どうやら予言の魔力なしのガキが私

世川 結輝

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    夢を見た。温かくて柔らかな何かに体が包まれている。鼻先を、温かな香りがかすめる。何もかもが温かい、優しい世界。何より温かかったのは、額に触れた誰かの掌だった。

 優しい温度に目を開けると、美しい黒髪が目に映った。私の額に手を当てて、こちらを心配そうにのぞき込む漆黒の瞳は、私と目が合うと嬉しそうに笑った。
「やあ、起きたかい?」
 優しいテノールが響いた。
 目の前にいたのは、とても美しい男だった。父よりも若そうに見えるその青年は、真っ白な肌と対照的に、漆黒の髪と瞳を持っていた。そんな男は、この世界には一人しかいない。
「だい、賢者、さま?」
 かすれる声でそうつぶやいた私の頭を優しくなでると、彼は寂しそうに笑った。
「まだ僕のことをそう呼ぶ人がいたとはね」
 ここは私のいた物置より少し大きな部屋で、私のいた物置よりずいぶんきれいで温かかった。 彼は立ちあがり、奥の鍋に近づく。器にスープのようなものを注ぐと、私に差し出した。
「お飲み」
 私が体を起こすと、腕に丁寧に包帯がまいてあるのが見えた。よく見れば、私の体の傷全て手当をしてくれていたようだった。私はおずおずと器を受け取ると、口を開いた。
「どうして助けてくれるんですか?」
 私の問いに彼はにこりと笑う。
「さあ、どうしてだろうね」
「私のこと知らないんですか? この髪も、瞳も、この世界ではあなたよりおかしな色だ」
 この世界ではマナ種類によって髪の色が変わる。人の髪色を見れば、その人がどんな魔法を使うのかがわかるのだ。青色は水魔法、赤色は火魔法、緑色は風魔法というように、マナを持つ人間は髪と瞳に色がある。しかし、マナを持たない私は、髪も瞳も真っ白で色を持たないのだ。そんな人間がこの世界の歴史上生まれてきたことは私以外ない。この世界の人間が私を一目見れば、すぐに予言の魔力のない子供だとわかってしまう。
「私を生かして置いたら、世界が滅んでしまう」
「そういえば、十年くらい前にそんなお告げをあの大神官が出してたなぁ」
賢者様は顎に手を添え思い出そうとうんうん唸り出す。
「私はローベルニコフ伯爵家に産まれました。産まれてからはずっと物置に閉じ込められていました。親は、私に魔石を食べさせて魔力を作ろうとしたり、あらゆるお祓いをしたりしましたが、効果はなく。10歳になったあの日、魔獣の森に捨てられました。」

生まれてからずっと独りだった。納屋には腐ったパンと私が頼んだからか、本が投げ込まれる。あとはたまに母が雇った変な人が私をお祓いに来たり、父が私を殴りに来る。私のせいで家の名前に傷がついたらしい。
私には兄弟がいるらしいが顔も見た事がない。たまに遠くから聞こえる楽しそうな声がきっとそうなのだろうが、私はずっと独りだった。

「そう、辛かったね」
 大賢者様にそう促されるように、私は俯いてスープをすする。あまりの温かさのせいか痛み出した傷のせいか、涙がこぼれそうになる。
そんな私を知ってか知らずか賢者様は隣でリンゴを剥き始める。
「まあ、あの大司祭の予言はそこそこ当たるから貴族たちが本気にするのは無理ないか。」
うさぎ型に切られたリンゴがお皿に並べられる。
「なんだっけ『魔力無しの子供が世界を破滅に導く』だっけ?」
賢者様はニコニコとしながら私の器を受け取り、うさぎリンゴを私の口に突っ込んだ。甘い汁が口の中に溢れ出す。
「それでもみんなは知らないだろうけど、あいつの予言は2割は外れるんだ。六十年前くらいに1度外してるし」
大賢者様は優しい笑顔で私の白い髪にそっと触れた。優しいその手から何やら暖かいものが流れてくる。溢れかけた涙も傷の痛みも引っ込んでしまった。
「僕のところに居ればいいよ、その予言がホントでも嘘でも、僕が世界も君も守るからさ」
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