英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

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第一章

48話 平和談義

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 仮にも高官であった孔明を兵舎に詰め込むのは流石に不自然に思い、夜は離れの小屋で寝てもらうことにした。

「孔明、ちょっといいか?」

「はい。どうぞ…」

 下男たちが一式の家具を運び終えた後、私も離れへ顔を出してみた。

 孔明は窓から差し込む月明かりを眺めながら酒を口にしていた。白い肌は赤みがかり、長い艶やかな髪も相まって男同士なのに少しドキッとしてしまうほどだった。

 彼が口ずさむメロディーはどこか懐かしく、そして物悲しい雰囲気を纏っていた。

「……浅酌低唱(せんしゃくていしょう)に浸っておりました。何か御用でしたか?」

「いや、大した用はない。少し様子を見に来ただけだ。……邪魔して悪かったな」

「大変居心地の良い場所を頂き感謝しています…。ほら、そこの木もすっかり紅葉して綺麗でしょう?」

「そうだな……」

 ゆったりとした夜の静けさに、酒の香りが眠気を誘う。

「それじゃあ今日はゆっくり休んでくれ。明日からよろしく頼む」

「えぇ。改めて、よろしくお願いします……」

 孔明は手を組み頭を下げる。

「その『神算鬼謀(シンザンキボウ)』のスキルと魔法を駆使して新たな策略が生まれることを期待しているよ。……戦いが起こらないに越したことはないがな」




「───レオ。あなたが目指す場所はどこですか?」

「私が目指す場所……?」

「そうです。あなたは何のためになら戦い、何のために生きるのです?」

 私にはその問いの意図がつかめず、即座に返事をすることが出来なかった。

「子曰く、遠き慮り無ければ、必ず近き憂あり」

「なんだ……? それは」

「孔子が説くことには、遠い将来のことを考えていなければ、近い将来に心配事が起こる。と言うのです」

「なるほど……?」

「目標もなく行き当たりばったりでは、いつか道に迷い、戻ることも出来なくなってしまいますよ」

 それで私の目指す場所はどこか、ということか。

 私はかつて平和な世界で、平凡な人生を送っていた。それ故に、この世界にあっても「平和」というものを渇望しているのかもしれない。

「孔明よ、逆に問いたい。平和とはどうすれば手に入る?」

「ふふ。それはまた難しい質問ですね」

 孔明は酒を飲む手を止め、閉じた羽扇を口に当て考えだした。

「……『神算鬼謀』でレオが生きた時代までの戦いを覗き見しました。……ですが、いつの時も人々は天下のどこかで争いを続けている」

 戦争や紛争がない年のほうが珍しいのかもしれない。いや、血を伴わずとも、平和とはかけ離れた現状を過ごす人々もいるだろう。

「私が求める平和は甘えに過ぎないのか……?」

「…………そうとも言いませんよ。民に安寧秩序をもたらさんとする姿こそ、真の君主でしょう。少なくとも私は、私利私欲のために天下を手にしたいと言う人物に仕える気はありません」

「……そうか」

「答えなど、人間は一生をかけても見つけることが出来ないのでしょうね。だからこそ、こうして思い悩み、次の世代へと命を繋げてきたのです」

「……うーん。よくわからないな……」

「ふふ。今はまだそれでいいのですよ」

 孔明は羽扇で火照った顔を扇(あお)ぎながら続ける。

「ただ、国に従う一地方領主の身では、必ず戦いに巻き込まれるでしょう」

「確かに、帝国に忠誠を捧げる貴族として、その拡張政策に異を唱えることは出来ないな」

 夜風に髪を揺らしながら、孔明は私を見つめてこう言った。

「レオ、王になりなさい」

「え?」

 その言葉は今まで彼が発した言葉とは、一層重みが違って感じられた。その目付きからも、ただ酔って大口を叩いている訳では無いことは一目だった。

「天下を統べ、その威光を持って世界に安寧の時を……」

 そう言うと孔明は目を閉じ、こくんと眠ってしまった。あの目は眠気を堪えていたからだろうか。

 そうだとしても、その言葉は確かに私の未来を動かした。そう強く確信した。



 私は椅子の上で寝てしまった孔明をなんとかベットに下ろし、小屋を後にした。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 




 次の日からは、また慌ただしい毎日が幕を開けた。

「───成程。ここでも魔法が使えるのですね。勉強になります」

「いえ、むしろその知識を活かせばもっと凄いことができそうだわ!」

 母と孔明の政治談義は数時間に及んだ。

 私も勉強の為に参加していた。改めて目の当たりにする母の姿と、元丞相という経歴の孔明を見ると、私が領主代理を務めていた時の反省点が露呈した。

「現地視察で確認したけど、あれぐらいの被害ならすぐに壁も直せるわ。すぐに皇都から優秀な土魔法とドワーフの職人を手配しましょう」

「建築という分野においても、魔法や多様な種族の力を借りることで数倍の効果を挙げれるようですね」

「そうよ。ただ、ウィルフリードにいるドワーフたちは冒険者の一員がほとんどだから、職人は皇都から呼ばなきゃいけないの」

「ほう? 職人は手元に置いておいた方が良いのではありませんか?」

「それができればね…。彼らは優秀な武器職人でもあるのよ。だから、皇都ではその名工を専有し、他の地方領地に渡すことは禁じているわ」

「武具を自由に作られては反乱の手助けになる…、と。───権力維持の為に民に苦難を強いるとは、まさに亡国の兆しです」

 一応、人間の鍛冶屋ならウィルフリードにもいるため、生活用具や農具ぐらいならまかなえている。

 しかし、武器の類は皇都から買うか、もしくはアキード協商連合から「反魔王共闘同盟」に則り供出された粗悪品だけしか許されていない。どちらも利権が絡んだ汚い問題だ。

「いずれにせよ、中央に優れた人材が集まり、地方が疲弊するのは避けられぬものです。それだけに、これだけウィルフリードを発展させた奥様の苦労が伺えますね」

「そう言って貰えると嬉しいわ!」

 それからも、政治だけに限らず、天下の情勢の見極めから君主としての心構えまで、孔明はその博識さを私たちに披露してみせた。

 これからのウィルフリードは、軍事面で父と歳三が、政治面で母と孔明が支えていくことになるだろう。そして、いずれは私が…………。

 そんな、遠きを慮る有意義な時間を過ごせた。
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