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第二章 <断罪阻止>
第3話 <初の友人ができまして>
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教科書木っ端微塵事件が起こってから早くも1週間、特に何も事件は起こっていない。
しかし、最近のアシュガ様はやたらと私に甘い。
……いや、もともとやたらめったら甘かったのだが、その甘さに拍車が掛かっている。
「ローズ、あーん」
「恥ずかしいですっ……!」
赤面するローズと楽しげにローズの口元へクッキーを持っていくアシュガ。
二人が居るのは、寮にあるローズの部屋。
「リリー、紅茶のお代わりを頼む」
「かしこまりました。」
あの日から、毎日のように何かに誘われるのだ。
図書館へ行こうと言われたり、ローズの部屋にアシュガが来てまったりと過ごしたり、逆にローズがアシュガの部屋へ行ったり。
授業が終わるのは夕方、その後は自由時間になっている。
自由時間は、サロンでお茶会をしたり、勉強をしたり、サークルと呼ばれる同じ趣味を持った者達が集う会の活動をしたりと、それぞれが好きに過ごす時間だ。
私はこの1週間、お茶会に誘われる事も多々あったが、何故か返事をする前にアシュガ様に何かしら誘われるのでまだほとんど参加できないでいる。
「アシュガ様、その、最近どうしたんですか」
「ん?なにが?」
ニコニコとしたその顔の裏で何を考えているのかはわからない。
なんだか一人恥ずかしくなっている私に恥ずかしさを覚える。
「……最近は、ますます甘いです」
「ローズが可愛いのがいけないんだ。あぁ、食べたくなってしまうよ……」
そう言って首筋をペロリと舐めるアシュガ様。
背筋がぞわりとする。
「ひぁっ……!?」
「ローズは甘いね」
「そういうことを言わないで下さいませ!?」
「ふふ、可愛い」
あぁ、アシュガ様には何もかもお見通しなのだろうか。
私がアシュガ様を好きなことも、未来に怯えていることも、何もかも。
アシュガ様にはやっぱり敵わないな、と思う。
「アシュガ様」
私が弱いから、アシュガ様は私の不安を取り除こうとこんなに優しいのだろう。
もっと強ければ、アシュガ様を信じられれば。
シナリオなんかに負けないほどの強さがあれば。
ヒロインには、その強さがあるというのに。
「大好きです、アシュガ様。」
今の私は、ただ縋ることしかできていない。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
「無理だ、ローズが可愛い」
「気持ち悪い。黙ってくれ。」
我が主が腑抜けている。
何度も、何度でも言うが、我が主は麗しのヘルビアナ国王太子である。
その原因となっているのは、ヘルビアナ国の筆頭公爵令嬢、ローズ嬢だ。
どう見ても両想いだと言うのに、お互いがお互いに好かれていないと思っている節がある。
……どうしてこんなに拗れたのかは、わからない。
「ローズが、最近不安そうにするんだ」
「将来お前に監禁されるんじゃないかと不安なんじゃないのか」
冗談めかして、でも半分本気で言う。
……こいつは、やりかねない気がする。
「まさか。俺はそんなことしない」
驚いたように言うアシュガだが、
「ローズが俺から逃げようとしない限りは。」
と付け加えるのだから恐ろしい。
「……とにかく、ローズが何故不安なのか考えたのだが、愛が足りないのかもしれない」
「ぶっ」
大真面目な顔でとんでもないことを言うアシュガに、思わず吹いてしまう。
「んなわけねぇだろ、お前の愛は充分足りてるはずだ!つか多すぎるわ!」
「……でもそれ以外考えられない」
本当にそうだとしたらローズ嬢の感覚はかなり狂っていると思う。
「なんでそう思うんだ?」
「ローズは、俺が他の女の子に近付くと時々怯える」
「……それだけ聞くと確かに愛が足りていないというのが合っている気もするが……」
……ローズ嬢が狂っているのか?
「うん、だからもっとローズを愛する」
「それ毎日のように見させられている俺はどうすれば」
「耐えろ」
「ひでぇ!」
……そういえば、こいつは有言実行する奴だった。
今回も例外なく。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
連日のアシュガ様の甘さに耐えかねて、私はアシュガ様の誘いを断って(その代わり休日を一日丸ごとアシュガ様に献上する羽目になった)、本を読もうと中庭へ向かった。
座ると植物に遮られて辺りからは見えにくくなるベンチへ向かうと、そこには先客が居た。
「お隣、よろしくて?」
本を読んでいる茶髪の少女に声を掛けると、メガネ越しの賢そうな青い目が私のほうを向いた。
見たところ貴族の令嬢のようだが、名前は思い出せない。
「どうぞ、お座り下さい」
少し驚いたその目。
それをどこかで見たことがあるような気がするのは、気のせいだろうか。
ふと、彼女の手元の本に目がいった。
そこに書かれている挿絵を見た途端、私はあっと声を出してしまった。
彼女が本から目を離して、不思議そうにこちらを見る。
「あ……いえ、その本、私も大好きなので……」
「本当ですかっ!? 初めてです、同じような本を読んでいる人にお会いするの……!」
確かに、貴族のご令嬢はこのような本をあまり読まないだろう。
この本は、平民、それも男性向けの冒険小説なのだ。
魔法を使える平民の少年が国を作り、王となって成長していく話だ。
夢と希望が溢れるこの物語は、平民の少年達に大人気だそうだ。
「面白いですわよね、特に主人公が敵と戦う所などはかっこよくて大好きなのです」
「とってもわかります!私も――」
と、辺りが肌寒くなるまで大好きな本について話し込んでしまった。
そろそろ部屋に帰らなければ、リリーに叱られるだろう。
そう思っている時に、茶髪の令嬢が立ち上がって言った。
「では、私はそろそろ……」
そこで、私は彼女の名前を知らないことに気が付いた。
「……あの、お名前を聞かせていただいても?」
「あ、申し訳ありません。アカヤシオ子爵家三女、アザミ・アカヤシオです。幼い頃から体が弱くて、ほとんど社交会へ出た事が無いのでご存じないかもしれませんが……」
なるほど、それで誰かわからなかったのね。
「私はネーション公爵家長女、ローズ・ネーションですわ。またお会いしませんか?」
「もちろんです!」
嬉しそうに微笑むアザミを見て、先ほどの既視感はどこかへ消えてしまう。
ローズは、学園に入って初の友達が出来た事に心が弾んだ。
しかし、最近のアシュガ様はやたらと私に甘い。
……いや、もともとやたらめったら甘かったのだが、その甘さに拍車が掛かっている。
「ローズ、あーん」
「恥ずかしいですっ……!」
赤面するローズと楽しげにローズの口元へクッキーを持っていくアシュガ。
二人が居るのは、寮にあるローズの部屋。
「リリー、紅茶のお代わりを頼む」
「かしこまりました。」
あの日から、毎日のように何かに誘われるのだ。
図書館へ行こうと言われたり、ローズの部屋にアシュガが来てまったりと過ごしたり、逆にローズがアシュガの部屋へ行ったり。
授業が終わるのは夕方、その後は自由時間になっている。
自由時間は、サロンでお茶会をしたり、勉強をしたり、サークルと呼ばれる同じ趣味を持った者達が集う会の活動をしたりと、それぞれが好きに過ごす時間だ。
私はこの1週間、お茶会に誘われる事も多々あったが、何故か返事をする前にアシュガ様に何かしら誘われるのでまだほとんど参加できないでいる。
「アシュガ様、その、最近どうしたんですか」
「ん?なにが?」
ニコニコとしたその顔の裏で何を考えているのかはわからない。
なんだか一人恥ずかしくなっている私に恥ずかしさを覚える。
「……最近は、ますます甘いです」
「ローズが可愛いのがいけないんだ。あぁ、食べたくなってしまうよ……」
そう言って首筋をペロリと舐めるアシュガ様。
背筋がぞわりとする。
「ひぁっ……!?」
「ローズは甘いね」
「そういうことを言わないで下さいませ!?」
「ふふ、可愛い」
あぁ、アシュガ様には何もかもお見通しなのだろうか。
私がアシュガ様を好きなことも、未来に怯えていることも、何もかも。
アシュガ様にはやっぱり敵わないな、と思う。
「アシュガ様」
私が弱いから、アシュガ様は私の不安を取り除こうとこんなに優しいのだろう。
もっと強ければ、アシュガ様を信じられれば。
シナリオなんかに負けないほどの強さがあれば。
ヒロインには、その強さがあるというのに。
「大好きです、アシュガ様。」
今の私は、ただ縋ることしかできていない。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
「無理だ、ローズが可愛い」
「気持ち悪い。黙ってくれ。」
我が主が腑抜けている。
何度も、何度でも言うが、我が主は麗しのヘルビアナ国王太子である。
その原因となっているのは、ヘルビアナ国の筆頭公爵令嬢、ローズ嬢だ。
どう見ても両想いだと言うのに、お互いがお互いに好かれていないと思っている節がある。
……どうしてこんなに拗れたのかは、わからない。
「ローズが、最近不安そうにするんだ」
「将来お前に監禁されるんじゃないかと不安なんじゃないのか」
冗談めかして、でも半分本気で言う。
……こいつは、やりかねない気がする。
「まさか。俺はそんなことしない」
驚いたように言うアシュガだが、
「ローズが俺から逃げようとしない限りは。」
と付け加えるのだから恐ろしい。
「……とにかく、ローズが何故不安なのか考えたのだが、愛が足りないのかもしれない」
「ぶっ」
大真面目な顔でとんでもないことを言うアシュガに、思わず吹いてしまう。
「んなわけねぇだろ、お前の愛は充分足りてるはずだ!つか多すぎるわ!」
「……でもそれ以外考えられない」
本当にそうだとしたらローズ嬢の感覚はかなり狂っていると思う。
「なんでそう思うんだ?」
「ローズは、俺が他の女の子に近付くと時々怯える」
「……それだけ聞くと確かに愛が足りていないというのが合っている気もするが……」
……ローズ嬢が狂っているのか?
「うん、だからもっとローズを愛する」
「それ毎日のように見させられている俺はどうすれば」
「耐えろ」
「ひでぇ!」
……そういえば、こいつは有言実行する奴だった。
今回も例外なく。
☆.。.:*・゜*:.。..。.:+・゜:.。.:*・゜+
連日のアシュガ様の甘さに耐えかねて、私はアシュガ様の誘いを断って(その代わり休日を一日丸ごとアシュガ様に献上する羽目になった)、本を読もうと中庭へ向かった。
座ると植物に遮られて辺りからは見えにくくなるベンチへ向かうと、そこには先客が居た。
「お隣、よろしくて?」
本を読んでいる茶髪の少女に声を掛けると、メガネ越しの賢そうな青い目が私のほうを向いた。
見たところ貴族の令嬢のようだが、名前は思い出せない。
「どうぞ、お座り下さい」
少し驚いたその目。
それをどこかで見たことがあるような気がするのは、気のせいだろうか。
ふと、彼女の手元の本に目がいった。
そこに書かれている挿絵を見た途端、私はあっと声を出してしまった。
彼女が本から目を離して、不思議そうにこちらを見る。
「あ……いえ、その本、私も大好きなので……」
「本当ですかっ!? 初めてです、同じような本を読んでいる人にお会いするの……!」
確かに、貴族のご令嬢はこのような本をあまり読まないだろう。
この本は、平民、それも男性向けの冒険小説なのだ。
魔法を使える平民の少年が国を作り、王となって成長していく話だ。
夢と希望が溢れるこの物語は、平民の少年達に大人気だそうだ。
「面白いですわよね、特に主人公が敵と戦う所などはかっこよくて大好きなのです」
「とってもわかります!私も――」
と、辺りが肌寒くなるまで大好きな本について話し込んでしまった。
そろそろ部屋に帰らなければ、リリーに叱られるだろう。
そう思っている時に、茶髪の令嬢が立ち上がって言った。
「では、私はそろそろ……」
そこで、私は彼女の名前を知らないことに気が付いた。
「……あの、お名前を聞かせていただいても?」
「あ、申し訳ありません。アカヤシオ子爵家三女、アザミ・アカヤシオです。幼い頃から体が弱くて、ほとんど社交会へ出た事が無いのでご存じないかもしれませんが……」
なるほど、それで誰かわからなかったのね。
「私はネーション公爵家長女、ローズ・ネーションですわ。またお会いしませんか?」
「もちろんです!」
嬉しそうに微笑むアザミを見て、先ほどの既視感はどこかへ消えてしまう。
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