植物学者の僕は嫌われ者の獣人さんのことを好きになってしまいました

先崎

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植物学者の僕は嫌われ者の獣人さんのことを好きになってしまいました。

セゾさんと花

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 ギィッと扉が開き、セゾが家の中に入ってくると、ホタルは玄関へと飛び出してきた。

「うおっ、なんだ?」

 驚いているセゾの左腕をホタルががしっと掴むと、目を細めてじいっと見つめた。

「やっぱり……やっぱり僕に内緒で花に血をやってますね!」

 指先で傷跡を示されたセゾは軽く舌打ちをすると面倒臭そうに視線を逸らす。

「ニブいクセに、下らねぇことは気づきやがって……」
「鈍いとか関係無いです! 前にもワザと怪我するのはやめてくださいって言ったじゃないですか!」
「俺も前に、すぐ治るからいいって言っただろ」
「良くないです!!」

 強めに言い返すホタルにセゾはため息をつくと、誤魔化すように話しだした。

「大体、アンタだってすぐ成長した方が都合いいんじゃねーのか? あの花で作るんだろ。ハライタの薬かなんか」
「えっと……あの花は獣人病を治す薬の材料ですよ」
「はァ!? アレ、治んのかよ?」

 ホタルの返答はセゾにとって衝撃だったらしく、彼は目を真ん丸に見開いた。

「いや、そりゃ俺がガキの頃は流行しはじめだったからな。アレから十年以上経ったなら、治療薬が出来ててもおかしくねぇか」
「それが、まだ出来てないんですよ」
「は? いや、その薬つくるためにこの花育ててんだろ?」
「そうですけど……この花……あ。僕らは、浅紫って名前で呼んでるんですが、どこに生えるのかも育つ条件もわかってなくて、流通も栽培もさせられてないんです」
「はーん……でも薬になるのは解ってんだろ? じゃなきゃ育てねぇもんな」
「はい、僕が知る限りでは二人治って……」

 そう言うとホタルは言葉を切り、セゾの顔を見る。

「って、話逸らされませんからね! 血をやるのはやめてください! 唾液とか涙とか、そういうのでお願いします!」
「アンタ、俺にやってもらう立場のクセに偉そうに……」
「う……。それは申し訳ないですけど、僕のためにセゾさんが痛い思いをするのはちょっと……」

 ホタルはバツが悪そうな顔をしたが、すぐにセゾの左腕を見つめた。さっきまであった傷は既にふさがって見えなくなっている。

「別にアンタの為じゃねぇよ。獣人病の治療薬ってんなら、俺ら獣人の待遇もマシになるかもしれないしな」
「今の今まで、そんなこと知らなかったじゃないですか! 絶対、僕のために……僕の……僕の……」

 ホタルは強気に言葉を返すが、そこでふと疑問に思った。

「あれ……でも、僕のためにセゾさんがやってくれる理由って……?」

 ホタルが自問するように呟けば、セゾはドキリとした。確かに、彼はホタルの目を盗んでは、こっそりと花に血をやっていた。しかし、何故そんなことをしているのかは自分でもよく正直わかっていなかった。

「もしかして…………好きなんですか?」
「あァ!? 好きじゃねぇよ!」

 思わぬ言葉にビクリとして、反射的に叫べば、ホタルは首を傾げた。

「お花、好きでやってるのかなって思ったんですけど……」

 不思議そうに首をかしげるホタルを見ればセゾはカッと苛立って、思いっ切り家の壁を殴った。鈍い音とともに、家全体が小さく揺れた。
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