ありそうでない話

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『お待たせしました。光輝です』

 小さな声が哲也のすぐ傍から聞こえて、顔を上げる。指名した子がやはりニコリともしないで立っていた。が、礼儀正しく深くお辞儀をする。

『こうき、くん?』
『はい。宜しくお願いします』
『座って』
『失礼します』

 哲也の隣に気持ち間を開けて座った光輝という名のホストをまじまじと見つめた。当の本人は視線を感じているだろうが、こちらを見もせず俯き加減にテーブルを見つめていた。

 なんか。

『……似合わないね』
『え?……』

 そこで初めて、そのホストはこちらを見た。真正面から目が合う。瞳も綺麗な子だった。確かにこの目でじっと見られたらよからぬ気持ちになってしまうのも理解できる。

『名前も職業も』
『…………』

 哲也がそう言うと、その子は悲しそうな顔をもっと曇らせた。泣きそうな顔の彼を見て、哲也の中で何かが動いた。その衝動のまますぐさま行動に移す。

 近くにいた店員に声をかけた。

『この子、連れて帰りたいんだけど。今すぐ』

 光輝も、店員も、隣の社長も、驚いた顔で哲也を見た。

『もうよろしいんですか?』
『うん。先に精算済ませるから。あと、マネージャーと話したいんだけど』
『はい、かしこまりました』

 慌てた様子で店員が奥へと引っ込んだ。隣の社長がにやにやといやらしい笑顔を浮かべて話しかけてきた。

『随分その子のこと気に入ったんですねぇ』
『まあ……あ、でも、すみません。お先に失礼しても大丈夫ですか?』
『どうぞどうぞ。今夜はそのためにこちらに連れてきたようなもんですし』
『こちらのお会計は僕が持ちますので。ゆっくりしていってください』
『え? いいの? じゃあ、お言葉に甘えて』

 最初からそのつもりだったくせに、と心の中で呟きながら笑顔を返す。

『あの……』

 光輝がおずおずと声をかけてきた。

『本当に……よろしいんですか? まだ、一杯も飲んでらっしゃらないのに』
『うん。どうせなら外で飲もう』
『……分かりました』
『お待たせしました』

 このクラブのマネージャーと思わしき男が寄ってきた。見た目、普通そうに見えるが、その筋の人間だとなんとなく分かる。

『ちょっと、この子について話があるんだけど。どっか個室で話せるかな?』
『……はい……かしこましりました。それで、光輝とお帰りになる準備は……』
『そっちも進めてくれる?』
『かしこまりました。光輝、準備して』
『はい』

 こちらへどうぞ、と店の奥の小さな商談用のような個室へと案内される。飲み物を聞かれたが断った。すぐに話の本題へと入る。

『あの子の借金ってどれくらいあるの?』

 一瞬、マネージャーが面を食らったような顔をしたが、すぐに愛想笑いを浮かべてその問いには答えずに聞き返してきた。

『お客様。その話はどこから?』
『たぶん、客の間じゃ有名な話だと思うよ』
『……そうですか』
『で。あとどれくらいあるの?』

 哲也の意図が計りかねるというような表情をしながら、マネージャーがその金額を口にした。

 哲也は、即決した。

『それ、全額払うわ』
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