なんにも知らないのは君だけ【お知らせあります】

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本編

尚人

「慎ちゃん、とりあえず歩きながら話そうよ」
「ああ、うん」

 尚人に促され、駅までの道を一緒に歩き出した。

「振興課は大変だよね。イベントとかいっぱいあるし」
「お前んとこも忙しいんだろ? 残業してるじゃん」
「そうだけど。俺はまだ2年目のペーペーだし。雑用処理押しつけられただけだからプレッシャーもないし。週末も借り出されることもないし。慎ちゃんとこ、みんな生気吸い取られて干物みたいになってんじゃん」
「俺もそんな枯れてる?」
「いや、まだ大丈夫。慎ちゃんって体力だけはあるって感じだから。まだいけんじゃない?」
「……それって、褒められてんの?」
「すっごい、褒めてる」
「はあ……」

 尚人は時々毒を吐くことはあるが、基本は物腰が柔らかく、おっとりした性格だ。逆に慎弥は明るく真面目でせっかち者だとよく言われる。ふたりとも人が寄ってくるタイプだが、誰とでも仲良くなれる慎弥に対し、尚人は人を選んで仲良くするようなところがあった。

 慎弥だけには年下っぽく甘えてくるところもあるのだが、他では結構しっかりしている。顔が良くて背も高いし、教員とかになったら絶対人気が出そうな感じなのに。

 慎弥たちの出身大学は教育大学だったので、なろうと思えば教員も目指せたはずなのだが、尚人は全くその方面には興味がなかったようだ。というより、物事に対してあまり執着したり熱くなったりするタイプではないらしい。

 就職先を決めるときも。慎ちゃん、地方公務員、楽しい?と聞かれて、忙しいけどまあまあかな、と答えると、ふーん。じゃあ、俺もそこにする。とあっさり決めてしまった。恋愛に関してもあまり積極的ではないというか、縛られるのが嫌だと思っている節があった。

「そういやお前、この前の彼女、どうなった?」
「彼女?」
「告白されたんだよな? 誰だっけ、あの、美人の……」
「ああ……住民課の子?」
「そう、それ」
「断った」
「……マジか。もったいないじゃん、美人で性格もいいって聞いたぞ」
「うん……でも興味なかったし」
「……やっぱ、モテるやつは違うよな。よりどりみどりだしな」
「俺、そんなモテないけど」
「嘘つけ。今年のバレンタインに30個ぐらいチョコもらったの誰だよ」
「慎ちゃんだってもらってたじゃん」
「俺なんて5個ぐらいだって。一緒じゃねーだろ」
「まあ、とにかく。あの子、ちょっと重そうだったし。俺の好みじゃなかったから」
「尚人の好みってどんなんなの?」
「秘密」
「なにそれ」
「だって言うと、あの子はどうだ、この子はどうだって世話焼くじゃん、慎ちゃん。そんなの面倒くさいし」
「なんだよそれ。人を世話焼きばばあみたいに。ただ心配してるだけだろ。お前、男前なのに全然彼女作んねーし」
「彼女作んなくても、そういうことはできるじゃん」
「……そうだけど。心の安定欲しくないの? その場の関係だけだと虚しくなんない?」
「俺はまだそれでもいいよ。落ち着くのはもっと先でもいいし」
「そうかもだけどさぁ……」

 一体こいつはどんな女と一夜を共にしているのだろう。付き合いは長いのに、今まで尚人に彼女を紹介されたことも、偶然見かけたりしたこともなかった。どうやら、時々誰かと夜を共にしていることはあるらしいのだが、決してその全容を明らかにしないのだった。

 もしかして。尚人の相手って特殊なんかな?例えば。もの凄い年上とか。人妻とか。
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