うちの猫はナンと鳴く

世渡 世緒

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3話 『三毛猫』

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うちの猫は「ナン」と鳴く。

昼は暇を持て余し、暖かな光で昼寝する。

受け継いだはいいものの、一切客の来ない「いずれ荘」は、きっと いずれ・・・潰れてしまう。

それまで俺は、ただここにいる。

どんな夢を見ているのか、ナンナンと動く口にに、そっと触れてみた。
驚いたように目を開けて、俺の顔を見たあと、伸ばした指に頬擦りをした。

そんなことをして欲しかった訳では無いが、少し得をした気分だ。

微睡んだ瞳はまたすぐに閉じられる。
丸まったからだは、ゆっくり膨らんでそっとしぼむ。
繰り返し膨らんで、しぼむ。

生きているんだと、目に見えてわかった。



昔の猫は「にゃあ」と鳴いた。

母から貰った三毛猫のプレゼント。
永遠に大切にすると誓ったそれは、1年も経たずして愉快犯に惨殺された。

俺が目を離したから

扉を開け放っていたから

きちんと見ていなかったから

後悔の中書き上げた小説は、小さいが賞をとった。
学生で賞をとり、調子に乗って家を出た。

1人で生きていける気がした。
なんでも自分で出来る気がした、若気の至りだ。



10年ももたずに実家に戻った。
才能なんてなく、努力する気概もない、醜い俺は、未だに三毛猫の亡霊に取り憑かれている。

「にゃあ、にゃあ」

助けて、助けて、

「にゃあ、にゃあ」

苦しい、寂しい

「にゃあ、にゃあ」

怖い、1人に……しない……



「ナーン、ナーン」

灰色の毛が薄く茜色に光っている。
窓の外はもう夕日が落ちいていくところ、カラスの鳴き声が響いている。

頬の濡れた部分を、こいつのザラザラの舌が撫でる。
何度か撫でて、カウンターから飛び降りた。

しっぽを揺らしてこっちと急かす。

そういえばそろそろ餌の時間。

俺は頬を拭って、立ち上がった。
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