが一気に襲いかかる。その攻撃により三体があっさり倒されたことで残りの四体は驚いた様子を見せたもののすぐさま臨戦態勢に入ったようで一斉に飛びかかってきた。
(やっぱり数が多い分少し手間取りそうだな)
次々と襲いくる攻撃を冷静に見極めると最小限の動きで避けつつ的確に反撃していく。やがて最後の一体も倒すことに成功すると念のために死体の処理を行ってからその場を離れたのである。
その後も順調に狩りを続けていき、昼頃になると一旦切り上げて町に戻ることにしたのであった。
冒険者になってから一週間ほどが経過したある日のこと。私は一人で森の奥へと向かっていた。今日の目的は素材の採集ではなく魔物との戦闘経験を積むことである。
目的の場所に到着すると周囲を警戒しつつゆっくりと近づき、相手がまだこちらに気づいていないのを確認すると魔法で先制攻撃を仕掛けることにした。
「土槍!」
地面より現れた数本の石でできた鋭い円錐状の物体が次々と貫いていった。攻撃を受けたボア達は悲鳴をあげながら絶命する。その後しばらく警戒していたが他に敵の影がないことを確かめるとようやくホッとして一息ついた。
「ふうっ何とかうまくいったかな?」
今回の目的はこの前の反省を活かしてなるべく安全第一を念頭において行動していたのである。そのため必要以上に慎重になっていたのかもしれないがそれでも油断せずにここまでやってきたのだ。
「さてと、それじゃあさっきの奴らを解体するか」
そう言ってアイテムボックスの中からナイフを取り出すと早速作業に取りかかる。ちなみに今日の獲物はこの前とは違いボア達だけではない。他にもラビットやウルフといった比較的弱い部類のものも一緒に狩っていたのであった。
「それじゃあ始めようか。まずは皮剥ぎからやっていこうか。えーっと確かこんな感じのはず……」
記憶を頼りに見様見真似ではあるがなんとか無事に済ませることに成功した。次に肉を切り分けようとしたところでふと思いつくことがあり試しに手頃な大きさにして焼いてみることにしたのである。
「おおっ!これってもしかして成功なんじゃないのか?」
出来上がった串焼きを見て思わず感嘆の声をあげるとそのまま齧り付くようにして口に運ぶ。
「うん、我ながら中々美味しいんじゃないかな?それにしても自分で調理したものを食べるなんて久しぶりだなぁ」
そんなことをしみじみ思いつつもあっという間に完食してしまうと満足げにお腹をさすったのだった。
「さあ、気を取り直して続きを始めますか!!」
「……はいぃいいい!?」
思わず大声で叫びそうになるのを必死に抑えつつ何とか平静を取り繕いながらも頭の中は既にパニック状態になっていた。というのもあまりにも衝撃的すぎて理解するのに時間がかかってしまったからである。
(嘘でしょ?だってどう見ても10代の見た目なのに実際には倍以上の年齢ってありえないでしょう!一体全体何が起きたらこんなことになるのよ!)
あまりのショックの大きさに思考が完全に停止してしまいただ呆然と見つめるだけの人形のような状態でいると彼女が苦笑しながら話しかけてきた。
「なんだいその顔は何かおかしなことでもあったのかい?」
「いえ……なんでもありません……大丈夫ですから気にしないでください……はい」
それだけ返すのがやっとであったがなんとか自分を奮い立たせると今度は逆にこっちからも問いかけることにした。
「それで結局交換したいものというのはいったいなんですか?」
(よし、ちょっと落ち着いてきたみたいだしそろそろいいかげん本題に入ろうかな)
ようやく落ち着きを取り戻したことで冷静に物事を考えることができるようになってきたためいつまでも脱線している場合ではなかったと考えを改め直すと早速話題を切り出すことにした。
「それじゃあ話を戻すけどまずはこれを見てもらえるかしら」
そう言って懐に手を入れるとそこから取り出した物をテーブルの上に置くとそれを見た瞬間目を大きく開き驚愕したのだった。
「これは……どうしてあなたがこれを持っているんですか!」
それはかつて自分が使用していた愛用の木剣だったのだがなぜそれがここにあるのかと困惑しながらもじっと見つめているとその理由を聞かされたのだった。
「なぁるほどそういうことだったんだね、道理でおかしいと思ったんだよ」
彼女は納得したかのように何度も首を縦に振ると一人うんうんと感慨深く呟いていた。そんな様子を目の当たりにしてますます混乱してしまうことになった。
(あれぇ?ひょっとしてこの人勘違いしたまま話し続けてないかしら)
このまま放置しておくとまた話が逸れそうな気がしたため慌てて訂正することにした。
「ちょっ、ちょっと待って下さい!!確かに私は以前これを使っていましたが今はもう持っていないんですよ!!」
「ん?どういう意味だい?」
「そのままの意味ですよ。そもそも私が使っていたものは木でできたものですし柄の部分も木製だったはずなのですが……」
そこまで説明したところでハッと気づいた。
「まさかこれが魔導具だということに気づいていなかったというオチじゃないですよね?」
恐る恐るという感じで聞いてみるとあっさり肯定されてしまった。
「ああその通りさね。こいつは前に会った時に持っていたのと同じ物だろうと思ってたんでね。だから同じものが欲しいんだけど譲ってくれないだろうかねえ~」
「うーんどうしよう……」
正直迷っていた。別に売ること自体は構わないと思っている。しかし問題は値段設定だ。仮に金貨1枚だとするとかなり高額になるし安くても銀貨5~6枚といったところだろうか。いくら何でも安すぎるような気もするがだからといって高くすれば間違いなく買えないと思う。かと言ってここでケチれば今後の付き合いに影響が出かねないためここはやはり慎重にならざるをえなかったのだ。
「とりあえず実物を見せてもらえます?」
「わかったよ。ほらここにあるから見てみなよ。気に入ったものがあったらいいなずけておくれ。あとお金はこの袋に入っているから好きに使うといいわ」
言われるままに手渡された品を確認するために手に取ってみる。見た目は特に変わった点は見受けられなかった。そして軽く振ったところでふとあることに気がついた。
(なんか少し軽くなっている?)
不思議に思いつつも鑑定をかけてみた。その結果出てきた情報は次の通りであった。
==========
名称:魔法の短杖(改)
詳細
:魔力を流し込む事により使用者の意思によって様々な魔法を放つ事ができるようになる魔道具。ただし使用出来る回数には制限があり使い過ぎると壊れてしまう為注意が必要となる。製作者は不明。
===
「へ~すごい性能ですね、これはいったいどこで手に入れたんですか?」
素直に関心して尋ねてみると意外な答えが返ってきたのである。
「実はねぇ~昔ある人物に譲ってもらったのよねぇ~」
「えっ、そんな大切なものを私みたいな素性もよくわからない人間に渡しちゃっても良かったんですか?」
「まぁあんたが悪用するような奴でないことはわかっているからねえ~それにもし万一変なことしようとした時はあたしゃ容赦なく殺すつもりだよ。だけど今の所そういった気配はないようだしさっき言ったように悪いようには扱わないだろうと思えたんで渡しても問題無いと判断したわけよ」「なるほど……でもそうまで信用してくれたのであればこちらもきちんと応えないといけませんよね」
「いやいやまぁ無理する必要は無いよ。あくまでこれはあたしん個人の気持ちの問題であって強制するつもりは一切ないんだからね」
「いいえ、お言葉ではありますが自分の中で既に決めました。是非ともあなたの期待に応えてみせましょう!」
「おお!やる気満々のようじゃないか。いいよ、ならば見せてもらうとしますか」
「はい、任せておいて下さい!必ず満足させてあげますよ」
こうしてお互いに意気込みを見せるといよいよ交渉へと移ることになったのだった。
(よし!まずはこれを試すチャンスが来たぞ!)
心の中で密かにガッツポーズを決めると早速行動を開始した。
「ではいきます!『ファイアクラッシュ』」
詠唱と同時に手のひらの前に小さな火球が出現するとその勢いのまま発射されたのだった。
「ほう中々やるじゃないかい!」
彼女が感嘆の声を上げるとパチパチ拍手しながら喜んでいた。その顔からはまるで子供のようでとても先程までの威厳のある姿とはかけ離れていた。
「ありがとうございます。ですがまだこれからです」
(次はあの技だな)
次に頭の中にイメージを浮かべると今度は別の呪文を唱えた。
「続いて行きますよ、『ウインド』『サンダーブレー』『ストーンバレ!』……」
次々と発動させていくとテーブルの上に並べられた商品が次々と切り刻まれていったり燃え上がったりと破壊されていきやがて全てが終わると同時に煙が立ち込めるとそこにはボロ雑巾のように変わり果ててしまった元商品があった。
「これでどうでしょうか?」
恐る恐るという感じで聞いてみると何故か呆れた表情をしていた。
「あ、あれぇ?何か間違えてしまいましたかね?」
不安になって尋ねると溜息を吐きながら残念なものを見るかのような目を向けられた。
「違うわよ。確かにこの店のものは全て売り物なんだけれどどれもこれも結構良いものばかりだから壊される前に処分できてむしろ感謝しているくらいさ。ただねぇ~こんな狭い部屋でそんな威力の高い魔法ぶっ放したらこうなっちまうってことを想像できなかったのかしらね?全くこれだから素人は困るんだよ」
「あっ……」そこでようやく自分が何をしてしまったかということに気づいたのであった。
「ごめんなさい!!まさかここまで酷いことになるなんて思ってもいなかったのでつい……」
慌てて謝ったが時すでに遅しという感じであり弁償するにしても一体どれ程の金額になってしまうだろうかと考えるだけで頭が痛くなってきた。だがしかしそれは予想に反して意外な言葉が掛けられることになった。
「別に気にしなくて大丈夫よ。そもそもあんたがこれを売った相手もそういうつもりでいただろうし代金だってちゃんとしたはずさ。それよりも今一番気になることがあるんだけど教えてもらってもいいかしら?」
「はい何でしょう?」
「なんだいこれは?」
彼女は目の前に置かれた皿を指差すとそのまま質問してきたのである。
「ああ、これは私の作った料理ですよ」
「これがかい!?冗談はよしておくれ。どう見ても炭にしか見えないじゃないの。それとなんだい、焦げ臭い上に鼻につく嫌な匂いまで漂ってくる始末だしねぇ」
そう言いつつ顔をしかめる彼女だったがそれでも食べるつもりなのかフォークを手に取るとそれを突き刺そうとしたその時だった。
バチンッ!!!突然大きな音が響き渡ると彼女の手からフォークが弾かれ床へと落ちていたのだ。さらによく見るとナイフの方も同様に弾き飛ばされてしまっていた。
「ん、いったいなんだいこれは?」
不思議そうな目で自分の手元を見ながら首を傾げると拾い上げようと手を伸ばしたのだがまたしても同じようにして再び弾き飛ばれてしまう事態に陥った。その様子を見て私は思わず苦笑いを浮かべずにはいられなかった。何故ならそれが私が仕掛けたものなのだからだ。
(上手くいってくれたか……)
実は彼女に渡した品々にはこっそりと対となる魔道具が仕込んであったのである。そしてそれこそが先程使用した魔法の短杖と同じ製作者不明とされていたものであった。鑑定によれば使用回数に制限があると書かれていたことから恐らく使い捨てであると考えた結果、こういう使い方を思い付いたのである。ちなみに短杖に込められている魔力は最初に魔力を流し込んだ時に吸い取られており、既に空っぽの状態となっていたため今の所使用回数は0回となっているはずだ。
「すみません。ちょっと手が滑ってしまったみたいですね」
そう言って誤摩化しつつ落ちた物を拾おうとすると今度は横から伸びてきた手に掴まれてしまった。
「待ちな」
「えっと……どうかしましたか?」
「どうやらこれはあたしゃの勘違いじゃなかったようだね」
(あ~やっぱり気がつかれたか)
内心冷や汗ダラダラ状態で平静を取り繕いながら返事をした。
「なんのことですか?」
「惚けるんじゃないよ!こんなことできるのはあんたしかいないじゃないかい」
「はぁ~でも私本当に何も知りませ」
「嘘つくのはもう止めときなって!いくらなんでもしつこいと怒るわよ」
「うっ……わかりました。降参です」
(これ以上粘っても無駄っぽいな)
観念すると両手を上げ抵抗の意思がないことを示した。それから詳しい説明をするべくゆっくりと口を開いたのだった。
「それでどうしてわかったんですか?」
正直ここまで早く見破られるとは思っていなかったので驚きを隠せなかった。
「まず第一としてこの店にある商品達全てが綺麗すぎるということだよ。これだけの量があってしかもそれなりに高価な代物だとしたら普通もっと傷だらけになっていてもおかしくはないはずなのにそういった形跡が全く見当たらない。つまり誰かによって事前に手入れされていた可能性が高いわけだ」
「なるほど……」(流石商人だけあって観察力が鋭いな)
「それにもう一つある。それはあんたが最初に使った魔法だ」
「あれってそんなに大したことありませんでしたよね?」
確かに初級クラスの攻撃呪文ではあるがそこまで驚くような内容ではないと思っていた。しかし彼女は真剣な眼差しで話を続けた。
「あの時放った火球、本来あんな程度の大きさではこの部屋全体を焼き尽くすことは到底不可能に近いんだ。仮にできたとしてもせいぜい半分ってところだろうさ」
「そんな馬鹿な!」
(確かに言われてみるとその通りかもしれないけどあれは間違いなく全力で発動させたものだったぞ?)
「いいかい?そもそも魔法っていうのは発動させる対象に対してどれだけ正確なイメージができるかどうかが全てなんだよ。だから例え同じ魔法を使ったところで人それぞれで威力が異なるってのは当然の理屈さね。ただし例外もあるけれどそれはまた別の機会にしておこうかね。さて話を戻すが、もしあの時あんたが本気で燃やすつもりだったのならば今頃ここは火の海になっていたはずなんだ。だけど実際はそうはならなかった。それは何故かと言うとあんたが途中で力を抑えたこと以外に考えられないのさ」
「いやいやそんなはずありませんよ。現に手加減なんて一切しなかったはずですよ?」
「そりゃあんたが本気を出したつもりでいただけだよ。だってあんたがさっき言った言葉覚えているだろう?」
「あっ!!」
(しまった!つい勢い余ったせいで全部話しちゃっていたのか……)
そこでようやく自分がしくじってしまったことに気付かされたのであった。しかし彼女は呆れた表情を見せるどころかむしろ嬉しそうな笑みを浮かべていたのである。
「やっと気づいたかい。まぁ今更遅いんだけどねぇ。それより聞きたいことがあるんだが答えてくれるかい?」
「はい、何でしょうか?」
「あんた一体どこから来たんだい?」
「……」
私は無言のままじっと彼女の顔を見つめ続けた。だがそれでも諦めずずっと視線を逸らすことなくこちらの様子を窺っているようだった。そのためこちらも負けじと見続けていると不意に彼女から溜息が漏れ聞こえてきた。
「仕方ないね、どうせ本当のことを話すまで引き下がるつもりもないんでしょ?」
「ああ、勿論さね。そのためにわざわざあんたに料理を振る舞わせてやったんじゃないかい」
「料理に関しては単に私が食べたかっただけだと思っていましたよ。でもそうですね……それじゃあ一つお願いを聞いてもらえますか?」
「なんだい言ってみな」
「私の料理を食べてくれませんか?」
「へぇ……どういう風の吹き回しだい?」
「いえ、ただの興味本位です」
(それに今後のことを考えればこれくらいのリスクは背負わないと駄目そうだしな)
「ふぅん、そいつは面白そうな提案だね。良いだろう、乗らせて貰おうじゃないの。その代わりしっかり食べさせて頂くとするから覚悟しておくことだね」
そう言うとニヤリと笑ってみせると席に座り直して食事を再開し始めた。そして私もまた先程の続きを始めることにしたのだ。
食事を終えた後、彼女が手洗いに向かったタイミングを利用して私は再び鑑定スキルを発動させるとその結果を見て思わず苦笑いを浮かべずにはいられなかった。何故ならそこには『状態:健康』という文字が表示されたからである。
(まさか病気すら治せるとは思わなかったな。いやそれだけじゃなく怪我や体力回復の効果もあったみたいだし)
実はこっそりと彼女に飲ませたスープの中にとある薬を混ぜ込んでいたのだがどうやら効果てきめんのようだ。もっとも今回はあくまで予防のためであり完全に完治させるためではなかったりする。というのもこれから話す内容を少しでも信憑性を高めるためにどうしても必要なことだったからだ。
それからしばらくして戻ってきた彼女と入れ替わる形で今度は私の方が用足しに行く振りをしてそのまま家を出る。その際に玄関先に例の手紙を残しておくことも忘れなかった。
(よしこれで準備完了っと)
こうして全ての仕込みを終えるとその日はそのまま宿に戻り休むことにする。次の日の朝になるといつものようにギルドに向かい依頼書を確認してから適当なものを選ぶとそれを受けて早速出発する。今回選んだのは西の森に生息する魔獣の討伐だった。
目的地に着くとまずは気配探知を使って周囲に敵がいないかを確かめていく。すると程なくして数体の反応を見つけることができたためすぐにその場所へと向かう。そこではゴブリン達が群れをなしながら辺りを彷徨いていた。
「う~んこれはちょっと面倒かもな」
そう呟きながらもとりあえず倒さないわけにはいかないので仕方なく戦闘を開始することにしたのである。
「刀の風!」
詠唱と共に魔法を放つと無数の小さな竜巻が現れてそれが一気に襲いかかる。その攻撃により三体があっさり倒されたことで残りの四体は驚いた様子を見せたもののすぐさま臨戦態勢に入ったようで一斉に飛びかかってきた。
(やっぱり数が多い分少し手間取りそうだな)
次々と襲いくる攻撃を冷静に見極めると最小限の動きで避けつつ的確に反撃していく。やがて最後の一体も倒すことに成功すると念のために死体の処理を行ってからその場を離れたのである。
その後も順調に狩りを続けていき、昼頃になると一旦切り上げて町に戻ることにしたのであった。
冒険者になってから一週間ほどが経過したある日のこと。私は一人で森の奥へと向かっていた。今日の目的は素材の採集ではなく魔物との戦闘経験を積むことである。
目的の場所に到着すると周囲を警戒しつつゆっくりと近づき、相手がまだこちらに気づいていないのを確認すると魔法で先制攻撃を仕掛けることにした。
「土槍!」
地面より現れた数本の石でできた鋭い円錐状の物体が次々と貫いていった。攻撃を受けたボア達は悲鳴をあげながら絶命する。その後しばらく警戒していたが他に敵の影がないことを確かめるとようやくホッとして一息ついた。
「ふうっ何とかうまくいったかな?」
今回の目的はこの前の反省を活かしてなるべく安全第一を念頭において行動していたのである。そのため必要以上に慎重になっていたのかもしれないがそれでも油断せずにここまでやってきたのだ。
「さてと、それじゃあさっきの奴らを解体するか」
そう言ってアイテムボックスの中からナイフを取り出すと早速作業に取りかかる。ちなみに今日の獲物はこの前とは違いボア達だけではない。他にもラビットやウルフといった比較的弱い部類のものも一緒に狩っていたのであった。
「それじゃあ始めようか。まずは皮剥ぎからやっていこうか。えーっと確かこんな感じのはず……」
記憶を頼りに見様見真似ではあるがなんとか無事に済ませることに成功した。次に肉を切り分けようとしたところでふと思いつくことがあり試しに手頃な大きさにして焼いてみることにしたのである。
「おおっ!これってもしかして成功なんじゃないのか?」
出来上がった串焼きを見て思わず感嘆の声をあげるとそのまま齧り付くようにして口に運ぶ。
「うん、我ながら中々美味しいんじゃないかな?それにしても自分で調理したものを食べるなんて久しぶりだなぁ」
そんなことをしみじみ思いつつもあっという間に完食してしまうと満足げにお腹をさすったのだった。
「さあ、気を取り直して続きを始めますか!!」
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この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
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