教室のミルク

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教室のミルク

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廃校になった小学校の教室を借りて私は古着屋を営んでいる。
床には長年、子供達がここで過ごした証なのか、木目の床はツルツルとしていて光沢がある。
お店ではランドセルを入れていた棚にTシャツやトレーナーなどを分けて収納している。

この小学校は数年前に東京都から不動産会社が払い下げた。
グラウンドの内側には取り囲むように50戸の建売住宅ができ、中心部には芝生や木が植えられ広場になっている。
クリスマスには校舎やその住宅がイルミネーションを飾り、
夏には広場でバーベキューをする姿も見受けられる。
校舎の一階には給食を作っていた厨房を使い、中華料理店とイタリアンのレストランが入り、小児科医院と歯医者もある。
二階は図書室が古本屋さんとカフェになり、図工室は美術大学がアトリエを開いていて、私の古着屋や美容院もある。
3階は進学塾とスポーツジムが入っていて
外にあるプールは平日はスポーツジムが使い、週末は一般に開放している。
体育館は逆に平日は一般に開放していて、週末にミニバスケットボールの大会やアマチュアのバレーボールの大会なんかをそれぞれの団体が開催している。
大会が開催される日は屋上がビアガーデンになり、中華やイタリアンを頼むこともできる。

大田区が今回、夏の祭りを企画していて開催が週末に迫っている。
3階のスポーツジムが場所を提供し、地元の高校がお化け屋敷を作るそうだ。
体育館は舞台を使い、劇団やアマチュアバンドや高校の吹奏楽部の演奏も行われるそうだ。
大田区、東京都、不動産会社などが参加して数年前に始まった小学校の再利用プロジェクトは思った以上に盛況で地元の住民からも好評を得ている。


私は古着屋をやりながら校内のセキュリティも担当している。
夜になるとお店は全て閉まってしまうため小学校だった頃のように無人になり、音一つ聞こえない。
今日は巡回警備のため、3階の進学塾の前に来た。
ドアの前にあるセキュリティパネルを開けると、ランプは緑から赤に変わっていた。
セキュリティが解除されているということだ。
一気に緊張は高まり、私はドアを開けると身構えた。
「そこで、何してる?」LEDライトをかざし、私はそう言って詰め寄った。
そこには小学生高学年ぐらいの男の子が何かを抱いてうずくまっていた。
「家の近くで猫の赤ちゃんを内緒で育ててたんだけど、今日、お母さんにバレて捨てて来いって言われた」
猫は男の子から飛び降りると下にあった小さな皿から牛乳をペロペロと舐め始めた。
「ここでも飼えないと思うぞ」と私が言うと
「いつも牛乳を美味しそうに飲むし、真っ白だからミルクって名前にしたんだ」と男の子は言った。
私は店の名前はブラウンシュガー、目の前の子猫はミルク
仕方ないな、なんかの縁かなと思い
「おじさんのお店で飼う事にするよ、ミルクに会いたいときは遊びに来な」男の子はうなづくとミルクを抱き上げ、私に手渡した。
「でも、どうやってセキュリティを開けた?」私が聞くと
「この間、塾に早く来たらまだ開いてなかったんだけど
先生が来て開けてくれたんだ」ミルクは自分の前足をペロペロと舐めながら目を細めている。
「暗証番号はどうした?」
「後ろから4桁は覗いて見えた3141」
「6桁にするにはまだかなりの組み合わせがあったんじゃないか?
3回しか試す機会は無いはずだが?」
「算数の先生だったから、これしかないって思ったんだ
314159」ミルクは私の胸に顔をうずめて寝息を立て始めた。
「なるほど、円周率か」
「そういう事、じぁ僕帰ります」男の子はミルクの頭を撫でると教室を出て行った。

ミルクはそれ以降、私の店に住み着き
お客さんが来ると私にみぁ~と鳴き、教えてくれるようになった。



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