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一章 きみと雨
2話
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「あの、今日は――」
「いいから早く行けよ。空気読めっての」
なけなしの勇気をふりしぼった僕に、隣の席の女子がぼそっとつぶやいた声が突きささった。
「? どうかした? もしかして、なにか用事でもある?」
「い、いえ……大丈夫です」
「本当? 行ってくれるの!?」
「……はい」
しぶしぶうなずくと、先生の顔がぱっと輝いた。
「ありがとう。松雪くんって本当にいい子よね。先生、大好き」
「えーっ! 松雪だけずるい。俺も先生大好きなのに! 先生、俺にも言って~」
「そうね。木ノ下くんが遅刻しなくなったら、考えてあげてもいいわよ」
お調子者の男子が声をあげ、先生は笑顔でかわす。
「そんな~!」
彼の叫びに、静かだった教室がどっと盛り上がる。隣の席の女子も、笑っていた。
僕もみんなに合わせて笑う。僕が笑っていてもいなくても、誰も気にしないことなんてわかっているのに。
先生からプリントを受け取って、ホームルームは終わった。上機嫌で教室を出ていくその後ろ姿を見送ると、
「そんなの、困る……」
誰にも言えない不満がこぼれてしまった。
すると、僕の前を通りかかった男子・宇佐美陽が足を止めて、こちらに視線を向ける。
彼にまっすぐに見つめられたのなんて初めてで、僕は動揺してしまう。
宇佐美のウェーブのかかった茶髪に、窓からの陽が差し、やわらかく輝いている。まるでスポットライトみたいだと思った。すらりとした長身に、整った顔立ち。彼が立っているだけで、平凡な教室がドラマのワンシーンなんじゃないかと錯覚してしまうくらい、宇佐美は美しかった。
彼が微笑みかければ、女の子はきっと簡単に恋に落ちるだろう。
けれど、いつも彼はその唇を固く結んで、他人を冷たい目で見ている。教室でみんながどんなに騒いでいても、〝自分には関係がありません〟というように、白けたような表情を浮かべて。彼と同じクラスになって話しかけていた女子もいたけれど、あまりの宇佐美の態度の悪さに、今では誰も相手をしなくなった。
そんな彼が、今は僕を見ている。それも、いつも以上に凍りつきそうな冷たい眼差しで。
あんなに無関心な宇佐美がじっと見てくるなんて……僕のひとりごとが、そんなに不愉快だったんだろうか。
彼はなにも言わずに視線をそらし、教室から出ていった。
まだ呆然としている僕の肩を、誰かがばしっと叩く。驚いて振りかえった。
「災難だったな、松雪」
「だよなー。大体、春江さんが不登校になったのなんて俺らには関係ないのに、押しつけられても困るよな」
一年の時からの友人の、菊池と森田が僕を気遣うようにそう言ってくれる。
「ほんとだよ。やべー、マジで行きたくねぇ……。あのさ、今日って――」
なんか用事あったりする?
僕がそう言い出そうとするのを感じ取ったのか、
「あ、俺、今日は急いで帰らなきゃいけないんだった。じゃ、頑張れよ、松雪」
「俺も予定あるから……またな、話は明日聞くから!」
まるで示し合わせたようなタイミングで、二人は教室を飛び出していった。
(まぁ、しかたないよな……)
僕はそれに怒ることもなく、諦めながら受け入れていた。
自分が友人に雑に扱われていることには気付いていた。だけど……、それでもいいと思う。あの時のような思いをするくらいなら。
僕は憂鬱な気持ちで、先生に渡されたプリントを鞄にしまった。置き勉しているためあまり教科書が入っていない鞄なのに、肩にかけるとずしりと沈みこみそうなくらい、重かった。
「いいから早く行けよ。空気読めっての」
なけなしの勇気をふりしぼった僕に、隣の席の女子がぼそっとつぶやいた声が突きささった。
「? どうかした? もしかして、なにか用事でもある?」
「い、いえ……大丈夫です」
「本当? 行ってくれるの!?」
「……はい」
しぶしぶうなずくと、先生の顔がぱっと輝いた。
「ありがとう。松雪くんって本当にいい子よね。先生、大好き」
「えーっ! 松雪だけずるい。俺も先生大好きなのに! 先生、俺にも言って~」
「そうね。木ノ下くんが遅刻しなくなったら、考えてあげてもいいわよ」
お調子者の男子が声をあげ、先生は笑顔でかわす。
「そんな~!」
彼の叫びに、静かだった教室がどっと盛り上がる。隣の席の女子も、笑っていた。
僕もみんなに合わせて笑う。僕が笑っていてもいなくても、誰も気にしないことなんてわかっているのに。
先生からプリントを受け取って、ホームルームは終わった。上機嫌で教室を出ていくその後ろ姿を見送ると、
「そんなの、困る……」
誰にも言えない不満がこぼれてしまった。
すると、僕の前を通りかかった男子・宇佐美陽が足を止めて、こちらに視線を向ける。
彼にまっすぐに見つめられたのなんて初めてで、僕は動揺してしまう。
宇佐美のウェーブのかかった茶髪に、窓からの陽が差し、やわらかく輝いている。まるでスポットライトみたいだと思った。すらりとした長身に、整った顔立ち。彼が立っているだけで、平凡な教室がドラマのワンシーンなんじゃないかと錯覚してしまうくらい、宇佐美は美しかった。
彼が微笑みかければ、女の子はきっと簡単に恋に落ちるだろう。
けれど、いつも彼はその唇を固く結んで、他人を冷たい目で見ている。教室でみんながどんなに騒いでいても、〝自分には関係がありません〟というように、白けたような表情を浮かべて。彼と同じクラスになって話しかけていた女子もいたけれど、あまりの宇佐美の態度の悪さに、今では誰も相手をしなくなった。
そんな彼が、今は僕を見ている。それも、いつも以上に凍りつきそうな冷たい眼差しで。
あんなに無関心な宇佐美がじっと見てくるなんて……僕のひとりごとが、そんなに不愉快だったんだろうか。
彼はなにも言わずに視線をそらし、教室から出ていった。
まだ呆然としている僕の肩を、誰かがばしっと叩く。驚いて振りかえった。
「災難だったな、松雪」
「だよなー。大体、春江さんが不登校になったのなんて俺らには関係ないのに、押しつけられても困るよな」
一年の時からの友人の、菊池と森田が僕を気遣うようにそう言ってくれる。
「ほんとだよ。やべー、マジで行きたくねぇ……。あのさ、今日って――」
なんか用事あったりする?
僕がそう言い出そうとするのを感じ取ったのか、
「あ、俺、今日は急いで帰らなきゃいけないんだった。じゃ、頑張れよ、松雪」
「俺も予定あるから……またな、話は明日聞くから!」
まるで示し合わせたようなタイミングで、二人は教室を飛び出していった。
(まぁ、しかたないよな……)
僕はそれに怒ることもなく、諦めながら受け入れていた。
自分が友人に雑に扱われていることには気付いていた。だけど……、それでもいいと思う。あの時のような思いをするくらいなら。
僕は憂鬱な気持ちで、先生に渡されたプリントを鞄にしまった。置き勉しているためあまり教科書が入っていない鞄なのに、肩にかけるとずしりと沈みこみそうなくらい、重かった。
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