恋を諦めたヤンキーがきっかけの男と再会する話

てぃきん南蛮

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無理


「……あれ、いねぇ」
今日も今日とて図書準備室に通い詰める荒垣だったが、扉の先に寺崎はいなかった。
いつも必ず先に寺崎がいるので、こんな事は初めてだ。何処かに隠れていないかと机の下やロッカーの中を探してみるが、もちろんいるはずもない。
寺崎が準備室にいないならここにとどまっていても仕方ないが、なんとなく空いていたパイプ椅子に腰掛ける。
暇つぶしにスラックスのポケットに突っ込んでいたスマホを取り出す。チャット系SNSを開けば、不良の知り合いからの通知がズラッと並んだ。荒垣は返信はこまめにするタイプではないので、気がつけばいつもこうなっている。
とは言っても、仲間内の通知なんて雑談ばっかりだ。一番通知が飛んできているグループ枠を開くと、案の定オススメのいかがわしい動画の雑語りをしている。
流し見する程度に跡を追っていると、親指でスクロールするつもりが貼られた動画のうちの1つをタップしてしまった。
「あ」
つい声を出してしまったが、まあここで開いても怒るような奴はいないしいいか、と考え直してついでに観てしまおうと動画の読み込みを待つ。寺崎が来たら閉じればいい。
しかし、映し出された映像にさすがの荒垣も衝撃で目を見開いた。
中心に映し出されたのは男。中心の男に擦り寄って絡みつくのも男。普通のAVかと思いきや、まさかのゲイビデオだった。
いくら破天荒で噂の荒垣もゲイビデオを見たことはない。未知の世界への衝撃で固まる荒垣を置いて、男達はどんどん行為を進めていく。
次第に、スマホのスピーカーからは男のものの喘ぎ声まで鳴り出した。あんあんと、女よりも低めの声が静かな準備室に反響する。
「……何やってんだお前」
突如背後から聞き覚えのある声が聞こえて、反射的に荒垣はスマホの電源を落としていた。
わたわたと変な汗をかきながら振り返ると、今まで見た中で一番冷たい白い目で、寺崎が文字通り見下していた。身長は荒垣の方が高い筈なのに、何故か寺崎に見下される事が多い。
「あの、ダチが送ってきて……俺もまさかゲイビだとは思わなくて……」
嘘は付いていないのだが、何故か後ろめたい気持ちが口を開けば開くほど増していく。寺崎に初めて言い訳をしているからだろうか。
寺崎は呆れたようにため息を吐いて、荒々しく空いたパイプ椅子に腰掛けた。
いつもの寺崎ならそんなに乱暴に椅子を引かない。明らかに怒っている。
冷めた態度の寺崎なら散々見てきたが、こんな風に怒っている姿を荒垣は初めて見た。声をかけるのは気が引けたが、荒垣はおそるおそる尋ねた。
「お、怒った?」
今にも震えそうな荒垣の声は寺崎の耳にも届いたらしい。チラリと荒垣の顔を見て、再び寺崎は大きなため息を吐いた。
「図書室でAVを見るその配慮のなさにな」
返ってきた回答は真っ当な言い分で、荒垣はぐうの音も出ない。
最近は荒垣が静かにしていれば昼寝を続ける寺崎が、今は組んだ脚を揺らすだけだ。ただいるだけで何も求めない姿に段々居心地が悪くなって、耐えかねた荒垣はついに──
「ご、ごめんなさい……」
謝罪を口にしていた。
揺れていた脚はピタリと止まり、寺崎は荒垣を凝視する。まさかあの荒垣が謝罪するとは考えもしなかったのだろう。
そりゃそうだ。荒垣だって、寺崎相手に謝ることなんて絶対にするものかと数分前なら吐き捨てていただろう。
だが、嫌な沈黙につい、荒垣は謝罪を口に出していた。
「……お前、謝ることとかできたんだな」
「う、うるせぇ」
寺崎の失礼な物言いに対する反論にも力が入らない。
しかし、未だ驚いた顔を崩さない寺崎の声には、もう怒りは滲んでいなかった。
それでもまだ寺崎の様子が気がかりで、伺うように荒垣は尋ねた。
「AV……苦手?」
「……アホか」
見当違いな荒垣の質問に今度は呆れた様子で寺崎は答えた。返ってきた3文字は肯定とも否定とも取れず、バカな荒垣にはその真意が分からなくて首を傾げるだけだ。
そこで、思い出したかのように「ああ、」と寺崎が付け加えた。
「俺は男は無理」
その言葉には躊躇いなどは全くなかった。自信を持って言い切っていた。
「LGBTの多様性とか言われてるけど俺は無理。気持ち悪いと思ってる。他人が勝手にやる分には好きにすればいいけど、その矢印が俺自身に向けられるのは生理的に無理」
「へぇ~……」
いつになく饒舌に喋る寺崎の言葉は荒垣の頭にはほとんど入らなかった。自分も男が好きなわけではないけれど、無茶苦茶言うじゃん、と心の中で少し引いた。
同時に、胸につっかえるような違和感を感じる。心臓のあたりに鉄球が詰まったような感覚をどうすればいいのか無性に誰かに問いただしたくなった。
けれど、目の前の寺崎に尋ねるのは何か違う気がした。
結局荒垣は何も言わずに再びスマホの電源を入れ、開きっぱなしだったゲイビデオのサイトを閉じた。

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