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『俺さぁ。男が好きなんだよね』
高校の時だったか。小学校からなぜかずっと一緒だった腐れ縁の栗原にそう告白したのは。縁が切れるのも覚悟だった。軽蔑やら好奇心やらの目で見られるだろうとも思った。だが、意外にも栗原は大したリアクションもしなかった。
『ふーん。そうなんだ』
その一言だけだった。
『気持ち悪くないの?』
不安になった哲也が聞くと、栗原は眉を潜めて答えた。
『なんで? お前はお前じゃん。別にいいんじゃないの?』
その一言にどれだけ救われたか分からない。段々とオープンになってきたとはいえ、まだまだ理解されない性癖だった。哲也は本当にラッキーだった。理解してくれる人間が近くにいて、当たり前のように振る舞ってくれる。いつも冷静沈着な栗原のよいところの1つだった。それ以来、この男とは腹を割ってなんでも話せるようになった。まあ、栗原が自分に対してどうなのかは知らないが。
「で。探さないわけ?」
栗原がつまみのカマンベールチーズ揚げを箸で摘まみながら聞いてきた。
「……いや、だって探してどうすんだよ。あっちが出て行ったんだし。戻ってこいとも言えないだろ」
「……お前ってさぁ。仕事とか他のことは判断力キレッキレなのに、陸くんのことだけは優柔不断だよな」
「優柔不断って……。別に迷ってもないし」
「嘘つけ。お前が嘘つくときは目が泳ぐだろーが。分かりやすく」
「……泳いでたか?」
「おお。浮気バレた男並みに泳いでたぞ」
「はあ……」
「早いとこ探し出して、連れ戻したらいいじゃん」
「そんな簡単でもないだろ」
「でもさぁ、お前も言いたいことあるだろ?言う機会もなく去られたんじゃ、忘れようにも忘れられないんじゃないの?」
「…………」
「逃げられた理由も思いつかないんだろ?」
「……いや……なんとなく……」
「なんだ、分かってんの? だったら、早いとこそこ解決して、探したら?」
「言っただろ。そんな簡単でもないって。もう解決してるって言うか、覚悟は半分できてるようなもんだけど、それを陸に言うかどうかってまた違う問題だし。あっちは愛想尽かしてるわけだし。それに……」
哲也は一気にまくし立てた後、そこで一旦言葉を止めた。栗原は何も言わずに哲也が言葉を続けるのを待っている。
「それに……俺でいいのかって。本当に俺があいつを幸せにしてやれるのか……自信がない」
栗原はしばらくじっと哲也の顔を眺めていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「つまり。陸くんが出て行ったのは、お前がうだうだいつまでも決心せずにいるのに見切りをつけたからってこと?」
「だと思う」
「で、お前は、陸くんが出て行っちまってから覚悟ができたと」
「まあ」
「覚悟はできたけど、自分が陸くんにふさわしいかどうか自信がないってそういうこと?」
「そう」
「ふーん……」
栗原はまたしばらく黙り込んで何か考えているような表情をした。哲也は栗原が再び話し出すのをのんびりと待っていた。その間に、栗原の好物のカマンベールチーズ揚げを勝手に二切れほど食べた。
「俺はさぁ……」
栗原はもう一切れ食べようと箸をカマンベールチーズ揚げに伸ばした俺の手をパシリと叩きながら話し始めた。
「女が好きだし。お前らというか、男同士の込み入った事情とか正直分からんし。単純に結婚云々で決められることでもないのも分かるけど」
「……うん」
「別にいいんじゃないの?」
「……なにが?」
「自信なくても」
「…………」
「ちゅーか、最初から自信ある奴っていんの?そういうのに」
「いるんじゃないの?」
「人間関係なんてそもそも絶対うまくいくなんて保障もないしさぁ。だから、考えなくていいんじゃないの? 駄目になりそうになったとき考えりゃいいんじゃないの? そりゃ、なんも考えずにほいほい人の人生請け負ったら駄目だろとは思うけど。でも、お前、覚悟できてるんだろ?」
「うん……」
「なら、いいんじゃないの? やっぱり」
「…………」
「まあ、とりあえずは……」
そう言って、栗原が美味そうにカマンベールチーズ揚げの最後の一切れを口に頬張った。
「陸くん、探さないとな」
「まあ……」
「お前、しっかりしろよ。最近のお前ヤバいぞ。社員からも心配の声が上がってるんだろ?」
「……誰から聞いた」
「え? いや……受付のみちこちゃん?」
「お前、うちの社員に手ぇ出すなって言ってるだろ。ナースにしとけ、ナースに」
「職場恋愛はめんどいことが多いんだって。お前んとこの女の子可愛い子多いしさぁ」
「ほんと……ほどほどにしてくれ」
「それより、このままだとお前が駄目になっちまうだろ。そうなる前に陸くんと話せよ。手遅れでもなんでも話すくらいいいだろ」
「……そうだな」
まだなんとなく気は進まなかったが。確かに今の自分は抜け殻のようになっている感は否めなかった。仕事に響いていることも自覚はしていた。この状況をどうにかするには、栗原の言うとおり陸を探し出して話をする以外には解決法はないように思えた。
探してみるか。
そう心の中で呟いて、哲也はぬるくなった生ビールをぐいっと一気に飲み干した。
しかし、この時の哲也はまだ知らなかった。陸との話し合いはそう簡単には叶いそうもないということを。
高校の時だったか。小学校からなぜかずっと一緒だった腐れ縁の栗原にそう告白したのは。縁が切れるのも覚悟だった。軽蔑やら好奇心やらの目で見られるだろうとも思った。だが、意外にも栗原は大したリアクションもしなかった。
『ふーん。そうなんだ』
その一言だけだった。
『気持ち悪くないの?』
不安になった哲也が聞くと、栗原は眉を潜めて答えた。
『なんで? お前はお前じゃん。別にいいんじゃないの?』
その一言にどれだけ救われたか分からない。段々とオープンになってきたとはいえ、まだまだ理解されない性癖だった。哲也は本当にラッキーだった。理解してくれる人間が近くにいて、当たり前のように振る舞ってくれる。いつも冷静沈着な栗原のよいところの1つだった。それ以来、この男とは腹を割ってなんでも話せるようになった。まあ、栗原が自分に対してどうなのかは知らないが。
「で。探さないわけ?」
栗原がつまみのカマンベールチーズ揚げを箸で摘まみながら聞いてきた。
「……いや、だって探してどうすんだよ。あっちが出て行ったんだし。戻ってこいとも言えないだろ」
「……お前ってさぁ。仕事とか他のことは判断力キレッキレなのに、陸くんのことだけは優柔不断だよな」
「優柔不断って……。別に迷ってもないし」
「嘘つけ。お前が嘘つくときは目が泳ぐだろーが。分かりやすく」
「……泳いでたか?」
「おお。浮気バレた男並みに泳いでたぞ」
「はあ……」
「早いとこ探し出して、連れ戻したらいいじゃん」
「そんな簡単でもないだろ」
「でもさぁ、お前も言いたいことあるだろ?言う機会もなく去られたんじゃ、忘れようにも忘れられないんじゃないの?」
「…………」
「逃げられた理由も思いつかないんだろ?」
「……いや……なんとなく……」
「なんだ、分かってんの? だったら、早いとこそこ解決して、探したら?」
「言っただろ。そんな簡単でもないって。もう解決してるって言うか、覚悟は半分できてるようなもんだけど、それを陸に言うかどうかってまた違う問題だし。あっちは愛想尽かしてるわけだし。それに……」
哲也は一気にまくし立てた後、そこで一旦言葉を止めた。栗原は何も言わずに哲也が言葉を続けるのを待っている。
「それに……俺でいいのかって。本当に俺があいつを幸せにしてやれるのか……自信がない」
栗原はしばらくじっと哲也の顔を眺めていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「つまり。陸くんが出て行ったのは、お前がうだうだいつまでも決心せずにいるのに見切りをつけたからってこと?」
「だと思う」
「で、お前は、陸くんが出て行っちまってから覚悟ができたと」
「まあ」
「覚悟はできたけど、自分が陸くんにふさわしいかどうか自信がないってそういうこと?」
「そう」
「ふーん……」
栗原はまたしばらく黙り込んで何か考えているような表情をした。哲也は栗原が再び話し出すのをのんびりと待っていた。その間に、栗原の好物のカマンベールチーズ揚げを勝手に二切れほど食べた。
「俺はさぁ……」
栗原はもう一切れ食べようと箸をカマンベールチーズ揚げに伸ばした俺の手をパシリと叩きながら話し始めた。
「女が好きだし。お前らというか、男同士の込み入った事情とか正直分からんし。単純に結婚云々で決められることでもないのも分かるけど」
「……うん」
「別にいいんじゃないの?」
「……なにが?」
「自信なくても」
「…………」
「ちゅーか、最初から自信ある奴っていんの?そういうのに」
「いるんじゃないの?」
「人間関係なんてそもそも絶対うまくいくなんて保障もないしさぁ。だから、考えなくていいんじゃないの? 駄目になりそうになったとき考えりゃいいんじゃないの? そりゃ、なんも考えずにほいほい人の人生請け負ったら駄目だろとは思うけど。でも、お前、覚悟できてるんだろ?」
「うん……」
「なら、いいんじゃないの? やっぱり」
「…………」
「まあ、とりあえずは……」
そう言って、栗原が美味そうにカマンベールチーズ揚げの最後の一切れを口に頬張った。
「陸くん、探さないとな」
「まあ……」
「お前、しっかりしろよ。最近のお前ヤバいぞ。社員からも心配の声が上がってるんだろ?」
「……誰から聞いた」
「え? いや……受付のみちこちゃん?」
「お前、うちの社員に手ぇ出すなって言ってるだろ。ナースにしとけ、ナースに」
「職場恋愛はめんどいことが多いんだって。お前んとこの女の子可愛い子多いしさぁ」
「ほんと……ほどほどにしてくれ」
「それより、このままだとお前が駄目になっちまうだろ。そうなる前に陸くんと話せよ。手遅れでもなんでも話すくらいいいだろ」
「……そうだな」
まだなんとなく気は進まなかったが。確かに今の自分は抜け殻のようになっている感は否めなかった。仕事に響いていることも自覚はしていた。この状況をどうにかするには、栗原の言うとおり陸を探し出して話をする以外には解決法はないように思えた。
探してみるか。
そう心の中で呟いて、哲也はぬるくなった生ビールをぐいっと一気に飲み干した。
しかし、この時の哲也はまだ知らなかった。陸との話し合いはそう簡単には叶いそうもないということを。
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