1 / 19
1
しおりを挟む
自由の国、アメリカ。
世間ではそんな風に持て囃されているが、全くの嘘っぱちだと董哉は思う。
「こんにちは」
「やあ、トーヤ!今日も宜しく頼むよ!」
某州の軍事食堂の裏手口。董哉はここの一介のバイトだ。
いつものように挨拶をしてキッチンに入ると、オーナーであるヘンリーが快く出迎えてくれた。
ポン、と肩に置かれた手に対して頷くと、ヘンリーは肩をすくめて入れ違いで出ていった。
あのジェスチャーをされるのは初めてではない。恐らくまた「相変わらずシャイだな」とでも思われているのだろう。今に始まった反応ではないので、特に気にしない。
キッチンに入った董哉がまずすることは、掃除だ。他のコックが昼に使って料理した分まで、董哉ができる限り掃除をする。
一通り掃除が終わり、ゴミ捨てまで行ったら次はディナーに向けた仕込みに入る。
仕込みといってもバイトの董哉にやらせてもらえる事などまだ野菜を切る程度だ。なので、他のコックが休憩から戻ってくるまでにひたすら野菜を切る、剥く、切る、切る。
他のコックが休憩から戻ってくる頃、入れ替わるように董哉が休憩に入る。休憩の間に早めの夕飯として持ってきていた弁当に食らいつき、再びキッチンへ。
戻ってくる頃にはトレイに盛られた数々の料理を、片っ端から並べていく。アメリカの軍事食堂はビュッフェ形式なのだ。
その頃になると徐々に腹を空かせた兵士達が食堂へと顔を出し始める。
その中にまだ見知った顔がないことに安堵しつつ、目を合わせないよう顔を伏せながら洗浄済みのドリンク用のコップを並べる。
まだ料理は並べ切っていない。人気のハンバーグが並ばないと、文句を言う兵士もいるので早く運ばねば。
急く董哉が振り返ってキッチンに戻ろうとした時。足元に何かが引っかかって躓きそうになる。転びはしなかったが、董哉は舌打ちしそうになる。今日は背後から近づいてきたか
。
「おいおい、大丈夫か?足元も覚束ない赤ちゃんが、こんなところでウロチョロすると危ないぞ?」
せせら笑うような声に、どの口が言うかと内心呆れた。
声の主は振り返らなくてもわかる。フレッド・ジェンキンズ、この軍に配属する、若きエース。正直董哉もそれだけのことしか知らないほど、友好関係といったものもない。
ただ、フレッドはアジア人への差別意識が人より強め。ただ、それだけ。
たったそれだけで、董哉がキッチンから出てくるたびにこのような幼稚な嫌がらせを受けている。
このような嫌がらせは、人生で何度か受けている。よってこのような場面で1番すべき対応は既に知っている。
「相変わらず耳まで悪いときた。本当にそんなんで料理なんて作れんのか?」
無視だ。
躓いたことはなかったことにして、笑われた事は聞かなかった事にする。そうして、董哉は今日も平然とした顔でキッチンに戻るのだ。
世間ではそんな風に持て囃されているが、全くの嘘っぱちだと董哉は思う。
「こんにちは」
「やあ、トーヤ!今日も宜しく頼むよ!」
某州の軍事食堂の裏手口。董哉はここの一介のバイトだ。
いつものように挨拶をしてキッチンに入ると、オーナーであるヘンリーが快く出迎えてくれた。
ポン、と肩に置かれた手に対して頷くと、ヘンリーは肩をすくめて入れ違いで出ていった。
あのジェスチャーをされるのは初めてではない。恐らくまた「相変わらずシャイだな」とでも思われているのだろう。今に始まった反応ではないので、特に気にしない。
キッチンに入った董哉がまずすることは、掃除だ。他のコックが昼に使って料理した分まで、董哉ができる限り掃除をする。
一通り掃除が終わり、ゴミ捨てまで行ったら次はディナーに向けた仕込みに入る。
仕込みといってもバイトの董哉にやらせてもらえる事などまだ野菜を切る程度だ。なので、他のコックが休憩から戻ってくるまでにひたすら野菜を切る、剥く、切る、切る。
他のコックが休憩から戻ってくる頃、入れ替わるように董哉が休憩に入る。休憩の間に早めの夕飯として持ってきていた弁当に食らいつき、再びキッチンへ。
戻ってくる頃にはトレイに盛られた数々の料理を、片っ端から並べていく。アメリカの軍事食堂はビュッフェ形式なのだ。
その頃になると徐々に腹を空かせた兵士達が食堂へと顔を出し始める。
その中にまだ見知った顔がないことに安堵しつつ、目を合わせないよう顔を伏せながら洗浄済みのドリンク用のコップを並べる。
まだ料理は並べ切っていない。人気のハンバーグが並ばないと、文句を言う兵士もいるので早く運ばねば。
急く董哉が振り返ってキッチンに戻ろうとした時。足元に何かが引っかかって躓きそうになる。転びはしなかったが、董哉は舌打ちしそうになる。今日は背後から近づいてきたか
。
「おいおい、大丈夫か?足元も覚束ない赤ちゃんが、こんなところでウロチョロすると危ないぞ?」
せせら笑うような声に、どの口が言うかと内心呆れた。
声の主は振り返らなくてもわかる。フレッド・ジェンキンズ、この軍に配属する、若きエース。正直董哉もそれだけのことしか知らないほど、友好関係といったものもない。
ただ、フレッドはアジア人への差別意識が人より強め。ただ、それだけ。
たったそれだけで、董哉がキッチンから出てくるたびにこのような幼稚な嫌がらせを受けている。
このような嫌がらせは、人生で何度か受けている。よってこのような場面で1番すべき対応は既に知っている。
「相変わらず耳まで悪いときた。本当にそんなんで料理なんて作れんのか?」
無視だ。
躓いたことはなかったことにして、笑われた事は聞かなかった事にする。そうして、董哉は今日も平然とした顔でキッチンに戻るのだ。
39
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
星降る夜に ~これは大人の純愛なのか。臆病者の足踏みか。~
大波小波
BL
鳴滝 和正(なるたき かずまさ)は、イベント会社に勤めるサラリーマンだ。
彼はある日、打ち合わせ先の空き時間を過ごしたプラネタリウムで、寝入ってしまう。
和正を優しく起こしてくれたのは、そこのナレーターを務める青年・清水 祐也(しみず ゆうや)だった。
祐也を気に入った和正は、頻繁にプラネタリウムに通うようになる。
夕食も共にするほど、親しくなった二人。
しかし祐也は夜のバイトが忙しく、なかなかデートの時間が取れなかった。
それでも彼と過ごした後は、心が晴れる和正だ。
浮かれ気分のまま、彼はボーイズ・バーに立ち寄った。
そしてスタッフメニューの中に、祐也の姿を見つけてしまう。
彼の夜の顔は、風俗店で働く男娼だったのだ……。
泡にはならない/泡にはさせない
玲
BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――
明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。
「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」
衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。
「運命論者は、間に合ってますんで。」
返ってきたのは、冷たい拒絶……。
これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。
オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。
彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。
——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる