5 / 15
本編
お茶でもしない?
「慎ちゃん?」
後ろから声をかけられて我に返った。振り返ると、別のフロアで残業をしていたらしい後輩の男が怪訝な顔をして立っていた。
「おお、尚人。お疲れ」
「なにしてんの? 空見上げてぼけーとしてたけど」
市役所を出たところで突っ立ったまま、かなり時間が経過していたようだ。
「……いや、なんでもない。ちょっと考え事」
「疲れてんじゃない? 例の企画、もうすぐだよね? スポーツの」
「ああ、うん、そう」
この男、米倉尚人とは大学時代からの付き合いだった。
尚人は慎弥より4歳年下だ。慎弥が1浪をして入った大学へストレートで入ってきた。尚人とはたった1年一緒だっただけだったが、たまたま慎弥と知り合いになってウマが合い、同じ就職先になったこともあって卒業してからもプライベートでたまに会ったりしていた。後輩というよりは、友人に近い。
そのたまたまだった尚人との出会いは、慎弥にとってはあまり思い出したくもない出会いだったが。
『うわっ、閉じこめられたっ!!』
大学の講義が始まる直前。慎弥が急にもよおしてトイレに駆け込んだときだった。用を済ませて急いで出ようとしたのだが、なぜかトイレのドアが開かなかった。焦ってガンガンと押してみるが、なにかが引っかかっているのかビクともしない。
うわっ、とか、なんでっ、とか叫びながら奮闘したが駄目だった。大声で助けを呼ぼうか、よじ登って脱出しようか迷っていると。
すっ、と音もなくトイレのドアが手前に開いたのだった。
『………』
見知らぬ長身の男と目が合った。よく見るとなかなかの男前だった。
『大丈夫?』
『あ……いや……ドア、開かなくて……』
『……このドア、そっちから押しても開かないよ。手前に引かないと』
『……そうだった?』
『うん』
言われてそうだったかも、と思った。慌てていたのでなにも考えずただやみくもに前に押していた。途端に恥ずかしくなる。
『あの……ありがとう』
『いや、いいけど』
そこで、講義に向かっていたことを思い出した。時計を見るととっくに開始時刻を過ぎていた。
『あー、講義始まってんなー』
『まだ大丈夫じゃない? そっと入れば』
『そうかな?』
『うん……ねえ、それって大事な講義?』
『え? ……どうだろ。別に大事ではないかもだけど……』
なんでそんなこと聞くんだろ?と怪訝に思いながら答える。すると、その長身の男前はにっこりと笑顔を向けた。
『なら、お茶でもしない?』
これが、尚人との最初の出会いだった。慎弥は結局講義には出ずに誘われるまま大学のカフェテリアで文字通りお茶をした。そこで思いのほか話が盛り上がって、尚人とはそれからよく時間を一緒に過ごすようになった。
後ろから声をかけられて我に返った。振り返ると、別のフロアで残業をしていたらしい後輩の男が怪訝な顔をして立っていた。
「おお、尚人。お疲れ」
「なにしてんの? 空見上げてぼけーとしてたけど」
市役所を出たところで突っ立ったまま、かなり時間が経過していたようだ。
「……いや、なんでもない。ちょっと考え事」
「疲れてんじゃない? 例の企画、もうすぐだよね? スポーツの」
「ああ、うん、そう」
この男、米倉尚人とは大学時代からの付き合いだった。
尚人は慎弥より4歳年下だ。慎弥が1浪をして入った大学へストレートで入ってきた。尚人とはたった1年一緒だっただけだったが、たまたま慎弥と知り合いになってウマが合い、同じ就職先になったこともあって卒業してからもプライベートでたまに会ったりしていた。後輩というよりは、友人に近い。
そのたまたまだった尚人との出会いは、慎弥にとってはあまり思い出したくもない出会いだったが。
『うわっ、閉じこめられたっ!!』
大学の講義が始まる直前。慎弥が急にもよおしてトイレに駆け込んだときだった。用を済ませて急いで出ようとしたのだが、なぜかトイレのドアが開かなかった。焦ってガンガンと押してみるが、なにかが引っかかっているのかビクともしない。
うわっ、とか、なんでっ、とか叫びながら奮闘したが駄目だった。大声で助けを呼ぼうか、よじ登って脱出しようか迷っていると。
すっ、と音もなくトイレのドアが手前に開いたのだった。
『………』
見知らぬ長身の男と目が合った。よく見るとなかなかの男前だった。
『大丈夫?』
『あ……いや……ドア、開かなくて……』
『……このドア、そっちから押しても開かないよ。手前に引かないと』
『……そうだった?』
『うん』
言われてそうだったかも、と思った。慌てていたのでなにも考えずただやみくもに前に押していた。途端に恥ずかしくなる。
『あの……ありがとう』
『いや、いいけど』
そこで、講義に向かっていたことを思い出した。時計を見るととっくに開始時刻を過ぎていた。
『あー、講義始まってんなー』
『まだ大丈夫じゃない? そっと入れば』
『そうかな?』
『うん……ねえ、それって大事な講義?』
『え? ……どうだろ。別に大事ではないかもだけど……』
なんでそんなこと聞くんだろ?と怪訝に思いながら答える。すると、その長身の男前はにっこりと笑顔を向けた。
『なら、お茶でもしない?』
これが、尚人との最初の出会いだった。慎弥は結局講義には出ずに誘われるまま大学のカフェテリアで文字通りお茶をした。そこで思いのほか話が盛り上がって、尚人とはそれからよく時間を一緒に過ごすようになった。
あなたにおすすめの小説
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
伝導率30%の体温
温 詩夏
BL
良太は優しくて真面目な、普通の会社員。
一人で生きると決めていたけれど、同期だった修真に恋をした。
好きだと気づくまでに時間がかかって、
好きだと分かってからも心が追いつくのには時間がかかる。
そんな、初めての恋の温度に静かに触れていく物語です。
*
読んでくれる方にこの子の背中をそっと見守ってもらえたら嬉しいです。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
魔性の男
久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。
最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。
そう、思っていた。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。