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1.×恋人、○ストーカー

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よく晴れ渡った爽やかな朝、自分のベッドで心地よい眠りから覚めると目の前には・・・ストーカーが俺の隣で気持ちよさそうに眠っていた。




《前世の恋人がストーカーしてくる件について》





「・・・・・・・。」
そいつを視界にとらえた途端スッと眠気が覚めた俺はそいつを無言でベッドから蹴り落とすと、ドスンという音の直後いったーー!!と悲鳴が聞こえたが、そんな声なんて聞こえなかったことにして「んーっ」と伸びをする。あーよく寝た今日もいい朝だなー。

どうして俺がストーカーの不法侵入にこんなに冷静に対処できるのかって?
このストーカー、ナイトと言う男が俺の家に不法侵入するなんて日常茶飯事でもう慣れてしまった。


「いてて…全く、リヒトったらそんなに照れなくてもいいのに」
「照れてねぇよ。怒ってるんだよ。」
「怒るって何に…あぁもしかして!!おやすみのキスが出来なかったこと?ごめんね寝るときに恋人からのキスがもらえないと寂しいよね?今日は絶対にキスしてあげるからね?」
「ち、が、う!お前のキスなんて要らないから毎回毎回不法侵入してベッドに潜り込んでくるな!!それに何回も言ってるけど、お前と恋人だったのは前世での話だろうが!今の俺にとっちゃただのストーカーだよ!」
「前世でも今世でも、俺の恋人はリヒトだけだよ」
語尾にハートマークでも付いてるんじゃないかってほど甘ったれた声で返されることにも慣れきった俺は、早々に話の通じないストーカーの相手を諦めてはぁ~と大きなため息を零しながら身体を起こす。ベッドから出る際に床に転がったストーカーをしっかり踏みつけてから寝室をあとにした。
心なしか悲鳴が嬉しそうだった気がするのは気のせいだと思いたい…。




俺の名前はリヒト、年は16歳で魔術アカデミー高等科の1年生。
俺には物心ついたときから前世の記憶というものがあった。
魔獣や魔法、魔術など未だ科学や理屈では解明されていない力が当たり前のように溢れかえる世界で、こんな記憶くらい誰でも持ってるんだろ?なんて特に疑問に思ってなかったんだけど、小等科に通いだした途端に実はとても珍しいことなんだと言うことを思い知らされた。


へぇ、稀に前世の記憶持ってるやついるって聞いたことあるけど本当にいるんだ!
ねぇねぇ前世ではどんなことしてたの?どんな人だった?
おれ昔じいちゃんから前世の記憶持ちは大罪を犯した罰だって聞いたことあるんだけど何したの?
ええええリヒトくん昔悪い人だったんだー!

なーんて、様々な好奇の目に晒され遠慮のない質問を次から次へと浴びせられたのは忘れたくても忘れられない出来事だ。
ただ純粋にすごいねぇって言ってくる人もいれば、反対に気持ち悪いだのだから試験の成績がいいのかだの言ってくる輩もいたのでそういう奴らは片っ端からこてんぱんにしてやったよ、色んな意味でな。

前世の記憶があるってどんな感じ?ってよく聞かれるんだけど、なんていうか壮大な長編映画を見る感じに近いのかなー。
あ、大罪を犯したからうんぬんは嘘だと思うよ、俺そんな悪い事してないし。
まぁ昔の記憶があるからと言っても昔の人は昔の人、俺は俺だから記憶がある事自体正直あまり重要じゃないんだけどね。

ただ一つだけ問題があるとしたらーーー…

「わぁ~いい香り~!俺もリヒトが入れたハーブティー飲みたいな~!」

この俺の後ろを全く悪びれず当たり前のように着いてくるナイトの存在だろうか・・・。


こいつはナイト。17歳で俺と同じ魔術アカデミー高等科の2年生。
ちなみに学校では凄く有名人だったりする。変態で有名だと思った?残念ながらこいつ俺の前では変態ストーカーなのに外面はめちゃくちゃ優等生!品行方正、成績優秀、眉目秀麗で他の生徒や教師から厚く信頼されてるらしい。
じゃあ変態以外に何が有名なんだって思うだろ?実はこいつ、王族なんだよ。現国王の第三王子。
王子が不法侵入ストーカー行為繰り返すってこの国の将来大丈夫なのかよ…。

既に気付いてる人もいると思うけど、こいつも前世の記憶を持っている数少ない一人だったりする。
そして悲しいことに、、、前世の俺らは恋人同士だった。

前世で女性として生を受けた俺は、類まれなる才能を発揮し美人天才魔術師なんて周りからもてはやされ各地に名を轟かせていた。
そんな俺に興味をもったのが、俺が暮らしてた国から遠く離れたところにある雪の帝国の第一級王族付魔術師(直属で王族に仕える兵士みたいなもん)で、なんでも今まで自分と対等にやりあえる術士に巡り合ったことがないので是非とも勝負を申し込みたい、というなんとも兵士らしい理由だった。

俺はと言うと、その国の特産品が大変美味だという話を耳にしたので観光ついでに承諾した。

あ、もう分かった?そう、この第一級王族付魔術師なんて大層な称号を与えられているこの男が、前世でのナイト。

勝負の結果を先にいうと、決着がつかなかった。
お互い持てる限りの力で三日三晩戦っていたら、これ以上は城が壊れるから止めてくれ!って宰相に泣きつかれてしまい互角、ということでお開きになったんだけど…。
その勝負で俺に惚れ込んだらしいヤツは、それからというもの何度も何度も熱い告白をしてきた。

最初は断って相手にしてなかったんだけど、何年も愛の告白を続けられて…なんというか、一途な愛に?少しずつ俺の気持ちも変わりだし、結果付き合うことになった。

勿論前世の俺が誰と付き合おうが自由だし文句をいうつもりもない。
過去は過去、今は今だ。なのに男に生まれ変わった俺をこいつはどうやったのか見つけ出して、同性であることにがっかりするどころか、ファーストコンタクトでいきなり熱烈なハグと結婚の申込みをぶちかましてきたのだった。

それからというもの、何度も何度も断ってるのに…!!!!
ナイトは俺にべったりつきまとい、さらに俺の知らないところでは既に結婚してるなんて噂まで回ってるらしく、涙しか出ないわもう…。
誰でもいいから元恋人、現ストーカーのこの男をどうにかしてくれ。



「あっリヒトお着替えするの?俺手伝うよ、ほらバンザイしt

窓ガラスを豪快にぶち破りながらナイトが吹き飛ばされていった。
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