英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

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第三章

165話 窮地を脱する策

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 結局、十日間ミーツを介して孔明から連絡が届くことはなかった。あんなに忙しかったはずなのに、十日間も空けて問題ないというのは若干の虚無感を感じなくもなかった。

 最初の日は、ただ三大欲求を交互に満たしていく生活の中で、このような領主にまで堕ちてしまったことに大きな背徳感を抱いていた。
 民から税金を集めてやっていることがこれでは、私が嫌う悪徳貴族と何ら変わりない。

 だが一度この生活に慣れてしまうと二度と前のようには戻れないのではないかと思うほど、怠惰を極めた。堕落の限りを尽くした日々を過ごしている内に、この時が永遠に続けばいいとすら思えた。

 しかしそれも四日目までである。

 やけに肌艶が良くなったエルシャに対し、次第にげっそりしていく私の様子を見て、食事の受け渡しの際にミーツは私に憐憫の目を向けた。
 しかし部屋の奥にいるエルシャと目が合うとすぐに退散するため、私からミーツに助けを求めることはできなかった。

 九日目には遂に死を覚悟し脱出を試みたが、すんでのところで彼女に見つかり王の器とやらを説かれ、より悲惨な目に遭うこととなった。

 散歩ぐらいしかすることのない深窓の令嬢程度に思っていた彼女のどこにこれ程までの体力があるのかと勘ぐったが、その答えはすぐに見つかった。
 彼女の父である亡き皇帝はその武で名を馳せた男である。彼女もスキルか何かでとてつもない身体強化魔法が使えてもおかしくない。
 それをブレスレットを外し魔力の使えない私が全て受け止めるのは無理があった。

 そんな私だが定期的に訪れる空虚な時間に、少し彼女を可哀想に思う。きっと今までの抑圧された生活から解放された反動でこうなっているのだろう。
 などと下らない烏滸がましいことを考えていると次が始まるので余計なことを考えている暇もなかった。

 最終的には、きっとこれは孔明の罠であったと結論付けた。
 私が女に狂い後宮に大量の愛人を抱え政治を疎かにすることで国を滅亡に導くことがないよう、初めから痛い目を見せているのだ。
 などと考えている内に次が──。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「悪いがエルよ、今日で多分十日経った。私はもう現実に戻るよ。それじゃあな」

 流石に疲れきって寝ている十日目のまだ日も登らぬ早朝、私は寝室を抜け出すことに成功した。
 そしてすぐにミーツへ連絡する。

「……早くから悪いなミーツ。私は庁舎に行く。だがまず風呂と着替えと食事の用意を頼む」

『…………。……ふにぁぁぁ。……レオ様、よくぞご無事でお戻りになられましたにゃね……。了解ですにゃ……。すぐにご用意を……』

 彼女が起きて来ない内に屋敷を出るべく、とにかく私は準備を急いだ。
 手早く身だしなみを整え、軽食を腹に詰め込み、馬で庁舎へ向かった。





早朝ということもあるが、やけに人が少ない。
不思議に思い、貼り紙を眺めてみると遂に皇帝が亡くなったことがファリアまで伝わってきたようだ。まだ私たちから正式な発表はなく、風の噂程度だが、若干の混乱や喪にふくす雰囲気があるのは確かだった。

「れ、レオ様!? お一人ですか!?」

庁舎の前はいつにも増して厳重な警備だった。

「ああ。どうした」

「いえ、土方殿が先程レオ様をお迎えに行かれたので……」

「すれ違ったか。まあいい」

 庁舎の警備兵に歳三が戻ったら私が来ていることを告げるように頼み、私は孔明に会うことを優先した。

「──孔明、現在の状況を三行で教えろ」

「おや、これは私の想像よりも早いお戻りでしたね」

 庁舎の会議室では孔明がソファに横たわり仮眠を取っているところだった。他の職員たちは頭を抱えながら書類整理に勤しんでいる。

「鬼の居ぬ間になんとやらだ。……それで、何か進展はあったか?」

「いえ、特に急を要する事態の変化はありませんでした。ですがいくつか不可解な動きも見られます。……これを三行にまとめるなら『遂に中央でも第二皇子側による軍事的な衝突の可能性が』『しかし第一皇子側の動きは見られず』『現在ルーデルやエアネスト公爵による調査中』ですね」

「分からなくて動けない、ということか」

「はい。今は中央での怪しい動きをしっかりと把握することが肝要かと」

「では我々の派閥内での話はどうなった?」

「その件についてはこちらをご覧ください」

 孔明は壁に貼られた巨大な帝国の地図を羽扇で指した。
 地図は三色で色分けされている。

「赤が第一皇子、青が第二皇子、そして緑が我々の派閥です」

「分かりやすいな」

 皇都を中心に帝国の中央部分は赤と青が入り交じっている。若干青の方が多く見えるのは、ヴァルター共の懐柔の効果ということだろう。
 それでもそんな中央部分の中にもエアネスト領などいくつか緑で色塗られた場所もあった。

「ちなみに色が塗られていない、空白の部分はどこの派閥にも属していない、あるいは人がそもそも住んでいない文字通りの空白地帯です」

「うむ。……それで、この丸とかバツの印はなんだ?」

「はい。これが私たちが今、命を改めるべく計画を練っていることに賛同した貴族とそうでない者を表しています」

「つまり、それほど我々の実力行使を支持する者は少ないのだな……」

 軽く数えて見たところ、全部で約50の貴族による領地が存在する帝国で、赤が10、青が13、緑が20、残りが空白。
 そして緑の中で丸がついているのはわずか8であった。

「残念ながらそのようです。更に中央貴族は私たち地方貴族とは比べ物にならないほどの財力や兵力を有しています。実際の我々との力の差はこの地図の数字以上かと」

 額面通りでも第一皇子側に数で劣るにも関わらず、その中身を見ても質で劣るとなれば、単純に行動を起こせば勝機はない。
 私に休暇を取らせた一方で、孔明自身は会議室に泊まり込みになっていたことも頷ける不味い状況だ。

「だが孔明、策はあるのだろう?」

「ええ。数や質で劣ろうとも、それすらひっくり返すのが軍師の役目ですので」

 孔明は羽扇で口角の上がった口元を隠しつつも、そう自信満々に言い切った。
 少なくともファリアでは、新兵器や魔道具開発に膨大な費用を投入し、強力な亜人・獣人たちを組み込んだ軍備を整えたのだ。中央の兵一人がそのまま我々の兵一人とイコールで結ばれるほど戦争は単純ではない。

「頼んだぞ孔明」

「はい。今は虎視眈々と爪を研ぎ、果報を待ちましょう」
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