妹が聖女に選ばれたが、私は巻き込まれただけ

世川 結輝

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31, 怒りの矛先

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「ダリアン……」
 また同じ名前が出たため、私は息を呑んだ。目の前の少年は少し震えて、俯いたままで、私の言葉を待っているように思えた。そんな彼に私は「そう」と漏らすことしか出来なかった。手慰みにそばの子犬を撫でる。グランドウルフなんて呼ばれていた白い子犬は、そんな名前とは程遠く小さく愛らしい。
 沈黙が流れた時、背後から強い威圧感を感じた。それと同時に、森の中の鳥たちがいっせいに羽ばたいていく。そばの子犬も牙を向いて唸り始めた。
 振り返ると、鬼のような形相のアルがこちらに歩いてきていた。その後ろには、これまた震え上がるほどの眼光でこちらを睨みつけるペネがいる。トアセスの喉がひゅっとなった音が聞こえた。
「トアセス! これはどういうことだ!」
 いつもの丁寧な口調から大きく外れた、怒号のようなその声に私の肩もビクリと震える。
 ペネはペネで一言も発さず、こちらに歩み寄る。手にはどこから持ってきたのか、棍棒が握られていた。魔力云々が全く分からない私にも、目に見えて魔力がこもっているのがわかった。あれで殴られてはひとたまりもない。
「ちょ、まって、ペネ兄。これは俺のせいじゃっ」
 トアセスは必死に弁明しようとするが、「うるさい」とペネに一喝され、口を閉ざしてしまう。それを引き継ぐように、私は声を上げた。
「ペネ、アル。ちがうの。私が勝手にここに来て、襲われてたのをトアセスが助けてくれたの」
 痛む足を引きずり、アルにしがみつけば、アルの恐ろしい眼光が少し和らぎ、私の足に注がれた。
「その足は」
「少し捻っただけ。問題ないよ」
 そう言って立ってみせるが、後ろからすかさずペネが腰を抱きあげ、私の足は宙に浮いた。
「腫れてる。早く冷やさないと」
 そう言って歩き出そうとするのを、足元の子犬が吠えて止める。
「めずらしい、グランドウルフの子供か。セイナに懐いてるみたいだね。一緒に来るか?」
 ペネは優しく子犬を抱き上げる。
「トアも、アルも、行くよ。お説教はセイナの手当が済んでからだ」
 そう言って歩き出そうとした時、後ろの茂みから唸り声が聞こえた。振り向けば先程と同じ、赤黒い毛並みの大きなクマが現れた。クマはトアセスの足元の仲間の死体を一瞥して、こちらを睨みつけ咆哮した。
「レッドグリズリーは番で行動する。トアが殺した子の番かな」
 ペネの言葉を右から左に流しつつ、私とアルの顔から血の気が引いていく。先程のクマよりも一回り大きなそれは、私たちを食うつもり満々である。
 トアセスもすかさず剣を構えたが、攻撃よりも先にペネがため息をついた。
「はあ、うるさい。戻って」
 空気が震えるような気配が森中に満ち、目の前の巨大なクマは先程の威勢を失い震えだしていた。ペネがギロりとクマを睨みつけるなり、クマは森の奥へ駆け出した。
「早くセイナの手当をしないといけないのに……」
 そう呟くペネに私たちは開いた口が塞がらなかった。
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