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第一章 絶望と異世界と狼男と少女
第十六話 ココロ運びます─3
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「そんな事無い‼」
背中の方から発せられたその言葉で、私の意識は引き戻された。
振り替えると、さっきまで震えていたヨックルちゃんがオーク達を睨み付けている。口は真一文字に結ばれ、手は自分の服を握りしめていた。
「舞お姉ちゃんは死んでなんか無い‼ あたし達のお店が 大変になったときに、助けてくれたのは舞お姉ちゃんだ‼ そんな舞お姉ちゃんが死んでる訳無い‼」
どうやらまだ小さいヨックルちゃんは、『死んだ魚の目』という言葉を、『死んだ私の目』という風に捉えてしまったらしい。でも、彼女の剣幕にその事を突っ込むものはいなかった。
「舞お姉ちゃんは優しくて、頼りになって、あたしの憧れなんだ‼ 舞お姉ちゃんを馬鹿にしないで!! 馬鹿にしたら、あたしが許さない‼」
ヨックルちゃんの目からは、ポロポロと涙が零れてきた。そのヨックルちゃんの体を、私は思わず声を抱き締める。
「舞お姉ちゃん……?」
「……ありがとう。ありがとうね」
ヨックルちゃんを抱き締めるために、私は屈まなければならなかった。
一体この小さな体のどこに、自分よりも大きな者に立ち向かう勇気があったんだろう。
一体この小さな体のどこに、出会って間もない者を『憧れ』と言える優しさがあるんだろう。
私はこの娘よりもっと大きいのに、この娘より何も出来てないじゃないか。
……私は……まだ。
「…………」
無言で私は立ち上がり、目の前のオーク達を鋭視線で突き刺す。
「……あんた。さっき私の事『死んだ魚の目』っ言ったわよね?」
「あ……あぁ、それがなんや?」
「……認めるわ。自覚はあったから」
「⁉ 舞お姉ちゃん⁉」
前に出ようとしたヨックルちゃんを手で制し、私は立ち上がり言葉を続ける。
「私は、この娘が思ってるような立派な人間じゃない。自分が招いたことなのに、自分が置かれた環境を憎んで、絶望して、勝手に自己嫌悪に陥ってる屑よ」
「ほぅ……やったら──」
「でも」
オーク男Aの言葉を遮り、私は続ける。
「少なくとも私は、あなた達程の屑じゃないわ」
「なんやと……?」
オーク達の額に血管が浮かぶ。
「だって……見捨てられないもの」
私は前に出て、そして────
「こんな私を……こんな小さな体で‼ 『憧れ』って言ってくれたこの娘を‼ 見捨てて逃げるような屑になるつもりは無いもの‼」
叫ぶ。身体中から、私の言葉を放つ。
思わぬ大声に、オーク達は身じろぎする。その様子を見て、私はフッと鼻で笑った
「悔しい……? こんな人間に馬鹿にされて悔しいかしら?」
「……調子乗るなよ、人間族ごときが」
オーク達から、怒りのオーラが伝わってくる。
「黙って聞いとったら、ワシらの事散々馬鹿にしおって……お前ら、タダじゃすまさへんぞ?」
「やれるもんならやってみなさい。でも、この娘にだけは指一本触れさせない」
足を開いて、素早く動けるように体勢を取る。
「私も、自分より小さい子一人守れないで、人間名乗るつもりも無いから」
さて──どうしようか……
喧嘩のやり方なんて、やったことが無いから知らない。真正面からぶつかれば、呆気なくK.O.されるのは目に見えてる。
だからとにかく逃げよう。ヨックルちゃんをとにかく逃がすんだ。それだけ出来れば万々歳だ。
私はどうなるか分からないが……二人捕まるよりかはマシだ。
それに──ひょっとしたら────
「覚悟せぇよ……」
私は目の前のオークに意識を集中させつつ、後ろへ素早く下がれるように足を下げる。
「穴という穴犯したらァァァァァッ‼」
ヨックルちゃんの手を取って逃げようとした、その瞬間──
私とオークの間に突然立ち塞がった人影が、オークの拳を受け止めた。
「えっ……?」
「なっ?」
私もオークも、驚きの言葉を漏らす。だが驚くのはこの後だった。
「全く……身勝手な行動は出来る限り慎んでほしいな。責任を負う僕の身にもなってくれよ」
「……嘘、なんで……」
「なんでいるのか、そう言いたいのかい?」
オークを蹴飛ばして距離を取った人影が、倒れこんでいた私に手を差し出す。
「依頼人の安全を確保するのが、探偵の役目だろう?」
そう言って──ネロはニヤリと笑った。
「な……誰やお前?」
「おっと、自己紹介が遅れたね。僕の名前はネロ=ガング=ヴォルフ。探偵家業を営む、しがない獣人さ。実は君達の言動は、さっきから確認してたんだよ」
「え、いたの!?」
驚いて私はネロの方を向く。
「いやぁ、最初はすぐに割って入ろうと思ったんだけどね。なんかカッコいいこと言ってたから、どうせなら最後まで見ようと──」
「嫌あああああああああ‼」
私はネロの首根っこを掴んで、思いきっり揺らす。
「忘れて‼ 今すぐ忘れて‼ なんで黙って見てたのよ馬鹿馬鹿馬鹿‼」
「ゆゆゆゆゆ揺らすな‼ 酔う‼ 酔うから揺らすなってばああああ‼」
私はパッと手を離す。背中から倒れたネロは、「ぐっふっ‼」とヤバそうな声を漏らした。この光景、なんだかデジャ・ヴュだ。
しばらくして立ち直ったネロは、咳き込みながら話を続ける。
「ま……まぁでも、舞の言ってることは何も間違ってない。強いて言うならもう一つ──」
ネロが指を一本伸ばす。
「君を高く評価してるのは、何もコイツだけじゃないって事だ」
「……‼」
「さて──じゃあ邪魔者にはそろそろ退場願おうか」
完全に空気と化していたオーク達に、ネロは不敵な笑みを浮かべる。
「でも──ネロ、大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫。僕、昔は喧嘩とか強かったし」
ネロが右手をヒラヒラさせる。
「じゃあそろそろ始めようか悪党共。安心しな、噛んだりはしないから」
そう言って前へ歩くネロの背中に、私は安心感を感じた。
「『噛んだり』は──ね」
地面を蹴って、ネロは前へ飛び出した。
背中の方から発せられたその言葉で、私の意識は引き戻された。
振り替えると、さっきまで震えていたヨックルちゃんがオーク達を睨み付けている。口は真一文字に結ばれ、手は自分の服を握りしめていた。
「舞お姉ちゃんは死んでなんか無い‼ あたし達のお店が 大変になったときに、助けてくれたのは舞お姉ちゃんだ‼ そんな舞お姉ちゃんが死んでる訳無い‼」
どうやらまだ小さいヨックルちゃんは、『死んだ魚の目』という言葉を、『死んだ私の目』という風に捉えてしまったらしい。でも、彼女の剣幕にその事を突っ込むものはいなかった。
「舞お姉ちゃんは優しくて、頼りになって、あたしの憧れなんだ‼ 舞お姉ちゃんを馬鹿にしないで!! 馬鹿にしたら、あたしが許さない‼」
ヨックルちゃんの目からは、ポロポロと涙が零れてきた。そのヨックルちゃんの体を、私は思わず声を抱き締める。
「舞お姉ちゃん……?」
「……ありがとう。ありがとうね」
ヨックルちゃんを抱き締めるために、私は屈まなければならなかった。
一体この小さな体のどこに、自分よりも大きな者に立ち向かう勇気があったんだろう。
一体この小さな体のどこに、出会って間もない者を『憧れ』と言える優しさがあるんだろう。
私はこの娘よりもっと大きいのに、この娘より何も出来てないじゃないか。
……私は……まだ。
「…………」
無言で私は立ち上がり、目の前のオーク達を鋭視線で突き刺す。
「……あんた。さっき私の事『死んだ魚の目』っ言ったわよね?」
「あ……あぁ、それがなんや?」
「……認めるわ。自覚はあったから」
「⁉ 舞お姉ちゃん⁉」
前に出ようとしたヨックルちゃんを手で制し、私は立ち上がり言葉を続ける。
「私は、この娘が思ってるような立派な人間じゃない。自分が招いたことなのに、自分が置かれた環境を憎んで、絶望して、勝手に自己嫌悪に陥ってる屑よ」
「ほぅ……やったら──」
「でも」
オーク男Aの言葉を遮り、私は続ける。
「少なくとも私は、あなた達程の屑じゃないわ」
「なんやと……?」
オーク達の額に血管が浮かぶ。
「だって……見捨てられないもの」
私は前に出て、そして────
「こんな私を……こんな小さな体で‼ 『憧れ』って言ってくれたこの娘を‼ 見捨てて逃げるような屑になるつもりは無いもの‼」
叫ぶ。身体中から、私の言葉を放つ。
思わぬ大声に、オーク達は身じろぎする。その様子を見て、私はフッと鼻で笑った
「悔しい……? こんな人間に馬鹿にされて悔しいかしら?」
「……調子乗るなよ、人間族ごときが」
オーク達から、怒りのオーラが伝わってくる。
「黙って聞いとったら、ワシらの事散々馬鹿にしおって……お前ら、タダじゃすまさへんぞ?」
「やれるもんならやってみなさい。でも、この娘にだけは指一本触れさせない」
足を開いて、素早く動けるように体勢を取る。
「私も、自分より小さい子一人守れないで、人間名乗るつもりも無いから」
さて──どうしようか……
喧嘩のやり方なんて、やったことが無いから知らない。真正面からぶつかれば、呆気なくK.O.されるのは目に見えてる。
だからとにかく逃げよう。ヨックルちゃんをとにかく逃がすんだ。それだけ出来れば万々歳だ。
私はどうなるか分からないが……二人捕まるよりかはマシだ。
それに──ひょっとしたら────
「覚悟せぇよ……」
私は目の前のオークに意識を集中させつつ、後ろへ素早く下がれるように足を下げる。
「穴という穴犯したらァァァァァッ‼」
ヨックルちゃんの手を取って逃げようとした、その瞬間──
私とオークの間に突然立ち塞がった人影が、オークの拳を受け止めた。
「えっ……?」
「なっ?」
私もオークも、驚きの言葉を漏らす。だが驚くのはこの後だった。
「全く……身勝手な行動は出来る限り慎んでほしいな。責任を負う僕の身にもなってくれよ」
「……嘘、なんで……」
「なんでいるのか、そう言いたいのかい?」
オークを蹴飛ばして距離を取った人影が、倒れこんでいた私に手を差し出す。
「依頼人の安全を確保するのが、探偵の役目だろう?」
そう言って──ネロはニヤリと笑った。
「な……誰やお前?」
「おっと、自己紹介が遅れたね。僕の名前はネロ=ガング=ヴォルフ。探偵家業を営む、しがない獣人さ。実は君達の言動は、さっきから確認してたんだよ」
「え、いたの!?」
驚いて私はネロの方を向く。
「いやぁ、最初はすぐに割って入ろうと思ったんだけどね。なんかカッコいいこと言ってたから、どうせなら最後まで見ようと──」
「嫌あああああああああ‼」
私はネロの首根っこを掴んで、思いきっり揺らす。
「忘れて‼ 今すぐ忘れて‼ なんで黙って見てたのよ馬鹿馬鹿馬鹿‼」
「ゆゆゆゆゆ揺らすな‼ 酔う‼ 酔うから揺らすなってばああああ‼」
私はパッと手を離す。背中から倒れたネロは、「ぐっふっ‼」とヤバそうな声を漏らした。この光景、なんだかデジャ・ヴュだ。
しばらくして立ち直ったネロは、咳き込みながら話を続ける。
「ま……まぁでも、舞の言ってることは何も間違ってない。強いて言うならもう一つ──」
ネロが指を一本伸ばす。
「君を高く評価してるのは、何もコイツだけじゃないって事だ」
「……‼」
「さて──じゃあ邪魔者にはそろそろ退場願おうか」
完全に空気と化していたオーク達に、ネロは不敵な笑みを浮かべる。
「でも──ネロ、大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫。僕、昔は喧嘩とか強かったし」
ネロが右手をヒラヒラさせる。
「じゃあそろそろ始めようか悪党共。安心しな、噛んだりはしないから」
そう言って前へ歩くネロの背中に、私は安心感を感じた。
「『噛んだり』は──ね」
地面を蹴って、ネロは前へ飛び出した。
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