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第一章
27話 つわものどもが夢の跡
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無言で北へ歩を進める。どんなに残酷なものが待ち構えていようと、私はそれを受け入れて前に進まなければならない。
そんな私の覚悟を余所に、見えてきた北門付近の光景は想像以上に綺麗だった。
「あれは……」
そこには団長を筆頭とする近衛騎士団がいた。
「おや、これはレオ殿。まだ会議の時間には早いと思いますが?」
やって来た私を見つけた団長がそう声をかけてきた。
「いや、先に現場の様子を見ておきたいと思って見回りを……。ところでこれは……?」
敵の遺体と思われるものは、布に包まれて馬車に載せられていた。
ウィルフリードの鎧を着ている兵士の遺体には、顔に布が掛けられまとめて安置されている。
「そうですか。領主自ら現場に赴くとは殊勝な心がけですね!……それなら、これも余計なお世話でしたかな?」
「いや、助かる。正直、ここに来るまで最悪の状況を想像していた」
「……敵兵と言えども、彼らも帝国の兵士です。とてもそのままにしておくことは出来ませんよ。……かつての大戦では、戦友の死体を回収することはおろか、彼らを踏み越えて王国と戦いました」
団長は寂しそうな顔で乾いた笑みを浮かべる。
「こんなことが彼らへの弔いになるとは思いません。が、何もせずに、誰にも祈られることなく人々の記憶から消えてしまうことほど悲しいことはありませんから」
「……お気遣い感謝します」
きっと父にもそのような経験はあるだろう。かの大戦を生き残った兵士たちの目は、皆どこか悲しそうな色が宿っている。
「そちらのウィルフリードの兵士方も、ウィルフリードの地で眠らせてあげてください」
「わかりました。すぐに命じて、家族の元まで帰します。……頼んだタリオ」
「はい」
彼ら一人ひとりには家族や恋人、友人がいて、それぞれの人生があった。
「レオ様、会議前の打ち合わせもあるので私たちも早く行きましょう」
「それじゃあ私たちは先に屋敷でお待ちしてます」
「はい。私たちはファリアの兵を運ぶ準備が終わり次第向かいます」
私とタリオはウィルフリードの街を一周し、西門から中へ戻った。
その道中に見た景色には胸を痛めた。
収穫前の畑は踏み荒らされ、清冽な川は濁って底が見えなくなっていた。
ウィルフリードを囲う堀も、崩れた岩や濁った川の水の流入によって酷い荒れようだった。
「ではレオ様、私はウィルフリードの兵の遺体を運ぶよう指示を出してきます。寄り道しないで帰ってくださいね」
「大丈夫だ。流石に会議に遅刻するようなことはしないさ」
「それじゃあ私はここで!」
「あぁ。彼らを頼んだよ」
タリオは街に入ってすぐ離脱した。私も屋敷まで馬を走らせる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おかえりなさいませレオ様」
「ありがとうマリエッタ。もうみんなは集まってるのかな?」
「はい。既に資料の準備も完了し、会議室にて待機しております」
「それじゃあ急がないとな」
私は馬を警備の兵に引渡し、会議室へ急いだ。
「待たせてすまない。早速会議を始めよう」
「視察ご苦労さまレオくん」
「ありがとう」
私が慌てて入室すると、既にみんな揃い、それぞれの座席の前には書類が配られていた。もちろん、空席になっている私の席にも。
「それじゃァ、まずは俺から被害報告をさせて貰うとするぜ」
「歳三、頼んだ」
席につき、一枚目の紙を手に取る。
そこには淡々と数字の列が並んでいた。
「まずは戦死者数についてだが……。ファリア方は正確な数字は把握出来ていないが、分かっている分だけで千五百ぐらいだな」
「……半分か」
それは多くの犠牲者とも言えるし、多くの戦果とも言える。
「次にこちら方の戦死者だ」
私はゴクリと唾を飲み込む。
「……ウィルフリード軍が三百弱、冒険者が五人、傭兵が百二十程だ」
「軍は半数以上が戦死……か、……クソ」
紙を持つ手に力がこもり、紙の端に皺ができた。
「大丈夫かレオ。辛いかもしれないがお前はこれを受け止めなければならねェ」
「分かっている。……続けてくれ」
街を守るために死んでいった彼らに報いるためにも、私はウィルフリードのこれからを考えなければいけない。
「義勇兵を含む民間人の被害は、避難が済んでいたというのも甲斐あって二百ほどだ。そして、そのほとんどは義勇兵だった」
「……彼らも本望だったでしょう」
ベンが口を挟む。それは死んだ彼らへの弔いか、それとも私を慰めるための言葉か。
民間人でありながら武器を取って共に戦った彼らは、民たちの中で英雄として称えられるのだろうか。
「それじゃあ次は俺がいかせてもらうか」
「ゲオルグ、よろしく頼む」
私は次の紙を手に取る。
「俺ら冒険者は基本的にバックアップに回った。他より犠牲が少ないのはそういうことだ」
「それは分かっているよ。誰も冒険者たちを責めたりなどしない」
「そうか、それならいい。……それで俺らは主に負傷者の保護に当たった」
書類に目を落とす。
「まずウィルフリードの兵が百、冒険者は二十、傭兵は五十ほどがそれぞれ重軽傷を負って現在治療を受けている」
「それじゃあ今動けるウィルフリードの兵は百しかいないというのか……」
「今は重傷者を中心に治療を進めている。じきに軽傷者も治療を受けてまた戦えるようになるさ。……それに俺たちもまだまだ戦えるしな!」
冒険者たちは今も周囲の森や山に魔物を討伐しに行っている。この脆くなったウィルフリードの街を守るためには、厳しい状況の中で戦い続けなければいけない。
「それとなんだが……、ファリアの逃げ遅れた負傷兵が五十ほどいる。……捕虜の扱いについてはレオ様に任せたい」
「あとで団長と相談してみよう。ファリアの今後の処遇が決まってない以上、捕虜の取り扱いには気をつけるように伝えてくれ」
「了解した。俺からは以上だ」
とりあえず、この戦いで傷ついた人の数が分かった。
重苦しい空気のなか、会議はまだ続く。
そんな私の覚悟を余所に、見えてきた北門付近の光景は想像以上に綺麗だった。
「あれは……」
そこには団長を筆頭とする近衛騎士団がいた。
「おや、これはレオ殿。まだ会議の時間には早いと思いますが?」
やって来た私を見つけた団長がそう声をかけてきた。
「いや、先に現場の様子を見ておきたいと思って見回りを……。ところでこれは……?」
敵の遺体と思われるものは、布に包まれて馬車に載せられていた。
ウィルフリードの鎧を着ている兵士の遺体には、顔に布が掛けられまとめて安置されている。
「そうですか。領主自ら現場に赴くとは殊勝な心がけですね!……それなら、これも余計なお世話でしたかな?」
「いや、助かる。正直、ここに来るまで最悪の状況を想像していた」
「……敵兵と言えども、彼らも帝国の兵士です。とてもそのままにしておくことは出来ませんよ。……かつての大戦では、戦友の死体を回収することはおろか、彼らを踏み越えて王国と戦いました」
団長は寂しそうな顔で乾いた笑みを浮かべる。
「こんなことが彼らへの弔いになるとは思いません。が、何もせずに、誰にも祈られることなく人々の記憶から消えてしまうことほど悲しいことはありませんから」
「……お気遣い感謝します」
きっと父にもそのような経験はあるだろう。かの大戦を生き残った兵士たちの目は、皆どこか悲しそうな色が宿っている。
「そちらのウィルフリードの兵士方も、ウィルフリードの地で眠らせてあげてください」
「わかりました。すぐに命じて、家族の元まで帰します。……頼んだタリオ」
「はい」
彼ら一人ひとりには家族や恋人、友人がいて、それぞれの人生があった。
「レオ様、会議前の打ち合わせもあるので私たちも早く行きましょう」
「それじゃあ私たちは先に屋敷でお待ちしてます」
「はい。私たちはファリアの兵を運ぶ準備が終わり次第向かいます」
私とタリオはウィルフリードの街を一周し、西門から中へ戻った。
その道中に見た景色には胸を痛めた。
収穫前の畑は踏み荒らされ、清冽な川は濁って底が見えなくなっていた。
ウィルフリードを囲う堀も、崩れた岩や濁った川の水の流入によって酷い荒れようだった。
「ではレオ様、私はウィルフリードの兵の遺体を運ぶよう指示を出してきます。寄り道しないで帰ってくださいね」
「大丈夫だ。流石に会議に遅刻するようなことはしないさ」
「それじゃあ私はここで!」
「あぁ。彼らを頼んだよ」
タリオは街に入ってすぐ離脱した。私も屋敷まで馬を走らせる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おかえりなさいませレオ様」
「ありがとうマリエッタ。もうみんなは集まってるのかな?」
「はい。既に資料の準備も完了し、会議室にて待機しております」
「それじゃあ急がないとな」
私は馬を警備の兵に引渡し、会議室へ急いだ。
「待たせてすまない。早速会議を始めよう」
「視察ご苦労さまレオくん」
「ありがとう」
私が慌てて入室すると、既にみんな揃い、それぞれの座席の前には書類が配られていた。もちろん、空席になっている私の席にも。
「それじゃァ、まずは俺から被害報告をさせて貰うとするぜ」
「歳三、頼んだ」
席につき、一枚目の紙を手に取る。
そこには淡々と数字の列が並んでいた。
「まずは戦死者数についてだが……。ファリア方は正確な数字は把握出来ていないが、分かっている分だけで千五百ぐらいだな」
「……半分か」
それは多くの犠牲者とも言えるし、多くの戦果とも言える。
「次にこちら方の戦死者だ」
私はゴクリと唾を飲み込む。
「……ウィルフリード軍が三百弱、冒険者が五人、傭兵が百二十程だ」
「軍は半数以上が戦死……か、……クソ」
紙を持つ手に力がこもり、紙の端に皺ができた。
「大丈夫かレオ。辛いかもしれないがお前はこれを受け止めなければならねェ」
「分かっている。……続けてくれ」
街を守るために死んでいった彼らに報いるためにも、私はウィルフリードのこれからを考えなければいけない。
「義勇兵を含む民間人の被害は、避難が済んでいたというのも甲斐あって二百ほどだ。そして、そのほとんどは義勇兵だった」
「……彼らも本望だったでしょう」
ベンが口を挟む。それは死んだ彼らへの弔いか、それとも私を慰めるための言葉か。
民間人でありながら武器を取って共に戦った彼らは、民たちの中で英雄として称えられるのだろうか。
「それじゃあ次は俺がいかせてもらうか」
「ゲオルグ、よろしく頼む」
私は次の紙を手に取る。
「俺ら冒険者は基本的にバックアップに回った。他より犠牲が少ないのはそういうことだ」
「それは分かっているよ。誰も冒険者たちを責めたりなどしない」
「そうか、それならいい。……それで俺らは主に負傷者の保護に当たった」
書類に目を落とす。
「まずウィルフリードの兵が百、冒険者は二十、傭兵は五十ほどがそれぞれ重軽傷を負って現在治療を受けている」
「それじゃあ今動けるウィルフリードの兵は百しかいないというのか……」
「今は重傷者を中心に治療を進めている。じきに軽傷者も治療を受けてまた戦えるようになるさ。……それに俺たちもまだまだ戦えるしな!」
冒険者たちは今も周囲の森や山に魔物を討伐しに行っている。この脆くなったウィルフリードの街を守るためには、厳しい状況の中で戦い続けなければいけない。
「それとなんだが……、ファリアの逃げ遅れた負傷兵が五十ほどいる。……捕虜の扱いについてはレオ様に任せたい」
「あとで団長と相談してみよう。ファリアの今後の処遇が決まってない以上、捕虜の取り扱いには気をつけるように伝えてくれ」
「了解した。俺からは以上だ」
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