フェイク

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七尾

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「うわぁ、派手にやらかしたな」

 綺麗好きな明石の、整然としたいつもの部屋とは違い、リビングは散らかりまくっていた。

 ローテーブルには飲みかけの焼酎のグラスと、氷が溶けて見るからに生温そうな水が入ったアイスペールが置きっぱなしだった。

 ふとテーブルの下を覗くと、空になった焼酎の瓶が転がっている。床のところどころに、つまみとして食べていただろうチョコレートやビーフジャーキーなどの包みが落ちていた。アイスの袋もあった。

 それに紛れて、卒業アルバムや昔に撮った写真が散乱しており、なにやら思い出に浸っていた形跡もあった。

 そして少し離れたところに、なぜか財布と、いつも愛用しているタブレットが置き捨ててあった。

 記憶も戻らないし、とりあえずさっさと片付けよう、と動き出したのだが。

「うわ……頭、痛ぇ……」

 二日酔いで頭が激しく痛む。片付けを始める前に、この現状をどうにかしなければ。

 確か二日酔いの薬がどこかにあった気がする。

 それか、迎え酒でも飲むか?

 ふとそんな考えが浮かんで、いやいや、とその提案をすぐさま否定する。

 七尾ななおじゃあるまいし。

 と、そこで同期の七尾雄大ゆうだいが、二日酔いに迎え酒をするといつかの酒の席で話していたことを思い出した。

 二日酔いの酷い顔で、ぐびぐびと酒を飲む七尾の姿を想像して、思わずふふっと笑う。迎え酒はほとんど迷信みたいなもので、効き目があるかどうかも疑わしいし、自分はさすがにそんな無茶はしないが。あいつは時々子供みたいに意地になるとこがあるからなと思う。

 明石と七尾は同じ会社の同期だ。二年前に明石が支援のため子会社に出向になるまでは同じ部署だった。

 会社でも目立たない社員Aの座に甘んじている明石とは違い、七尾は整った容姿も手伝って、常に注目されていて仕事もできる。人望も厚いし、当然のごとく女子社員にも人気がある。

 一見、相容れない関係になりそうな二人だが、同期だということ、同じ部署だったということから飲み仲間として付き合いがあった。

 明石が出向になった後も、出向先が本社と同じ都内だということで、時間を見つけては同期同士で飲み会を開催していた。二人きりで会ったことはないが、顔を合わせれば挨拶ぐらいする仲ではある。

 七尾は確か今日は休日出勤だったよな、といつもの癖で七尾のスケジュールをなんとなく頭に浮かべる。

 なぜ明石が本社勤めの七尾のスケジュールを把握しているかというと。

 業務報告などで本社に寄る度に、部署に張り出してある社員のスケジュール表を盗み見しているからだ。そこにある、七尾のスケジュールを。
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