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魔王の帰還
30(※微)
しおりを挟む攻め以外のキャラクターに身体に触れられるシーンがございます。お気をつけください。
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「あっ」
「その拭き方では御髪を痛めてしまいます。あなたは美しいその見た目とは違い、大雑把過ぎます」
湯上りの濡れた髪をおざなりに拭いていると、すっかりいつもの涼し気な顔で側に立っていたネピリウスにタオルを奪われる。
「こう…ぽんぽんとタオルで優しく髪を挟むようにして水気を取るのだと、お教えしたでしょう?」
バスローブ姿のままソファに座するハルカリオンの隣にネピリウスもそっと腰を下ろし、説明をしながら髪の水気を取り始める。
「……ん」
ネピリウスからほんのりと花の香りがする。自分が入浴中にネピリウスが所有する温室に行っていたのだろう。
色とりどりの花々を愛で育てることが唯一の趣味であったハルカリオンの母から受継いだあの温室は、今ではすっかりネピリウスの大事な研究室となっている。
彼はそこで多種多様な植物を育てており、特にデヴィガルドの瘴気を多分に含む土では育ちにくい薬草なども改良に改良を重ね、アースガルド生まれのデヴィガルド産と言ったような薬草沢山育てられている。
それも全て幼い頃から幾度となく毒などで命を狙われてきたハルカリオンのためだ。
ネピリウスの全てはハルカリオンを中心に回っている。そして、その誓いをさせたのは確かにこの自分だ。
(でも、僕はネピーの幸せを奪いたいわけじゃない)
勇者との戦いが始まってからは特にネピリウスへの結婚の打診が多いと聞く。
魔王の忠実な右腕という肩書きだけではないのが理由だろう。
先の王弟の息子であるネピリウスにも流れるそれ。
(王族の血、か……)
今現在、ハルカリオンが勇者により倒された後に魔王の座に着く王位継承権を持つものが3人いる。
1人目は第1王子のウルスハウド。
2人目は第2王子のユーイン。
しかし、公にしてはいないものの、ユーインは既に王位継承権を返還する意をハルカリオンにも後ろ盾となっている貴族達にも明確にしている。
そして3人目が――先の王弟であり、兄が魔王となったのと同時に臣籍へと下り、ルモアウド・アルフォード公爵となった男の息子であるネピリウスだ。
暴力的かつ残虐性の高いウルスを穏健なハルカリオンが次の魔王に指名することは無いだろうと臣下の間ではもっぱらの噂で、元々魔王になるつもりはないと公言しているユーイン以外となると、誰が次の魔王に求められているかは明白だ。
だからこそ、貴族はこぞって自分の娘や息子を次代の魔王候補であるネピリウスに売り込むつもりなのだ。
戦いのない安寧期の中で甘い蜜を吸いたいが為に。
(ネピーが魔王になるまでにその辺りもしっかりと掃除をしなきゃ)
デヴィガルドの再建という自分の夢を引き継ぐ者は、ネピリウスしかいないのだから。
「ネピー。次期魔王の件はちゃんと考えてくれたか?」
「はい。何度考えても今のデヴィガルドを再建されるのは、やはり貴方しかいないと。そのために早く勇者を倒さねばいけませんね。この世界を総べるのは、魔王ハルカリオン様です。私は貴方様を支えていければ十分です」
「………」
わかっていたけれど、今回もやっぱり断られてしまった。でも諦める訳にはいかない。
ハルカリオンの死はこの世界にとって歯車のひとつ。ここでその歯車を止めてしまえば夢を叶えることはできないのだ。
今代の魔王――すなわちハルカリオンが背負う真実をネピリウスにそろそろ伝えなければいけない時が来ているのかもしれない。
「今のうちにそうやってのらりくらりと躱していればいい。そのうち逃げられなくしてやるからな」
「ほう? それはとても嬉しいお誘いですね」
先程の入浴時に何となく気まずい感じで離れてしまった2人だが、今のやり取りでその空気が霧散していくのを感じながら、笑い合う。
ハルカリオンは改めてネピリウスが側にいることを実感し、唇を尖らせながらも甘えるようにその大きな肩に凭れかかる。
「ネピーがいないと僕はダメダメなんだ」
「私がいなくともご自分でできるようにならなくては困ります。ですが、あなたに任せるとこの有様ですし……。ああ、また髪が傷んでますね。補修用の香油を作らなければ」
ネピリウスが髪をひと房摘むと、その毛先は少しケバケバしている。
そういえば、ヒイロにもこんなに綺麗な髪なのにケアを怠り過ぎだと怒られたような気がする。
「この国と同じくらい水が貴重な戦場で、ゆったりと入浴なんて出来るわけない。お肌のケアと同じく髪のケアをしたところで誰が見るわけでもない。僕も一般兵と同じ桶に貯めた雨水を被って汗を流すくらいだ」
「一般兵と同じ? それはつまり貴方様の肌を…いえ、肌だけでなくあんなところやそんなところまでそこら辺のオスに全て見せた…ということでしょうか?」
「ひっ」
ギョッとして見上げるネピリウスは、その美しい顔にこれまた完璧な微笑を浮かべているものの、声は低いし、何よりも目が全く笑っていない。
「魔王様。私は言いましたよね? 魔王ともあろうものが簡単かつ無防備に肌を見せてはならない、と」
「怖い! 顔が怖いぞ、ネピー! お前の言いつけはちゃんと守っている! 身体を清めるのに使った水が一般兵と同じ雨水だと言ったんだ。誰にも肌は見せてはいない」
必死にそう言い募ると、しばらくの間ハルカリオンの金色の瞳を探るように見つめたネピリウスは信じましょうと言って、自然な笑みへと戻ったものの直ぐに眉尻を下げる。
「それにしてもやはり過酷な場所に貴方様だけを送ること自体、心が痛みます」
「僕がお前をデヴィガルドに残す意味は、話したはずだぞ? ユーイン兄上とお前とで僕が居ない間、この国を守って欲しいと。あれほど戦況に口を出してきたウルス兄上が最近やけに大人しいのも気になるし。近々、何かものすごく嫌なことが起こる予感がするんだ……」
ヒイロといた時には感じなかった不安が、デヴィガルドに戻った瞬間からハルカリオンをずっと覆っている。
魔族としての力はそれほどだが、先の未来で起こることへと防衛本能にはわりと敏感なのだ。これは恐らく銀狐族の血が自分にも半分流れているからだろうとハルカリオンは思っている。
「どんなことがあっても、命を懸けて私が必ずお守りいたします。そうお約束したでしょう?」
「ネピー……」
距離が近づくと、花の香りの他にネピリウスがさりげなく付けている爽涼感のある香水の香りがする。
自分とは違う華やかさと美しさを兼ね備えスラリとした体躯だが、ネピリウスだが剣の腕もそれなりのため、こうしてハルカリオンごときが寄りかかってもビクともしない。こう見えてエイトパック持ちの隠れムキムキマッチョなのだ。
(僕が腹筋フェチなのは、確実にネピーの影響だな……)
凭れかかれて動きにくいだろうに、ある程度水分を拭き取り最後にサッと風魔法を使って完全に髪を乾かし終えたネピリウスがうる艶サラサラになったハルカリオンの髪を手櫛で梳きながら問いかけられる。
「先にお届けしたお薬はちゃんと塗りましたか?」
「うん。ちゃんと塗った」
「左様ですか」
痛くも痒くもないただの鬱血であるキスマークに軟膏薬を塗ったことを報告し、凭れていたネピリウスから離れると、着乱れていたバスローブの紐を結び直しながらポツリと呟く。
「いつもなら僕が嫌がっても率先して塗りたがるくせに」
首や胸周りだけならともかく、ヒイロ虫はどうやら全身に赤い印を残していたらしく、自分から見えない位置に着いている赤い印を侍女に教えてもらいいつつ、手の届かぬ場所は侍女にぬりぬりしてもらった時のあの恥ずかしさを思い出すとついつい恨めしい気持ちがその言葉に乗ってしまう。
ハルカリオンのその言葉にネピリウスの左の眉がクイッと跳ねた。
「貴方様はこの魔界に棲む全ての者たちの頂点に立つ王。そろそろ私の手など借りずともそれくらい御自分でなさってください」
「冗談で言ったんだ。真面目に受け取るな」
フンっと鼻を軽く鳴らしてから、テーブルの上に朝食と共に用意された陶器のカップを手に取る。
中には魔界にしか生息しないアピリアの花を蒸らして淹れたアピリア茶が注がれており、芳しい甘い香りを軽く吸い込んでから飲む。
「ああ、美味しい。この茶を飲むとデヴィガルドに帰ってきたんだなって心底思うよ」
「それで?」
「ん?」
「本当のところ、貴方様は誰と同衾されたんですか?」
「ブハッ!」
同衾、という言葉に口に含んでいたアピリア茶を思い切り噴く。
「侍女達がいるあの場では虫刺されと言いましたが……それ、どう見てもキスマークでしょう?」
「……う。違う。ただの虫刺されだ! ひ、ひひ、ヒイロ虫という大きな虫に刺されたと言ったはずだ!」
「なら、あなたは全裸で虫に刺されるような場所で2日間もすごしたということですか? ……失礼します」
「……ネピー? うわっ!」
ネピリウスはハルカの足元に跪くと、両方の膝頭を掴みガバッと強引に押し開かせた。
そのおかげでバスローブも太ももまで持ち上がり、まだ何も身につけてないな無防備な下半身がネピリウスの眼前に晒される。
「ああ、美しい……私の桃源郷」
裸体なんてネピーには何度も見られていて平気なはずなのに、響空に抱かれてしまった今は、別に操を立てているわけではないがやけに背徳感を感じてしまう。
「や、こら……ネピー!」
「なりません。もっとよく見せて。私の桃源郷が荒らされたのですよ。調べさせて頂きます。ここにも……む。ここにも。あなたを抱いた輩はとんでもない執着心の塊ですね。私と同レベルの……」
ネピリウスの奇行を諌めているハルカリオンにはブツブツと早口で何かを言っているネピリウスには届かない。
「ひぅっ」
ネピーが内腿の際どい場所に触れた瞬間、身体とハルカリオンの慎ましやかな中心がピクっと跳ねる。
この場所を自分以外の他人に触れられることで与えられる淫らな快感を覚えてしまった、ピンク色の数百年も大切に守られてきた箱入り娘ならぬ箱入り桃色おちんちんはもはや以前のものではないことを改めて気づかされてしまう。
「んっ!」
「……っ、ハルカ様…私のハル……」
はふはふと熱い吐息を漏らし、頬と耳を赤く染めながら金色の瞳を潤ませ自分を見下ろすハルカリオンの顔を見た瞬間、ネピリウスの身体のどこからかブチイィン!!という音が聞こえた。
「あ、やぅっ、それ以上はいやっ、ネピー!」
理性の紐が完全にブチ切れたらしいネピリウスの綺麗な手がピクピクと怯えて震えるハルカリオンの中心へと近づいていく。
(流石にこれ以上はやばい! ヒイロに対して特別な感情はないが……)
それでもヒイロは自分の妻だ。
その妻に対して不義理なことはしたくない。
それに。
(ヒイロが付けた痕を、他の誰にも上書きされたくない!)
「ネ、ネピー……ネピリウス! やめろっ!」
自分の中心がムクリと頭を起こしそうな寸前でハルカリオンは腕を伸ばしてネピリウスの肩を押し返す。
「……っ!」
ハルカリオンに突き飛ばされ、床に尻をついたネピリウスは自我を取り戻したのか、ハルカリオンに何をしようとしたのか自身でも信じられないと言った困惑した表情を浮かべている。
「……下がれ。今はお前の顔を見たくない」
「かしこまりました。……お食事だけはちゃんとなさってください。また閣議が始まる際にお迎えに参ります」
ハルカリオンの無言を了承と得たネピリウスは深く会釈すると静かに部屋から出ていった。
「僕の身体はたった2日間でこんなに浅ましいものになってしまったのか……!」
じくじくとした熱を持つ自分の中心を上からグッと抑えつける。
「唯一の友でもあり、時に兄のようになネピーにあんな態度を取ってしまうなんて……これでは皆が言う通り魔王失格だな。ヒイロ……お前に会いたい」
史上最強の勇者召喚カウントがまたひとつカチリと鳴ったことも知らず、熱が治まるまでしばらくの間、ソファの上で膝を抱えたのだった。
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