生贄として転移した死神暗殺者がチートです

ケポリ星人

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Episode1

【Episode1(8)】

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「ぬぁ~にを言っておるのだ、律は……むぐっ」
「律? 誰の事でしょう?」

 営業スマイルを顔に張り付けた律が、ノアの口をさっと塞ぐ。
 律達の今の状況は、誰がどう見ても誤魔化せるような状況では無い。
 だが、相手がどこまで自分達のことを知っているのかを聞き出したい律は、律など知らないと言い張った。

「嘘をつくな! 黒髪、黒服、アイテムボックス……そして、その金貨。村から取ってきた物だろう!」

 アイテムボックスは、誰でも使えるわけではない。
 レベルと共に大きくなるものの、潜在的な要素が大きく、使う人の数は限られてくる。

 更に、本当に偶然だが、ノアは今、黒い服を着ている。
 それはノアが持っていた魔王の衣装とも呼べるような服の中で、それでもまだ普通の人っぽく見えそうな服を、律がチョイスした結果なのだが……どうやら仇となってしまったようだ。

「ふんっ。それで何の用なのだ、矮小な人間どもよ!」

 酔って顔を真っ赤にしたノアが、片手に持っていた酒瓶さかびんを握力だけで粉砕する。
 兵士達がびびって、一歩後ろへ下がる。
 一つの村を壊滅させ、十八人もの屈強な男達を惨殺した話は、どうやら彼らにも伝わっている様だ。
 どうしたものかと思った律が、そっと索敵を覗いた。

 この人数位なら蹴散らせないこともない。
 ただ、これ以上つけまわされるのも面倒だ。

 兵士の中のリーダーらしき男が、半分脅えた様子、もう半分は律を連れて帰った報酬を想像したのだろう、下卑た笑みを浮かべて、槍を前に突き出した。

「領主様のところまで一緒に来てもらおう。そちらの細身の男も一緒にな!」
「良い度胸だ! 相手をして――」
「わかりました。領主様に会いましょう」

 ノアが振り返る。
 ここからがいいところなのにと、顔で律に訴えた。



 律とノアが兵士達に連行される一方、律が召喚された村から移動していた人達は、各々解散し、それぞれの故郷へと向かっていた。
 律が助けた少女とその母親は、自分たちの居た村へ帰るべく、村で買い物を済ませ、荷馬車の荷台に乗せてもらえないかと、通りかかる行商人達に交渉していた。

「お母さん、私達は宿に泊まらないの?」
「私達の村までは距離があるから、節約しないといけないの。でも、ここら辺で少し休みましょうか」

 律や、他の村人達が来たのとは反対方向の城門の前にいる親子は、平たい石の上に腰かけた。

「そこの人達、すみません。相乗りの馬車を探していると聞いたのですが……」
「まぁ」

 親子は、気付かなかった。
 その商人風の男の後ろ、森の陰に、何人かの男達が隠れているという事に。
 それがこの世界で合法化されている商売、奴隷商人の雇った一団であることに。



 両腕に錠を掛けられた律とノアは、領主の居る邸宅へと兵達に連れられて来ていた。
 錠には攻撃力半減、魔力半減の効果が付いているが、死神のスキルを持っている律と、絶対防御のスキルを最大まで上げているノアにはまるで効果がない。
 尤も、その効果を付与されている錠というだけでかなり貴重な物であり、ある意味滅多にお目にかかれない代物ではあるのだが。

「これ、ねじ切っていいか?」
「どっちでもいい」

 実は既に針金で錠を開けてしまっている律と、純粋に攻撃力のみで錠を破壊できてしまうノアの前に、錠は、兵士達を安心させるという以外の何の効果も持たない。
 それも、領主の居る館という本丸に入ってしまえば、今更意味のある物ではなく、ノアは小声で律に呟いた。

「そのままにしておく。律に対して、こんな扱い方をする領主とやらの顔を拝んでみたいものだ」
「……そうだな」

 ノアは、黒いフェンリルで元魔王だ。
 魔王とは、力で他の魔族を従わせ、魔族達をまとめ上げ、統治する存在のことだが、魔王がまとめる組織がある一定以上大きくなると、必要なパワーバランスは個人単体の力よりも、統治する力や賢さに傾く。
 ノアが、昔強力な魔王たりえたのも、ノア単体の力に加え、狼特有の高い統率能力と賢さを有していたからだった。

 高い知性を持ち、仲間思いだった魔王ノアは、色々なことを割り切っている。

 ノアが、「律に対して、こんな扱い方をする領主」と伝えたのも、自分の生贄にされそうになった人達を助けた律という人物に対して、その群れのリーダーの一人たる領主が、礼の一つもなしに呼びつけるなんて、という意味を孕んでいるからで、その意図を察した律は、なんとなく、苦笑いをした。

 殆ど酔いのさめてしまった魔王ノアと、索敵を開いて館に居る人達の人数を数える律は、ひときわ大きな扉の前まで案内される。
 兵士が重厚なドアに三回ノックをすると、「入れ!」と中から返事が返ってきた。

 扉の中に入ると、一番奥のテーブルの上でふんぞり返っている男と、書生らしき男が一人、深いフードで顔の隠れている魔法使いらしき男が一人と、見知った顔二人が並んでいた。
 見知った顔一人目は、律が小屋へ死体を確認しに行こうとしたときに「あのぉ、あの蛮族どもの家に、一体何の御用が……」と、引き留めた男だ。
 もう一人は、少女を人質に取り、律に返り討ちにあった男だ。
 引き留めた方の男が、ふんぞり返っている方の男に耳打ちする。

 村から帰る、荷馬車の上には乗せられていた……この村に着いた途端、領主に引き渡されたのか。

 律とノアが部屋の中央に向けて進む。
 しかし、二人ともピタリとあるラインで止まった。

「どうした、前に進に――」

 律が、無言で近付いてきた兵士の腕をひねって後ろを向かせる。
 盾一枚といわんばかりにぴったりと兵士の後ろについた律は、兵士の首に刃物を当てた。

「いたたたっ!!」
「何をする! 手を離――」
「茶番はこれくらいにしておきましょう。フードを被った領主様」

 敵か味方かわからない暗殺者の目の前に堂々と出てくる。
 ノアの様に力の強い魔王ならばありえない話ではないが、地位と権力が強みの領主が、そんなことをしてくるとは思えない。
 それに、部屋の中心でふんぞり返っている男は、服は上等だが、靴が汚れている。
 大方、いざとなった時の替え玉を用意したのだろうと察した律は、じっとフードの男の動きを見た。
 ノアも、両手にかかった錠を適当に捻り潰して、近場の兵士をかなりぞんざいに人質に取り、律の出方を見た。

「何を言っている。私が領主だ。もう少し前に――」
「そのかなり面倒くさそうな魔法陣の中まで進めと? なかなか楽しいご冗談だ」

 床に書かれている魔法陣には、不可視の魔法がかかっていた。
 しかし、律が魔法陣に僅かに足を踏み入れかけた瞬間、律にとって “呪”とも呼べるようなその魔法が、死神のスキルによって無効化され、魔法陣が姿を現したのだ。
 勿論、くどいようだが、絶対防御のスキルを持つノアと死神のスキルを持つ律は、例え魔法陣の中に入ったとしても、その効果を受けない。
 しかし、自分が持っているスキルを領主陣営に知られたくない律とノアは、その魔法陣に足を踏み入れなかった。

「解呪か……」

 魔法使いのフードを被った男が、軽く舌打ちをする。
 もう意味がないと悟った様にフードを外した。

「領主様!」
「お下がりください」

 兵士達は、椅子の上でふんぞり返っている男ではなく、フードの男の前に集まる。
 どうやら、律の読みは正しかったようだ。

「こちらも、あまり表立って敵対するつもりはありません。要件を教えて欲しい、と言いたいところですが……」

 律は、どうしたものかと考える。
 なんとなく、村にいたメンバー、ここにいる男二人から、領主が欲しい物に察しが付いてしまったからだ。

 それもその筈、この男達が話しかけてきたのは、いつだったか。
 一人目が話しかけてきたのは、燃え落ちた屋敷に入る前。
 二人目が話しかけてきたのは、カリスマスキルの持ち主の死体の横から燃えない本、契約の書を手に取ったすぐ後、つまり――

 領主は、契約の書が欲しかったのではないか。

 では、何故、領主と関係の深い、簡単に生贄にならなそうな彼らがあの村で生贄になりかけていたのか。
 なぜ、領の中でも辺境といえる様なこの村に、今、領主がいるのか。
 答えは簡単だ。

 領主は、最初から魔王を復活させ、その直前で魔王をコントロールする利権、契約の書を、かすめ取る気でいたのではないか。

 まず、発狂村の住人と生贄の中に、少しずつ自分の部下たちを混ぜる。
 生贄を集めるという、領主として表立って出来ない、醜聞にもなりかねないことを、勝手に集まり始めた発狂村の住人達にやらせる。
 自分は安全な場所から高みの見物をしつつ、直前になって魔王の復活を阻止するという名目で、村に乗り込む。
 あらかじめ潜伏させておいた部下達、例えば転移のスキルの持ち主が奪っておいた契約の書と、生贄を携え、魔王と契約を交わす。
 生贄たちに関しては間に合わなかったという事にして、それでも魔王の復活を阻止し、生贄をささげようとしていた狂人達は倒した……という事にすれば。

 領主としての、面目は立つ。

 頭の中で、もしもの可能性がぼんやりとつながり始めてしまった律は、笑えない苦笑いをする。
 目の前に居るのは、それこそ、マフィアのボスみたいな、意外ととんでもない悪意の塊を持った相手なのかもしれない。

「ノア、依頼をしたっていう事にしてくれないか?」
「依頼? なんだそれは」
「報酬は、さっき飲み屋でった金貨三枚ということで」
「おまっ! いつの間にっ!」

 こそこそと話す律が片手で、スッと金貨三枚を見せる。
 領主が声を苛立てて、律に聞き返した。

「言いたいところだが、なんだ」
「言いたいところですが、恐らく、領主様のご用件は、契約の書の譲渡……ですよね?」
「だったらなんだというんだ……」
「契約の書は、残念ながら紛失してしまいまして――」
「者ども、かかれっ!!」

 律が盾にしていた兵士の頸動脈を思い切り引き裂く。
 目を見開き、顎を引いてじっと領主を睨む律が、ノアに言い放つ。

「三十四人だ」

 ノアが律の顔を見たまま、にやりと口裂け女の様に真横に口の端を顔の両端まで広げて笑う。
 そのまま元のフェンリルの姿になったノアが、領主達に遅いかかった。
 周りにいた兵士や領主が、口を大きく開けたまま、一歩後ろへ引く。

「お前は、まお――」
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