私を愛しすぎた殺人鬼

まぁ

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さきもと

さきもと

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「崎本さん。お子さんは私の友達が隣の個室で見ていてくれるそうなんですが大丈夫ですか?」

「え、はい!わざわざごめんなさい。」

「大丈夫です。子持の子なんで安心してください。」

「ありがとうございます。」

すでに届いていたお茶を一口のむと、丁度トントンとノックが聞こえ凛がきた。

「いらっしゃいませ。高津です。彩海とは高校の同級生でして。お子さん預かりますね。」

「崎本と申します。ご迷惑おかけして申し訳ありません...光太郎と結です。よろしくおねがいします。」

「全然大丈夫ですよ!子供好きなんで!」

笑顔でベビーカーと鞄を預かり、光太郎くん!と手を伸ばした凛にこうちゃんはおずおずと手を伸ばした。

「こうちゃん、お姉さんに迷惑かけちゃだめだよ。」

「うん」

バイバイと私と彼女に手をふって、凛に連られて出ていき、彼女と私だけの空間になった。

「とりあえず、何か頼みますか?」

「今は食欲なくて...金蔵さん頼んでください。」

「うちも寝起きでまだお腹空いてないんですよね。」

ハハッと笑い、机の上にで手を組む。

「何があったんですか?」

私の言葉に私の目を見つめた彼女の目から涙が滲んだ。
震える肩はとても薄い。

「離婚届が見つかって、別れる気かっていわれたんです。」

「はい。」

「それに、頷いたんです。」

「はい。」

「そしたら、怒鳴りだして、誰のおかげで生きてるのかとか、俺がいなきゃ何もできないくせに。とか。」

「はい。」

「だから私、カッとなって浮気のこととかお金使い果たしたこととかわかってる。って言ったんです。」

「はい。」

「そしたら、それを義理母に言ったのか。って言われて。」

「はい。」

「言ってないけど、言うつもりだと答えたんです。」

「はい。」

「そしたら、」

涙を流しながら、それでもしっかりと言葉を並べていた彼女が下唇を噛んだ。
言いづらいことなのだろう。そのままジッと沈黙を飲み込んだ。
ちらりと私の目を見てうつむいた彼女をがそのまま小さな声でつぶやいた。

「言ったり、離婚するなら、昔の動画バラまくって。」

「昔の動画?」

「若いころ、あの。所謂ハメ撮り...」

びっくりしすぎて上唇と下唇が離れた。
反応しなければならないが、こんな可愛くて清楚な感じの人でもそんなことするんだという驚きで不謹慎ながはも口元がにやけそうになり、唇を噛む。

「酷いですね...その内容録音は?」

昨日、とりあえず暴言だけでも慰謝料取れる可能性もあるから。と録音しておくことをおすすめするショートメールを送っていた。
フルフルと首を横に振る彼女。

「携帯はこうちゃんがゲームで遊んでいて、だから録音の機械昨日言われたあとに通販で買ってまだ届いてなくて...」

「そうなんですね...」

「もう、どうしたらいいかわからなくて、それを話したあと家から出ていく旦那のこと後ろから刺そうとしてたのか、包丁もっていたんです。こうちゃんの私のこと呼ぶ声で我にかえったんですが..もしあそこでこうちゃんが私のこと呼ばなかったら。あの子の目の前で...!!」

ブワッと吹き出す涙に、荒くなった呼吸。
席を彼女の隣に移し、彼女の背中をさすった。
うっうっと嗚咽が混じった声を発しながら泣く彼女は、どんな思いで私に連絡したのだろうか。
仮にも自分の旦那が浮気仕掛けていた女だ。
どんなに惨めなことだろう。
私なら耐えられない。
私の中で崎本への怒りと他に何かゾクゾクとした感情が生まれた。

「ねぇ、崎本さん。旦那さん死んでもいいんですよね?」

涙で濡れ、鼻水が出ている顔がこちらを向き、私から出た言葉に驚いているのか、私の顔を見たまま固まった。
彼女の頭をなでて、ニコリと笑う。

「死んでもいいならこの前の話受けますよ。」

「え、どうゆうこと?」

「この前の寝てほしいって話。受けてもいいですよ。
   けど、死ぬかもしれません旦那さん。」

「し、死んでもいいです!というか、死んでほしいです。保険金だけあの子達のために残してくれるしか、あの人に生きてる価値なんてないです!」

私の胸元に縋るように、私の服をつかむ彼女。
また、なんの感情かわからないが腹の奥がゾクゾクとした。

「でも、なんで死ぬんですか?」

少し落ち着いたのか、私の胸元から離れティッシュで顔を拭く彼女は不思議そうに私を見つめた。

「死なないかもしれません。死ななくても、証拠はできるわけだし、まず私との写真を会社に送るとかいったその動画を消してもらって、少ししたらそんだけクソな男だったらまた浮気するでしょ。それの証拠集めて、離婚できるんじゃないですかね。」

私の中でほぼほぼ死ぬだろうと確信があった。
あの小山内のとだ。
私が他の男と寝たなんて知ったら確実に殺るだろうと。
問題は1つだけ。まだ小山内が私を愛しているかどうか。
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