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第一章
86話 開発部主任
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「───地図で見た時はこの辺だったはずなんだが……」
「あー、二人にはチョイと大き過ぎやしねェか?」
「……同感だ」
そこには私の屋敷程ではないがそれなりの大きい家があった。
恐らくここが空き家で残されていたのも、この大きい家を維持できる人間が消え、誰も壊す費用も払えなくなりこの有り様なのだろう。
ヘクセルは家事が出来そうな雰囲気ではなかった。実質ミラ一人でこの家を管理することになるだろう。
「研究成果が上がれば助手でも付けてやるべきかもな」
「ヘクセルもミラ以外に弟子を取るつもりもなさそうだしな……。まぁいい、直接話を聞いてみた方が早いさ。行こう歳三」
「おう」
私がドアをノックすると、すぐにミラが出てきた。
「あっレオ様!おはようございますっ!」
「おはようミラ。家の様子を見に来たんだ。どうかな、ここは研究所として使えそうかい?」
「はい!こんな立派な場所を頂いて!本当に感謝しています!」
ミラは元気よくそう答え、茶色い髪を揺らしながら頭を下げた。
家事やらでミラ本人への心配は大丈夫そうだ。
「それで、ヘクセルはいるかな?今後について話しておきたい」
「はい!すぐに呼んできます!お上がりになってお待ちください!」
「ありがとう」
私と歳三は促されるままに、机と椅子以外に家具が置いていない部屋へ案内された。
殺風景な部屋だがゴミや汚れが無いところを見ると、昨日にでもミラが頑張って掃除したのが伺える。
ミラが部屋から出てすぐにヘクセルが出てきた。
今日のヘクセルは女性寄りの見た目をしていた。
「や、やぁ!こんなに大きな研究所を貰えるなんて、僕も出世したもんだね……!」
「そうだな。だが、それに見合うだけの働きはしてもらうぞ?」
私がそう笑いながら言うと、ヘクセルは頭を掻きながらポケットから何かを取り出した。
「これがその成果になるかい……?」
「ん……、これは?」
手渡されたそれは小さな木細工の球体だった。
見た目から分かるのはそれだけで、他の特徴を強いてあげるなら握りやすい。その程度だった。
「こ、これは魔物を撃退するのに使った新作の魔道具なんだ……」
「どうやって使うんだ?」
「使い方は簡単。魔力を込めて投げるだけ!相手や地面にぶつかれば、中に入った魔石同士がぶつかり合い、使用者が込めた魔力が暴発し大爆発!」
「…………」
私は言葉を失った。
「あっ……、い、イマイチだったかな……。そ、そうだよね、貴重な魔石を二個も使い捨てにするなんて……」
私のその様子を見て、ヘクセルはしゅんと俯く。
「ヘクセル!」
「は、はい!?」
「君は天才だ!これは手榴弾!グレネードだよ!」
「えっ、あっ……、よく分からないけど、良かったのかな……?」
「ああ!魔石は買えばいい!きっとファリアの鉱山からも多少は採れる。なんなら多少値が張るが、冒険者たちに依頼を出しモンスターの核である魔魂石でも集めよう!」
これなら誰にでも簡単に扱え、しかも魔力を込めなければ爆発しない特徴がさながら安全装置となり、軍としても管理しやすい。
戦いの時代をまた一つすっ飛ばしてきた。
「例えばだ、これをそれぞれ火の魔石と風の魔石にすればどうだろう。爆発力の向上が見込めないだろうか。そして今はこの材質は木で出来ているが、例えば金属にすれば爆発で飛び散った破片が副次的な攻撃にも───」
「そ、それは興味深いね……!やってみる価値はありそうだよ」
それから私たちは熱い議論を交わした。
戦いに興味のないミラと、手榴弾の登場を知らない歳三は黙って私たちの話を聞いていた。
私はこの魔石という未知なる力に気がはやるのを抑えることもできなかった。
「───と、まぁこんな感じか。引き続き研究を進めてくれ。研究費はなんとか捻出しよう」
主に孔明が頑張ることになるが。
「が、頑張るよ。それじゃあさっそく……」
「あぁ、本題はそっちじゃないんだ。皇都で作っていた火薬。あれはどうやって作った?」
硫黄、硝石、炭。だいたいこの三つを混ぜるのだという浅い知識しか、私は持ち合わせていなかった。
歳三の方を見ても肩をすくめるだけで、流石に作り方までは分かっていないようだった。
「あれはアキードからの商人が幾つか宝石を売りに来てね。それを買ったんだ」
「うちの父が時々商会の人間を送ってくるんです。……全く、実の娘の居候先にまで営業に来るなんて……」
「良い父さんではないか。君のことを心配してわざわざ確認させているんだよ。……今回は商品の方も重要になってくるがな」
材料の購入先がこちらの人間の親族というのは心強い。
戦争には大量の火薬が必要になる。勝敗は使った火薬量で決まると言う程だ。
当然、その原材料の供給先の確保が絶対条件である。
これはどれだけ金を出しても絶対に欲しい。
「火薬についてもより良い調合の割合などを突き詰めてくれ」
「わ、分かった。……忙しく働く日が来るなんて考えてもみなかったよミラ!」
「そうですね!」
ヘクセルはそう言いながらもどこか嬉しそうだった。
それはあのスラム街のような皇都の隅で飼い殺しにされていた頃と比べて、誰かに認められながら働けるからだろうか。生きがいってのは大切だ。
「最後に、電話についてだ。距離はどうであれ音声を飛ばせる。それは変わりようのない事実だ。理論は完成している。後は実用化を目指すだけ、違うか?」
「そ、そうだね。ただ単純に考えて魔石を大きくする他ないんだよ。あの魔道具には僕が精一杯魔力を込めた。でもあれが限界なんだ……」
それは仕方がないだろう。今だってボタン電池で携帯は動かない。ちゃんとしたバッテリーが無ければ。
「……その点もいくらか検討がついている。───これを見てくれ」
私は左の袖を捲った。
「……た、確かそれはお母様が」
「そう、母が私の十歳の誕生日に。母への手紙に魔石の入手ルートについての質問も書いておいた。……貴族は貴族だけの裏ルートってのがあるもんなのさ」
私はブレスレットにはめられた魔石に触れる。龍の目を彷彿とさせるその模様が魔力を発し、青白く輝く。
「完全に魔力が貯まらないと使えない。それは何年後になるのか分からない。だが、『英雄召喚』のスキルはこいつが無ければ役に立たないんでな」
「そ、そうかい……。確かにそれだけの器を持つ魔石なら、多少の奇跡すら必然に思えてしまうだろうね……」
ヘクセルの細く白い指が魔石に触れる。
すると今度は魔石が透明になり、まばゆい光を発した。
「…………あぁ、美しいよ。なんて健気な魔石なんだ……。良い主人に巡り会えて良かったね……」
ヘクセルは魔石に話しかけるようにそう呟く。
一瞬、魔石がヘクセルの方を見たような気がしたが、そんなはずはないので気のせいだろう。
息を飲む光景に思わず口をつぐんだ。その沈黙を破ったのはミラだった。
「……今度うちの父に手紙を書く時、似たような魔石がないか聞いてみます!」
「…………?ミラの実家はこのレベルの商品も取り扱う程大きな店なんだね」
「えぇっと、……まぁ、そんなところです」
「そうか。じゃあ火薬の素材と共に頼むよ。料金はこっち持ちでな」
私がそう言うとミラは頷いた。
「───さて、そろそろおいとまするかな。ありがとう、また来るよ。行こう、歳三」
「結果が出たらすぐに知らせるよ」
「今度はちゃんとおもてなしするので!お気をつけて!」
一つだけ言えるのは、ここファリアは今日からただの穀倉地帯の田舎ではなく、魔道具研究の最先端だということだ。
前の世界で科学技術が世界を変えたのなら、こっちでは魔法技術が世界を変えるだろう。
「あー、二人にはチョイと大き過ぎやしねェか?」
「……同感だ」
そこには私の屋敷程ではないがそれなりの大きい家があった。
恐らくここが空き家で残されていたのも、この大きい家を維持できる人間が消え、誰も壊す費用も払えなくなりこの有り様なのだろう。
ヘクセルは家事が出来そうな雰囲気ではなかった。実質ミラ一人でこの家を管理することになるだろう。
「研究成果が上がれば助手でも付けてやるべきかもな」
「ヘクセルもミラ以外に弟子を取るつもりもなさそうだしな……。まぁいい、直接話を聞いてみた方が早いさ。行こう歳三」
「おう」
私がドアをノックすると、すぐにミラが出てきた。
「あっレオ様!おはようございますっ!」
「おはようミラ。家の様子を見に来たんだ。どうかな、ここは研究所として使えそうかい?」
「はい!こんな立派な場所を頂いて!本当に感謝しています!」
ミラは元気よくそう答え、茶色い髪を揺らしながら頭を下げた。
家事やらでミラ本人への心配は大丈夫そうだ。
「それで、ヘクセルはいるかな?今後について話しておきたい」
「はい!すぐに呼んできます!お上がりになってお待ちください!」
「ありがとう」
私と歳三は促されるままに、机と椅子以外に家具が置いていない部屋へ案内された。
殺風景な部屋だがゴミや汚れが無いところを見ると、昨日にでもミラが頑張って掃除したのが伺える。
ミラが部屋から出てすぐにヘクセルが出てきた。
今日のヘクセルは女性寄りの見た目をしていた。
「や、やぁ!こんなに大きな研究所を貰えるなんて、僕も出世したもんだね……!」
「そうだな。だが、それに見合うだけの働きはしてもらうぞ?」
私がそう笑いながら言うと、ヘクセルは頭を掻きながらポケットから何かを取り出した。
「これがその成果になるかい……?」
「ん……、これは?」
手渡されたそれは小さな木細工の球体だった。
見た目から分かるのはそれだけで、他の特徴を強いてあげるなら握りやすい。その程度だった。
「こ、これは魔物を撃退するのに使った新作の魔道具なんだ……」
「どうやって使うんだ?」
「使い方は簡単。魔力を込めて投げるだけ!相手や地面にぶつかれば、中に入った魔石同士がぶつかり合い、使用者が込めた魔力が暴発し大爆発!」
「…………」
私は言葉を失った。
「あっ……、い、イマイチだったかな……。そ、そうだよね、貴重な魔石を二個も使い捨てにするなんて……」
私のその様子を見て、ヘクセルはしゅんと俯く。
「ヘクセル!」
「は、はい!?」
「君は天才だ!これは手榴弾!グレネードだよ!」
「えっ、あっ……、よく分からないけど、良かったのかな……?」
「ああ!魔石は買えばいい!きっとファリアの鉱山からも多少は採れる。なんなら多少値が張るが、冒険者たちに依頼を出しモンスターの核である魔魂石でも集めよう!」
これなら誰にでも簡単に扱え、しかも魔力を込めなければ爆発しない特徴がさながら安全装置となり、軍としても管理しやすい。
戦いの時代をまた一つすっ飛ばしてきた。
「例えばだ、これをそれぞれ火の魔石と風の魔石にすればどうだろう。爆発力の向上が見込めないだろうか。そして今はこの材質は木で出来ているが、例えば金属にすれば爆発で飛び散った破片が副次的な攻撃にも───」
「そ、それは興味深いね……!やってみる価値はありそうだよ」
それから私たちは熱い議論を交わした。
戦いに興味のないミラと、手榴弾の登場を知らない歳三は黙って私たちの話を聞いていた。
私はこの魔石という未知なる力に気がはやるのを抑えることもできなかった。
「───と、まぁこんな感じか。引き続き研究を進めてくれ。研究費はなんとか捻出しよう」
主に孔明が頑張ることになるが。
「が、頑張るよ。それじゃあさっそく……」
「あぁ、本題はそっちじゃないんだ。皇都で作っていた火薬。あれはどうやって作った?」
硫黄、硝石、炭。だいたいこの三つを混ぜるのだという浅い知識しか、私は持ち合わせていなかった。
歳三の方を見ても肩をすくめるだけで、流石に作り方までは分かっていないようだった。
「あれはアキードからの商人が幾つか宝石を売りに来てね。それを買ったんだ」
「うちの父が時々商会の人間を送ってくるんです。……全く、実の娘の居候先にまで営業に来るなんて……」
「良い父さんではないか。君のことを心配してわざわざ確認させているんだよ。……今回は商品の方も重要になってくるがな」
材料の購入先がこちらの人間の親族というのは心強い。
戦争には大量の火薬が必要になる。勝敗は使った火薬量で決まると言う程だ。
当然、その原材料の供給先の確保が絶対条件である。
これはどれだけ金を出しても絶対に欲しい。
「火薬についてもより良い調合の割合などを突き詰めてくれ」
「わ、分かった。……忙しく働く日が来るなんて考えてもみなかったよミラ!」
「そうですね!」
ヘクセルはそう言いながらもどこか嬉しそうだった。
それはあのスラム街のような皇都の隅で飼い殺しにされていた頃と比べて、誰かに認められながら働けるからだろうか。生きがいってのは大切だ。
「最後に、電話についてだ。距離はどうであれ音声を飛ばせる。それは変わりようのない事実だ。理論は完成している。後は実用化を目指すだけ、違うか?」
「そ、そうだね。ただ単純に考えて魔石を大きくする他ないんだよ。あの魔道具には僕が精一杯魔力を込めた。でもあれが限界なんだ……」
それは仕方がないだろう。今だってボタン電池で携帯は動かない。ちゃんとしたバッテリーが無ければ。
「……その点もいくらか検討がついている。───これを見てくれ」
私は左の袖を捲った。
「……た、確かそれはお母様が」
「そう、母が私の十歳の誕生日に。母への手紙に魔石の入手ルートについての質問も書いておいた。……貴族は貴族だけの裏ルートってのがあるもんなのさ」
私はブレスレットにはめられた魔石に触れる。龍の目を彷彿とさせるその模様が魔力を発し、青白く輝く。
「完全に魔力が貯まらないと使えない。それは何年後になるのか分からない。だが、『英雄召喚』のスキルはこいつが無ければ役に立たないんでな」
「そ、そうかい……。確かにそれだけの器を持つ魔石なら、多少の奇跡すら必然に思えてしまうだろうね……」
ヘクセルの細く白い指が魔石に触れる。
すると今度は魔石が透明になり、まばゆい光を発した。
「…………あぁ、美しいよ。なんて健気な魔石なんだ……。良い主人に巡り会えて良かったね……」
ヘクセルは魔石に話しかけるようにそう呟く。
一瞬、魔石がヘクセルの方を見たような気がしたが、そんなはずはないので気のせいだろう。
息を飲む光景に思わず口をつぐんだ。その沈黙を破ったのはミラだった。
「……今度うちの父に手紙を書く時、似たような魔石がないか聞いてみます!」
「…………?ミラの実家はこのレベルの商品も取り扱う程大きな店なんだね」
「えぇっと、……まぁ、そんなところです」
「そうか。じゃあ火薬の素材と共に頼むよ。料金はこっち持ちでな」
私がそう言うとミラは頷いた。
「───さて、そろそろおいとまするかな。ありがとう、また来るよ。行こう、歳三」
「結果が出たらすぐに知らせるよ」
「今度はちゃんとおもてなしするので!お気をつけて!」
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