【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

ホマレ

文字の大きさ
6 / 10

熱に揺蕩う

しおりを挟む
   熱が出た。
   原因は分かりきっていて、母さんに怒られても反論などできなかった。怒るのもそのはずだ。今日から一泊二日で涼を連れて遊園地旅行に行くからだ。涼を喜ばすためだけに立てられた計画に俺は乗り気はしなかったし、家族旅行したいという年頃でも無い。だから父さんと母さんと涼の3人で初めから俺は行く予定が無かったから良かったものの、母親としては自分が看病できない時に風邪をひかれたく無いものだろう。もう17歳なのだから、自分の面倒は自分でみれると説得し、家に残ろうとする母さんを見送って布団を頭まで被って目を閉じた。
   冷房の効いたこの部屋は暑くはないのにじっとりと変な汗をかいてしまう。頭がクラクラして思考はまとまらずゲームやスマホを見る気にもなれない。窓の外で蝉の声に紛れて子どもたちの遊ぶ声を聞きながら何とか意識を落とそうとするが、こういう時に限ってなかなか寝付けないのだ。どうすることも出来ずにただじっとしていれば、家の玄関の開く音、階段を上る音、そして廊下を進む足音が聞こえてきて俺は目を開けた。

「詩ー?生きてる?開けていい?」
   藍と顔を合わせるのは花火大会以来だった。あの日ずぶ濡れになったまま外にいたツケが今回ってきているのだが。
「おばさんから聞いたよ、大丈夫?様子見といてって言われたけどごめん、俺のせいだよな」
   部屋に入ってくるなり申し訳なさそうな顔をする藍がどこか大袈裟に感じて俺は少し笑う。
「全然大したことないし、藍のせいじゃないよ。思ったより自分が弱くてびっくりしてる。藍みたいに朝走って体力つけようかな」
「もっと早く帰ればよかった。詩体冷えてんの俺分かってたのに」
   家に来る前に何か買ってきたのだろう、持っていたレジ袋をそのまま床に置いて藍はベッドまで来て視線を合わすようにしゃがみ込む。
「やだよ。本当はもっと一緒にいたかったし」
「もーーー可愛い事言わないで。熱、結構あるでしょ」
「無いよ」
「嘘つくなって。何度?」
   額に置かれた藍の手の平がひんやりと感じるのは、まぁ熱があるからで、でもそれが本当に心地良かった。
「38度3分」
「食欲は?」
「普通」
「つらいところは?」
「頭がちょっと。平気だけど」
   藍は立て続けに質問しながら袋をガサゴソと漁る。
「冷却シート買ってきたから貼って。おでこだけじゃなくて、脇の下と太ももの付け根に貼ると効果あるらしい。起き上がれる?」
「ん。汗かいたから着替えたい。服取って。一番上に出てるやつでいい」
「おー」
   俺の要望に藍は勝手知ったるといわんばかりに手早くクローゼットを開けて積み重なった洗濯物の中からTシャツを取り、「あとはボックスの中入れていい?お前これくらいちゃんとしろよ~」なんて小言を続ける。
「はいはい、明日からちゃんとやるよ母さん」
   話半分に来ていたTシャツを脱いで替えを要求する様に手を伸ばしたら次の瞬間には自分の両手は物凄い力でシーツに縫い付けられていた。
「あ、い」
「母さんは、こんな事しないだろ?」
   勢いよくベッドに押し倒されて背中が弾む。獲物を捉えたような鋭い目つきをした藍に一瞬緊張が走る。
「つか、無防備すぎ。俺がいないとこで着替えてよ」
「……今更過ぎるでしょ」
   お互いの裸なんて見慣れている。子どもの頃から最近だって、この前藍の家に泊まり行った時なんて風呂上がりパンツ一枚で俺の前に現れといて何を言っているのやら。
「ずっと俺が我慢してるの知らないでしょ。それに今日この家俺と詩の二人きりだよ?好きな子の裸見た俺に何かされるとは思わないわけ?」
「なにも、しないの?」
「はぁ~~~」
   俺の素っ頓狂な言葉に、藍は全身の力が抜けたような声を出してそのまま俺の上に乗っかってきた。ずっしりとした重みを感じながら、変な事を聞いたのかもしれないと今更ながらに思う。
「……しない。しないよ、したいけど、しない。だってお前、熱あんじゃん~!」
  ぐすぐすと泣きべそをかくような、子どものような素振りをして藍は俺に抱きついてくる。
「藍ってさ」
「なに?」
「本当に俺の事好きなんだ」
「うん、大好きだよ。だから早く治ってよ」
   藍の「大好き」という言葉をぼんやりとした頭の中で反芻していると、ふに、と柔らかいものが唇に当たった。少しかさついた唇を何度か重ねていると、熱舌がそこに触れ、驚いて少し口を開けば藍の舌が咥内に割り込んできた。
「ふ、んっ、あい」
   熱い。生理的な涙が目尻に溜まって目を閉じるとゆっくりと垂れていく。手首を抑えていた藍の手はいつしか俺の指先と絡まっていて、力を入れると応えるように藍の指先にも力が入る。ぼやけて霞んでチカチカとした視界の中一心に藍の表情を捉えようと必死になれば、眉間に皺を寄せ長い睫毛を伏せるその顔が近くにあった。
   花火の時とは違う、唾液が絡まり舌先から伝わる熱に翻弄されるキスはやっぱり苦しいが心地よくて唇が離れできた透明な糸にいっときの惜しささえ感じてしまう。
   ぷは、とまるで水中から上がった時のような息継ぎをしてじっと藍を見つめた。「これからもずっと俺だけを見てて」なんて言われたけど、目を離せる訳なんてない。

「もう手遅れだけどさ、風邪、うつるよ」
   息も絶え絶えそう伝えれば、キスの感想がそれ?と言わんばかりに藍は静かに笑った。
「全部俺にうつしてよ。そうすれば詩苦しまなくて済むし、早く治るよ」
「人たらしめ」
   恥ずかしくなって藍の鼻をギュッとつまめば、藍は何故か嬉しそうに「詩にだけだよ」なんて続けた。

   それから数十分してやっと着替えを手に入れて、藍が買ってきてくれたスポーツドリンクを沢山飲んで何事も無かったかのように再び静かに横になった。当たり前のように熱が上がったからだ。
   ベッドの横に座って、俺に視線を合わせるように顔を傾ける藍に一通り感謝を述べ風邪移ると困るから帰っていいと何度か促してみたが俺が寝るまでこうしているとの事だった。
「ネックレスつけてくれてるんだ」
「ん。毎日つけてる。藍がくれたってだけで嬉しいけど、ずっと藍と一緒にいれるおまじないみたいな気がするし」
「嬉し~可愛い~」
「なんだよ」
「噛み締めてんの」
   藍はへにゃ、と崩れた笑顔をこちらに向ける。きっと藍のこんな表情誰も見たことがないだろう。そもそも外ではクールな表情を崩さないから誰も本当の藍を知らないのだ。知らないままでいい。自分だけの宝物にさせて欲しい。
「俺さ、藍になら何されてもいいよ。さっきのキスも、頭の中藍の事でいっぱいになって、その、きもちよかった、し」
   自分で言っといて恥ずかしくなって顔も耳も多分真っ赤になってる。でも、藍がこんなに俺に色んなものをくれるから、せめても言葉で返したかった。
「うん、俺も。もっと詩と色んなことしたいし、独り占めさせて欲しい。詩のことがいちばん大事だから、早く元気になってね」
   ぎゅ、と掌を握られて藍の少し低い体温に触れているだけで、先程まで眠れる気配すら感じる事が無かったのが嘘のようにストンと眠りに落ちた。



   
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

別れたはずの元彼に口説かれています

水無月にいち
BL
 高三の佐倉天は一歳下の松橋和馬に一目惚れをして告白をする。お世話をするという条件の元、付き合えることになった。  なにかと世話を焼いていたが、和馬と距離が縮まらないことに焦っている。  キスを強請った以降和馬とギクシャクしてしまい、別れを告げる。  だが別れたのに和馬は何度も会いに来てーー?  「やっぱりアレがだめだった?」    アレってなに?  別れてから始まる二人の物語。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

前世が悪女の男は誰にも会いたくない

イケのタコ
BL
※注意 BLであり前世が女性です ーーーやってしまった。 『もういい。お前の顔は見たくない』 旦那様から罵声は一度も吐かれる事はなく、静かに拒絶された。 前世は椿という名の悪女だったが普通の男子高校生として生活を送る赤橋 新(あかはし あらた)は、二度とそんのような事ないように、心を改めて清く生きようとしていた しかし、前世からの因縁か、運命か。前世の時に結婚していた男、雪久(ゆきひさ)とどうしても会ってしまう その運命を受け入れれば、待っているの惨めな人生だと確信した赤橋は雪久からどうにか逃げる事に決める 頑張って運命を回避しようとする話です

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

処理中です...