呪歌使いリンカ(の伴奏者)の冒険譚

葵東

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第五楽章

少女兵士(2)

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 ノーチェらは酒場に入った。混雑する店内の、隅のテーブルを挟んで座る。周囲はうるさいが、その喧噪が密談をかき消してくれた。
「東部大隊第二中隊デニ小隊、ノーチェ=スレーン一等兵です」
「特務将校ダキシー=タンレー。随分と若い連絡員ですね」
「現地採用なので、私が適任だろうと小隊長が」
「それだけではないでしょう? 魔力が弱いですね」
「は、はい……」
 自己の魔力が弱い、それは使う魔法の威力が弱い事を意味する。戦闘集団である黄金の夜明け旅団においては戦力外と同義だ。
「それだけ魔力が弱ければ潜入任務に打ってつけですね。少し離れれば普通の魔法使いは気づかない」
「え?」
「若いあなたが抜擢されたのは、その特質を買われたからでしょう」
「ありがとうございます」
 思わず声が弾む。
 欠点と思っていた魔力の弱さが評価されるだけで嬉しいのに、それが尊敬する上官からと分かって二重に嬉しい。
「話を伺いましょう」
「はい。実は、同志が逮捕されたのです」
 昨日、軍資金調達任務中の下士官一名、現地採用の無能力者四名が賞金稼ぎに捕まった事を説明した。彼らを拘留している町に、今なお賞金稼ぎ二人が滞在している事も含めて。
 説明が終わる頃、女給が定食を運んできた。乱暴に皿をテーブルに置き、同志からチップをもぎ取るや立ち去る。
「食べましょう」
 同志タンレーに促されノーチェも料理を口に運んだ。しかし緊張で味など分からない。
 食べながら同志はしゃべった。
「今日中に取り調べなり引き取りなり、依頼が支部に来るでしょう。この国には連盟の機関はうちだけなので」
「はい」
「それで私に何を? 取り調べを担当して情報漏洩を制限するとか?」
「同志を助けていただきたいのです」
「軍資金調達とは要するに窃盗犯ですよね? この国の法律では殺人さえ犯さなければ労役刑どまり。現地採用の四人は十年足らずで解放されるでしょう」
「分隊長の同志ジンクは魔法使いなので、連盟規約が優先されます」
「黄金の夜明け旅団の正規構成員は原則死刑です」
「何とか助けられませんか?」
「不可能です。逮捕された魔法使いには自白魔法をかけます。旅団の構成員と判明すれば取り調べ後に処刑されます」
「自白魔法も万能ではないはずです」
「抵抗は可能ですが、したら『隠す必要があるほど重要な秘密を握っている』と自白するも同然です。ただの窃盗犯に隠し事をする必要などないでしょう? 精神が壊れるまで責められますよ」
「そんな事をしたら、もう有益な情報は得られません」
「口を割らせられなくても『抵抗の無意味さ』を旅団の構成員に教える効果はあります。事実、私はそう理解しています」
「でも、もし旅団と無関係だったとして、精神を壊してしまったら?」
「仮にそのような事態が起きたとしても、旅団の構成員 だった・・・として処刑すれば済むでしょう。過去にそうして殺された者がいても不思議ではありません」
「つまり同志ジンクは、助けられないと?」
「私を頼るとなると、拘留している町は国際物流を扱う交易都市なのですね?」
「はい。交易都市や交易路への手出しはならぬと、偉大なる同志ジェドスキン元帥のご意向ですので」
「それだけが理由ですか?」
「他に理由は必要ありません」
「連盟が大陸中の魔法使いを管理できるのは、大クラウト連邦に国際物流の安全確保を約束した事が大きい事はご存じですか?」
「それが何か?」
「もし東部大隊が国際物流に被害を与えたら、その約束を連盟が果たせなかった事になります。その報復として連盟は東部大隊を壊滅させるでしょうね」
「そこまでしますか? 今の理事長は臆病者と聞いていますが」
「臆病者ほど尻に火が着いたら大騒ぎするものです。あれは魔法使いと言うより商人ですね。収入を増やす事ばかり考えていますよ」
「お陰で旅団への締め付けが弱まりました」
「敵失に喜んでいるのですか? どうも東部大隊は緩んでいますね」
「失礼しました。それで、同志を助けていただく事はどうでしょうか?」
「残念ですが、ご期待にはお応えできません」
「どうしても、ですか?」
「犯罪魔法使いを取り逃がしたら、関係者は全員自白魔法を受けさせられます。そうなれば私の内通が露見して、特務将校は失われるのです。下士官一人を助けるには大きすぎる代償と思いませんか?」
「同志タンレーが口を割らなければ?」
「抵抗は自白と同義だと説明したはずですが?」
「申し訳ありません。ですが、大切な同志なのです」
「連盟内部で危険を冒しながら情報を提供する特務将校の価値は、一個中隊に匹敵すると認識していただきたい」
「しかし」
「いいですか、我々は戦争をしているのですよ。犠牲が出るのは当然です。あなたも兵士なら受け入れなさい。上官には『ご要望にはお応えできない』とお伝えください」
 ノーチェは窮した。同志は助けたい。しかし特務将校もまた同志なのだ。そして旅団全体で考えれば、どちらを優先するかは明白である。
 しかし子供の使いで帰っては、自分を抜擢してくれたデニ小隊長に顔向けできない。
「あの、同志タンレーの協力は無いとして、同志ジンクが助かる方法はありませんか?」
「ありますよ。連盟と取り引きすれば死刑は免れます」
「それは確かですか?」
「連盟が旅団の魔法使いを原則死刑にしているのは、取り引きを持ちかける為です。命が助かるなら応じる者も出る訳で、そうやって連盟は旅団の内部情報を得てきました」
「卑劣な」
「敵が慈善団体とでも思っていたのですか?」
 同志タンレーは呆れた風に言う。しかしノーチェは自分の甘さをまだ十分認識していなかった。
「もっとも、資金調達に回される下士官では、取り引き材料になる程の情報を持っているとは思えませんが」
「え?」
「私が知る限り、取り引きが成立したのは司令部従事者くらいです。重要情報を知らなければ、取り引きに応じても処刑されます」
「そんな!」
「敵の立場になって考えれば分かる事です。ゴミのような情報で命を助けてしまうと、それを真似されてしまいます。ですから取り引き材料は重要情報に限定している訳です」
「どの程度重要な情報が必要ですか?」
「旅団を危機に陥らせる情報です。つまり、助かる道は仲間を裏切る以外に無いのです」
「例えば、中隊本部の位置とかでは?」
「目星は付いています。ただ場所が場所なので手控えているに過ぎません」
「まさか、過去に同志が裏切ったと?」
「まさかあの程度の隠蔽で探知魔法をやり過ごせるとでも?」
 同志タンレーがため息をついた。
「あなたは連盟と戦っているつもりでしょうが、連盟は東部大隊を『相手にする価値無し』と放置しているから、今も活動できるのですよ」
「――はい?」
「旅団の主力は西方辺境地域にあり、連盟との戦闘も大半がそこで繰り広げられました。だから連盟は大陸の西半分しか見ていません。国際物流さえ無事なら東部大隊など『人員を割く事さえもったいない』程度の認識です」
「そ、それほど軽い扱いなのですか?」
「左遷職場なんですよ、旧帝国地域の新興国は。私も理事長に楯突いたので飛ばされた口です」
 ノーチェは同志タンレーの顔をまじまじと見つめた。自嘲する口ぶりからして本音だろう。となると彼は、ひょっとしたら旅団の崇高な理念に賛同したからではなく、個人的な感情で連盟に逆らっているだけではなかろうか?
(だから平気で同志を見捨てられるの?)
 だが自分は違う。決して仲間を見捨てたりはしない。
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