フェイク

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プロローグ

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前夜

明石あかしさん、大丈夫ですか?』
『大丈夫だってぇ』
『送っていきましょうか?』
『いいっていいって! タクシーで帰るからぁ』

 酔いが回りつつも、そんな会話を会社の後輩としたことは、はっきりと覚えている。
 それから、誰かが呼んでくれたタクシーに一人乗り込んで、運転手のおじさんと景気がどうたら仕事がどうたらと話をしたことも。

 久しぶりに休日出勤のない週末が控えていたせいか、気分が緩みに緩んでいた。同僚たちと飲んだぐらいじゃ、このきゃっきゃっとはしゃぐ遠足前日の子供のような気持ちは、収まりがつかなかったようだ。

 帰宅してすぐ、おぼつかない手つきで麦焼酎のロックを作り、一人で家飲みを始めた。

 テレビを点け、ローテーブルにおつまみと酒を置いて、フローリングの床に座り込んだ。

 頬が熱くて、体がふわふわする。気持ちがいい。その心地よさに身を任せ、グラスを口に運び続けた。
 酔いが深くなるほどに、意識が曖昧になっていく。

 それでも、見ていたテレビ番組の内容は断片的に理解していたし、愛猫のムギに餌をやったこととか、酒のつまみに冷凍庫に常備してあったアイスを食べて知覚過敏を刺激したこともまだ自覚があった。

 だけど疲れのせいか、はたまた三十路に近い歳のせいか、焼酎を三杯飲んだあたりで突然、記憶が飛んで。

 気づいたら朝になっていた。
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